眼科学

眼科学 · P-01

眼球の解剖と正常眼所見(細隙灯・角膜内皮・角膜形状・OCT)

Anatomy of the eyeball and normal ocular examination

前提:正常
頭部:眼窩と眼感覚器:眼

🧠 全体像:眼科の診察は「外から内へ、光の通り道に沿って」進む。眼瞼・・ → 角膜 → → と瞳孔 → → → 眼底の順に、どの層がどんな見え方をすれば正常かを知っておくと、異常はその「ずれ」として見つかる。は光の薄い切片で透明な組織の深さを読み、撮影・・OCTはその見え方を数値とに置き換える。この回は、解剖を「正常所見の地図」として復習し、検査機器ごとの正常像と、カルテに書く正常眼所見の定型文までをつなげる。

1. 正常所見を読むための解剖の地図

眼球と付属器の肉眼解剖の詳細は眼の解剖、網膜の組織と血行は網膜の解剖と血液循環にまとめてある。ここでは、診察で直接見る構造と、この回で新たに扱う細部(、隅角の構造、調節の仕組み、網膜細胞の並び)に絞る。

眼瞼の層構造

眼瞼は眼球を守り、でを広げて眼表面を潤す。では、皮膚側から側へ次の構造が並ぶ。

位置 構造 役割・臨床との関係
最表層 皮膚 体で最も薄い皮膚の一つ。睫毛(まつ毛)が生える
皮膚の直下 。顔面神経(第VII脳神経)支配
上方の奥 とその 開瞼。(第III脳神経)支配。は瞼板前面と皮膚に付く
挙筋の 瞼板上縁に付く平滑筋。で、をわずかに(約2 mm)広げる
眼瞼の芯 瞼板 緻の板。眼瞼の形を保つ
瞼板の中 瞼縁に開口し、の脂質を出す
睫毛の根元 睫毛の毛包に付属する
最 瞼(瞼板) 眼球側の粘膜。(の奥、)でへ折り返す
付近 副 のを出す
の奥 の前にある脂肪。手術時の目印

眼瞼の開閉と神経

⭐ は(第VII脳神経)、開瞼は(第III脳神経)が担う。どちらの神経が障害されたかで、眼瞼の症状は正反対になる。

障害 障害される筋 所見
(例:Bell麻痺) できない()。下眼瞼が垂れてし、が露出して赤く見える。角膜が乾いて傷つく危険がある
動眼神経麻痺・挙筋の異常 。小児では上眼瞼が瞳孔にかかるとを妨げる
交感神経の障害() 軽い(1〜2 mm 程度)と

⚠️ でできない眼は、夜間に角膜が露出して乾燥し、()から角膜潰瘍へ進みうる。の確認は、外眼部の診察で真っ先に行う。

涙液の産生と排出

は上外側ので作られ、眼表面を内下方へ流れて内眼角のから排出される。上眼瞼を持ち上げて患者に下内側を見てもらうと、上外側のにの眼瞼部がのの隆起として見える。下眼瞼の内側寄りの瞼縁には、小さな開口としてを認める。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>(上外側)と排出管<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の副<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>で眼表面に広がる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear film'>涙液層</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear fluid (lacrimal fluid)'>涙液</span>が内眼角の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal lake'>涙湖</span>に集まる"]
    C --> D["上<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal punctum'>涙点</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior lacrimal punctum'>下涙点</span>"]
    D --> E["上<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal canaliculus'>涙小管</span>・下<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal canaliculus'>涙小管</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal sac'>涙嚢</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasolacrimal duct'>鼻涙管</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior meatus'>下鼻道</span>へ開口"]

💡 排出路のどこかが詰まると、涙は眼表面にあふれてになる。乳児の先天や、成人の・は、この経路のどの段階かを考えて診断する(の疾患)。

涙液層

は、角膜表面を覆う薄い液体の膜である。古典的には3層に分けて説明される。

層(古典的な3層モデル) 作る場所 働き
(最) 表面を覆って滑らかにし、を防ぐ
(中間層) (と副) 角膜に栄養を与え、保護する
(最) の を眼表面に付着させる

現在の理解では、3層モデルは現実をかなり単純化したものとされ、とは一体のムコ(上皮側ほどが濃いゲル)とみなされる1。はごとに広がってを安定させ、を遅らせる役割は従来から想定されてきたものである。全体の厚さは約2〜5.5 µm、は平均約42 nm と報告されている1。

💡 は光が最初に通る屈折面でもある。が乱れると、角膜が正常でも見え方がにじむ。によると、からの分泌が減る減少型の区別はで扱う。

結膜

は眼球の前面と眼瞼の裏を覆う粘膜で、両者をつないで袋状のを作る。

部位 覆う場所 診察での見え方
の表面 薄く透明で、下の白いと細い血管が透けて見える
瞼(瞼板) 上下眼瞼の裏 瞼板に密着し、下眼瞼を引くと淡紅色の面として見える
と瞼の折り返し 下眼瞼を引き下げると奥に溝として見える
内眼角ののひだ 涙丘のすぐ外側の縦のひだ
涙丘 内眼角 小さな淡紅色の隆起

副(Krause腺・Wolfring腺)はの付近にあり、角膜表面も機能的にはの一部としてに覆われる。

💡 はで折り返してになっているため、コンタクトレンズや睫毛などの異物が眼球の後ろ()へ入り込むことはない。ずれたレンズは必ずのどこかに留まっているので、上眼瞼をして探す。

眼球壁の3層

眼球のは平均約24 mm で、3つのの層に包まれる。模型で外から順に外すと、白い、血管に富む暗色のぶどう膜、内面に血管が広がる網膜が現れる。

層 構成 要点
(外膜) ・角膜 はでできた硬く不透明な「白目」で、眼の形を保ち光を遮る。角膜は透明で血管のない「眼の窓」で、光を眼内に入れる。境界が
(中膜、ぶどう膜) ・・ は眼の色の部分で網膜に届く光の量を調節する。はを分泌しの形を変える。は網膜直下のでを養う
(内膜) 網膜 光をに変える。黄斑は中心視、はの出口

角膜

角膜は眼で最も重要な屈折面である。血管がないため、外側は、内側は、周辺はの血管から栄養を受ける。断面は前から順に5層に分けられる。

層 特徴
上皮 。傷ついても数日で再生する
上皮直下の無細胞層。傷つくと瘢痕を残す
実質 厚さの大部分を占める。規則正しく並んだが透明性を生む
内皮の基底膜
内皮 一層の六角形細胞。を汲み出して角膜の含水量を保つ。ほとんど再生しない

5層の構造と、実質との間の層(Dua層)をめぐる現在の議論は眼の解剖で扱う。

ぶどう膜と隅角の構造

と、角膜とが接するの隅は、の出口(隅角)であり、緑内障を理解する鍵になる。隅角部の断面に並ぶ構造を、前から後ろへ整理する。

構造 位置 役割
の周辺端 隅角の最前端の目印
とFontana腔 の後方 がふるいのように通り抜ける
(静脈洞) の外側 を集めて静脈・前毛様静脈へ流す
の後端 の付着部。の目印
状 と隅角壁の間 隅角の底部の
大動脈輪 の前部 長後毛様動脈とが作る輪。・を養う
小動脈輪 寄りの内 の血管の内側の輪
の輪状の筋 (副交感神経)
の後面に放射状 (交感神経)
の後面 網膜が前方へ続いたもの(網膜部)
(経線線維・輪状線維) 収縮すると小帯が緩み、調節が起こる
の内側の突起 を分泌する
(提) との間 を吊り下げる
網膜部 の内面 網膜の非感覚部の続き
・との間 潜在的な腔。液体や血液がたまると剥離になる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary process'>毛様体突起</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>を分泌<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior chamber'>後房</span>)"] --> B["瞳孔を通って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>へ"]
    B --> C["隅角の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='canal of Schlemm'>Schlemm管</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>静脈・前毛様静脈<br>(主経路)"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary body'>毛様体</span>を通り<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suprachoroidal space'>脈絡膜上腔</span>へ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minor routes'>副経路</span>)"]

💡 の出口が狭い・詰まるとが上がる。隅角の広さはでの周辺部とで評価し、緑内障 I・緑内障 IIで病態につなげる。

網膜

網膜は眼球の最で、組織学的には10層に分けられる。最(側)の1層が、残りの2〜10層がである。

光は側から入り、 → → ・・の層 → (杆体・錐体)の順に網膜の全層を通り抜けてからに届く。の先端はに接する。信号はその逆向きに、 → → と伝わり、の軸索がに集まって視神経になる。

部位 特徴
黄斑 中心視を担う。中心のは眼底で暗く見えるくぼみ
が眼球を出る部位。橙黄色の円板で、中心に陥凹がある
の栄養 の
の栄養

層ごとの細胞とは網膜の解剖と血液循環で詳しく扱う。

眼内の3つの腔

腔 範囲 内容
角膜との間
との間
と網膜の間 (透明なゲル)

とは、はに属する。

水晶体と調節

はの後ろにで吊り下げられ、につながる。神経も血管もなく、構造は外から・皮質・核の3つに分けられる。働きは屈折媒体であることと、厚みを変えてピントを合わせる調節である。

調節は、・・の3者の関係で理解する。

状態
遠くを見る 弛緩 張る 扁平(が小さい)
近くを見る(第1段階) 収縮 緩む 自らの弾性で丸くなり始める
近くを見る(第2段階) 収縮したまま 丸くなったによって再び張る に近い(が大きい)
flowchart TD
    A["近くを見ようとする"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary muscle'>毛様体筋</span>が収縮<br>(副交感神経・第III脳神経)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary body'>毛様体</span>の輪が小さくなり<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='zonular fibers'>毛様小帯</span>が緩む"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が自らの弾性で<br>丸く厚くなる"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive power'>屈折力</span>が増して<br>近くにピントが合う"]
    E --> F["加齢で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が硬くなると<br>丸くなれない=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presbyopia'>老視</span>"]

💡 は「縮むと小帯が緩む」という直感に反する関係にある。筋が輪状に縮むと、を外へ引っ張っていた小帯の張力が抜けるためである。調節とは調節・・・で扱う。

2. 検査機器と正常像

細隙灯顕微鏡

は、患者の顎と額を台に固定し、横から細い光の帯()を当てて、双眼の顕微鏡で拡大して見る装置である。の検査の中心で、眼の生体とも呼ばれる。

⭐ を角膜に斜めに当てると、透明な角膜の中に光の薄い切片()ができる。角膜はこの切片の中で、前面と後面を2本の弧とするの直方体のように見え、その中のや異物がどの深さにあるか(上皮か、実質か、内皮側か)を読める。透明な角膜の切片は中身が均一に澄んだ板として、のある角膜の切片は板の中に点や斑が浮いた像として見え、その点が前寄りか後ろ寄りかで深さを判断する。光の帯は角膜を通り抜けたあととに当たり、角膜との間の暗い隙間からの深さも分かる。

照明法 やり方 見るもの
拡散照明 光を広げて当てる 眼瞼・・角膜全体の
(狭い) 細い光を斜めに当てる 角膜・の病変の深さ、の深さ
奥で反射した光で背後から照らす 角膜の微細な、の萎縮、の

眼の生体顕微鏡検査の道具

と補助レンズの組み合わせで、から眼底まで観察できる。

使い方 主な対象
直像 手持ちの光源を患者の眼に近づけてのぞく (・黄斑)。像は正立で拡大率が高いが視野は狭い
+手持ちの前置レンズ 患者の眼の前にレンズをかざしてでのぞく からの眼底。立体的に見える
+接触レンズ(ミラー付き) 下で角膜にレンズを当てる 隅角と周辺部の眼底をミラー越しに見る
に付けた と下で角膜中央を押す ()
双眼 検者が頭に装着し、仰臥位の患者の眼の前にレンズをかざす 周辺部までの広い眼底。の検索

⚠️ の測定は接触型の圧平法(典型的にはGoldmann)が最も正確とされるが、感染やが疑われるときは接触型の測定を控えることがある2。が疑われる眼を押してはならない。

角膜内皮の撮影(スペキュラーマイクロスコピー)

は一層の六角形細胞の敷石で、内皮撮影装置はこの細胞を非接触で撮影し、細胞の大きさと形を自動解析する。正常な内皮は、大きさのそろった六角形の細胞がすき間なく並ぶ。

実際の結果の一例(の装置による右眼の。細胞面積の分布を示すヒストグラムが添えられる)を読むと、各項目の意味が分かる。

項目 値の例 意味
細胞密度 2159 個/mm² 単位面積あたりの内皮細胞数。加齢・手術・外傷で減る
平均細胞面積 463 µm² 細胞1個の平均の広さ。密度の逆数にあたる
最大・最小細胞面積 953 µm²・204 µm² 大小のばらつきの幅
解析細胞数 30 個 計算に使った細胞の数。少ないとが下がる
細胞面積の 162 µm² 大きさのばらつき
34 % ÷平均。大きいほど(細胞の大きさがそろっていない)
六角形細胞率 63 % 六角形の細胞の割合。低いほど形がばらつく
572 µm 同時に測った

💡 平均細胞面積 463 µm² から密度をすると、1 mm²(=1,000,000 µm²)÷463 µm² ≒ 2160 個/mm² となり、表示された密度と一致する。内皮細胞はほとんど分裂しないので、失われた細胞の穴は周りの細胞が広がって埋める。そのため密度が下がると平均面積が増え、大きさと形のばらつき(の上昇・六角形細胞率の低下)が目立つようになる。

⚠️ 内皮が一定以下に減るとを汲み出せず、角膜が水ぶくれになって濁る()。やの前に内皮を評価するのはこのためで、は内皮が進行性に失われる代表的な疾患である。

角膜形状解析

装置は、の光の輪(Placido環)を角膜に映し、その反射像のゆがみから角膜表面のを計算して色分けの地図にする。

表示 読み方
反射像 同心円の輪が等間隔の正円なら角膜表面は滑らか。輪のゆがみや間隔の偏りは不整を示す
カラーマップ を色で表す。暖色(赤・橙)ほどでが強く、寒色(青)ほど平坦
角膜の代表値 最も急な経線と最も平坦な経線の・・角度

左眼の例では、目盛りは 41〜48 D、最も急な経線が 45.24 D( 7.46 mm)で69°、最も平坦な経線が 44.70 D(7.55 mm)で159°、両者の差(角膜)は 0.54 D(0.09 mm) だった。中心部の値は 45.06 D( 7.49 mm)。カラーマップでは、中央の黄色い領域が上下に分かれた左右対称の蝶ネクタイ形を示し、周辺ほど緑から青へ平坦になる。

💡 とは、角膜の換算を用いた「[D]≒ 337.5 ÷ [mm]」の関係にある(337.5÷7.46 ≒ 45.2)。最も急な経線が垂直に近い(おおむね 60〜120°)対称な蝶ネクタイは、規則的なのパターンで、この例のように差が小さければ正常の範囲である。

⚠️ 蝶ネクタイが非対称で、下方が局所的にになるパターンはを疑う所見である()。の前には、この早期変化を見落とさないために必ず形状解析を行う(角膜)。

前眼部OCT

は、角膜・・隅角・・前面を非接触で断面として描く。角膜のドーム状の断面、その後ろの、左右の隅角と、前面が1枚に写り、0〜180°、45〜225°、90〜270°、135〜315°のように複数の経線で断面を並べて、隅角の広さを全周にわたって比べられる。画面上で距離を直接でき(この例ではに沿って、根部付近からまで 3.40 mm の線が引かれている)、隅角の開き具合やをな数値で記録できる。

視神経乳頭のOCT

乳頭周囲のの厚さと、乳頭の陥凹の形を測る。緑内障の診断と経過観察の主力である。結果は、同年代のと比べて色で示される。

色 意味
白 正常者の5%を超えて厚い
緑 正常分布の範囲内(5〜95%)
黄 境界域(正常者の1〜5%)
赤 異常(正常者の1%未満)
灰 判定対象外

報告書に並ぶ主な項目を、例(両眼、 8/10)の値とともに整理する。

項目 右眼 左眼 読み方
平均厚 70 µm(赤) 76 µm(黄) 全周の平均厚。低いほどが失われている
の左右対称性 85 %(緑) ― 左右差の指標
リム面積 0.89 mm² 0.90 mm² 陥凹の外側に残る神経組織(リム)の面積
乳頭面積 2.89 mm² 2.55 mm² 乳頭の大きさ。大きい乳頭は陥凹も大きく見える
平均C/D比 0.82 0.79 に対する陥凹径の比
0.78 0.76 緑内障では上下のリムが先に薄くなるため重視する
陥凹容積 0.812 mm³ 0.704 mm³ 陥凹の深さも含めた大きさ
別の厚さ(上・鼻側・下・耳側) 74(赤)・67(緑)・93(黄)・47(黄) µm 84(赤)・71(緑)・100(緑)・48(黄) µm どの方向の線維が薄いかを見る

報告書にはほかに、乳頭周囲の厚さを色で表した厚さマップ、正常から外れた部位を赤・黄で重ねた偏差マップ、耳側 → 上方 → 鼻側 → 下方 → 耳側の順に厚さを並べたグラフ(正常のは上方と下方が厚い「二」形になる)、12方向の時計表示、リムの厚さを同じ順に並べたグラフ、乳頭を通る水平断・垂直断と乳頭周囲の円周断のが並ぶ。

⚠️ この例は正常例ではない。平均厚が両眼で低く(右眼は赤)、上方が両眼とも赤で、右眼は12時の区画も赤い。厚さのグラフは右眼の上方で正常帯を下回り、水平断・垂直断では陥凹が深く広い。C/D比は約0.8と大きい。乳頭面積(右眼 2.89 mm²)は大きめで、大きい乳頭ではそれだけで陥凹も大きく見えるが、この例ではそのものが薄いので、乳頭の大きさでは説明できない。乳頭OCTの読み方の練習として、「平均値 → ・時計表示のどこが赤いか → で陥凹が深く広いか」の順に確かめ、緑内障性の変化を疑う(緑内障、緑内障 I)。正常眼では各項目が緑に収まり、グラフは正常帯の中で上方と下方の二を描く。

黄斑のOCT:後極部の断面

は、光の反射の時間差から網膜の断面を顕微鏡に近いで描く。から黄斑を通る断面では、次の構造が区別できる。

部位 見え方
網膜の上の暗い空間。黄斑の前にはした袋状の空間(黄斑前ポケット)、乳頭の前にも同様の空間(乳頭前ポケット)が見える
が左右へ押しのけられた、なめらかなくぼみ。光はここで最も少ない層を通ってに届く
・・をまとめた単位。緑内障で薄くなる
から離れるほど厚い
の核とを含む層。でも保たれる
との境の高反射の線
の下の、血管による粗い模様の層
網膜が途切れ、陥凹として落ち込む

黄斑のOCT:層の名前

網膜の断面は、高反射(白い)層と低反射(暗い)層の縞として見える。層と帯の呼び方は国際的な合意で統一され、確かな反射構造が証明されていない帯には「ゾーン」という呼び方が導入された3。内側(側)から外側へ並べる。

層・帯 反射 中身
と 高 網膜の内面と、の軸索の層
低 の細胞体
高 とのシナプス
低 ・・などの核
高 とのシナプス
低 の核
高(細い線) との
ミオイドゾーン 低 の分
エリプソイドゾーン 高 のミトコンドリアが多い部分
低 光を受け取る部分
嵌合ゾーン 高(細い線) 先端との突起がかみ合う部分
と 高(太い線) 網膜の最とその基底膜
― 直下の毛細血管
Sattler層 ― の中血管の層
Haller層 ― の大血管の層
境界 ― の外縁

の4本の線(・エリプソイドゾーン・嵌合ゾーン・)は、の健康状態を反映する。

💡 エリプソイドゾーンが途切れていれば、その部位のが傷んでいる。黄斑円孔・の術後や遺伝性で視力を予測する手がかりになる(界面の疾患、の遺伝性疾患)。OCTの原理との画像検査全般はの解剖と画像検査で扱う。

OCT血管撮影:網膜の血管網

は、同じ部位を繰り返し撮影し、動いている赤血球による信号の変化だけを取り出して、造影剤なしに血管網を層ごとに描く。では血流の信号が赤く重ねて表示され、層のを指定してその間の血管だけを正面像にする。

層 正常の見え方
網膜表層 太い血管から細い毛細血管まで枝分かれする網。中心に血管のない暗い円()
網膜 細かく密な。表層と同じくがある
血管がなく、正常では雑音程度の信号しかない
全面に細かい粒状の密な信号

⚠️ 正常ではに血管はない。ここに血管の信号が出れば、から伸びたを疑う()。

OCT血管撮影:毛細血管密度

3×3 mm の範囲を撮影し、血管が占める面積の割合(血管密度)と網膜厚を領域別に数値化する。血管密度は正面像に色で重ねて表示でき(青ほど低く、赤ほど高い)、は濃い青の穴として見える。は正面像で塗りつぶして面積を測れる。例を示す。

領域 血管密度(%) 網膜厚(〜、µm)
全体 53.40 ―
24.23 221
周囲 56.40 298
上半分 56.71 299
下半分 56.08 296
耳側 54.69 282
上方 58.68 307
鼻側 54.19 302
下方 57.98 301

からまでの厚さ(に近い指標)は、周囲 106 µm(上半分 105、下半分 107)だった。3×3 のに分けた血管密度は次のとおりで、中央の区画だけが低い。

左 中 右
上 55.47 58.32 60.03
中 53.91 30.85 51.87
下 55.07 55.94 58.59

💡 は血管密度も網膜厚も最小になる。を含むため密度が下がり、が押しのけられてくぼむため薄くなる。周囲は上下左右でほぼ均等で、上下の半分の差がわずかであることが正常の特徴である。ではが拡大し、密度が下がる(糖尿病の)。値は機種と解析法で異なるので、この数値は目安の一例として扱う。

3. 正常眼科所見の取り方と書き方

診察の順序

包括的な眼科診察には、・屈折・・外眼部・瞳孔・と眼球運動・・・眼底が含まれる2。で見る範囲は、眼瞼縁と睫毛・・・・角膜・(中心部と周辺部の深さ)・・・前部であり、より後ろの構造は下で見るのが最もよい2。

flowchart TD
    A["視力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional test'>機能検査</span>"] --> B["外眼部<br>眼瞼・睫毛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal apparatus'>涙器</span>・眼球の位置"]
    B --> C["眼球運動<br>9方向の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gaze'>注視</span>"]
    C --> D["瞳孔<br>大きさ・形・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='(pupillary) light reflex'>対光反射</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp microscope'>細隙灯顕微鏡</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>→角膜→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>→前部<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>"]
    F --> G["眼底<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic disc'>視神経乳頭</span>→血管→黄斑→周辺部"]

⚠️ はを点眼する前に確かめる。後は瞳孔の異常(、)が評価できなくなる。にはとを用いることが多い。

部位別の正常所見

部位 正常所見の定型文 何を確かめるか 異常の例
眼瞼 眼瞼に異常なし(上眼瞼・下眼瞼とも保たれている) 位置(下垂・・)、の可否、腫脹・腫瘤、睫毛の向き 、、・
眼球運動 眼球運動は全方向に制限なし 正面・上・下・左右・4つの斜め方向の9方向で両眼がそろって動くか。下方視では上眼瞼を指で持ち上げて見る による運動制限、、
は静穏で蒼白 充血・浮腫・分泌物・濾胞や乳頭。下眼瞼を引いて瞼とも見る 結膜炎、赤目
角膜 角膜は平滑で光沢あり、実質は清明透明、後面も清 表面の反射のゆがみ(上皮の荒れ)、実質の、後面の沈着物。で前面と後面の2本の弧の間が均一に透明か 角膜炎、、
正常、清明 角膜との間の暗い隙間の深さ、中の細胞や濁り (閉塞隅角のリスク)、(ぶどう膜炎)、・前房出血
に異常なく静穏 模様(捲縮輪や小窩)が保たれているか、充血・結節・萎縮・ 、
瞳孔 瞳孔は左右同大、正円、中央にあり、反応あり 大きさの左右差、形、位置、と 、、による
は正位で透明 位置(偏位していないか)、下ので嚢・皮質・核が透明か 、
は清明 ・出血・細胞 、、
眼底 は境界鮮明で色調良好、陥凹は生理的。血管の太さは正常で均一。黄斑に異常なし 乳頭の境界・色・陥凹、動静脈の太さと走行、黄斑の反射、周辺部 、、、・

💡 正常所見の定型文は、そのまま「その部位で何を見たか」のチェックリストになっている。たとえば角膜の「平滑・光沢・実質清明・後面清」は、上皮・実質・内皮側という前から後ろへの3段階をすべて確かめたという記録である。

正常眼底の見方

正常のの眼底は、橙赤色の背景の中に次のように見える。

  • は黄斑の鼻側にある橙黄色の円板で、境界が鮮明、中心に白っぽい生理的陥凹がある。乳頭が右側にあれば右眼の眼底である
  • とは乳頭から上下に弧を描いて出て、黄斑を囲むように走る(動脈は細く明るい赤、静脈は太く暗い赤)
  • 黄斑の中心()は周囲より暗く、若年者では小さな反射点が見える

⚠️ 乳頭の境界が不鮮明で盛り上がっていれば、色が白ければ、陥凹が大きく縁が薄ければ緑内障を疑う(、)。

カルテの記載例

正常眼では、上の定型文を順に並べれば所見の記載になる。

眼瞼に異常なし。眼球運動は全方向に制限なし。は静穏で蒼白。角膜は平滑で光沢あり、実質は清明透明、後面も清。正常、清明。は静穏。瞳孔は左右同大、正円、中央、あり。は正位で透明。は清明。眼底:は境界鮮明で色調良好、陥凹は生理的。血管径は正常で均一。黄斑に異常なし。

と正常所見の取り方の全体はと正常所見、眼科の検査機器の総覧は眼科の診断法で扱う。

まとめ

  • 眼瞼は皮膚・・瞼板()・瞼の層からなり、は(第VII脳神経)、開瞼は(第III脳神経)と(交感神経)が担う
  • はで作られ、 → → → → へ流れる。は古典的には脂質・水・の3層だが、現在はとムコの2相として理解される
  • は・・瞼が一続きの袋を作り、異物は眼球の後ろへ入らない
  • 眼球(約24 mm)は・ぶどう膜・網膜の3層に包まれ、・・の3つの腔をもつ。隅角のとがの出口である
  • ではが収縮してが緩み、が丸くなってが増す
  • のは透明組織の病変の深さを示す。直像鏡・前置レンズ・ミラー付き接触レンズ・・双眼でから眼底まで見る
  • 撮影は細胞密度・平均面積・・六角形細胞率で内皮のを評価する。密度が減ると細胞は大きく不ぞろいになる
  • では対称な蝶ネクタイが規則、非対称な下方の化がを示唆する
  • 乳頭OCTは厚とC/D比をと比べ、赤(1%未満)のを緑内障性変化の手がかりにする
  • のの4本の線(・エリプソイドゾーン・嵌合ゾーン・)はの状態を映す。ではに血管がないのが正常である
  • 正常所見の定型文(静穏・平滑・清明・正円・境界鮮明・生理的陥凹)は、で確かめるべき項目のチェックリストとして覚える

出典

  1. 1.TFOS DEWS II Tear Film Report(Tear Film & Ocular Surface Society (The Ocular Surface)・2017)UNSW機関リポジトリの全文で、Wolffのムチン層・水層・脂質層の3層モデルは単純で広く使われてきたが「現実のかなりの単純化」とされていること、水層とムチン層は一般に単一のムコ水層(ムチン濃度が上皮側から勾配をもつゲル)とみなされること、脂質層はマイボーム腺の分泌物に由来し瞬目ごとに広がって涙液層を安定化し、蒸発を遅らせる役割は従来考えられてきたものであること、脂質層の厚さは15〜157 nm(平均42 nm)、涙液層全体はOCTで2〜5.5 µmと報告されていることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Comprehensive Adult Medical Eye Evaluation Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2025)AAO公式サイトのPDF本体(2025年9月6日承認)で、包括的眼科診察の診察項目が矯正視力・屈折・対座法視野・外眼部(眼瞼の位置と性状、睫毛、涙器と涙液機能、眼球位置)・瞳孔(大きさ、対光反応、相対的瞳孔求心路障害)・眼位(遮閉試験)と眼球運動(単眼運動・両眼運動)・細隙灯顕微鏡(眼瞼縁と睫毛、涙液層、結膜、強膜、角膜、中心部と周辺部の前房深度を含む前房、虹彩、水晶体、前部硝子体)・眼圧(接触型の圧平法、典型的にはGoldmann眼圧計が最も正確)・眼底(中間部と後部の硝子体、後極部と周辺部の網膜、血管、視神経)から成ること、虹彩より後方の構造は散瞳下での評価が最もよく、視神経・黄斑・周辺網膜の最適な診察には倒像鏡か補助レンズを用いた細隙灯眼底検査を要することを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.Proposed lexicon for anatomic landmarks in normal posterior segment spectral-domain optical coherence tomography: the IN•OCT consensus(Ophthalmology(International Nomenclature for Optical Coherence Tomography Panel)・2014)抄録で、正常眼のスペクトラルドメインOCTで見える網膜・脈絡膜の層と帯の呼称を国際パネルが合意したこと、文献上の層の定義が頻繁に変わり解剖・組織像と一致しないことが多かったこと、特定の反射構造である確証を欠くが解剖学的領域に対応すると思われる像に「zone」という語を導入し、その例がmyoid zone・ellipsoid zone・interdigitation zoneであることを確認した。全文は未取得閲覧 2026-09-29