眼科学

眼科学 · ML-52

眼窩外傷・視神経外傷・多発外傷

Orbital trauma, trauma of the optic nerve, polytrauma

前提:正常
頭部:眼窩と眼

🧠 全体像:眼窩の壁は薄く、強い力を受けると壁が割れて逃げ場になり、眼球そのものを守る。そのかわり、割れた穴に眼窩の中身がはまり込んで上を見ると二重に見える・眼が落ちくぼむ・頬がる(吹き抜け骨折)。多くは急がなくてよいが、小児の白眼吹き抜け骨折(筋肉の絞扼で吐き気・徐脈)と、骨折が起こらずに眼窩の圧が上がる(で)は時間との勝負である。眼窩の奥のでは、骨折がなくても視神経が傷つく()。どの外傷でも最初に視神経の機能(視力・瞳孔)を確かめる。

眼球そのもののは眼球の、鋭的外傷は眼の鋭的外傷とで扱う。ここでは眼球の外側、つまり眼窩の骨・眼窩の内容・視神経の外傷と、顔面外傷がの一部として来たときの位置づけをまとめる。

眼窩の骨の解剖

眼窩は7つの扁平な骨でできた、四角錐(円錐)状の空間である。・・・の4つの壁があり、最も薄いのはとである。

壁 骨 外傷との関係
、 上は。の骨折はを伴いやすい
の前頭突起、、、 の眼窩板(紙様板)は眼窩で最も薄い骨。の骨折に合併しやすい
、、 下は。眼窩下溝・眼窩下管をが走る。吹き抜け骨折の好発部位
、 最も厚い。の骨折(上顎複合骨折)で壊れる

眼窩の骨を正面から見ると、上縁に眼窩上孔、との境に前・後孔、奥にと、との間に下眼窩裂が開き、には眼窩下溝が走って眼窩の下縁の下の眼窩下孔へ出る。

💡 薄い壁は安全弁である。 眼球に強いが加わると、薄いやが割れて、眼球は広がった眼窩の中へ「沈み込み」、外力から逃れる。そのため吹き抜け骨折では、眼球そのものの破裂は免れることが多い。代わりに、割れた壁の穴が眼窩の内容を捕らえる。

骨・孔・裂の詳しい解剖は眼の解剖(眼球・付属器・)で扱う。

中顔面骨折の分類

眼窩の骨折は、顔面外傷の一部として起こることが多い。骨折の分類には、Le Fort 分類(1901年)と Schwenzer 分類(1967年)がある。側からの整理は副鼻腔・格・の外傷にある。

Le Fort 分類

フランスの軍医 René Le Fort にちなむ、骨折のの型の分類である。3つの型はいずれも、定義上、のを含む。

型 外れる部分 眼窩
Le Fort I の突起の上、梨状口の下縁、を横に水平に走る 歯列を含む上顎の下部 含まない
Le Fort II から眼窩のの内側、眼窩下縁、のを通り、の下をくぐってへ抜けるピラミッド型 鼻と上顎の中央部(ピラミッド状) 含む
Le Fort III から眼窩のに沿って後ろへ進み、のすぐ下を通ってをへ抜け、とを通る 全体が頭蓋から外れる(頭蓋顔面分離) 含む(・・)

💡 番号が上がるほどが上にのぼる。I は「歯の上」、II は「鼻と頬の間」、III は「眼窩を横切って顔全体」と覚えるとよい。III のはのすぐ下を通るので、視神経の障害に注意がいる。

Schwenzer 分類

骨折を、中央・中央外側・外側の3群に分ける。*は眼窩の骨を含む骨折である。

群 骨折
中央の骨折 Le Fort I、Le Fort II*、突起骨折、単独の、鼻眼窩骨折*
中央外側の骨折 Le Fort III*
外側の骨折 骨折、骨折、吹き抜け骨折(眼窩の単独骨折)*

中顔面骨折の症状と画像

症状・所見 意味
痛み 骨折部の痛み
血腫・浮腫 眼瞼・頬の腫れと皮下出血
の充血・ の出血
の変形 ・を触れると骨が段になっている
鼻腔・副鼻腔の骨折
気腫 副鼻腔の空気が皮下・眼窩へ漏れる()
血腫・ まれだが視力を脅かす(後述)

⭐ 骨折の画像診断は CT が第一選択である。、眼窩の内容の脱出、筋の嵌頓、の骨折を見る。

眼窩の骨折

吹き抜け骨折

のうち、が保たれたまま、眼窩の壁(多くは)だけが割れるものを純粋型の吹き抜け骨折という。最も多く割れるのはの内側寄り(の走る溝より内側の、とくに薄い部分)である。

起こり方:野球のボールや拳のように、眼窩の入口よりやや大きい物が眼にぶつかると、眼球と眼窩の内容が後ろへ押されて眼窩の中の圧が急に上がる。圧は最も弱いを下のへ吹き抜けさせ、眼窩の脂肪や、につながる軟部組織が骨折部にはまり込む。

flowchart TD
    A["眼窩の入口より大きい物が<br>眼にぶつかる(ボール・拳)"] --> B["眼球と眼窩の内容が<br>後ろへ押される"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital pressure'>眼窩内圧</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surge'>急上昇</span>"]
    C --> D["最も薄い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior wall'>下壁</span>(内側寄り)が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='maxillary sinus'>上顎洞</span>へ割れる"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital fat'>眼窩脂肪</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior rectus'>下直筋</span>が<br>骨折部にはまり込む"]
    D --> F["眼窩の容積が増える"]
    D --> G["眼窩下管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infraorbital nerve'>眼窩下神経</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contusion'>挫傷</span>"]
    E --> H["上方視の制限と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enophthalmos'>眼球陥凹</span>・眼球の下方偏位"]
    G --> J["頬・上唇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ala nasi'>鼻翼</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='numbness'>しびれ</span>"]

⚠️ どの症例でも、鼻をかまないよう指示する。 鼻をかむとの空気が骨折部から眼窩や皮下へ押し込まれ、が悪化する1。

吹き抜け骨折の症状

⭐ 要綱の必須能力。・障害・・領域のの4つを軸に、眼球の下方偏位を加えた5つの所見を組み合わせで覚える。

症状・所見 機序
眼球の下方偏位(患側の眼球が低い位置に「沈む」) が抜けて眼球の支えがなくなる
眼窩の容積が増え、内容がへ脱出する。受傷直後は腫れに隠れ、腫れが引いてから目立つ
眼球運動の制限で両眼の視線がずれる
眼球運動の制限(とくに) やその周りの組織が骨折部に嵌頓し、上を向こうとしても下へ引き留められる
領域の・ 三叉神経第2枝()の枝であるが、眼窩下溝・眼窩下管でを受ける。頬・下眼瞼・上唇・・上の歯肉がる

これらの所見は、上方視での・上方視の制限・眼窩下縁の圧痛と・・領域の・としてまとめられる1。

💡 上を見ると二重に見える理由。 が骨折部に捕らえられると、眼球は上へ回れない。の眼は上を向くのに患側の眼は取り残されるので、上方視で上下にずれた像が見える。筋そのものがで動かない場合は下方視も悪くなる。

CT:で、片側の眼窩が途切れ、眼窩の軟部組織がの天井から垂れ下がるように脱出しているのを認める。反対側のは連続している。薄いスライスのとの再構成で、の大きさと、筋が挟まっているかを見る。

小児の白眼吹き抜け骨折

⚠️ 小児の吹き抜け骨折は、見た目が軽いほど危ないことがある。

小児の骨は柔らかく、骨折した骨片がのように元の位置へ戻る(跳ね上げ戸型の骨折)。そのときにやが挟まれて締め付けられる。外から見ると眼瞼の腫れももほとんどなく、眼が白いままなので「白眼吹き抜け骨折」と呼ばれる1。

特徴 内容
外見 眼瞼の腫れ・皮下出血・に乏しい
眼球運動 (ときに)の著しい制限と、動かしたときの強い痛み
全身症状 悪心・嘔吐、徐脈、失神。眼心反射(の牽引が迷走神経を介して心拍を落とす)による
CT がほとんどずれず、骨折が見落とされやすい。筋が小さな隙間に挟まっている
取り違え 嘔吐・ぐったりしていることから、と誤って扱われやすい

⚠️ 嵌頓した筋は時間とともに虚血・壊死に陥る。 眼心反射による徐脈などの不安定を伴う小児の跳ね上げ戸型骨折は即時手術の適応であり、小児のは受傷後7日以内に手術すると予後が良いとされる1。眼心反射で徐脈や嘔吐が続くときは、筋の絞扼を解くまで治まらないので、待たずに手術する。

flowchart TD
    A["小児の眼の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contusion (blunt injury)'>打撲</span>"] --> B["柔らかい骨が割れて<br>すぐ元に戻る(跳ね上げ戸型)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fracture line'>骨折線</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior rectus'>下直筋</span>・脂肪が<br>挟まれて締め付けられる"]
    C --> D["外見は白い眼<br>(腫れ・出血に乏しい)"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upward deviation (of the eye)'>上転</span>の著しい制限と痛み"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraocular muscles'>外眼筋</span>の牽引"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vagal reflex'>迷走神経反射</span>(眼心反射)"]
    G --> H["徐脈・悪心・嘔吐・失神"]
    C --> I["筋の虚血・壊死"]
    E --> J["緊急手術で嵌頓を解除"]
    H --> J
    I --> J

眼心反射による徐脈は徐脈の原因の一つとして覚えておく。

内側壁の骨折

  • の眼窩板(紙様板)は眼窩で最も薄い骨で、の骨折にしばしば合併する。
  • 多くの骨折は手術を必要としない。
  • ただしの大きな骨折は著しいを起こしうる。
  • 手術を考えるのは、整容上問題になると、筋の嵌頓・があるときである。

到達法の変遷:従来は内眼角の皮膚を切る Lynch 切開が使われたが、眼窩の内側縁の上に受け入れがたい瘢痕が残った。現在は、涙丘の後ろから側で入る経涙丘法が好まれる。眼瞼周囲の到達法には、ほかに修正 Lynch 切開(内眼角の皮膚)、経切開(下眼瞼の側)、睫毛下切開(下眼瞼の睫毛のすぐ下)、外側切開()、上眼瞼の重瞼線切開がある。

上壁の骨折

  • 単独の骨折は、ときに小児でみられる(小児はが未発達なので、への力がへ直接伝わる)。
  • 大きなを伴うことが多い。
  • の骨折が奥へ延びたものとして起こる。
  • を含む多職種での対応が必要になる。

小児の例では、片側の上眼瞼が腫れて垂れ下がり、眼が細くなっている。の CT で、その側のの骨折を認める。

💡 の骨折では、頭蓋内()と眼窩がつながりうる。・・を伴うことがあり、のが遅れて出ることもある。

外側壁の骨折:頬骨上顎複合骨折

  • 、上顎(・上顎との接合部)、・を含む骨折で、三脚骨折とも呼ばれる。
  • 顔面外傷に伴うことが多い。
  • は3か所に入る。①眼窩下縁の下でとの境(上顎縫合)、②眼窩の中のから、③眼窩の外上方のである。

💡 の体部がとして外れて沈むので、頬の平坦化、(が・筋突起に当たる)、領域のが出る。眼窩のも巻き込むので、吹き抜け骨折と同じ・を起こしうる。

骨折の手術

多くの症例は手術を必要としない。 手術が必要になるのは、次のような特別な場合である。

手術適応(従来の整理) 理由
の臨床的な嵌頓 筋の虚血・恒久的な運動障害を防ぐ
眼窩の50%を超える欠損 後からが進む
骨折によるが改善しない 腫れが引いてもが残る
3 mm 以上の 整容上・機能上の問題

現行の整理では、即時手術が必要なものとして、の不安定(眼心反射による徐脈など)を伴う小児の跳ね上げ戸型骨折、が進む血腫、初診時に2 mm を超えるを挙げ(も即時手術の対象に挙げられる)、即時手術のとして、の不安定を伴わない眼窩の内容の嵌頓、持続する、、眼球の下方偏位、の50%を超える損傷を挙げる1。の閾値は従来の3 mm 以上に対し、初診時に2 mm を超えれば早期の手術を考えるという基準もある。

手術の時期

状況 時期
小児の白眼吹き抜け骨折(筋の絞扼、眼心反射) 緊急(できるだけ早く。7日以内の手術で予後が良いとされる)
成人の嵌頓・大きな欠損・ 腫れが引くのを待って判断し、線維化が進む前(受傷後およそ2週間以内)
軽いだけでが小さい 経過観察。腫れが引くとが消えることが多い

多くの症例は浮腫が消えるまで24〜72時間待ってから評価し、手術は線維化を防ぐため一般に受傷後14日以内に行われる1。

💡 受傷直後は腫れで眼球が押し出され、は隠れる。腫れで筋が動かないも多い。待って腫れを引かせることで、本当に手術が要るもの(嵌頓・大きな欠損)だけが残る。ただし、嵌頓した筋を待たせてはいけない小児は例外である。

再建の材料

種類 例
合成材料 ポリエチレン板、メッシュ、で補強したポリエチレン(複合)板、板
分層頭蓋骨(頭蓋骨の外板を削いで使う)

脱出した眼窩の内容をから眼窩へ戻し、の上に板を置いて眼窩の容積を元に戻す。到達は経切開や睫毛下切開で行う。

眼窩内出血と眼窩コンパートメント症候群

⚠️ 骨折のない眼窩外傷のほうが、視力には危ないことがある。

眼窩の中(多くは)に出血が起こる。ふつうは骨折が眼窩の中をするので、眼窩の圧は正常に保たれる。まれに、眼窩の壁が保たれたまま出血が続くと、骨に囲まれた眼窩の圧が上がる。上がった眼窩の圧は、眼内との組織(網膜・視神経)の血流を急速に奪う。これがである。外傷に伴うが最も多い原因である2。

症状・所見 意味
、眼窩の(押しても眼球が引っ込まない) 眼窩の容積の増加
かすみ・ 視神経・網膜の虚血
の上昇 眼窩の圧が眼球を外から押す
RAPD 視神経の障害
眼球運動の制限 眼窩の圧、筋の圧迫
眼瞼の腫れと皮下出血、 の出血

主な所見は、著明な・・・眼窩の・RAPD・である2。

治療:外眥切開

⚠️ 緊急の手術が要る。視力を救う処置は(と下眼瞼の靭帯下脚の切離)である。

  • は臨床診断で、画像検査を待って治療を遅らせてはならない2。
  • が40 mmHg を超えるときは、と下眼瞼の切離の適応となる2。
  • をはさみで外側へ切り、下眼瞼をに留めている靭帯(靭帯の下脚)を切る。眼瞼がから離れることで、眼窩の内容が前へ逃げられるようになり、圧が下がる。
  • 処置の前後で、視神経の機能(視力、)を観察し続ける。

時間の目安:従来「処置しなければ90分で不可逆的なに至る」と教えられてきた。では灌流を止めて75分で網膜に不可逆的な損傷が生じうる一方、2時間以内に血流が戻れば予後が最も良いとされる2。いずれにしても「分単位」の救急である。で不十分なら眼窩のを検討し、の静注やを補助的に使う2。

flowchart TD
    A["眼窩外傷のあと<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>"] --> B{"眼窩の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='engorgement (turgor)'>緊満</span>・RAPD・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>があるか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital compartment syndrome'>眼窩コンパートメント症候群</span><br>(臨床診断)"]
    B -->|"いいえ"| D["CTで骨折・出血を評価<br>視機能を繰り返し確認"]
    C --> E["画像を待たずに<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='canthotomy'>外眥切開</span>・下脚の切離"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>が下がり<br>視機能が保たれたか"}
    F -->|"はい"| G["経過観察・CTで原因の評価"]
    F -->|"いいえ"| H["上脚も切離・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital decompression'>眼窩減圧術</span><br>薬物(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetazolamide'>アセタゾラミド</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mannitol'>マンニトール</span>)を補助に"]

視神経管と眼窩尖端の外傷

視神経管の解剖

構造 位置と通るもの
眼窩の円錐の頂点()にある。視神経(第II脳神経)とが通る。長さ約10 mm、直径約7 mm
のすぐ外側。・・・(と)が通る
下眼窩裂 眼窩のとの間。三叉神経第2枝、、眼窩下動脈、静脈の流出路が通る

眼窩の正面像では、眼窩の入口、前頭、眼窩上孔、眼窩孔(顔面孔・側頭孔へ抜ける管)、眼窩下溝・眼窩下管・眼窩下孔、、前・後孔、、、下眼窩裂、窩の位置関係を確認できる。この領域の骨折の評価には眼窩の CT が欠かせない。

視神経管の骨折と外傷性視神経症

  • は神経と血管がぎっしり詰まった狭い骨の管で、この部位の外傷は繊細な神経血管構造に壊滅的な損傷を与えうる。
  • 骨折の評価には眼窩の CT が欠かせない。
  • は、骨折がなくても起こる。 眼窩の中で急にする力(額・眉毛の外側へのなど)が、に固定された視神経にずれ()の力をかけて傷つける(間接損傷)。
flowchart TD
    A["額・眉毛の外側への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contusion (blunt injury)'>打撲</span><br>(転倒・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='road traffic injury'>交通外傷</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital'>眼窩内</span>での急な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deceleration'>減速</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic canal'>視神経管</span>に固定された<br>視神経への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shear force'>剪断力</span>"]
    C --> D["視神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contusion'>挫傷</span>・微小血管の障害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic canal'>視神経管</span>の中での腫脹"]
    E --> F["骨の管で逃げられず<br>さらに圧迫・虚血"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal ganglion cell'>網膜神経節細胞</span>の二次的な喪失"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・RAPD<br>数週後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic atrophy'>視神経萎縮</span>"]
所見 内容
視力・視野 受傷直後からの(までさまざま)、
瞳孔 片側ならRAPDが最も重要な所見
眼底 間接損傷では受傷直後の眼底は正常。数週後にが蒼白になる()
CT の骨折、骨片による視神経の圧迫、の血腫を探す。骨折がないことも多い

💡 意識のないの患者では、視力を聞けない。瞳孔の RAPD だけが視神経の障害の手がかりになる。

外傷性視神経症の治療:ステロイドの位置づけ

かつては高用量のステロイド静注(の用量を流用した)やが広く行われた。現在は、どちらも標準治療とはみなされない。

根拠 内容
国際視神経外傷研究(1999年) 133例の比較研究(非)。視力が3段階以上改善したのは、手術群32%・無治療群57%・ステロイド群52%で、初診時の視力で補正すると差がなかった。ステロイドの用量・開始時期、手術の時期も改善と関連しなかった。ステロイドもも標準治療とみなすべきではなく、治療するかは患者ごとに判断するのが妥当とした3
CRASH 試験(2004年) の成人10,008例の。48時間の静注で、2週間以内の死亡がより多かった(21.1%対17.9%、1.18)4

⚠️ はに合併することが多い。CRASH 試験はの患者ではなくの患者を対象とした試験だが、高用量ステロイドで死亡が増えたことから、を伴う患者に視神経のための高用量ステロイドを使うことは避ける。無治療でも視力がかなり回復することがあり(国際視神経外傷研究では、受傷7日以内の治療で群分けした無治療群の57%で3段階以上改善。ただし無治療群は9例と少ない)3、治療するかどうかは、危険と利益を説明したうえで個別に決める。

💡 例外として、の骨片が視神経を圧迫している、あるいはの血腫があり、視力が進行性に落ちる場合にはが検討される。ただしこれも、上の比較研究では明らかな利益が示されなかった治療である。

眼窩尖端症候群

では、とが隣り合う。この部位の外傷(骨折・血腫)では、視神経(第II脳神経)と(第III)・(第IV)・(第VI)が一度に障害され、と全方向の()が組み合わさる。これがである。の領域のを伴うことも多い。

症候群 障害される神経
III・IV・VI・V1(視神経は保たれる)
上に加えて視神経(第II脳神経)

個々のの見分け方は、動眼神経麻痺、、を参照。

眼窩外傷の診察

眼窩外傷では、眼球の損傷とあわせて次を確かめる。

項目 何を見るか
視神経の機能:視力 片眼ずつ、ETDRS などで測る。測れなければ・・
視神経の機能: 明るい光で、暗いところでする正常反応と、点滅による RAPD
視神経の機能: 赤の見え方の左右差(で低下)
視神経の機能:視野 で欠損を確かめる
眼球運動 と8方向(上・下・左右・斜め)でのむき運動。どのの作用方向で動きが悪いかを見る

眼球運動の9方向の診察では、のほか、右上(右眼のと左眼の)、上(と)、左上(右眼のと左眼の)、右(右眼のと左眼の)、左(右眼のと左眼の)、右下(右眼のと左眼の)、下(と)、左下(右眼のと左眼の)を順に見る。吹き抜け骨折では、患側の眼が上方の3方向で遅れる。

⭐ 視神経の機能を最初に記録する。 受傷時の視力と RAPD の有無は、その後の悪化(・)に気づくための基準になり、予後の判断にも使う。

視神経乳頭の引き抜き

の引き抜きはまれな外傷で、大きなのあとに起こる。穿孔性・非穿孔性のさまざまな機序が報告されている。典型例は、スポーツ中の事故で指が眼窩へ押し込まれ、眼球が極端に前へ動いて視神経線維が引きちぎられるものである。

項目 内容
重症度 さまざま。最も重い例では
眼底 の部位に空洞(窪み)を認める。周りに出血と、網膜の白濁を伴う
CT・MRI わずかな異常しか映らない

眼底の例では、のあるべき部位に丸い空洞が開き、その周りに状・斑状の出血と、網膜の白いが広がる。画像検査で異常が乏しくても、眼底を見れば診断できる。

💡 引き抜きは眼底で見える視神経の外傷、は眼底で見えない(の中の)外傷と対比して覚える。

多発外傷

は、複数の外傷を受けた人の状態を表す医学用語である。とくに、複数の身体部位に損傷が及び、その組み合わせで生命を脅かす状態になる患者を指す。

項目 内容
定義の指標 ISS。身体を6部位に分け、最も重い3部位の損傷重症度をそれぞれ2乗して足す
重症の目安 16を超えるととする整理がある(一般的な定義では16以上、つまり15を超えるもの)
最大値 75

⚠️ では、生命を救う処置が眼より先になる。 ただしとは、全身の処置と並行して見逃さずに拾う必要がある。意識障害や鎮静中の患者では、次を早めに確認する。

  • 瞳孔の大きさと RAPD:・の手がかり
  • と眼窩の、()
  • 眼球の形と(。疑えば眼球を圧迫しない)
  • 顔面の CT で眼窩の骨折・の骨折

ではを伴うことが多い(、)。前述のとおり、を伴う患者に視神経のための高用量ステロイドを使わない。

flowchart TD
    A["顔面・眼窩の外傷"] --> B["全身状態の安定化<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multitrauma (multiple trauma)'>多発外傷</span>なら救命を優先)"]
    B --> C["視神経の機能を記録<br>視力・瞳孔・RAPD"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・眼窩の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='engorgement (turgor)'>緊満</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>があるか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital compartment syndrome'>眼窩コンパートメント症候群</span>を疑い<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='canthotomy'>外眥切開</span>"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronal plane'>冠状断</span>を含む薄いスライスのCT"]
    F --> G{"何が見つかったか"}
    G -->|"小児で筋の絞扼・<br>眼心反射"| H["緊急手術"]
    G -->|"大きな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone defect'>骨欠損</span>・嵌頓・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='enophthalmos'>眼球陥凹</span>"| I["腫れが引くのを待って<br>2週間以内に手術"]
    G -->|"小さな骨折のみ"| J["保存治療<br>鼻をかまない"]
    G -->|"骨折なく<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・RAPD"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic neuropathy'>視神経症</span><br>治療は個別に判断"]

まとめ

  • 眼窩は7つのからなる四角錐で、(の紙様板、最も薄い)とが薄い。薄い壁が割れることで眼球は外力から逃れる。
  • 骨折の分類は Le Fort 分類(I 水平・突起の上、II ピラミッド型で眼窩の内側と眼窩下縁、III 眼窩を横切る頭蓋顔面分離。すべてを含む)と Schwenzer 分類(中央・中央外側・外側)。眼窩を含むのは Le Fort II・III、鼻眼窩骨折、吹き抜け骨折。
  • 骨折の所見は痛み・血腫・の充血と出血・・・気腫・まれに血腫。画像は CT が第一選択。
  • 吹き抜け骨折はが保たれた(内側寄り)の骨折。症状は眼球の下方偏位、、、障害(の嵌頓)、領域の。全例で鼻をかまない。
  • 小児の白眼吹き抜け骨折は外見が軽く、筋の絞扼で障害と眼心反射(徐脈・嘔吐・失神)を起こす。緊急手術。
  • 骨折の多くは保存、整容上の・嵌頓で手術(現在は経涙丘法)。骨折は小児・で多職種対応。上顎複合骨折は三脚骨折。
  • 手術適応は嵌頓、の50%超の欠損、残る、(従来3 mm 以上、現行では初診時2 mm 超も)。時期は腫れを待って2週間以内、小児の絞扼は緊急。材料はポリエチレン・メッシュ・・頭蓋骨。
  • で眼窩の圧が上がると(・・・RAPD)。臨床診断で、画像を待たずに。40 mmHg 超が目安、2時間以内のが予後を分ける。
  • は長さ約10 mm・直径約7 mm で視神経とが通る。は骨折がなくてもで起こり、急性期の眼底は正常、RAPD が手がかり。
  • 高用量ステロイドもも標準治療ではない(国際視神経外傷研究)。ではCRASH 試験で高用量ステロイドにより死亡が増えたので避ける。治療は個別に判断。
  • は II・III・IV・VI の同時障害。の引き抜きは眼底で乳頭部の空洞、のこともあり、CT・MRI では異常が乏しい。
  • は複数部位の損傷の組み合わせで生命を脅かす状態で、ISS がおおむね16以上で重症(最大75)。救命を優先しつつ、瞳孔・RAPD・眼窩のを早めに確かめる。

出典

  1. 1.Orbital Floor Fracture(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)眼窩底骨折の臨床所見が上方視での複視・上方視制限・眼窩下縁の圧痛や段差・眼球陥凹・眼窩下神経領域の感覚低下・皮下気腫であること、小児は骨が柔軟なため骨折線が元に戻りやすく外見の外傷徴候に乏しい白眼吹き抜け骨折となり軟部組織嵌頓の危険が高いこと、外眼筋の牽引が迷走神経反射による徐脈を誘発しうること、即時手術を要するのがバイタルサインの不安定を伴う小児の跳ね上げ戸型骨折・視力低下が進む球後血腫・初診時2 mmを超える眼球陥凹であり(別の箇所では開放眼球損傷も挙げる)、即時手術の相対的適応がバイタルサインの不安定を伴わない嵌頓・持続する複視・眼球陥凹・眼球の下方偏位・眼窩底の50%超の損傷であること、手術は一般に受傷後14日以内で小児の眼球運動障害では7日以内の手術で予後が良いとされる一方多くは浮腫の消退を待って24〜72時間待機すること、鼻をかむことを控えさせることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Orbital Compartment Syndrome(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)眼窩コンパートメント症候群の最多の原因が外傷に伴う球後出血であること、主な所見が著明な眼圧上昇・視力低下・眼球突出・眼窩の緊満・RAPD・眼球運動制限であること、臨床診断であり画像検査で治療を遅らせてはならないこと、眼圧40 mmHg超は外眥切開・下眼瞼支帯切離の適応となること、動物実験で灌流遮断75分で網膜に不可逆的損傷が生じうる一方2時間以内の血流再開で予後が最も良いとされること、不十分なら眼窩減圧術を検討しアセタゾラミド静注やマンニトールを補助的に使うことを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.The treatment of traumatic optic neuropathy: the International Optic Nerve Trauma Study(Ophthalmology・1999)PubMed抄録で確認した。外傷性視神経症133例の非無作為化比較研究で、受傷7日以内の治療により片眼例を無治療9例・ステロイド85例・手術33例に分け、視力が3段階以上改善したのは手術群32%・無治療群57%・ステロイド群52%で、初診時視力で補正すると群間に有意差がなく、ステロイドの用量・開始時期や手術の時期も改善と関連しなかったこと、ステロイドも視神経管開放術も標準治療とみなすべきではなく個々の患者ごとに治療するかを決めるのが妥当と結論したことを確認した閲覧 2026-09-29
  4. 4.Effect of intravenous corticosteroids on death within 14 days in 10008 adults with clinically significant head injury (MRC CRASH trial): randomised placebo-controlled trial(The Lancet・2004)GCS14以下の頭部外傷患者10,008例の無作為化プラセボ対照試験で、48時間のメチルプレドニゾロン投与群は受傷2週間以内の全死亡がプラセボ群より有意に多かった(21.1%対17.9%、相対リスク1.18)ことを確認した閲覧 2026-09-29