眼科学

眼科学 · ML-54

眼球突出の鑑別

Differential diagnosis of exophthalmos

前提:正常
頭部:眼窩と眼

🧠 全体像:はいつも病的で、原因は2つしかない。眼窩の正常な中身が増える(でと脂肪が腫れる)か、本来ない病変が場所を取る(腫瘍・炎症・血管病変・出血・膿瘍)かである。成人で最も多い原因はで、両眼性・・慢性の経過が手がかりになる。片眼性なら腫瘍・炎症・血管病変を疑い、突出の方向(まっすぐか偏位か)、炎症と痛み、経過の速さ、視神経の機能で絞り込む。突出して見えても実は突出していない偽も忘れない。

の症候としての整理は症状ノート、そのものは、感染は、外傷は眼窩外傷・視神経外傷・で扱う。

眼球突出とは

  • は眼球が前へ出ている状態で、常に病的である。
  • 原因は大きく2つに分かれる。
機序 内容 代表
眼窩の正常な内容の体積が増える ・が炎症で腫れる
本来ない 腫瘍、炎症性の腫瘤、出血、膿瘍、血管病変 、、血腫、

💡 眼窩は前だけが開いた骨の箱なので、中身が増えれば眼球は前へ押し出されるしかない。逆に、眼窩の骨が壊れて広がれば(吹き抜け骨折)眼球は引っ込む()。

突出の測り方

方法 やり方 判定
Kestenbaum 法() の縁を眼窩の上縁と下縁に同時に当てようとする 角膜がを結ぶ面より前に出て、が両方の縁に当たらなければ陽性
Hertel 計 左右の外側に器具を当て、鏡に映る角膜の頂点の位置を読む 外側から角膜頂点までの距離を測る

Hertel 計では、患者の正面に座り、左右の外側に器具の脚を当てて、横から見た角膜頂点の位置を鏡の目盛りで読む。

⭐ 正常値と異常の目安:Hertel 値の正常範囲は成人でおよそ12〜21 mm で、平均は白人男性16.5 mm・女性15.4 mm、アフリカ系ではそれより1〜2 mm 大きい。は人種と性別で異なり(白人男性21.7 mm・女性20.1 mm、アフリカ系男性24.7 mm・女性23.0 mm)、を超えるか、左右差が2 mm を超えれば異常とする1。測り方の詳細は眼科の診断法を参照。

💡 同じ人を経過で比べるときは、左右の脚の間隔(基準距離)を記録し、次も同じ基準距離で測る。突出は正面より、頭の上から見下ろすと左右差が分かりやすい。

偽眼球突出

⚠️ 突出しているように見えるが、眼窩に病変がないものがある。見た目だけで画像検査に進む前に、次を考える。

見かけの原因 仕組み
強度の(長い眼軸) 眼球そのものが大きい
(小児の緑内障で眼球が大きくなる) 眼球の拡大
反対眼の(吹き抜け骨折、など) が出ているように見える
(、交感神経の過緊張) 白目が見えて目を見開いたように見える
反対眼の 相対的に出て見える
顔面や眼窩の骨の非対称(浅い眼窩、症) 骨格の違い

💡 Hertel 値が正常で左右差もないのに「眼が出た」と感じるときは、か反対眼の陥凹・下垂を疑う。

眼球突出を起こす疾患

群 疾患
良性・悪性の、続発・転移腫瘍()
血管病変 、、・
炎症性疾患 、、特異的・非特異的な
リンパ腫、組織球症()、・、()、()
外傷 骨折、異物、血腫

例では、片眼が上方へ偏位している()ものと、片眼の突出に充血と眼球運動の障害を伴う(肉芽腫)ものがある。

所見の組み合わせで絞り込む

はすべてのの疾患で現れる。次の所見のうち1つ以上を伴い、その組み合わせが鑑別の手がかりになる。

伴う所見 考える原因
眼球の偏位 眼窩の周辺部にある(腫瘍、肉芽腫、血腫)
炎症の所見:・の充血、浮腫、痛み 悪性腫瘍、炎症
眼球運動の制限と 悪性腫瘍、炎症。機序で3つに分ける(下表)
と:、の蒼白、網膜の、眼球のへこみ の長期の、または急な高度の上昇
の機序 原因
、、頭蓋底の病変
筋炎、
機械的 肉芽腫、悪性腫瘍、大きな良性腫瘍
の上がり方 原因
長い時間をかけて 長い経過の良性腫瘍、肉芽腫
急に、高度に 悪性腫瘍、血腫、膿瘍

眼球を偏位させる疾患

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>"] --> B{"Hertel値で本当に突出しているか"}
    B -->|"いいえ"| C["偽<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='high myopia'>強度近視</span>・反対眼の陥凹・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid retraction'>眼瞼後退</span>・反対眼の下垂"]
    B -->|"はい"| D{"両眼性か片眼性か"}
    D -->|"両眼性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid eye disease'>甲状腺眼症</span>が最多<br>ほかにリンパ腫・炎症・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>の病変"]
    D -->|"片眼性"| F{"どんな経過と所見か"}
    F -->|"急性・発熱・炎症"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital cellulitis'>眼窩蜂窩織炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subperiosteal abscess'>骨膜下膿瘍</span>"]
    F -->|"拍動・雑音・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spiral (fracture line)'>螺旋</span>状の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival vessel'>結膜血管</span>"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carotid-cavernous fistula'>頸動脈海綿静脈洞瘻</span>"]
    F -->|"痛み・運動時痛・<br>感染所見なし"| I["非特異的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital inflammation'>眼窩炎症</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnosis of exclusion'>除外診断</span>)"]
    F -->|"ゆっくり・無痛"| J["良性腫瘍<br>(軸性なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous'>海綿状</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous malformation'>静脈奇形</span>など)"]
    F -->|"数日〜数週で進行"| K["悪性腫瘍<br>(小児なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyosarcoma'>横紋筋肉腫</span>)"]
    E --> L["画像検査(CT・MRI)と<br>甲状腺機能・自己抗体"]
    G --> L
    H --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiography'>血管撮影</span>"]
    I --> L
    J --> L
    K --> N["画像と至急の生検"]

感染と外傷

眼窩蜂窩織炎

⚠️ 小児で最も多く、非常に危険な感染症で、緊急の対応が要る。

型 内容
隔膜前 眼瞼との浮腫・充血
隔膜後 より後ろの眼窩の軟部組織の感染。多くはを伴う
  • 重い状態:炎症の所見に加えて、、眼球運動の制限、視力の悪化、発熱、倦怠感。
  • 合併症:・膿瘍、。
  • 治療:入院と。手術は副鼻腔の手術(に対する)と眼窩の探索・排膿。

隔膜後の蜂窩織炎の小児例では、片側の上眼瞼が赤く腫れて閉じている。軸位の CT では、がに接する眼窩のに沿って状に広がり、と眼球を外側へ押している。

詳細はを参照。

外傷性の眼窩血腫と類皮嚢胞

の眼窩血腫の例では、左眼が下方へ偏位して突出し、・の CT で眼窩の上方、眼球の上に血腫が広がって眼球を下へ押している。手術で血腫を除いたあと、両眼の位置は対称に戻った。

の例では、乳児の左のの縫合に沿って眉毛の外側が丸く膨らみ(眼窩のは一般にに好発する)、の CT で外側のの近くに嚢胞を認める。

全身疾患と特異的な腫瘤

蝶形骨縁髄膜腫

くも膜から生じるがの縁から眼窩へ広がる。例では、片眼の突出と上眼瞼の腫れ・下垂、の充血を認め、こめかみも膨らんでいる。軸位の MRI で、から眼窩の外側とへ広がる腫瘤を認める。

  • 鑑別:、転移。
  • 診断は検査で確定する。

💡 は骨を厚くする()ので、骨の硬化とこめかみの膨らみが手がかりになる。

好酸球性肉芽腫

ので、小児の眼窩の骨に起こる。

所見 内容
症状 眼瞼の浮腫、充血、眼球の下方偏位、痛み
画像 の CT で、眼窩の外上方の骨が溶けて壊れている
治療 切除()

⚠️ 小児の「痛み+充血+」は、や悪性腫瘍と紛らわしい。骨の溶けた像があれば組織球症を鑑別に入れる。

黄色肉芽腫

所見 内容
症状 眼瞼の浮腫、眼瞼との充血、眼球の下方偏位、痛み
画像 眼窩の上鼻側のにびまん性で境界不明瞭な腫瘍のような病変があり、眼球を押す
鑑別 悪性腫瘍
診断 病歴、、MRI でので確定する
治療 ステロイドで改善する

例では、成人男性の片眼の上眼瞼が腫れて下垂し、上眼瞼を持ち上げるとが強く充血している。ステロイド治療のあと、眼瞼の腫れは引き、両眼の開き方はほぼ対称に戻った。

眼窩の炎症性疾患

診断の進め方

段階 内容
病歴 どれくらい前からか、どんな症状か、痛みはあるか、ほかの病気(自己免疫疾患、悪性腫瘍、)
炎症の所見、、眼球の偏位、押し込み試験の陽性、眼球運動の制限、Graefe 徴候、眼底(、網膜の)
一般検査 血算、、CRP
、シェーグレン症候群、強皮症
自己免疫性血管炎:(旧称 Wegener 肉芽腫症)
関節リウマチ、シェーグレン症候群
甲状腺機能 TSH、T4
画像 超音波、CT、MRI
生検() とくに再発する例とステロイドが効かない例

⭐ 眼窩の炎症では「ステロイドで良くなった=炎症」と決めつけない。リンパ腫もステロイドで一時的に縮む。再発・無効なら必ず組織を取る。

特異的な眼窩炎症

背景に1つ以上の基礎疾患がある眼窩の炎症である。

基礎疾患 眼窩での現れ方
と脂肪の腫大
筋炎、眼窩の肉芽腫(副鼻腔から広がる)
、Hand-Schüller-Christian 病、Letterer-Siwe 病
黄色肉芽腫 眼窩の腫瘤
自己免疫疾患 、、、関節リウマチ、重症筋無力症

の小児例では、片側の上眼瞼が赤紫色に腫れて下垂している。の MRI で、眼窩の上方から内側に眼球を取り巻く軟部組織の病変を認める。

血管炎の例では、片側の上眼瞼が赤く腫れて下垂し、が充血している。

非特異的(特発性)眼窩炎症

項目 内容
頻度 、リンパ腫に次いで3番目に多い眼窩疾患
基礎疾患 ない(ここが特異的な炎症との違い)
原因 病因も病態も不明
診断 。ステロイドがよく効くことが診断の助けになる
別名 眼窩

例では、片側の眼瞼が腫れて充血し、が狭くなっている。

型

型 内容
:筋炎 最も多い型
:炎 2番目に多い型
:周囲炎() 眼球の後ろのの炎症
: の炎症
:Tolosa-Hunt 症候群 の炎症(痛みを伴う)
腫瘍のような形をとる

1つ以上の、、が、同時に、あるいは次々に侵されることがある。

筋炎

  • 最も多い型である。
  • 痛みとが特徴で、ほかの炎症の所見も伴う。
  • どの筋も侵されうるが、とが最も多い。
  • 画像:と腱の両方が一様に太くなる。

⭐ 筋炎との画像の違い:ではがに太くなり、腱は保たれる。筋炎では腱まで太くなる。軸位の CT では、筋炎の例で片側のが眼球付着部の腱まで一様に太く、の例では両側の・のがに太く、前方の腱は細いまま保たれている。

項目 筋炎
痛み 強い(とくに眼球運動時) 軽いか、ない
左右 片側・単一の筋が多い 両側・複数の筋が多い
好発の筋 ・ ・
腱 腱まで太くなる 腱は保たれる(がに太い)
ステロイドへの反応 速く劇的 ゆっくり

涙腺炎

  • 2番目に多い型である。
  • 眼瞼の浮腫、充血、上眼瞼の縁が横にした § 字(S 字状)に曲がる所見、痛み。
  • 典型的でない例では鑑別が要る:特異的な炎症、リンパ腫(生検)、(⚠️ は生検しない、)。

例では、片側の上眼瞼の外側が腫れて垂れ、が狭くなっている。上眼瞼を持ち上げると、外上方のが強く充血している。

後部強膜炎と視神経周囲炎

  • :・の CT で、眼球の後ろの壁()が厚くなり、周りの組織に炎症が広がる。強膜炎の後部型である。
  • :CT でが太くなる。眼底ではが腫れて境界が不鮮明になり、周りに出血を伴う。で欠損を認める。

💡 は、と違って炎症が視神経の鞘にあり、が比較的保たれることが多い。

びまん型

  • で、ステロイドがよく効くことが診断の助けになる(と同じ原則を繰り返し確認する)。
  • 腫瘍のような塊として現れる。
  • 鑑別:リンパ腫、転移、悪性腫瘍(悪性黒色腫、)。

例では、片側の上下の眼瞼が赤く腫れ、下眼瞼が大きく膨らみ、側方視で患側の眼の動きが遅れる。

治療

治療 内容
ステロイド 眼窩の炎症の古典的な治療の柱
ステロイドを減らすための薬 、、リツキシマブ、生物学的製剤
放射線治療 ステロイドが効かない・減らせない例
手術:診断のため 生検
手術:治療のため 減量術(腫瘤の体積を減らす)、の排膿

甲状腺眼症

⭐ の最も多い原因はである。

眼瞼・・・を侵す、の前と後ろの両方に及ぶ自己免疫性の炎症で、甲状腺の自己免疫の過程(多くは)に伴う。

主な所見

所見 内容
最も多い所見で、患者の約90%にみられる()
2番目に多い所見
眼球運動の制限 主に上方と外方(・が線維化して伸びなくなるため)
左右差 片眼のこともあり、非対称のことも多い(片側が重い)
鑑別に役立つ所見 と Graefe 徴候(下方視で上眼瞼が眼球についてこない)は、の決め手となる所見として扱われる。ただしはほかの原因(交感神経の過緊張、中脳背側の病変、手術後)でも起こりうる

例では、両眼の上眼瞼が腫れてし、白目が上に見えるもの、片眼のと突出で上方の白目が見えるもの、両眼の突出との強い充血・眼瞼の腫れを伴うものがある。

二相性の経過

flowchart TD
    A["甲状腺の自己免疫"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active phase'>活動期</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory phase'>炎症期</span>)<br>少なくとも1年"]
    B --> C["眼瞼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の充血と浮腫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraocular muscles'>外眼筋</span>と脂肪の炎症性腫大"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quiescent (resting) phase'>静止期</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inactive (quiescent) phase'>非活動期</span>)"]
    D --> E["筋と脂肪の線維化<br>突出・運動制限・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid retraction'>眼瞼後退</span>が残る"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-inflammatory therapy'>抗炎症治療</span>が効く時期<br>(ステロイドなど)"]
    D --> G["リハビリテーション手術の時期<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital decompression'>眼窩減圧</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>・眼瞼の手術)"]
相 内容 例
初期の(浸潤期) 炎症の所見、少なくとも1年続く 両眼の眼瞼が腫れて赤く、が充血し、上眼瞼がしている
静止した(燃え尽き・) 筋と脂肪の線維化 両眼が大きく突出して見開いたままになり、左眼のとの動きが制限されて、側方視で左眼が取り残される

浸潤期の例では、ステロイド治療の前に片眼のが強く充血して眼瞼が腫れていたが、治療後は充血が引いた。ただしは残り、の切除のあとで上眼瞼の位置が下がって左右対称になった。

💡 治療の時期は相で決まる。 は炎症を抑える薬が効く時期で、線維化したには薬は効かず、形を直す手術( → → 眼瞼の手術の順)の時期になる。

活動性の評価:臨床活動性スコア

欧州グループ EUGOGO の2021年ガイドラインは、活動性の評価に臨床活動性スコア CAS を使う2。

番号 項目(各1点)
1 自発的な眼球後部の痛み
2 上方視・下方視を試みたときの痛み
3 眼瞼の発赤
4 の発赤
5 涙丘またはの腫れ
6 眼瞼の腫れ
7 の浮腫

⭐ 7項目中3点以上を活動性とする。経過を追うときは、1〜3か月の間の2 mm 以上の突出の増加、8度以上の眼球運動の低下、視力の低下を加えた10項目版を使う2。

⚠️ CAS には限界がある。はい/いいえの二値で、重さの違う項目に同じ1点を付け、な項目を含み、うっ血による偽陽性や、炎症があっても眼が白い型での偽陰性が起こりうる3。

重症度の分類

2021年 EUGOGO ガイドラインのは次の3段階である2。

重症度 定義 目安(通常あてはまる所見)
軽症 日常生活への影響が小さく、免疫調整治療や手術をするほどではない 1つ以上:2 mm 未満の軽い、軽い軟部組織の病変、人種と性別の正常値より3 mm 未満の突出、なしか間欠的、潤滑薬で治る
中等症〜重症 視力は脅かされないが、免疫抑制()や手術()の危険をするほど生活に影響する 2つ以上:2 mm 以上の、中等度以上の軟部組織の病変、正常値より3 mm 以上の突出、非恒常性または恒常性の
視力を脅かす(最重症) 、角膜の崩壊 —

⚠️ 視力を脅かすは救急である。 第一選択は高用量の静注(0.5〜1 g を3日連続、またはなるべく1日おきに)で、1〜2週で反応がないか乏しければ緊急のを行う2。視神経の圧迫はを参照。

治療:従来の整理と現行

状態 従来の整理 現行の推奨
の炎症 ステロイドで浸潤期の炎症を抑える 中等症〜重症・活動性の第一選択は、静注(4.5 g)との併用(2021年 EUGOGO、用量は下表)2
— (IGF-1 受容体に対する抗体)。2021年 EUGOGO は突出・・生活の質を大きく改善する有望な薬としつつ、長期データ・入手性・費用の理由で第二選択とした2。2022年の米国・欧州甲状腺学会のは、中等症〜重症・活動性のほぼすべての型で、とくに突出が目立つ場合に第一選択とした。ただし同声明でも、不活動化と炎症の消退だけが目標ならを優先し、の改善も目標なら(眼窩放射線との併用)も優先治療に含める3
線維化した 眼瞼の手術(の切除) リハビリテーション手術(・・眼瞼の手術)

2021年 EUGOGO の静注の用量は次のとおりである2。

使い方 用量 量
標準(中等症〜重症・活動性の多く) 0.5 g を週1回×6週、続いて0.25 g を週1回×6週(12回)。ナトリウム0.72 g/日(1 g/日に相当)を24週併用 4.5 g
高用量(恒常性・非恒常性の、高度の突出や軟部組織病変など、より重い例) 0.75 g を週1回×6週、続いて0.5 g を週1回×6週 7.5 g
2コース目(第二選択) 0.75 g から開始 1コース8 g まで

⚠️ 量は1コース8 g を超えない。 8 g を超える量や連日の投与は、肝毒性と重い心血管の有害事象を増やす。投与前に感染・心血管リスク・・ウイルス肝炎の指標を調べ、投与中もを追う2。

⚠️ の注意点:副作用に、悪心、脱毛、下痢、疲労、難聴(約10%)、高血糖(約8%)があり、と妊娠では禁忌とされる2。治療終了から51週後には約30%で効果が保たれず、高血糖と聴覚障害の懸念が残る3。欧州では2025年6月に承認された3。

💡 喫煙はの危険因子で、2021年 EUGOGO はの患者すべてに、の有無にかかわらず禁煙を強く勧める2。禁煙はどの段階でも治療の一部である。

頸動脈海綿静脈洞瘻

眼窩の血管病変のうち、の鑑別で必ず押さえるものである。

型 つながり方 経過
() とが直接つながる 外傷(・)が多い。急に発症
(低流量) 硬膜の動脈枝を介してつながる 徐々に進む。初期はの充血だけで結膜炎とされやすい

では、の・眼窩の雑音・の充血の三徴と、に向かって状に怒張したを認める。原因の約70%は外傷で、確定診断の標準はである4。

💡 拍動する突出は、のほか、の欠損(のの形成不全、外傷や手術後)で脳の拍動が伝わる場合にも起こる。体位で変わる突出(うつむく・いきむと強くなる)はを考える。

片眼性と両眼性

分布 成人 小児
両眼性 (最多)、リンパ腫、両側の、、転移 の転移、白血病、組織球症
片眼性 (非対称)、(・・・リンパ腫)、、、血腫 (最多)、、乳児血管腫、、、

⚠️ は片眼性・非対称でも起こるので、「片眼だからではない」とは言えない。ただし片眼性で甲状腺の異常がない、またはな場合は、必ず画像で腫瘍を除外する。

まとめ

  • は常に病的。原因は眼窩の正常な内容の体積増加()か、(腫瘍・炎症・出血・膿瘍・血管病変)。
  • 測り方は Kestenbaum 法(が眼窩の上下縁に当たらなければ陽性)と Hertel 計(外側から角膜頂点まで)。正常はおよそ12〜21 mm で人種・性別で異なり、超えか左右差2 mm 超で異常。
  • 偽(・・反対眼の陥凹や下垂・・骨の非対称)を先に除く。
  • 原因の群は腫瘍、血管病変、炎症、(リンパ腫・・・・)、外傷。偏位は周辺部の病変、炎症と痛みは悪性腫瘍と炎症、運動障害は・・機械的、とはの長期または急な上昇を示す。
  • は小児で最多の危険な感染で緊急対応。隔膜後はを伴い、・を合併しうる。入院・、必要なら副鼻腔と眼窩の手術。
  • 、(小児・痛み・・切除)、黄色肉芽腫(上鼻側の・ステロイドで改善)。
  • 炎症の診断は病歴・所見・血液検査(・・・・甲状腺機能)・画像・(再発・ステロイド無効例)。
  • 特異的なは基礎疾患がある(・・・組織球症・自己免疫疾患)。非特異的は・リンパ腫に次ぐ3番目で。筋炎(最多、痛みと、腱まで太い)、炎(2番目、S 字状の眼瞼縁)、周囲炎、、Tolosa-Hunt 症候群、。
  • 治療はステロイドが柱、ステロイドを減らすために・・リツキシマブ・生物学的製剤、放射線、診断の生検と減量術。
  • はの最多の原因。最多所見は(約90%)、次いで突出。(1年以上)から線維化したへ進む。運動制限は上方・外方。活動性は CAS(7項目中3点以上で活動性)、重症度は軽症・中等症〜重症・視力を脅かすの3段階。
  • 中等症〜重症・活動性の第一選択は 2021年 EUGOGO で静注(0.5 g×6週→0.25 g×6週、4.5 g、1コース8 g まで)との併用、は第二選択(2022年の米欧では、とくに突出が目立つ例を中心に第一選択。炎症の消退だけが目標なら優先)。は難聴と高血糖に注意、と妊娠で禁忌。視力を脅かす例は高用量ステロイド静注と緊急の。
  • は突出・・と状の。は結膜炎とされやすい。

出典

  1. 1.Exophthalmometry(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)Hertel眼球突出計の正常範囲がおよそ12〜21 mmで、平均は白人男性16.5 mm・女性15.4 mm、アフリカ系男性18.5 mm・女性17.8 mm、正常上限は白人男性21.7 mm・女性20.1 mm、アフリカ系男性24.7 mm・女性23.0 mmと人種・性別で異なること、左右差が2 mmを超えれば異常とされることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.The 2021 European Group on Graves' orbitopathy (EUGOGO) clinical practice guidelines for the medical management of Graves' orbitopathy(European Group on Graves' Orbitopathy (European Journal of Endocrinology 185:G43-G67)・2021)出版社版PDF(Wayback保存分)の本文と表2・表3で確認した。活動性は7項目の臨床活動性スコア(自発的な眼球後部痛、上方視・下方視を試みたときの痛み、眼瞼の発赤、結膜の発赤、涙丘または半月ひだの腫脹、眼瞼の腫脹、結膜浮腫)で評価し3/7以上を活動性とすること、10項目版は1〜3か月での2 mm以上の眼球突出の増加・8度以上の眼球運動の低下・視力の低下を加えること、重症度は軽症(生活への影響が小さく、2 mm未満の軽い眼瞼後退・軽い軟部組織病変・人種と性別の正常値より3 mm未満の突出・複視なしか間欠的・潤滑薬で治る角膜露出のうち1つ以上)、中等症〜重症(視力を脅かさないが免疫抑制や手術の危険を正当化するほど生活に影響し、2 mm以上の眼瞼後退・中等度以上の軟部組織病変・正常値より3 mm以上の突出・非恒常性または恒常性の複視のうち2つ以上)、視力を脅かす(甲状腺性視神経症または角膜崩壊)の3段階であること、中等症〜重症で活動性の第一選択が静注メチルプレドニゾロン(0.5 g を週1回6週、続いて0.25 g を週1回6週、累積4.5 g)とミコフェノール酸ナトリウム0.72 g/日(ミコフェノール酸モフェチル1 g/日相当)24週の併用であること、より重い例では0.75 g×6週→0.5 g×6週(累積7.5 g)とし、1コースの累積量は8 g を超えないこと、8 g 超や連日投与は肝毒性と重い心血管の有害事象が増えるため避け、投与前と投与中に肝酵素を調べること、喫煙がリスク因子でバセドウ病の全患者に禁煙を勧めること、テプロツムマブは突出・複視・生活の質を大きく改善する有望な薬だが長期データ・入手性・費用などの理由で第二選択とされたこと、副作用に筋けいれん・悪心・脱毛・下痢・疲労・難聴(10%)・高血糖(8%)があり炎症性腸疾患と妊娠では禁忌とされていること、視力を脅かす眼症の第一選択が高用量静注メチルプレドニゾロン(0.5〜1 g を3日連続、またはなるべく1日おき)で1〜2週で反応が乏しければ緊急の眼窩減圧術を行うことを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.Comparison of the 2021 EUGOGO guidelines and the 2022 ATA/ETA consensus statement for the management of Graves' orbitopathy(European Thyroid Journal(Bartalena et al.)・2025)軽症・中等症〜重症・視力を脅かすの重症度分類と臨床活動性スコアによる活動性評価を両文書が採用していること、臨床活動性スコアには二値評価・項目の重みが同じ・主観的項目を含む・うっ血による偽陽性と白い眼の型での偽陰性という限界があること、2021年EUGOGOは静注グルココルチコイド(とミコフェノール酸)を第一選択としテプロツムマブを第二選択としたのに対し、2022年ATA/ETAは中等症〜重症・活動性のほぼすべての型で、とくに眼球突出が目立つ場合にテプロツムマブを第一選択とし、不活動化と炎症の消退だけが目標なら静注グルココルチコイドを優先、不活動化と眼球運動障害の改善が目標なら静注グルココルチコイド(眼窩放射線との併用)も優先治療に含めたこと、テプロツムマブは欧州で2025年6月に承認されたこと、治療終了51週後に約30%で効果が維持されないこと、高血糖と聴覚障害の懸念が残ることを確認した閲覧 2026-09-29
  4. 4.Carotid Cavernous Fistula(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)頸動脈海綿静脈洞瘻は内頸動脈と海綿静脈洞が直接つながる直接型(高流量)と硬膜枝を介する間接型(低流量)に分けられ、外傷性が約70%を占めること、直接型では拍動性眼球突出・眼窩雑音・結膜充血の三徴と螺旋状に怒張した結膜血管を認めること、間接型は徐々に進み初期は結膜充血だけで結膜炎と誤診されやすいこと、確定診断の標準はデジタル減算血管造影であることを確認した閲覧 2026-09-29