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Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

表皮嚢腫

Epidermoid cyst

別名
粉瘤
臓器系
皮膚
科目
Dermatology
トピック
皮膚科 1-01:皮膚の原発疹・続発疹
鑑別疾患
細菌性皮膚感染症(伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう)
関連疾患
家族性大腸腺腫症・リンチ症候群
原因微生物
Staphylococcus aureusEscherichia coliStreptococcus pyogenes / GAS
症状
皮膚結節分泌物圧痛紅斑

🧠 全体像(俗称「」)は、由来の上皮に裏打ちされ角質を内容とする、ありふれた良性である。学習上の核心は「感染」と呼ばれるの多くが、実は細菌感染ではなく破裂による無菌性の異物反応だという点にある——臨床像は膿瘍そのものに見えるため、多くの臨床家がこれを膿瘍と誤認して抗菌薬を処方しがちである。治療の順序も炎症の有無で変わり、に無理に全摘出を試みると剥離面が同定できず、まずで炎症を鎮めてから、炎症消退後に壁ごと摘出するのが原則である。多発例ではGardner症候群という遺伝性疾患の可能性もする。

病態

のうちに由来する上皮に裏打ちされ、内部に角質・脂質に富む内容物を蓄積したである1。体幹・顔面に好発し、陰嚢・外陰にも比較的多い。非有毛部(手掌・足底など)に生じる場合は、外傷によって表皮細胞が真皮内へ埋め込まれることが原因となる1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular infundibulum'>毛包漏斗部</span>の閉塞<br>(または外傷による表皮細胞の真皮内移植)"] --> B["角質・脂質に富む内容物の蓄積"]
    B --> C["上皮に裏打ちされた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyst'>嚢腫</span>の形成"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyst'>嚢腫</span>壁が破裂するか"}
    D -->|"破裂しない"| E["無症候性の可動性皮下結節として持続"]
    D -->|"破裂する"| F["角質内容物が真皮・周囲組織へ流出"]
    F --> G["無菌性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foreign body granuloma'>異物肉芽腫</span>反応"]
    G --> H["腫脹・発赤・圧痛<br>(臨床的には膿瘍に酷似)"]
    H --> I{"真の細菌感染を併発するか"}
    I -->|"多くは併発しない"| G
    I -->|"併発する"| J["黄色ブドウ球菌・大腸菌・<br>A群レンサ球菌などによる真の感染"]

⚠️ 「感染した」の多くは、破裂した内容物(軟らかい黄色の角質)に対する無菌性の異物反応であり、真の細菌感染ではない。 この炎症反応は臨床的に膿瘍と見分けがつきにくく、多くの臨床家がこれを膿瘍と誤認して抗菌薬を処方する2。もちろん黄色ブドウ球菌大腸菌A群レンサ球菌による真のも起こりうる1

臨床像

  • 皮膚色〜黄色調の、可動性のある(多くは1〜3 cm)で、通常無症候性1
  • が特徴的で、触診で強調されることが多く、圧迫すると悪臭のある乾酪様の分泌物を排出しうる1
  • 破裂・には急速な腫脹、紅斑圧痛を呈し、波動を触れることもある1
  • ごく稀に内にが生じうる1

毛根鞘嚢腫との鑑別

所見 毛根鞘
あり なし
好発部位 体幹・顔面・陰嚢/外陰 頭皮
壁の厚さ 相対的に薄い 厚く破裂しにくい

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidermoid cyst'>表皮嚢腫</span>と診断"] --> B{"炎症・感染の急性期か"}
    B -->|"いいえ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stable phase (of a chronic disease)'>安定期</span>"| C["無症候なら経過観察、<br>希望時は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyst'>嚢腫</span>壁ごと完全摘出"]
    B -->|"はい・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory phase'>炎症期</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incision and drainage'>切開排膿</span>でまず炎症を鎮める"]
    D --> E["必要に応じ病変内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triamcinolone'>トリアムシノロン</span><br>で炎症を追加で抑える"]
    E --> F["炎症消退を待つ"]
    F --> G["炎症消退後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyst'>嚢腫</span>壁ごと完全摘出"]

炎症・感染期には、を先に行い、壁ごとの完全摘出は炎症が消退してから行う。 炎症が残ったまま摘出を試みると、壁と周囲組織の剥離面が同定しづらく、摘出が不完全になりやすい2だけではそのものは残るため再発しうる点も踏まえておく12。炎症を抑えて摘出のタイミングを整える目的で、病変内注射を用いることもある2

病期 治療
無症候・ 経過観察、または美容目的・再発予防目的で壁ごと完全摘出
炎症・感染急性期 を先行させ、真の細菌感染を疑う所見(急速な拡大・全身症状)があれば抗菌薬を追加する
炎症消退後 壁を破らずに完全摘出し、再発を減らす1

摘出が不完全で壁の一部が残存すると再発する。にエピネフリンを併用し、を含む切開で壁を破らずに摘出するのが基本手技である。

Gardner症候群との関連

多発性の、とくに非典型部位(四肢・頭皮など)に生じる例や、多発性・大腸癌の家族歴を伴う例では、Gardner症候群(の一表現型)を疑う12は未治療なら中年までにほぼ確実に大腸癌化するため、疑わしい場合は消化器・遺伝への紹介を検討する。

⚠️ は別物である。 は中枢神経系(など)に生じる先天性ので、皮膚のとは発生部位も臨床的意味もまったく異なる。

まとめ

  • )は由来の良性で、と可動性が診断の手掛かりになる。
  • 「感染」として受診する多くは、真の細菌感染ではなく破裂した内容物に対する無菌性の異物反応である。
  • 炎症・感染急性期はを先行させ、壁ごとの完全摘出は炎症消退後に行う——順序を誤ると摘出が不完全になり再発しやすい。
  • 多発例・非典型部位の例ではGardner症候群()を念頭に置く。
  • (中枢神経系の先天性病変)は別物である。

出典

  1. 1.Epidermoid cyst(DermNet NZ・2024)表皮嚢腫を毛包漏斗部由来の上皮に裏打ちされた良性嚢腫と定義し、閉塞した毛包脂腺単位に由来すること、非有毛部(臀部・手掌・足底)では外傷による表皮細胞の真皮内移植でも生じうること、体幹・顔面中心に好発し陰嚢・外陰にも多いこと、中心臍窩(punctum)が特徴的で圧迫すると悪臭のある乾酪様内容物を排出しうること、毛根鞘嚢腫が中心臍窩を欠き頭皮に好発する点で鑑別されること、破裂すると腫脹・発赤・圧痛を来し黄色ブドウ球菌・大腸菌・A群レンサ球菌による細菌感染に至りうること、稀に有棘細胞癌が嚢腫内に生じうること、無症候の小さな嚢腫は無治療でよいが最も確実な治療は嚢腫壁を破らない完全摘出であること、炎症・感染時には抗菌薬と切開排膿がまず適応となりうること、Gardner症候群・第2型爪甲部分肥厚症・基底細胞母斑症候群などの遺伝性疾患で多発性表皮嚢腫の頻度が高まることを確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Epidermoid Cyst(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)嚢腫が破裂すると軟らかい黄色の角質が真皮・周囲組織へ押し出され、これに対する炎症反応が生じるのであって、多くの臨床家がこれを膿瘍と誤認して抗菌薬を処方すると述べていること。感染が実際に併存する場合は完全摘出を行うと剥離面の同定が困難になるため摘出を遅らせるべきであり、まず切開排膿を行うこと(ただし再発しうる)、炎症を抑え摘出を遅らせる目的でトリアムシノロンの病変内注射を用いうることを述べていること。嚢腫壁全体を摘出することが再発を減らす鍵であること、多発性脂肪腫の既往や大腸癌の家族歴を伴う成人非典型部位の表皮嚢腫はGardner症候群(家族性大腸腺腫症)を疑い専門科へ紹介すべきであることを確認した。閲覧 2026-08-12