眼科学

眼科学 · P-02

眼の解剖(眼球・付属器・外眼筋)

Anatomy of the eye

前提:正常
頭部:眼窩と眼感覚器:眼

🧠 全体像:視覚器は「眼球・視神経・付属器」の3つでできている。眼球は外から(・角膜)、(ぶどう膜)、(網膜)の3層に包まれた直径約24 mm の球で、内部は・・に分かれる。付属器は眼球を動かす、守る眼瞼と、潤すである。眼科の病気はほぼすべてこの構造のどこかの故障なので、「どの層・どの付属器の、どの働きが壊れたか」と考える習慣をここで作る。

視覚器の構成

区分 内容 主な働き
眼球 3層の壁と内容物(・・) 光を屈折させて網膜に像を結び、に変える
視神経 網膜のの軸索の束 信号を脳へ送る
付属器: 4つの直筋と2つの斜筋(+) 眼球を動かし、両眼の視線をそろえる
付属器:保護器 眼瞼・ 眼球を守り、眼表面を潤す
付属器: と を作り、鼻腔へ排出する

眼窩:眼球を収める骨の箱

眼球と付属器は骨性の眼窩に収まる。眼窩は前方が開いた四角錐形の骨の箱で、眼球は前方寄りに収まり、その後方と周囲を・視神経・血管・神経・が埋める。眼窩の骨と開口の知識は、付属器の神経支配と、感染・外傷がどこへ波及するかを考える土台になる。

壁・開口 特徴 臨床との関係
() との境。上外側に窩 ・頭蓋内への感染・外傷の波及
の薄い板(紙様板)が主体 からが広がりやすい
() の天井。薄い で骨折しやすい(吹き抜け骨折。も折れやすい)
最も厚く丈夫 眼球の外側が露出しているので、外側からの外傷は眼球に届きやすい
。視神経とが通る 骨折で
の外側(の大翼と小翼の間)。第III・IV・VI脳神経、、が通る 障害されると複数のがまとめて麻痺する(視神経も巻き込めば)

眼窩の骨と神経・血管の通路の詳細は頭部:眼窩と眼、眼窩の感染と外傷は・眼窩外傷と視神経外傷で扱う。

眼瞼

層構造と働き

眼瞼の働きは眼球を守ることと、を潤った状態に保つことである。のたびにが眼表面に広がる。眼瞼は前から後ろへ次の層でできている。

層 内容
皮膚 瞼縁に睫毛が並び、その毛包にが付属する
眼瞼を閉じる輪状の筋
瞼板 眼瞼の芯となる緻の板。中にが縦に並び、瞼縁に開口する
(瞼) 眼瞼の裏を覆う粘膜

上眼瞼ではこれに加えて、とその、のにあるが瞼板に付く。挙筋の上方にはがあり、の(、の奥)近くには副がある。

神経支配

⭐ 眼瞼のは2つの脳神経に分かれる。

動作 筋 神経 障害されると
・ 顔面神経(第VII脳神経) ()。角膜が乾いて傷つく(例:Bell麻痺)
開瞼 (第III脳神経)
開瞼の補助 交感神経 軽度の()

💡 「閉じるのは顔の筋肉(顔面神経)、開けるのは眼を動かす神経()」と覚える。を見たら、動眼神経麻痺ならとを、ならを伴うかを確かめる。眼瞼の病気は眼瞼の疾患で扱う。

結膜

は粘膜で、眼瞼の裏と眼球の前面をつないでという袋を作る。上皮には粘液を出すが散在し、の成分を供給する。血管とリンパ組織に富むため、炎症やアレルギーで充血・浮腫・濾胞が現れやすい。

部位 覆う場所
瞼(瞼板) 上下眼瞼の内面
の前部
瞼との折り返し(移行部)

内眼角には、小さな淡紅色の隆起である涙丘と、そのすぐ外側の縦のひだであるがあり、下眼瞼の内側寄りの瞼縁にが開口する。下眼瞼を軽く引くと、淡紅色の瞼と、その奥のを観察できる。副はKrause腺がに、Wolfring腺が瞼板の瞼縁と反対側の端(寄りの縁)に分布し、角膜の表面も機能的にはの一部として働く。

⭐ はで閉じた袋なので、異物がへ入ることはない。入り込んだ異物やずれたコンタクトレンズは、か上眼瞼の裏に留まる。

涙器

は、を作ると、を鼻へ流すからなる。

構造 位置・特徴
眼窩の上外側。上眼瞼を持ち上げて患者に下内側を見てもらうと、上外側のの下に眼瞼部の一部が見える
上下眼瞼の内側寄りの瞼縁にある小さな開口
から内側へ走り、に合流する
内眼角の奥、側壁の前部のくぼみ(窩)にある袋
から下へ伸び、(鼻腔)に開口する
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>(眼窩の上外側)<br>排出管から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival sac'>結膜嚢</span>へ"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>で眼表面に広がる"]
    B --> C["内眼角へ集まる"]
    C --> D["上下の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal punctum'>涙点</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal canaliculus'>涙小管</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal sac'>涙嚢</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasolacrimal duct'>鼻涙管</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior meatus'>下鼻道</span>(鼻腔)"]

💡 点眼薬の一部はこの経路で鼻腔から吸収され、全身の副作用の原因になる。点眼後に目を閉じて内眼角()を軽く押さえるのはこれを減らすためである。が詰まるとやになる(、の疾患)。

外眼筋

神経支配で分ける

は神経支配で覚えるのが基本である。

神経 支配する筋
(第III脳神経) ・・、、
(第IV脳神経)
(第VI脳神経)

⭐ 覚え方は「は第VI、は第IV、残りはすべて第III」。

走行と作用

右眼を外側から見ると、4つの直筋はの付近から起こって前方へ走り、の後方でに付く。は眼窩の上内側を前へ走り、内上方のという軟骨の輪で向きを変え、腱となって後外方へ戻り眼球の上面に付く。は眼窩の前下方(の眼窩面)から起こり、眼球の下を後外方へ回り込む。

は従来、とを含む6筋の共通の起始とされてきた。組織学的な検討では、輪状の線維構造がつなぐのは4直筋で、とはの開口部付近から起こるとする報告がある1。

正面から見ると、各筋が引く向きは次のようになる(第一での作用)。

筋 主作用 副作用
内転 ―
外転 ―
内方回旋・内転
外方回旋・内転
内方回旋 ・外転
外方回旋 ・外転

💡 上下の直筋は眼窩の軸に沿って走るため、眼球のと約23°ずれて付く。そのため純粋な上下運動にならず回旋と内転が混じる。斜筋は後ろから前へ斜めに引くため、主作用は回旋になる。とはどちらもさせるが回旋の向きが逆で、組み合わさることでまっすぐ上を向ける。

⚠️ やその神経が障害されると、両眼の視線がずれてが出る。では患側の外転ができず、では下方視(を下りる、読書)で縦のが強くなる。両眼の協調とはとその異常・で扱う。

眼球

3層の壁

眼球の平均直径は約24 mm で、壁は3層からなる。

層 構成
・角膜
(ぶどう膜) ・・
網膜

線維膜:強膜・角膜・角膜輪部

構造 性質 働き
(白目) でできている。硬く不透明 眼の形を保ち、余分な光を遮る
角膜(眼の窓) 透明で血管がない 光を眼内に入れ、屈折させる
角膜との境界 角膜の辺縁に血管と上皮の幹細胞があり、角膜を養い再生させる

正面から見ると、角膜はの色が透けて見える透明な円形の部分で、その周りの白いとの境がである。

💡 のでは、視神経の線維が眼球を出る部位が篩のような穴の開いた板()になっている。ここはの弱点で、が高い状態が続くとが後方へ、そこを通るが傷む。これが緑内障での陥凹が拡大する仕組みの一つである(緑内障 I)。

角膜

角膜は血管をもたないため、外側は、内側は、周辺はの血管から栄養を受ける。眼のの大部分を担う最も重要な屈折面である。

断面は、前から次の5層に分けて教えられてきた。

層 特徴 臨床との関係
上皮 。数日で再生する はこの層の欠損で、瘢痕を残さず治る
上皮直下の無細胞層。再生しない ここより深い傷は(瘢痕)を残す
実質 厚さの約9割。が規則正しく並ぶ 並びが乱れる(浮腫・瘢痕)と透明性を失う
内皮の基底膜。弾力があり丈夫 深い潰瘍でも最後まで残ることがある(デスメ瘤)
内皮 一層の細胞。ほとんど再生しない を汲み出して実質の含水量を一定に保つ。減ると

実質との間には、無細胞で厚さ約10 µm、のが重なった強い層が存在するとの報告があり、発見者の名からDua層と呼ばれる2。で空気を注入して実質を剥がす際の剥離面になり、急性角膜水腫などの後部角膜病変の理解にも関係する2。従来の5層の整理に加える第6の層として扱うかは、今も議論が続いている。

💡 角膜が透明なのは、血管がないこと、が光の波長より細かく規則正しく並ぶこと、内皮のポンプで脱水状態に保たれていることの3つによる。この3つのどれが崩れても角膜は濁る(眼組織の透明性と超音波)。

血管膜(ぶどう膜)

ぶどう膜は・・が一続きになった、血管と色素に富む層である。

部位 働き 構造の要点
瞳孔の大きさを変えて、眼内に入る光の量を調節する (副交感神経、)と(交感神経、)をもつ。後面はで覆われる
を作る。がの形を変えて調節を行う 前方のひだの多いひだ部(がを分泌)と、後方の平らな毛様体扁平部に分かれる
血管が非常に密な層。網膜()を養い、熱を調節する 網膜側から・中血管層・大血管層。網膜との間にがある

💡 毛様体扁平部には網膜も大きな血管もないので、やの器具はこの部位(から数 mm 後方)から眼内に入れる。

💡 ぶどう膜は血流が多く、全身の炎症や免疫の影響を受けやすい。この層の炎症がぶどう膜炎で、前部(・)・・後部()に分けて考える(ぶどう膜炎の分類と前部ぶどう膜炎)。

水晶体

特徴 内容
位置 の後ろ
固定 (提)でにつながる
血管・神経 どちらもない
屈折 角膜に次いで2番目に重要な屈折要素。調節によってを変えられる

した眼にを当てると、は瞳孔の奥に、とに挟まれた厚みのある光の帯として見え、中央の核と周辺の皮質が層として区別できる。

💡 角膜のはおよそ 43 D と大きいが固定されている。のはおよそ 20 D と小さいが、の働きで変えられる。「角膜は大きな固定レンズ、は小さな可変レンズ」と整理すると、(角膜・眼軸の問題)と調節・(の問題)の区別がしやすい(視力・屈折・、調節と)。が濁るのがである。

神経膜(網膜)

網膜は眼球の最で、組織学的には10層に分けられる。

部位 特徴
黄斑 中心の「鮮明な」像を結ぶ場所。中心にがある
網膜のが眼球を出て視神経になる場所
・ 乳頭から出入りし、網膜細動脈・として上下に弧を描いて広がる

⭐ にはがないため、ここでは像ができない。これが生理的である。ではの耳側約15°にが現れる。

正常の眼底では、橙赤色の背景の中で、乳頭が黄斑の鼻側に境界鮮明な橙黄色の円板として見え、そこから出た血管が黄斑を上下から囲むように走り、黄斑の中心は周囲より暗く見える。網膜の層構造と血行は網膜の解剖と血液循環で詳しく扱う。

眼球内の腔

腔 範囲 内容
角膜からまで
からの後面まで
の後面から網膜まで (透明なゲル)

は約4 mL で眼球容積の約3分の2を占め、大部分が水で、とのがゲルの形を保つ。加齢でして網膜から離れる()と、やの原因になる(の疾患と)。

flowchart TD
    A["光"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear film'>涙液層</span>・角膜<br>(最大の屈折)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>)"]
    C --> D["瞳孔(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>が光量を調節)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior chamber'>後房</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous humor'>房水</span>)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span><br>(調節で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive power'>屈折力</span>を変える)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous cavity'>硝子体腔</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>)"]
    G --> H["網膜の黄斑に像を結ぶ"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic disc'>視神経乳頭</span>から視神経へ"]

💡 光の通り道の組織(角膜・・・)はすべて透明でなければならない。どこか1か所でも濁ると視力が落ちるので、を見たら「光の通り道のどこが濁ったか」と「像を受け取る網膜・視神経が壊れたか」の2つに分けて考える。

眼の血管

ここまでに出てきた網膜・・の血液は、主にの枝であるから来る。はを通って眼窩に入り、次の枝に分かれる。静脈血は上・下からへ流れる。

の主な枝 養う部位 臨床との関係
視神経の中を通って乳頭からへ 閉塞するとが虚血になり急激に視力を失う()
(を間接的に養う)と 乳頭の虚血はの原因になる
長後毛様動脈・ ・(大動脈輪を作る) は直筋に沿って前方へ来るため、で多数の直筋を同時に外すと虚血の危険がある
・上眼瞼の外側 ―

との二重の血行は網膜の解剖と血液循環で詳しく扱う。

⚠️ 顔面の静脈はを介してとつながるため、顔面中央や眼窩の感染が頭蓋内へ広がることがある()。

眼の大きさの目安

解剖学・眼科学の教科書で標準的に用いられる成人の目安の値(がある)。

構造 目安の値 覚えておく理由
() 約24 mm 長すぎれば、短すぎればになる
角膜の 約11.5 mm 小さすぎる・大きすぎる角膜は発達異常やを疑う
約0.5〜0.55 mm の測定値に影響する
の厚さ で約1 mm、直筋付着部の後方で約0.3 mm と最も薄い では薄い部位で眼球が破裂しやすい
約3 mm 浅いと閉塞隅角のリスク
直筋の付着部からまでの距離 約5.5 mm、約6.5 mm、約6.9 mm、約7.7 mm が最も近く、が最も遠い(Tillauxのらせん)。の目印
の直径 約1.5 mm 眼底での距離の「ものさし」()になる
の位置 乳頭の耳側約4 mm、やや下方 乳頭と黄斑の位置関係で左右眼と眼底の向きが分かる
視神経の長さ 約50 mm(眼内約1 mm、約25〜30 mm、内約5〜10 mm、頭蓋内約10 mm) ではたるんでいるため、でもすぐには引き伸ばされない

構造と疾患の対応

構造 故障したときの代表的な疾患・症状
眼瞼 、、眼瞼の炎症・腫瘍
結膜炎(結膜炎)
、
・脳神経 、
角膜 角膜炎、、
ぶどう膜 ぶどう膜炎
の流れ 緑内障
、
・網膜 、、黄斑疾患
視神経 、、

まとめ

  • 視覚器は眼球・視神経・付属器(、眼瞼と、)からなり、眼窩に収まる
  • 眼瞼は皮膚・・瞼板・の層からなり、眼を守りを潤す。は第VII脳神経()、開瞼は第III脳神経()
  • は瞼・・で閉じたを作るため、異物はへ入らない
  • はで作られ、 → → → → 鼻腔へ流れる
  • は「が第VI、が第IV、残り(上・内・、、)が第III脳神経」
  • 眼球は直径約24 mm、(・角膜)・ぶどう膜(・・)・網膜の3層に包まれる
  • 角膜は・・の血管から栄養を受ける最重要の屈折面で、従来5層(上皮・・実質・・内皮)に分けられ、実質との間にDua層が報告されている
  • は血管も神経もない第2の屈折要素で、で吊られ、調節でを変える
  • にはがなく生理的になる。黄斑は中心の鮮明な視覚を担う
  • 眼球内は・()と()に分かれ、光の通り道はすべて透明である
  • 眼窩のとは薄く、感染の波及や吹き抜け骨折の場になる。眼球と付属器は(・後毛様動脈・)で養われ、静脈はへ注ぐ

出典

  1. 1.Tendinous annulus of Zinn for a common origin of the extraocular rectus muscles: a histological study of the orbital apex from donated elderly cadavers(Anatomical Science International・2022)抄録で、内直筋・下直筋・外直筋・上直筋・上眼瞼挙筋・上斜筋はZinn総腱輪から起こるとされてきたが、高齢献体30体の眼窩尖端の組織切片では輪状の線維構造が4直筋をつなぐ一方で上眼瞼挙筋と上斜筋を含まず、両筋は視神経管の開口部付近から起こっていたこと、したがっていわゆる総腱輪は6筋すべての起始ではないと結論していることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Human corneal anatomy redefined: a novel pre-Descemet's layer (Dua's layer)(Ophthalmology・2013)抄録(Europe PMC、PMID 23714320)で、ドナー角膜31眼に深層層状角膜移植と同じ空気注入(ビッグバブル法)を行い、Descemet膜を剥がしても保たれる層が実質の最後の角膜実質細胞の列より後方にあること、この層は無細胞で厚さ10.15±3.6 µm、主にI型膠原線維の束が横・縦・斜めに走る5〜8層の層板からなること、急性角膜水腫などの後部角膜病変や角膜の生体力学の理解に影響すると結論していることを確認した閲覧 2026-09-29