眼科学

眼科学 · ML-32

緑内障 I:総論と開放隅角緑内障

Glaucoma I

前提:正常
頭部:眼窩と眼感覚器:眼

🧠 全体像:緑内障は「の病気」ではなく、のでの軸索が少しずつ死んでいく、進行性で元に戻らないである。軸索が死ぬと対応する網膜のが消え、その場所に対応する視野が欠ける。は最後まで残るので、患者は末期まで気づかない。診断は乳頭・視野・OCT・隅角・の5本柱で行い、隅角が開いているか閉じているか、原発か続発かで病型を分ける。治療の目標はの数字ではなく、生涯にわたって見える視野を残すことである。

緑内障とは何か

定義:進行性・不可逆・失明しうる視神経症

緑内障は、の変化(リムとの喪失)と、それに対応するを特徴とする慢性・進行性・不可逆のである1。障害は次の順に起こる。

段階 どこが傷むか 結果
障害の場所 の 軸索がの孔を通り抜ける部位で傷む
一次障害 の軸索 乳頭縁のが失われ、リムが薄くなる
二次障害 の細胞体 軸索を失ったが死に、が薄くなる
結果 視野 失われたが担っていた場所の視野が欠ける

疫学

  • 40歳以上のは2〜3%で、年齢とともに上がり、80歳以上ではおよそ10%に達する。
  • 年齢別のを祖先集団ごとに比べると、アフリカ系が全年齢で最も高く(40歳で約2%、80歳で約13%)、ヒスパニック系(80歳で約9%)、全体(80歳で約8%)、ヨーロッパ系・アジア系(80歳でそれぞれ約5%)と続き、どの集団も高齢になるほど急に増える。数値は年齢別の推計曲線から読み取ったおおよその値である。
  • 世界の緑内障は、2020年に約7,800万人、2040年に約1億1,200万人という値が示されている。広く引用されるの推計は少し異なり、40〜80歳の3.54%、は2020年7,600万人、2040年1億1,180万人である。同じ解析で、アフリカ系はヨーロッパ系よりのが約2.8倍である2。
  • 緑内障による失明・重い視力障害は約630万人にのぼる。
  • はよりは少ないが、緑内障による失明の約半分を占める1。

なぜ患者は気づかないのか

⚠️ 患者が見えにくさをするのは、中心の視野が侵される末期になってからである。それまでは次の理由で気づかない。

  • は中心から離れた場所から始まり、(の成績)は最後まで保たれる。
  • 片眼の欠損は反対眼の視野で補われる。
  • 充填現象:脳が欠けた部分を周囲の像で埋めてしまうため、が「黒く抜けて」見えることはない。

💡 だから緑内障は「症状が出てから受診する病気」ではなく、検診で見つける病気である。検診の位置づけは失明の原因(世界とハンガリー)とスクリーニング・予防で扱う。

空間的対応:乳頭・網膜・視野は一対一で対応する

網膜は、黄斑をよけて弓状に走り、乳頭の上縁と下縁に集まる。耳側の線維は水平縫線を越えないので、上半分と下半分の線維は別々の束になる。このため、乳頭縁のある場所で軸索の束が傷むと、その束を出していた網膜の扇形の領域のが消え、その網膜領域に対応する視野が欠ける。

flowchart TD
    A["1. 一次障害<br>乳頭縁(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lamina cribrosa'>篩状板</span>)で<br>ある束の軸索が傷む"] --> B["2. 二次障害<br>その束を出していた網膜の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ganglion cell'>神経節細胞</span>体が死ぬ"]
    B --> C["3. 対応する視野の欠損<br>網膜の上下と視野の上下は逆になる"]
    C --> D["欠損は中心から約15°の傍中心部と<br>より周辺から始まる"]
    D --> E["中心の数点(鮮明な中心視)は<br>進行した段階で初めて障害される"]

⭐ 乳頭の下縁のリムが欠ければ上半分の視野に、上縁が欠ければ下半分の視野に欠損が出る。構造(乳頭・OCT)の異常と機能(視野)の異常が同じ場所で対応しているかを確かめることが、緑内障の診断の核心である。

原因:なぜ軸索が死ぬのか

軸索が失われる機序

の主な機序はアポトーシスの増加である。その引き金は病型によって違う。

病型 アポトーシスの引き金
POAG のと乳頭の血流の、能動的な調節異常。同じ調節異常がのの働きにも起こるとが上がり、それが緑内障をさらに悪化させる
PACG、、緑内障 そのもの

眼圧は原因か

この整理から、次の考え方が導かれる。

  • POAGでは、は緑内障の原因ではない。 約半数の症例ではは上がっていない。高いは緑内障を悪化させるが、原因そのものではない。
  • 緑内障をで特徴づけることはできない。
  • 治療の目標は「を下げること」ではなく、患者の生涯の終わりまで残りの視機能を保つことである。

現行の欧州緑内障学会の整理も、だけでは病気を説明できないという点では一致している。POAGの一部は正常範囲ので発症し、21 mmHg という境界は統計上の慣例にすぎず、どの値でも健常と病気を分けられない1。一方で同学会は、その眼が耐えられないによるの変形がとのアポトーシスを招くという機序を中心に置き、血管因子・・炎症・も関わるとしている。の高さは発症と進行の最大級の危険因子であり、視機能を守ることが証明された治療は下降だけである1。

💡 両者をつなぐと、「は緑内障の原因の全部ではないが、唯一変えることができ、下げれば進行が遅くなると証明された因子」となる。でも治療の原則は型と同じで、をさらに下げることが基本になる1。

緑内障の分類

病型の全体像

病型 特徴
緑内障ではない。 が持続的に高いが、乳頭・視野は正常で隅角は開いている。緑内障になる潜在的なリスクをもつ
白人・黒人・日本人で最も多い病型
└ 若年型 が非常に高く、30歳未満で発症し、優性遺伝
└ が正常範囲にある
機序による。臨床的には急性型と慢性型がある
(眼球の拡大)を伴う
他の病気によってが上がり、隅角は開いている
緑内障 他の病気によってが上がり、隅角が癒着して閉じている

現行の欧州緑内障学会の分類との対応を補足する。若年型は、同学会では思春期以降〜若年成人に発症し、家族性なら優性遺伝が多い「の原発若年緑内障」(関連遺伝子 MYOC)と、小児緑内障の枠の「若年」(4〜35歳ごろに発症)に分けて扱われる1。は無治療で21 mmHg超、視野・乳頭・が正常、隅角が開放し、ほかの眼疾患やステロイド使用がない状態と定義される13。

危険因子

対象 危険因子
POAGの発症 高齢、高い、黒人系の祖先、薄い、緑内障の家族歴()、(とくに)、血圧の調節異常1。低い収縮期・と低い眼も挙げられている3
POAGの進行 高齢、高い、乳頭出血1
閉塞隅角 高齢、家族歴、、東アジア系・南アジア系・イヌイット、女性(患者の4分の3)1

検査:主な病型を見分ける5本柱

検査 何を見るか 要点
1. の評価(、) リムの喪失があるか、どの程度か 健常眼の乳頭は橙赤色のリムが全周に厚く残る。末期緑内障では乳頭のほぼ全体が白く深く陥凹し、リムがほとんど残らない
2. 機能の障害 で、傍中心・弓状の欠損とその進行を定量する
3. 定量的画像検査:OCT 構造の障害 乳頭周囲のと黄斑のの厚さを両眼で測り、正常データと比べて異常な区画を赤で示す
4. 隅角が開放か、閉塞しうるか、閉塞か 鏡を組み込んだ接触レンズを角膜に当て、鏡に映る隅角を斜めから観察する
5. の高さ が標準。1回の測定では不十分。正常は12〜21 mmHg

視神経乳頭

緑内障はリムが進行性に狭くなる病気で、びまん性に狭くなる型、局所的に切れ込む()型、その両方がある。リムの狭小化は全周で起こりうるが、とくにとで目立つ1。乳頭の縁に出る線状の出血(乳頭出血)は進行の危険因子で、見落としやすいので能動的に探す。

💡 陥凹比(C/D比)だけで判定しないこと。乳頭が大きければ陥凹も大きく見える。リムの色・幅・左右差・分布の不整に注目する。OCT報告書の読み方は眼球の解剖と正常眼所見とも参照。

隅角鏡検査

は、緑内障とその疑い、のすべての患者で必須である1。 → → → の順に目印を探し、が見えれば隅角は確実に開いている。閉塞隅角はがに180度以上接している状態として定義され、診断の決め手はで、は補助にとどまる1。隅角の正常構造は眼球の解剖と正常眼所見、機器の一覧は眼科の診断法と検査機器で扱う。

眼圧測定

はに付けたで測るのが標準で、臥位や小児では手持ち式のも使う。成人のの平均は15〜16 mmHg、は約3 mmHgで、21 mmHg は平均+2という慣例上の上限にすぎない1。

の値を狂わせる要因 実際より高く出る 実際より低く出る
厚い角膜 薄い角膜
浮腫 — ○
の量 多すぎる 少なすぎる
角膜後 — ○(角膜が薄く平らになる)

表の向きは欧州緑内障学会の整理による1。は1日の中でも変動するため、1回の値で判断しない。

⭐ 眼圧の触診

がない場面でも、指で眼球の硬さを比べる触診で、著しい(など)に気づける。

  1. 患者にさせ、下を見てもらう。
  2. 検者の両手の人差し指を、瞼板より上の上眼瞼の上に並べて置く。
  3. 片方の指で眼球をそっと押し、もう片方の指で波動を感じ取る。これをに行う。
  4. 反対眼(または検者自身の眼)と硬さを比べる。急性発作の眼は石のように硬い。

⚠️ 触診はおおまかな推定にすぎず、による測定の代わりにはならない。小児で測定が難しいときの推定法としても挙げられている1。外傷でが疑われる眼は押さない。

病型ごとの臨床像

見分け方の流れ

flowchart TD
    A["乳頭のリム喪失と<br>対応する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野欠損</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve fiber layer'>神経線維層</span>の菲薄化"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonioscopy'>隅角鏡</span>で<br>隅角は開いているか"}
    B -->|"開いている"| C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>を上げる<br>別の病気があるか"}
    B -->|"閉じている・閉じうる"| D{"閉塞を起こす<br>別の病気があるか"}
    C -->|"ない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary open-angle glaucoma'>原発開放隅角緑内障</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normal-tension glaucoma'>正常眼圧緑内障</span>を含む)"]
    C -->|"ある"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary open-angle glaucoma'>続発開放隅角緑内障</span>"]
    D -->|"ない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary block'>瞳孔ブロック</span>)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary angle-closure glaucoma'>原発閉塞隅角緑内障</span>"]
    D -->|"ある"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary angle closure'>続発閉塞隅角</span>緑内障"]

乳頭と視野に異常がなくだけが高く、隅角が開いていれば、乳幼児で眼球と角膜が大きくなっていればを考える。

I. 原発開放隅角緑内障

典型例では次の4つが一致する。

検査 所見
眼底 リムのびまん性の喪失に加え、限局性の高度な欠損があり、その部位に線状の乳頭出血を認める
画像検査 乳頭の欠損部に対応するの欠損
視野 同じ部位に対応する(グレースケール表示で黒く抜ける帯)

⭐ はPOAGの定義に含まれない。 定義は「」と「緑内障性の乳頭・視野変化」であり、が正常でもPOAGになる()。緑内障の疾患としての全体像も参照。

II. 原発閉塞隅角緑内障:瞳孔ブロック

はで作られ、から瞳孔を通ってへ入り、隅角のからへ出ていく。では、でとが密着してがへ抜けにくくなる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary body'>毛様体</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>を産生"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior chamber'>後房</span>"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary margin'>瞳孔縁</span>を<br>抵抗なく通れるか"}
    C -->|"通れる(正常)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='canal of Schlemm'>Schlemm管</span>"]
    C -->|"通れない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary block'>瞳孔ブロック</span>)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior chamber'>後房</span>の圧が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>より高くなる"]
    E --> F["周辺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>が前へ膨らむ(膨隆<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>)"]
    F --> G["周辺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span>をふさぐ<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle closure'>隅角閉塞</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>"]
    G --> H["レーザー<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>切開:<br>周辺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>に孔を開けて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior chamber'>後房</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>へ逃がす"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>が平らに戻り隅角が開く"]

急性発作の眼では、全体の強い充血、曇った角膜、中等度に開いた瞳孔を認める。のでは角膜との間隔が狭く、が浅い。レーザー切開後の眼では、の周辺部(上方)に小さな黒い孔を認める。

が閉塞隅角の最も多い機序(最大75%)で、ほかに()、、より後方の機序がある。後方の機序にを使うと悪化するため、機序の区別が治療に直結する1。

⭐ 急性閉塞隅角緑内障の症状と徴候

症状・徴候 理由
罹患眼と周囲の骨の激しい痛み 急激な
霧がかかったような の浮腫
光源の周りの虹色の輪() による光の散乱
脱力、悪心・嘔吐、腹痛
触診で眼球が硬い 著しい
赤い眼(上強膜静脈の拡張) うっ血
し縦長の楕円形で、のない瞳孔 によるの虚血

現行の欧州緑内障学会は、これらに加えて、上皮中心の、周辺が浅いこと(なら膨隆)、発作眼の広い接触と、反対眼も閉塞しやすい隅角であること、緑内障斑と呼ばれるの灰白色の斑点を挙げている1。

⚠️ 悪心・嘔吐と腹痛が前面に出ると、消化器疾患や頭蓋内疾患と間違えられる。頭痛・嘔吐のある高齢者では必ず眼を見て、瞳孔・角膜・眼球の硬さを確かめる。 救急の初期治療(点眼・ステロイド・を並行して開始)は緑内障 II、赤目の鑑別は赤目の鑑別で扱う。症状としては眼痛・も参照。

III. 先天緑内障(牛眼)

乳幼児の眼はが柔らかいため、が上がると眼球と角膜が引き伸ばされて大きくなる()。

型 特徴 所見の例
真の 両眼性、劣性遺伝 両眼とも角膜が大きく、青灰色にする
後天性の生来性緑内障(先天性ではないもの) 片眼または両眼 片眼の角膜が大きくし、左右差が目立つ

現行の欧州緑内障学会では、原発は白人欧州人で出生1万2千〜1万8千に1人、男児が65%、両眼性は70%で、多くは劣性遺伝か孤発例であり、の形成異常が最も多い1。・・・眼をこすることが早期の徴候で、、の拡大、の線(条)が所見になる1。

⚠️ 「涙目でまぶしがる乳児」はや結膜炎と間違えやすい。角膜が大きい・曇っているならを疑い、すぐに眼科へ送る。治療は手術が基本で、小児と成人の緑内障手術で扱う。

IV. 続発開放隅角緑内障

隅角は開いているが、別の病気がの流出を妨げる。

機序 例
の目詰まり 赤血球(前房出血)、マクロファージ、蛋白など
の障害 (の変化で流出率が下がる)1 など
の上昇 (。多くはに伴う)、、、、Sturge-()など

💡 が上がると、が最後に流れ込む静脈の出口の圧が上がり、そのものは正常でもが上がる。病型ごとの治療は緑内障 IIで扱う。

V. 続発閉塞隅角緑内障

隅角は癒着で閉じている。

機序 例
が隅角へ引っぱられる 炎症による、による癒着()
続発性の 炎症による、の偏位
が後ろから押し出される ぶどう膜の出血、の容積増加

強い充血、下方にたまった前房出血、変形した瞳孔を伴う眼では、の原因となる病気(、外傷、炎症)を探す。

進行の測定

なぜ、何で測るか

進行を測る目的は、進行を早く見つけて治療を強化することである。

方法 内容
1. 視野のトレンド解析 視野全体のを時間軸に並べ、の傾き(dB/年)で進行速度を出す
2. OCTのトレンド解析 との厚さを来院ごとに並べ、減少の速さを出す
安定・進行の判定に使えないもの

視野のトレンド解析の例を2つ挙げる。

  • 左眼の平均欠損(視野計によってはと呼ぶ。値が大きいほど悪い)を数年にわたって並べた例では、傾き2.8 dB/年(有意)、変動2.5 dB と算出され、矢印の時点以降は下降が止まり横ばいになる。
  • 別の例では平均欠損のの傾きが1.9 dB/年で、1年間に1.9 dB 悪化している。

⭐ が目標値に入っていても、視野やOCTで進行していれば治療は不十分である。逆に、進行の判定はではなく視野とOCTで行う。

進行速度の目安

未治療のまま経過を見た試験では、視野の自然な進行は平均1.08 dB/年で、病型によって大きく違った(型1.31、正常型0.36、3.13 dB/年)1。障害が明らかな患者では、進行の速い例を見つけるために診断後の最初の2年間は年3回程度のが有用とされ、2年間で臨床的に意味のある進行がなければ回数を減らしてよい1。OCTの進行解析ソフトの多くは加齢による菲薄化を補正しないので、傾きが有意でも真の進行とは限らず、視野など他の検査と合わせて判断する1。

緑内障と生活の質

日常生活への影響

緑内障とその進行は、視覚に関連した生活の質を大きく下げる。

領域 影響
日常の機能 運転免許、車の衝突事故、転倒などの事故
心理 進行するかもしれない、将来失明するかもしれないという不安
治療 服薬の遵守と継続
予測 進行のパターンは人によって違うので、過去の生活の質の低下から将来の低下を外挿できない

誰を強く治療するか

「誰を治療するか」を考える模式では、縦軸に視機能(上が正常、下が失明)、横軸に診断からの時間(右端が死亡)をとり、途中に「重大な機能障害」の水平線を引いて、何本かの進行曲線を比べる。

曲線 描かれ方 意味
A 正常に近い位置からごく緩やかに下がる(破線) 加齢だけによる低下
B 正常に近い位置から中等度の傾きで下がり、生涯のうちに機能障害の線に届かない 進行していても、生涯のうちに重大な機能障害には至らない
C 状に何度か急に落ち、機能障害の線を越える 急な悪化を繰り返す経過
D 診断時にすでに低い位置から中等度の傾きで下がり、途中で機能障害の線を越える 傾きが同じでも、診断時の障害が大きいと生涯のうちに障害に至る
E 急な傾きで失明近くまで落ちる 急速進行。ずっと低いと強い治療が必要

💡 若くて障害の大きい患者ほど、残りの人生で機能障害の線に届く危険が大きい。欧州緑内障学会も、生涯に10%を超える患者が両眼の失明または重いに至り、若く両眼に障害のある患者は高齢で片眼の軽い障害の患者よりはるかに危険が大きいとして、進行速度と生活の質への影響に合わせて治療を個別化するよう求めている1。

血圧が低すぎることの危険

⚠️ 低血圧と夜間の過度の血圧低下は、緑内障進行のよくある原因とされる。緑内障患者の全身高血圧を過剰に治療しない。

現行の欧州緑内障学会は、低いが緑内障リスクの上昇と関連し、全身高血圧ので緑内障とのリスクが上がりうることを認める一方、眼の血流を良くする目的で治療を調整して転帰が改善するという確かな根拠はまだないとしている1。低い血圧・低い眼は米国眼科学会でもPOAGの危険因子に挙げられている3。緑内障が進行する患者では血圧の下がりすぎがないかを確かめ、治療をしていると情報を共有する。

まとめ

  • 緑内障は、でののから始まり、細胞体の消失と対応するに至る、進行性・不可逆・失明しうるである。
  • 40歳以上の2〜3%、80歳以上の約10%にみられ、アフリカ系で多い。患者はが侵される末期まで気づかない(充填現象)。
  • 乳頭・網膜・視野は空間的に対応する。欠損は約15°の傍中心部と周辺から始まり、中心は最後に侵される。
  • POAGの約半数はが正常で、はPOAGの定義に含まれない。ただし下降は視機能を守ることが証明された唯一の治療である。治療の目標は数字ではなく生涯の視機能。
  • 病型は(緑内障ではない)、(若年型・を含む)、(急性・慢性)、、続発・緑内障に分ける。
  • 診断は乳頭・視野・OCT・・の5本柱。で開放か閉塞かを決め、は1回では判断しない(正常12〜21 mmHg)。
  • ⭐ :激しい眼痛、と、悪心・嘔吐・腹痛、触診で硬い眼球、充血、縦長にしてのない瞳孔。治療は緑内障 II。
  • ⭐ の触診はした上眼瞼の上から両手の人差し指でに押し、反対眼と硬さを比べる。推定にすぎない。
  • 進行は視野とOCTのトレンド解析で測り、では判定しない。
  • 生活の質(運転・転倒・不安・遵守)を守ることが目的で、若く障害の大きい患者ほど強く治療する。低血圧と夜間の過度の血圧低下は進行の原因になりうる。

出典

  1. 1.Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition(European Glaucoma Society・2025)EGSが配布する全文PDF(Br J Ophthalmol 2025年9月8日オンライン公開)で確認した。POAGは視神経のリムと網膜神経線維層が失われ対応する視野欠損を生じる慢性・進行性・不可逆の疾患で、隅角は正常に開き、主な危険因子は眼圧の高さと高齢であること。機序として個々の眼が耐えられない眼圧による篩状板の変形が軸索障害と神経節細胞のアポトーシスを招くという考え方があり、血管因子・酸化ストレス・炎症・ミトコンドリア機能障害も関わりうること、かなりの割合が正常範囲の眼圧で発症すること。発症の危険因子(高齢・高眼圧・黒人系・薄い中心角膜厚・家族歴・近視・血圧の調節異常)と進行の危険因子(高齢・高眼圧・乳頭出血)、成人の眼圧の平均が15〜16 mmHg・標準偏差約3 mmHgで21 mmHgは平均+2標準偏差という慣例上の上限であること、中心角膜厚と上皮浮腫がGoldmann圧平眼圧計の値を狂わせる向き。隅角は虹彩線維柱帯接触180度以上で定義され、隅角鏡が診断の決め手であること、PACGは全体の約20百万人でも緑内障失明の50%を占めること、閉塞隅角の危険因子(高齢・家族歴・遠視・東アジア系・女性が4分の3)。急性閉塞隅角の徴候(眼痛と前頭部痛、視力低下とハロー、悪心嘔吐・腹部の痙攣痛・徐脈などの迷走神経症状、毛様充血、著しい高眼圧、上皮中心の角膜浮腫、対光反射の鈍い中等度散瞳、周辺前房が浅い、Glaukomflecken)。原発先天緑内障は白人欧州人で出生1万2千〜1万8千に1人、男児65%、両眼性70%、多くは劣性遺伝か孤発で線維柱帯形成異常が最多であり、羞明・流涙・眼瞼痙攣・牛眼・Haab線条が所見で、5項目中2項目で診断すること、小児では眼圧の手指による触診も推定法になりうること。上強膜静脈圧上昇の原因(Sturge-Weber症候群、甲状腺眼症、動静脈瘻、海綿静脈洞血栓症、上大静脈閉塞など)とステロイドによる線維柱帯細胞外基質の変化。未治療のEMGTで視野の自然進行が平均1.08 dB/年(高眼圧型1.31、正常眼圧型0.36、落屑緑内障3.13)であること、障害が明らかな患者では診断後の最初の2年間は年3回程度の視野検査が有用で進行がなければ減らしてよいこと、正常眼圧型でも治療原則は同じこと、OCTの進行解析は加齢を補正しないものが多く他の検査と合わせて解釈すること、生涯に10%超が両眼の失明や重い視野障害に至ること、全身の高血圧の過剰治療で緑内障と視野障害のリスクが上がりうるが眼血流を良くする目的の治療調整が転帰を改善する確かな根拠はないこと、低い拡張期血圧が緑内障リスクと関連すること、視機能を守ることが証明された方法は眼圧下降だけであること。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Global prevalence of glaucoma and projections of glaucoma burden through 2040: a systematic review and meta-analysis(Ophthalmology(Tham YC, et al.)・2014)Europe PMCの抄録(PMID 24974815)で、50の住民研究のメタ解析により40〜80歳の緑内障の世界有病率が3.54%で、患者数が2013年6,430万人から2020年7,600万人、2040年1億1,180万人に増えると推計されたこと、アフリカ系はヨーロッパ系よりPOAGのオッズが2.80倍、POAGの有病率はアフリカで、PACGはアジアで最も高いことを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2025)2025年版PDFで、高眼圧症を視神経乳頭と視野に障害のないまま眼圧が集団平均より2標準偏差を超えて高い状態と定義し、米国では通常21 mmHg超を意味すること、POAGの確立した危険因子として眼圧上昇に加えて高齢・家族歴・黒人・ヒスパニック系・糖尿病・低い収縮期および拡張期血圧・低い眼灌流圧・近視・薄い中心角膜・乳頭出血を挙げていることを確認した閲覧 2026-09-29