眼科学

眼科学 · ML-53

眼窩腫瘍

Tumors of the orbit

前提:正常
頭部:眼窩と眼

🧠 全体像:眼窩は骨の箱なので、中に何かが増えれば眼球は押し出される()。腫瘍が筋円錐の中にあれば眼球はまっすぐ前へ(軸性突出)、筋円錐の外にあれば腫瘍と反対の方向へずれる(偏位)。どの腫瘍かは、年齢(小児か成人か)、場所(筋円錐の中か外か、か視神経か)、経過の速さ(数日か数年か)、痛みとで絞り込む。小児は・乳児血管腫・、成人は()・リンパ腫・・・転移が柱である。⚠️ 数日で進む小児の突出()と、痛みを伴う()は見逃してはならない。

の疾患としての整理は疾患ノートにある。そのものの鑑別(・炎症・血管病変を含む)はの鑑別、眼瞼・眼表面・眼内の腫瘍は眼瞼腫瘍・・成人の・小児の眼腫瘍で扱う。

眼窩腫瘍とは

眼窩は、・・・・・・で囲まれ、外側は、内側は鼻腔と接する。

  • より後ろにある腫瘍を腫瘍と呼ぶ。
  • がより後ろで操作する手術を眼窩手術という。
  • 眼窩の中のあらゆる組織(脂肪・筋・神経・血管・・・リンパ組織)から腫瘍が生じうるので、腫瘍の種類はきわめて多彩である。

には、眼窩の境界の中にとどまるものと、周りの領域(副鼻腔、上顎の後ろの空間、頭蓋内)へ広がるものがあり、逆に周りから眼窩へ入ってくるものもある。広がる経路は、解剖学的な開口部(・下眼窩裂・)を通る場合と、骨を壊して進む場合がある。

発生部位による分類

分類 由来 良性・悪性 手術
原発性 眼窩の中の組織から生じる 良性と悪性がおよそ半々 眼窩切開術で眼科(眼窩外科)が摘出できる
続発性 周りの組織(頭蓋骨・副鼻腔・眼瞼・眼球)から眼窩へ入る 主に悪性 ・と共同で手術する
転移性 遠隔の臓器から血行性に来る 悪性 の治療が中心

転移のは、成人では乳癌・肺癌・前立腺癌・悪性黒色腫、小児ではが代表である。

💡 原発性のはまれで、頻度は約10万人に1人とされ、60歳を超えると悪性の可能性が高まる1。

いつ眼窩腫瘍を疑うか:臨床所見

眼球突出

角膜の表面が眼窩の入口の面より前に出ている状態をという。眼窩疾患で最も多い症状である。

⭐ は「眼窩の中に場所を占める病変がある」ことを示す、ほぼ決め手となる所見として扱う。眼窩は前だけが開いた骨の箱なので、中身が増えれば眼球は前へ出るしかない。

腫瘍の位置 眼球の動き 代表例
筋円錐の中(に囲まれた中心部) 軸性の(まっすぐ前へ) 、、
筋円錐の外・の外(周辺部) 眼球の偏位。腫瘍と反対の方向へずれる (下内方へ)、、続発性
flowchart TD
    A["眼窩の中に場所を占める病変"] --> B{"病変は筋円錐の中か"}
    B -->|"中(中心部)"| C["軸性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span><br>まっすぐ前へ"]
    B -->|"外(周辺部)"| D["眼球の偏位<br>腫瘍と反対の方向へ"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous hemangioma'>海綿状血管腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic pathway glioma'>視神経膠腫</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic nerve sheath meningioma'>視神経鞘髄膜腫</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland tumor'>涙腺腫瘍</span>(外上方)→ 下内方へ偏位"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyosarcoma'>横紋筋肉腫</span>・続発性腫瘍<br>→ 腫瘍と反対側へ偏位"]

の例を3つ挙げる。

所見 診断
左眼がまっすぐ前へ出る(軸性突出)。眼瞼の腫れは目立たない
左眼が下方へ偏位し、上眼瞼の外側が腫れて垂れる
左眼の突出に眼瞼の腫れを伴う

そのほかの所見

所見 意味・代表的な疾患
眼瞼の腫れ、上眼瞼の縁が S 字状に曲がる に典型的(外側だけが下がる)
触れる腫瘤 眼窩の前3分の1にある病変は触れる
眼球運動の制限と 悪性腫瘍・肉芽腫を示唆する(筋や神経への浸潤)
眼球の押し込み試験での抵抗 上眼瞼の上から眼球を押すと、奥に腫瘤があれば抵抗がある
と 、の蒼白、網膜の(ひだ)、眼球ののへこみ。長い経過の良性腫瘍と悪性腫瘍で起こる
炎症の所見(発赤・腫れ・痛み) 肉芽腫、、悪性腫瘍

💡 眼球の後ろの腫瘍が眼球のを押しつぶすと、眼軸が短くなって化し、網膜にが出る。視神経を圧迫すれば、やがて()になる。

年齢による分類

⭐ 年齢は、の鑑別で最初に使う軸である。

年齢 良性で多い 悪性で多い
小児 、(乳児血管腫)、() 、の転移
成人 ()、 の(ので最多)、リンパ腫

成人の続発性腫瘍としては、副鼻腔からの扁平上皮癌・腺癌、眼球からの悪性黒色腫、そして転移がある。

  • は小児ののほぼ半数を占め、成人で診断されることはまれである。な検討では、の68%が良性で、(14%)、(9%)の順に多かった1。
  • 小児の原発性の眼窩悪性腫瘍で最も多いのはで、小児の転移性には・Ewing 肉腫・Wilms 腫瘍・白血病が多い2。
  • 60歳を超える成人では、が原発性のとして最も多い2。

類皮嚢胞

小児で最も多い良性のである。に骨の縫合線に皮膚の成分が取り残されてできる嚢胞で、眉毛の外側(の近く)に、ゆっくり大きくなる無痛性の丸い腫瘤として触れることが多い。

小児の例では、眉毛の外側から上眼瞼にかけての腫瘤の輪郭と切開線を皮膚に描き、手術で白黄色の丸い嚢胞を壊さずに取り出している。

💡 嚢胞を破ると中の・脂が漏れて強い炎症を起こすので、被膜ごとに摘出する。骨の縫合に沿って眼窩の奥や頭蓋内へ延びる()ことがあり、深いものは画像で広がりを確かめてから手術する。

原発性眼窩腫瘍の一覧

良性 悪性
血管腫(・) 肉腫(、)
リンパ腫
、
、 悪性黒色腫(から)
線維腫、骨腫 (旧称:)
腺癌
良性の

💡 (眼の周りの皮膚との青灰色の)のある人では、眼窩・の悪性黒色腫が起こりうるので、定期的に診る。

血管性の病変

呼び名の新旧

⚠️ 眼窩のの病名は、国際的な分類で整理し直されている。古い教科書の病名と、現在の病名を対応させて覚える。

従来の病名 現在の整理 本態
乳児血管腫 生後に増殖し、やがて退縮する腫瘍(内皮細胞の増殖)
の一型(眼窩の文献ではと呼ぶ) 増殖しない奇形(異常な静脈腔の集まり)
増殖しない奇形(拡張したリンパ管の嚢胞)

国際血管腫・学会の用語集は、「」はとの乳児血管腫という別々の病変に使われてきた歴史的な用語で、診断上の混乱を招くため使用を強く勧めないとしている。また「」は使うべきでなく、正しい診断名はとし、「血管腫」には乳児血管腫などの形容詞を必ず付けるよう求めている3。以下では、な病名を見出しに残し、現在の病名を併せて示す。

💡 腫瘍と奇形の違い:腫瘍(乳児血管腫)は細胞が増えて大きくなり、自然に小さくなることがある。奇形(・)は生まれつきの血管の形の異常で、体の成長に比例して大きくなり、自然には消えない。どちらも先天的な要素から生じる点は共通する。

毛細血管腫(乳児血管腫)

項目 内容
見た目 皮膚の表面が赤く、状に盛り上がる
経過 生後早期に現れて増殖し、その後ゆっくり退縮する。従来は「先天性で、1歳を過ぎると自然に改善する」と整理されてきた(増殖の大部分は生後5か月までに終わる4)
治療の目的 の予防(眼瞼が瞳孔を覆う遮断、眼球を押して生じるによる)
治療 、ステロイドの

治療前後の例では、治療前は片側の額から上眼瞼、鼻と上唇にかけて赤く盛り上がった大きな血管腫が眼を覆い、治療後は額と上眼瞼にわずかな赤みを残すだけに縮小している。

現行の推奨との対比

項目 従来の整理 現行の推奨
薬物治療 、またはステロイドの局所注射 全身治療が要る乳児血管腫には経口(2〜3 mg/kg/日)が第一選択。かつての標準だった全身・局所注射のステロイドはに置き換わり、はが禁忌か効かないときの選択肢である4
紹介の時期 ― 眼の周りなど問題を起こしうる血管腫は、増殖が速い時期に合わせて生後1か月までに介入・紹介するのが望ましい4
5歳までに50%、9歳までに90%が消退 退縮の90%は4歳までに終わる4

⚠️ 眼の周りの乳児血管腫は、機械的な・・・を起こし、短期間でにつながりうる4。自然に消えるのを待っている間にが完成してしまうことがあるので、瞳孔を覆う・が出る場合は早めに治療する()。血管腫一般の整理は血管腫を参照。

海綿状血管腫(静脈奇形)

項目 内容
頻度 成人の良性の原発性で最も多い1(従来「成人で最も多い」と教えられてきたが、悪性を含めると高齢者ではリンパ腫の方が多い)
構造 先天性の病変。の腔のが、線維性の被膜に包まれている
位置 多くは筋円錐の中(中心部)
症状 軸性の。ゆっくり、気づかれないうちに大きくなる
視機能 視神経を押しのけ、眼球のを押して、やを起こしうる
治療 手術

⭐ は「中年の成人の、ゆっくり進む、片眼の、痛くない、まっすぐ前への突出」の代表である。

画像と手術:軸位の MRI で、片眼の眼球のすぐ後ろ、筋円錐の中に、境界のはっきりした楕円形の腫瘤を認める。手術は外側眼窩切開術で行う。から外側へ皮膚を切開し、眼窩のの骨をいったん外して眼窩の奥へ入り、腫瘤を出しての器具で凍らせて付着させ、引き出す(冷凍摘出)。取り出した腫瘤は暗赤色で表面がの塊である。被膜があるので、周りの組織から剥がしてに取り出せる。

リンパ管腫(リンパ管奇形)

は、リンパ系の先天性の奇形である。

項目 内容
性質 生物学的には良性だが、臨床的には進行する
構造 で内部が不均一、嚢胞を含む。リンパ系の多嚢胞性の拡張
好発部位 頭頸部。眼では眼瞼の皮膚、、眼窩の中
初発 幼児期
問題 整容上の大きな問題と、機能の悪化

⚠️ 最も重い合併症は、突然起こるである。 嚢胞の中に出血すると急に大きくなり()、視神経を圧迫する。のあとに腫れが増すこともある。

小児の例では、片眼が下方へ偏位し、が赤く充血して眼瞼が腫れている。軸位の MRI では、患側の眼窩にで信号の不均一な嚢胞性の病変が広がり、眼球を前へ押している。

治療

  • と嚢胞の内容の吸引(周りの組織に入り込んでいるので全摘は難しい)
  • 嚢胞内への(などのを嚢胞に注入して縮ませる)

眼窩静脈瘤

眼窩の静脈が拡張したで、外傷によらない(自然に起こる)の最も多い原因とされる1。うつむく・いきむなど静脈圧が上がる動作でが強まる(体位で変わる突出)のが特徴で、詳しくはの鑑別で扱う。

涙腺の腫瘍

は眼窩の外上方(窩)にあるので、の腫瘍は眼球を下内方へ押し、上眼瞼の外側を腫らして S 字状の縁にする。の解剖との疾患はの疾患を参照。

涙腺腫瘍の分類

大分類 良性 悪性
上皮性 (最多)。ほかに腫、上皮腫、Warthin 腫瘍 、(悪性)、様の癌(最も悪性度が高いとされる)。ほかに、、、、多型癌、
リンパ系 — (MALTリンパ腫。約50%)、、
・、好酸球増多を伴う血管リンパ組織増殖症、、球腫、 —
肉芽腫・ 、、などによるの腫大 —

💡 は大唾液腺と同じ構造のなので、唾液腺と同じ種類の腫瘍(・・)が起こる()。

良性と悪性の見分け方

⭐ の上皮性腫瘍の良悪の鑑別は、経過の長さと痛みで決まる。は痛みを除けばほぼ同じである。

項目 良性() 悪性(など)
経過 長い(2年以上、20年に及ぶこともある) 短い(1年以内)
症状 眼瞼の腫れ、が狭くなる、下内方への偏位、、上方への運動制限、触れる腫瘤。痛みはない ほぼ同じだが、痛みを伴うことが多い(神経に沿って広がるため)
CT・MRI の形 境界明瞭で丸〜楕円形 境界不明瞭で、形も境界も不整
石灰化 まれ 多い
骨 窩が広がる(押し広げる)が、はない がある
造影 均一に造影される 不均一に造影される
予後 良い。全摘すれば再発しない。ただし10〜20年の長い経過で悪性化しうる 悪い。組織型によるが、生存は5〜10年余り
生検 ⚠️ 禁止(被膜を破ると再発・悪性化する) 診断のために行う

⚠️ 鑑別には、リンパ腫・肉芽腫・(の炎症性の腫大)も挙がる。が疑われたら、必ず眼窩の専門医に紹介する。

💡 なぜは生検してはいけないのか。 の被膜の中には腫瘍細胞の小さな突起があり、や部分切除で被膜を破ると、周りに腫瘍細胞がこぼれて多発性に再発し、悪性化の危険も上がる。そのため画像でが疑われたら、被膜ごとに摘出する。

flowchart TD
    A["上眼瞼外側の腫れ・S字状の縁<br>下内方への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular deviation'>眼球偏位</span>"] --> B["CT・MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>窩の腫瘤"]
    B --> C{"経過・痛み・画像の性状は"}
    C -->|"長い経過・無痛・境界明瞭・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone destruction'>骨破壊</span>なし・均一な造影"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleomorphic adenoma'>多形腺腫</span>を疑う"]
    C -->|"1年以内・痛み・境界不明瞭・<br>石灰化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone destruction'>骨破壊</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenoid cystic carcinoma'>腺様嚢胞癌</span>などの<br>悪性腫瘍を疑う"]
    C -->|"両側・びまん性の腫大"| F["リンパ腫・炎症・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic disease'>全身疾患</span>を疑う"]
    D --> G["生検せず<br>外側眼窩切開で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='en bloc'>一塊</span>に全摘"]
    E --> H["生検で確定<br>拡大切除・放射線治療"]
    F --> I["生検・全身検索"]

涙腺の多形腺腫:症例

右眼ので受診した例。MRI の T1 強調像では、での部位に丸く境界明瞭な腫瘤、で広がった窩の中の楕円形の腫瘤が均一に造影される。外側眼窩切開術で、丸く整った、被膜のしっかりした腫瘍をに摘出した。

涙腺の腺様嚢胞癌:症例から学ぶ

症例1:経過1年の。 片眼の上眼瞼の外側が腫れて下垂している。・の MRI で、眼窩の外上方に造影される大きな腫瘤を認める。手術のあと放射線化学療法を行ったが局所再発し、によるを行った。その後、多臓器に転移してを行い、9年後に死亡した。→ 教訓:は、手術と放射線を尽くしても局所再発と遠隔転移を長い年月をかけて繰り返す。

症例2:経過2か月の。 片眼の上眼瞼が腫れて下垂し、が充血している。・の MRI で、眼窩の外上方から後方へ広がる造影される腫瘤を認め、骨を破壊しての下へ広がっていた。病理では、腫瘍細胞が胞巣を作って増殖している。手術では、眼窩の外上方の骨を削って腫瘍を露出し、の赤い腫瘍組織を数片に分けて切除した(数 cm の大きさ)。→ 教訓:経過が短く、痛みやがあるは悪性を考える。

💡 は神経に沿って広がる()ので、痛み・が出やすく、画像で見える範囲より広く進んでいることが多い。

リンパ腫

項目 内容
頻度 成人の眼付属器と眼窩の腫瘍で最も多い(とくに60歳を超える成人)
由来 眼窩原発のことも、全身性リンパ腫の一部のこともある
組織型 MALTリンパ腫(の)が最多。、()
診断 、画像検査、生検
治療 のための全身検索を行い、放射線治療と化学療法の一方または両方
予後 低悪性度のMALTリンパ腫では良い

60歳を超える成人では、が原発性ので最も多く、は全の24〜30%を占める2。

部位による現れ方

部位 所見
サーモンの浸潤(のにやわらかい肉色の隆起)
眼瞼 眼瞼の腫れと、触れる腫瘤
・眼窩 悪性腫瘍に一致する所見:、眼瞼の腫れ、充血、眼球運動の制限

例では、眼瞼の腫れでが狭くなったもの、上眼瞼を持ち上げるとのにサーモンの浸潤が広がるもの、全体がに盛り上がって充血するものがある。

症例:右眼窩のリンパ腫。 右眼の突出との充血、上方視の制限を認めた。軸位の MRI では、右眼窩の眼球の後ろに軟部組織の腫瘤を認める。放射線治療のあと、突出と充血は消え、両眼の位置はほぼ左右対称に戻った。

💡 リンパ腫は周りの構造を壊さずに型にはまるように広がる(眼球や視神経を包むように伸びる)ことが多い。放射線によく反応する。

⚠️ 鑑別に(眼窩・肉芽腫)が挙がる。どちらも・充血・運動制限を起こし、ステロイドで一時的に良くなることもある。リンパ腫を見逃さないために、生検で組織を確かめる。

視神経の腫瘍

項目
本態 視神経そのものの腫瘍(良性の星細胞腫。組織は) 視神経を包む髄鞘(くも膜)から生じる
好発 小児。(Recklinghausen 病)に合併 中年の女性
初期症状 単発例では早期から高度の と眼瞼の腫れが先に出て、は遅れて始まる
広がり と頭蓋内へ進みうる 眼窩を埋めつくすことがある。従来の整理では頭蓋内へは進まないとされるが、を通って頭蓋内へ伸びる例もある
CT・MRI 視神経のの腫大。MRI で視神経がに太く、・屈曲(ループ)する の腫大。線路状の所見(腫瘍の中に視神経がくっきり見える)。石灰化はまれとされてきたが、CT で腫瘍内の石灰化を認める例もある

視神経膠腫

  • 単発で起こるは、早い時期から重いを起こす。良性の星細胞腫だが、を通って頭蓋内へ広がりうる。
  • の一部として起こるものは、片側のことも両側のこともあり、視力は長い間保たれる。

小児の例では、術前に片眼の突出と偏位を認め、CT で眼球の後ろに視神経のの腫大がある。手術での赤い腫瘍を摘出し、術後の CT では腫大が消え、眼の位置も左右対称に戻っている。の例では、片側の上眼瞼が下垂して眼を覆い、MRI で視神経がに太く、途中で曲がりくねっている。

⚠️ 摘出は視神経を切ることになるので、この例のように手術で取るのは視力の残っていない眼や、頭蓋内圧の上昇がある場合などに限られる。現在の治療は、経過観察を基本に、や増大が進めば化学療法(となど)を行うのが中心で、放射線治療は成長期の小児では副作用(発達・成長の障害、)が大きいため最後の手段とされる。

💡 は視神経そのものが太るので、視神経と腫瘍を区別できない。は視神経の周りを腫瘍が取り巻くので、中心の視神経が線路のように見える(線路状の所見)。この違いが画像での鑑別点になる。

視神経鞘髄膜腫

中年に多く、女性は男性の約3倍である1。はじめはと眼瞼の腫れが典型的で、視力の低下は後から始まる。

例では、片眼の突出と上眼瞼の腫れ・下垂を認める。軸位の MRI では、患側の眼窩の奥で視神経を取り巻く大きな腫瘤が眼窩を埋め、ではの周りが大きく腫れている。

⚠️ では、長期の圧迫でが蒼白化し、乳頭の上に視神経短絡血管が現れることがある。視力を失わないうちに見つけることが大切で、治療は視神経を傷つけにくい放射線治療が中心になる(摘出すると視神経の血流も失われやすい)。

胎児型横紋筋肉腫

⚠️ 小児で急に進むは、まずを考える。

項目 内容
頻度 小児の原発性の眼窩悪性腫瘍で最も多い2
好発 6歳未満の男児に典型的
部位 眼窩の上鼻側(内上方)のに典型的で、眼球が偏位する(下外方へ)
経過 数日でも急速に進む
CT・MRI 形も境界も不明瞭で、造影は不均一

例では、男児の片眼が外下方へずれ、上眼瞼が腫れている。軸位の CT で、患側の眼窩の内側から前方に広がる大きな軟部組織の腫瘤が眼球を外側へ押している。治療後には、眉毛の上に手術の瘢痕を残して、両眼の位置が左右対称に戻っている。

💡 は眼瞼の発赤と腫れを伴うことがあり、と取り違えられやすい。発熱がない、抗菌薬で良くならない、数日で突出が進む小児では、画像と生検を急ぐ()。

⭐ 眼窩のは、生検で診断したあと化学療法と放射線治療を組み合わせるのが現在の治療の柱で、眼窩のの5年生存率は90%を超える。かつては眼窩の内容をすべて取る手術()が標準で、1960年代まではそれだけで治療して死亡率が70%に及んだ2。現在、はほとんど行われない。

続発性眼窩腫瘍

周りの組織から眼窩へ入ってくる腫瘍である。

由来 腫瘍
頭蓋骨 (のなど)、骨腫
副鼻腔 ()、癌(扁平上皮癌・腺癌)、肉腫、
眼瞼 皮膚の腫瘍:、扁平上皮癌、悪性黒色腫
眼球 、悪性黒色腫

の例では、内眼角からの皮膚がし、盛り上がった赤い腫瘍が眼瞼を壊して眼窩の方へ入り込んでいる。

眼瞼の悪性黒色腫からの進展

例では、片眼の眼瞼縁とが黒く色素沈着し、に黒褐色〜暗赤色の結節が盛り上がっている。のあと、眼窩は皮膚で覆われ、丸く盛り上がった形に再建されている。

脈絡膜悪性黒色腫の眼窩への進展

眼球の中の悪性黒色腫がを越えて眼窩へ出た例では、外見の変化は軽いが、手術で眼球を持ち上げると、眼球の後ろに黒い腫瘍が広がっている。

項目 内容
治療
生命予後 悪い

悪性黒色腫そのものは成人ので扱う。

扁平上皮癌

内眼角からにできた扁平上皮癌(皮膚ではとも呼ぶ)が眼瞼と眼窩へ広がった例。の潰瘍と黄色い痂皮、片眼の眼瞼の破壊を認める。を行い、額からので欠損を覆った。がすると、眼窩は皮膚で裏打ちされた空洞として残る。

💡 は、眼球・・・眼瞼を含めて眼窩の内容をすべて取る手術で、眼窩を越えて進んだ悪性腫瘍に対する最後の手段である。術後はやで覆い、エピテーゼ(を付けた人工の顔面)で整容を補う。

副鼻腔・口蓋からの進展

例 所見
からの腺癌 片眼のと上方への偏位、が赤くに盛り上がり、眼瞼から頬が腫れる
からの悪性黒色腫 片眼のがに充血してからはみ出し、上下の眼瞼が腫れている

💡 の腫瘍は眼窩のを下から押し破るので、眼球は上へ押し上げられる。頬の()や鼻閉・を伴うことが多い。

転移性眼窩腫瘍

特徴
乳癌 ⚠️ (突出ではなく引っ込む)、押し込み試験での抵抗。硬癌の転移が眼窩の組織を線維化して引き込む
肺癌 —
前立腺癌 骨への転移が多い
(小児) 頭蓋骨への転移
—
Wilms 腫瘍(小児) —
Ewing 肉腫(小児) —

眼窩への転移は全の1〜3%で、は乳癌が48〜53%と最も多い2。

💡 ではなくを起こす腫瘍として、乳癌(とくに・硬癌)の転移を覚えておく。「腫瘍=突出」という思い込みを外すための典型例である。

神経芽腫の転移

小児のは、頭蓋骨(眼窩の骨)に転移する。典型的な所見は、と眼瞼の皮下出血である。

例では、幼児の両眼の周りに紫色の皮下出血(両側の眼の周りのあざ)があり、片眼にはもある。頭部の CT で頭蓋骨と眼窩の骨に転移を認め(矢印)、腹部の造影 CT で副腎のあたりの後腹膜に腫瘤を認める。

⚠️ 両眼の周りのあざは、・虐待と取り違えやすい。外傷歴がないのに両側の眼の周りの皮下出血とが出た幼児では、の転移を考えて腹部を調べる()。

眼瞼の悪性黒色腫の眼窩転移

例では、片眼の上下の眼瞼が赤く腫れ、がに充血してからはみ出し、眼球が突出している。

診断と治療の流れ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular deviation'>眼球偏位</span>・<br>眼瞼の腫れ・触れる腫瘤"] --> B["年齢・経過の速さ・痛み・<br>視機能(視力・RAPD)"]
    B --> C["CTで骨の変化・石灰化<br>MRIで軟部組織・視神経"]
    C --> D{"小児で数日単位の進行か"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyosarcoma'>横紋筋肉腫</span>を疑い<br>至急生検"]
    D -->|"いいえ"| F{"病変の部位は"}
    F -->|"筋円錐の中で<br>境界明瞭"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous hemangioma'>海綿状血管腫</span>など<br>→ 外側眼窩切開で摘出"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>窩"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleomorphic adenoma'>多形腺腫</span>なら生検せず全摘<br>悪性を疑えば生検"]
    F -->|"視神経"| I["膠腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic nerve sheath meningioma'>視神経鞘髄膜腫</span><br>→ 視機能を見て方針"]
    F -->|"眼球や組織を<br>包むように広がる"| J["リンパ腫・炎症を疑い生検<br>→ 放射線・化学療法"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone destruction'>骨破壊</span>・<br>周囲からの進展"| K["続発性・転移性を疑い<br>耳鼻科・脳外科と共同で"]
検査 何が分かるか
CT 骨の変化(押し広げか破壊か)、石灰化、副鼻腔との関係
MRI 腫瘍の性状(嚢胞・出血・造影の均一さ)、視神経との関係、頭蓋内への広がり
超音波 眼窩前部の病変の内部構造、血流
生検 リンパ腫・悪性腫瘍・炎症の確定(では行わない)
手術 対象
前方からの眼窩切開(経皮・経) 眼窩の前部の腫瘍、
外側眼窩切開術(を外す) 筋円錐の中の腫瘍()、
経頭蓋的な到達 ・頭蓋内へ広がる腫瘍
眼窩を越えて進んだ悪性腫瘍(悪性黒色腫・扁平上皮癌など)

まとめ

  • より後ろの腫瘍を腫瘍という。眼窩のあらゆる組織から生じうる。周りへ(副鼻腔・上顎の後ろ・頭蓋内)広がるものも、周りから入るものもあり、経路は・下眼窩裂・か。
  • 発生部位で原発性(良性と悪性が半々、眼窩切開で手術)、続発性(主に悪性、耳鼻科・脳外科と共同)、転移性(乳癌・肺癌・前立腺癌・悪性黒色腫、小児は)に分ける。
  • (角膜が眼窩入口の面より前)は眼窩のを示す。筋円錐の中なら軸性突出、外なら反対方向への偏位。S 字状の上眼瞼縁は、前3分の1の病変は触れる、運動制限は悪性・肉芽腫、押し込みで抵抗、と(・蒼白・網膜・のへこみ)は長い経過の良性腫瘍と悪性腫瘍、炎症所見は肉芽腫・・悪性腫瘍。
  • 小児の良性は・(乳児血管腫)・()、悪性は・の転移。成人の良性は()・、悪性はのとリンパ腫、続発性は副鼻腔の癌・悪性黒色腫・転移。
  • ・という病名は国際的な用語集で使用を勧めない。・・乳児血管腫と呼ぶ。
  • 乳児血管腫は生後早期に増殖してから退縮する(従来「1歳を過ぎて自然に改善」)が、眼の周りではの予防のために早く治療する。現行の第一選択は経口(2〜3 mg/kg/日)、問題を起こしうる例は生後1か月までに紹介。は成人の良性で最多、筋円錐の中で軸性突出・化、外側眼窩切開と冷凍摘出。は良性だが進行し、突然の出血で視神経を圧迫。・嚢胞吸引・の。
  • :上皮性(、・・様の癌)、リンパ系(MALTリンパ腫が約半数)、、肉芽腫・。良性は経過が長く無痛・境界明瞭・なしで生検禁止・全摘、悪性は経過1年以内・痛み()・境界不明瞭・石灰化・で予後不良。疑えば眼窩の専門医へ。
  • リンパ腫は成人の眼付属器・眼窩の腫瘍で最多。のサーモンの浸潤、眼瞼の腫瘤、眼窩では突出・充血・運動制限。生検で確定、、放射線・化学療法。MALT は予後が良い。鑑別は。
  • は小児の良性星細胞腫で、単発例は早期から、では視力が長く保たれる。視神経の・の腫大と屈曲。は中年女性、突出と眼瞼の腫れが先では後、線路状の所見。
  • は小児の原発性眼窩悪性腫瘍で最多、6歳未満の男児、上鼻側で、数日で進行、境界不明瞭で不均一な造影。と取り違えない。
  • 続発性は頭蓋骨(・骨腫)、副鼻腔(・癌・肉腫・)、眼瞼(・扁平上皮癌・悪性黒色腫)、眼球(・悪性黒色腫)から。眼窩を越えた悪性腫瘍には。
  • 転移は乳癌が最多でを起こしうる。小児のは頭蓋骨へ転移し、と両眼の周りの皮下出血を起こす。

出典

  1. 1.Benign Orbital Tumors(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)海綿状血管腫が成人の良性原発眼窩腫瘍として最多であること、髄膜腫が全眼窩腫瘤の約4%を占めること、ある大規模な後方視的検討で眼窩腫瘤の68%が良性で類皮嚢胞(14%)・海綿状血管腫(9%)の順に多かったこと、類皮嚢胞は小児の眼窩腫瘍のほぼ半数を占める一方で成人での診断はまれであること、原発眼窩腫瘍の頻度が約10万人に1人で悪性の可能性は60歳を超えると高まること、緩徐に増大する病変は無痛性だが破裂・出血などの急性変化は突然の疼痛を来しうること、眼窩静脈瘤が自然発生の眼窩内出血の最多原因であること、視神経鞘髄膜腫が中年に多く女性で約3倍多いことを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Malignant Orbital Tumors(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)60歳を超える成人ではリンパ増殖性病変が原発眼窩腫瘍として最多で、眼窩付属器リンパ腫がリンパ増殖性眼窩腫瘍の67〜90%・全眼窩腫瘤の24〜30%を占めること、小児では横紋筋肉腫が原発悪性腫瘍として最多であること、神経芽腫・Ewing肉腫・Wilms腫瘍・白血病が小児の転移性眼窩病変としてより一般的であること、眼窩転移は全眼窩腫瘍の1〜3%で乳癌からが48〜53%と最多であること、眼窩腫瘤の多くは緩徐に増大すること、眼窩の横紋筋肉腫は1960年代まで眼窩内容除去術が標準で単独では死亡率70%だったが現在は放射線治療が治療の主要部分を占め、手術と薬物治療を併せた5年生存率が90%を超えることを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.ISSVA Classification of Vascular Anomalies and Glossary(International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA)・2025)用語集で、海綿状血管腫はVirchowにさかのぼる歴史的用語で静脈奇形と深在性の乳児血管腫の両方を指して使われてきたため使用を強く勧めないこと、リンパ管腫はリンパ管奇形の歴史的な同義語で使うべきではなく正しい診断名はリンパ管奇形であること、血管腫という語には乳児血管腫・先天性血管腫などの形容詞を必ず付けるべきことを確認した閲覧 2026-09-29
  4. 4.Clinical Practice Guideline for the Management of Infantile Hemangiomas(American Academy of Pediatrics・2019)全身治療を要する乳児血管腫には経口プロプラノロールを第一選択薬とし(KAS 3A)、2〜3 mg/kg/日で投与すること(KAS 3B)、プロプラノロールがかつての標準治療だった全身・局所注射のステロイドに取って代わったこと、プロプラノロールが禁忌か効果不十分のときに経口プレドニゾロンを使ってよいこと(KAS 3E)、眼周囲の乳児血管腫が機械的眼瞼下垂・斜視・不同視・乱視から短期間で弱視を起こしうること、増大は多くが生後5か月までに終わり、問題となりうる例は生後1か月までに介入・紹介するのが望ましいこと、旧来は5歳までに50%・9歳までに90%が消退すると教えられてきたのに対し新しい研究では退縮の90%が4歳までに完了するとされることを確認した閲覧 2026-09-29