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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

類皮嚢胞

Dermoid cyst

臓器系
眼科耳鼻咽喉科小児
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Otorhinolaryngology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼耳鼻咽喉科 47:頸部腫脹の鑑別診断
鑑別疾患
先天性頸部嚢胞(甲状舌管嚢胞・鰓裂嚢胞)表皮嚢腫
合併症
細菌性髄膜炎骨髄炎
関連疾患
眼窩腫瘍
症状
腫脹分泌物

🧠 全体像:は、に皮膚の癒合線へ外胚葉組織がして閉じ込められた先天性の発達異常である(としての分類名は資料によりとに割れる。後述)。⚠️ 本ノートが扱うのはこの先天性(眼窩・鼻部・正中頸部などに好発)だけであり、婦人科の(卵巣dermoid cyst)とは発生機序ももまったく別の実体である。 卵巣側は胚細胞に由来する腫瘍()で、こちらは体表の癒合線に外胚葉が捕捉される発生異常であり、両者を同じ「」というが指しているだけの別々の病気だと最初に切り分ける。もう一つの区別が(俗称「」)との関係で、に毛包・・汗腺などのを伴うかどうかが組織学的な決め手になる。臨床的には、緩徐に増大する無痛性のとして出生時〜小児期に見つかり、破らずに嚢胞壁ごとするのが治療の原則である。

「類皮嚢胞」という同じ日本語が指す3つの別実体

本ノートが扱う 卵巣の「dermoid cyst」
実体 の皮膚成分のによる先天性腫瘤(分類名は下の💡のとおり資料で割れる)12 () 由来の後天性/先天性
発生機序 のに外胚葉が・捕捉2 (またはうち2つ)に由来する成熟組織からなる 閉塞した、または外傷による表皮の真皮内移植
好発部位 頭頸部(84%)、特に・・鼻部・正中頸部2 卵巣 体幹・顔面中心
対応する既存ノート 本ノート ・腫瘍
組織学的な鍵 毛包・・汗腺などのを含む 由来の成熟組織(皮膚・毛髪・歯・骨など)を含む 付属器を含まない(+角質のみ)

⚠️ 「dermoid cyst」という英語名・「腫」という別名は、本ノートの aliases にあえて入れていない。 これらは卵巣側の呼称として既存ノートが使っているため、同じ語をここに重ねると別実体の混同を招く。

💡 「」なのか「」なのかは資料により割れている。 小児の眼窩30眼を解析した報告は、本症を先天性の——本来その部位に存在しない組織が異所性に存在する良性腫瘤——と定義している1。一方でStatPearlsは病因の項で本症を “true hamartomas”、すなわち(その部位に本来ある組織が構成の乱れを伴って増生したもの)と記している2。⚠️ どちらか一方を唯一の正解として覚えない。 語の選択にかかわらず、「に皮膚成分が癒合線へ閉じ込められた先天性の発達異常」という実体の理解は両者で共通しており、(胚細胞由来で複数の胚葉の組織を含む真の腫瘍)とは別の枠に属する点も変わらない。

発生機序と好発部位

は、に皮膚の癒合線(、沿いなど)で外胚葉組織が・捕捉されることで生じる2。嚢胞壁はに裏打ちされ、内腔には角質と毛髪を含み、に毛包・・・などの構造を伴う——この付属器の有無がと分ける組織学的な決め手になる2。

⭐ 頭頸部が全体の84%を占め、中でも3分の1(、いわゆる部)が最も高頻度に侵される部位である。 小児の頭蓋骨・頭皮腫瘤の15.4〜58.5%を占める、ありふれた先天性腫瘤でもある2。全体の中でもは良性腫瘤の中で頻度の高い一群であり、ある検討ではの14%を占め、小児ののほぼ半数を占める一方で成人での診断はまれとされる3(詳細はの項を参照)。

出生時に診断される例は約40%である。5歳までの診断例については原典内でも約60%・約70%という異なる数字が併記されており(単一の確定値として覚えない)、いずれにせよ大半が5歳までに診断され、多くは生後1年以内に出現して緩徐に増大する2。

部位別の臨床像

部位 特徴
・眼窩上外側 最頻部位。無痛性・可動性のとして緩徐に増大する。に多い
鼻部(正中〜) 正中の緩徐増大する無痛性腫瘤、のを伴うことがある。⚠️ 開口部から毛髪が突出する所見はに特異的だが、10例の症例集積では10例中4例(40%)にしか見られず、感度は高くない4
正中頸部(の鑑別) と同じ正中領域に生じうる先天性腫瘤として鑑別に挙がる。は舌の挙上・嚥下で可動するのに対し、は固定性で舌骨との連続を欠く点で区別する

画像診断

超音波では境界明瞭で均一な嚢胞性病変として描出される2。⚠️ 骨びらんが疑われる場合は、頭蓋内・の評価にはが適する——両者は使い分けであって代替ではない2。⭐ 鼻部のでは10〜45%の頻度でを伴うため、正中鼻部の病変を診断するときは常にこの可能性を評価する。 造影MRIが軟部組織の詳細との評価に、が骨の詳細評価と手術計画にそれぞれ有用である4。

⚠️ 画像評価は生検・穿刺・な操作よりも前に行う。 はに頭蓋内・脊柱管内へ進展しうるため、StatPearlsはとくに正中の病変と頭皮の病変について、生検や操作に先立って画像検査を検討すべきだとしている2。⭐ 正中のは、頭蓋・脊椎の(二分頭蓋・)との関連およびの頻度が最も高い——鼻部のは正中の先天性鼻奇形として最も頻度の高いものでもある2。💡 順序を逆にすると、感染を誘発したうえに交通路の有無が分からないまま処置することになるため、下の「合併症」で述べる骨髄炎・髄膜炎・のリスクを最大化してしまう。

flowchart TD
    A["正中鼻部・眼窩上外側・正中頸部の<br>先天性・緩徐増大する無痛性腫瘤"] --> B{"部位はどこか"}
    B -->|"正中鼻部"| C["造影MRI+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracranial extension'>頭蓋内進展</span>の有無を評価"]
    B -->|"眼窩上外側"| D["超音波または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>で<br>骨びらんの有無を評価"]
    B -->|"正中頸部"| E{"舌の挙上・嚥下で<br>可動するか"}
    C --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracranial extension'>頭蓋内進展</span>があるか"}
    F -->|"あり"| G["限定的前額<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal'>鼻骨</span>切除術など<br>大きな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical approach (route)'>進入路</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracranial extension'>頭蓋内進展</span>まで対応"]
    F -->|"なし"| H["表在性病変として<br>嚢胞壁を破らない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete excision'>完全摘出</span>"]
    D --> H
    E -->|"固定性で可動しない"| H
    E -->|"可動する"| E2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglossal duct cyst'>甲状舌管嚢胞</span>を疑い<br>別途評価する"]

合併症と悪性化

⚠️ 穿刺・生検は感染を誘発し、骨髄炎・・に至りうる。 頭蓋内・脊柱管内へ進展した病変では、この感染合併症のリスクが特に問題になる2。はまれな合併症で、・卵巣・腹腔内のでの扁平上皮癌への転化が報告されている2(この悪性化リスクの報告対象は卵巣を含む複数部位にまたがり、頭頸部のに限った頻度ではない)。

治療

⭐ 嚢胞壁を破らないが治療の原則であり、これが再発を防ぐ最大の鍵になる。 無症候の小さな嚢胞は数年間安定することや自然消退することがあり直ちに摘出を要さないが、多くはに増大するため、経験豊富なによる嚢胞壁を破らないが推奨される2。摘出が不完全であった例では再発が確認されている2。を伴わない表在性病変は垂直切開・・楕円形切開などの限局手術で対応できるが、を伴う例では限定的前額切除術・などのより大きなを要する4。術中に嚢胞壁が破れた場合は、残存組織をとで除去する2。

まとめ

  • (本ノート)はのに外胚葉組織が捕捉されてできる先天性の発達異常であり、卵巣の()とは別実体である。としての分類名は資料によりとに割れる。
  • と分ける組織学的な決め手は、に毛包・・汗腺などのを含むかどうかである。
  • 頭頸部(84%)、特に3分の1に最も多く、小児ののほぼ半数を占める。出生時〜5歳までに大半が診断される。
  • 正中の病変は頭蓋・脊椎のおよびとの関連が最も高い。とくに正中鼻部の病変では10〜45%にを伴うため、造影MRI+での評価が必須で、⚠️ 画像は生検・穿刺より先に行う。開口部からの毛髪突出は特異的だが感度は高くない(症例集積で40%)。
  • 正中頸部ではとの鑑別が要点で、舌の挙上・嚥下での可動性の有無で区別する。
  • 治療は嚢胞壁を破らない。不完全摘出は再発につながり、穿刺・生検による感染は骨髄炎・髄膜炎・のリスクを伴う。

出典

  1. 1.Orbital dermoid cyst of childhood: clinical pathologic findings, classification and management(International Ophthalmology(Cavazza S, Laffi GL, Lodi L, Gasparrini, Tassinari G)・2011)眼窩の類皮嚢胞を先天性の迷芽腫(choristoma、正常な組織像の細胞が異所性に存在する良性腫瘤)と定義していること、小児30例(30眼)の後方視的検討で手術時平均年齢が24か月(範囲6〜84か月)であったこと、表在性嚢胞が67%(触知可能で境界明瞭)・深在性嚢胞が33%(眼窩縁を越えて進展)であったこと、好発部位が上外側の前頭頬骨縫合部(86.6%)・次いで上鼻側の前頭鼻縫合部(10%)であったことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Dermoid Cyst(StatPearls(NCBI Bookshelf)(Shareef S, Ettefagh L)・2023)類皮嚢胞が胎生期の皮膚癒合線に沿って外胚葉成分が迷入・捕捉されて生じる良性の先天性発達異常であり頭蓋縫合線や大泉門沿いに好発すること、Etiology節が本症を "true hamartomas"(過誤腫)と記していること、正中の類皮嚢胞が頭蓋・脊椎の癒合不全(dysraphism)との関連および頭蓋内進展の頻度が最も高くとくに鼻部類皮嚢胞は正中の先天性鼻奇形として最も頻度が高いこと、頭蓋内・脊柱管内へ進展しうるため正中および頭皮の病変ではとくに生検や用手的操作に先立って画像検査を検討すべきこと(Evaluation節)、嚢胞壁が重層扁平上皮に裏打ちされ壁内に毛包・毛幹・脂腺・エクリン腺など中胚葉由来の成熟付属器構造を伴いうる点が組織学的特徴であること、頭頸部が全体の84%を占め中でも前頭部・後頭部・眼窩上部に多く眉毛外側3分の1が最も高頻度に侵される部位であること、小児の頭蓋骨・頭皮腫瘤の15.4〜58.5%を占めること、出生時に診断される例が約40%であること、5歳までの診断例について原典内でも約60%・約70%という異なる数字が併記されていること、多くは生後1年以内に出現し緩徐に増大すること、超音波では境界明瞭で均一な低エコー嚢胞性病変を呈すること、骨びらんが疑われる場合はCTがその評価に優れる一方MRIは頭蓋内・脊柱管内進展の評価に適した手法であること、鼻部類皮嚢胞では10〜45%の頻度で頭蓋内進展を伴うこと、穿刺・生検が感染を誘発し骨髄炎・髄膜炎・脳膿瘍に至りうること、頭蓋内・脊柱管内への進展は髄膜炎・膿瘍形成や局所占拠性病変を来しうること、悪性転化はまれな合併症であり舌下部・卵巣・腹腔内の類皮嚢胞での扁平上皮癌への転化が報告されていること、無症候の小さな嚢胞は数年安定または自然消退することがあるため直ちに摘出を要さない一方多くは経時的に増大するため嚢胞壁を破らない経験豊富な術者による完全摘出が推奨されること、摘出が不完全であった例で再発が確認されていること、術中に嚢胞壁が破れた場合は残存組織を掻爬と大量洗浄で除去すべきことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Benign Orbital Tumors(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)ある大規模後方視的検討で眼窩腫瘤の68%が良性で類皮嚢胞(14%)・海綿状血管腫(9%)の順に多かったこと、類皮嚢胞は小児の眼窩腫瘍のほぼ半数を占める一方で成人での診断はまれであることを確認した。閲覧 2026-09-01
  4. 4.Nasal Dermoid – A Series of Ten Cases and Review of Literature(Indian Journal of Otolaryngology and Head & Neck Surgery・2024)小児10例の鼻部類皮嚢胞の症例集積で、全例が正中の鼻背・鼻根部に位置する表在性病変(頭蓋内・鼻腔内進展を伴わないType 1)であったこと、開口部(punctum)からの毛髪突出という所見が10例中4例(40%)に認められ類皮嚢胞に特異的な所見とされること、画像評価では造影MRIが軟部組織の詳細および頭蓋内進展の評価に、CTが骨の詳細評価と手術計画に有用とされること、頭蓋内進展を伴わない表在性病変は垂直切開・横切開・楕円形切開などの限局手術で対応でき、頭蓋内進展を伴う例では限定的前額鼻骨切除術・前頭開頭術などのより大きな進入路を要すること、本シリーズの再発率が10例中1例(10%)であったことを確認した。閲覧 2026-09-02