眼科学

眼科学 · ML-51

化学外傷・熱傷・電撃傷

Chemical and thermal burn, electric injury

前提:正常
眼
症状
瞼々癒着瞼球癒着

🧠 全体像:は、診断より先に治療を始める唯一のである。⭐ 医学生に求められる必須能力はの応急処置であり、答えは一つ:その場で、ただちに、大量の水で、長く洗う。水道水でよい。30分以上、またはの pH が正常に戻るまで洗い、上眼瞼をしての粒(石灰・セメント)を取り除く。重症度はアルカリか酸か、洗い始めるまでの時間、そしての供給源であるがどれだけ白く(虚血に)なったかで決まる。輪部を失った眼は、あとからが角膜を覆い、血管が入り込み、瞼が眼球に癒着して失明する。熱傷とも同じく眼表面と輪部を焼き、では数か月後のが特徴である。

赤目の鑑別の中でのの位置づけは赤目の鑑別、症状としての整理は、全体の分類は鋭的な物による機械的にある。

化学外傷

なぜ重要か

  • 大きなや失明につながりうる。
  • のおよそ2割がである。総説ではの11.5〜22.1%とされ、原因の約60%がアルカリである1。
  • 多くは家庭での事故か職場の事故で起こる。英国の前向き研究では、年間の発生は人口10万人あたり5.6人と推定され、52%が職場の外傷、78%がアルカリによるものだった2。

原因物質:アルカリと酸

項目 酸 アルカリ
代表的な物質 酢、硫酸、液(硫酸)、 (排水管の洗浄剤)、水酸化カリウム、石灰(生石灰・消石灰、セメント・漆喰)、アンモニア
組織の反応 蛋白が凝固する() 細胞膜の脂肪酸をする()
浸透 凝固した層が表面で障壁になり、深く入らない 細胞に速く入り、コラーゲンの構造を溶かして眼の中まで速く入る
重症度 比較的軽いことが多い 重いことが多い
例外 は酸なのに深く浸透する ―

アルカリはとの両方をもつので細胞膜を速く通りまで入る。酸は角膜の蛋白が緩衝し、凝固した組織が障壁になるので障害が小さくなりやすい3。は例外で、酸でありながら深く浸透する1。

⚠️ (塩素系)の扱いに注意する。 家庭用の塩素系は水溶液としてはアルカリ性である。従来の整理では、酢・硫酸・液と並んで「酸」の代表として挙げられることがあるが、pH の上ではアルカリ側の物質として扱い、酸だから浅いと油断しない。どちらにしても応急処置は同じで、すぐに大量に洗う。

💡 アルカリが「洗ったあとも進む」理由:アルカリは脂質を石けんに変えて細胞膜を壊しながら奥へ進み、のコラーゲンをばらばらにする。さらに壊れた組織と集まった好中球がを出し続けるので、洗い終わったあとも角膜が溶けて薄くなることがある。酸は表面を固めてしまうことで、自分の進む道をふさぐ。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical substance'>化学物質</span>が眼に入る"] --> B{"酸かアルカリか"}
    B -->|"酸"| C["蛋白の凝固<br>凝固した層が障壁になる"]
    C --> D["浅い障害にとどまりやすい<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrofluoric acid'>フッ化水素酸</span>は例外"]
    B -->|"アルカリ"| E["細胞膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saponification'>鹸化</span><br>コラーゲンの溶解"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal stroma'>角膜実質</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>まで速く浸透"]
    F --> G["輪部の虚血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br>洗浄後も融解が進む"]

輪部と角膜上皮の幹細胞

角膜の上皮は、(角膜との境目)にあるの幹細胞から絶えず補充される。幹細胞は輪部のくぼみに並び、そこから生まれた細胞が角膜の周辺部から中央へ向かって移動していく。

⭐ 輪部がの予後を決める。 輪部の血管が閉じて白くなる()ほど、幹細胞が失われている。幹細胞がなくなると、角膜はで覆い直されず、代わりにの上皮と血管が角膜の上に伸びてくる(欠乏)。詳しくは欠乏症を参照。

💡 は充血して赤くなるのがふつうの炎症反応である。で輪部の周りが「白い」のは、軽いからではなく血管が死んでいるからである。赤い眼より白い眼のほうが重いことがある。

化学外傷の経過:4つの時期

は、受傷からの時間で4つの時期に分けて考える。時期ごとに起きていることと治療の目標が違う。

時期 期間 起きていること
直後 受傷の瞬間 軽症:・角膜の小さな上皮欠損/重症:広い上皮欠損、輪部の障害と虚血、角膜の、、
急性期 0〜7日 上皮欠損、炎症、角膜潰瘍、上皮化の障害、輪部の機能不全
早期修復期 7〜21日 炎症と再生のせめぎ合い。再生が勝てば上皮が完全に覆う。炎症が勝てば瘢痕・慢性炎症・治らない上皮欠損
晩期修復期 21日以降 ・、重い、が角膜の表面に伸び、角膜のと瘢痕

急性期(0〜7日)に起こる悪循環

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>・角膜の上皮欠損"] --> B["角膜潰瘍"]
    A --> C["上皮化の障害"]
    D["炎症"] --> B
    D --> C
    D --> E["輪部の機能不全"]
    E --> C

上皮欠損は角膜潰瘍と上皮化の障害の両方へつながり、炎症はその両方を後押しし、さらに輪部を壊す。輪部が働かないと上皮が治らない。治らない上皮欠損は、潰瘍が深くなる土台にもなる。急性期の治療は、この悪循環を炎症の側から断ち切ることにある。

早期修復期(7〜21日)の分かれ道

flowchart TD
    A["角膜潰瘍・上皮化の障害"] --> B{"炎症と再生のどちらが勝つか"}
    B -->|"再生が勝つ"| C["上皮が完全に覆う"]
    B -->|"炎症が勝つ"| D["瘢痕・慢性炎症<br>治らない上皮欠損"]
    D --> E["晩期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='symblepharon'>瞼球癒着</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='entropion'>眼瞼内反</span><br>重い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>"]
    D --> F["晩期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の角膜への侵入<br>角膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal neovascularization'>血管侵入</span>と瘢痕"]

典型例では、アンモニアによるの2週半後に、強いと角膜全体の灰白色のを認める。晩期には、の血管が角膜の周辺から中央へ向かって入り込み、角膜が白く濁る。最終像では、(瞼の裏のと眼球のがくっつく)、睫毛乱生(まつ毛が眼球に向かう)、欠乏(の上皮と血管が角膜を覆う)、そして角膜の白濁による角膜盲がそろう。

応急処置 ⭐

⭐ の応急処置は、医学生の必須能力である。 ・視力・は、すべて洗浄の後に回す。

受傷した現場で

項目 内容
いつ ただちに。救急車や眼科を待たない
何で 水道水、または。手に入る無毒の液体でよい
どれだけ 大量の液体で、少なくとも20〜30分
どうやって 眼を開けたまま洗う。上眼瞼をし、も洗う。石灰などの固形物は取り除く
目的 障害を起こしている物質をすべて除き、それ以上の破壊を防ぐ

眼科に着いてから

  1. もう一度洗浄する(受傷の現場で洗ってきても続ける)。
  2. 視力を測り、で診る。
  3. 重症度を分類し、予後を見積もる。

現行の推奨で補うこと

  • 洗浄は手に入る無毒の液体(水道水でよい)ですぐに始め、少なくとも30分、またはの pH が生理的な範囲(7.0〜7.2)に戻るまで続ける1。20〜30分は最低限の目安であり、アルカリでは pH が戻るまでそれ以上続けることも多い。
  • 洗浄を止めてから少なくとも5分おいて pH を測り直す。に残った粒子からが溶け出し、pH がまた上がることがあるからである1。
  • 痛みで瞼が開かなければ薬を使い、や洗浄用のレンズで瞼を開けたまま洗う。はで掃くようにして粒子を取り除く1。

⚠️ 中和剤で「酸にはアルカリ、アルカリには酸」を使わない。 中和しようとすると、かえって眼や周りの組織を傷めることがある1。水かで薄めて洗い流す。

⚠️ 石灰・セメントの粒子は、残っている限り反応し続ける。 上眼瞼をし(必要なら)、上下のを確認して取り除く。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical substance'>化学物質</span>が眼に入った"] --> B["その場でただちに<br>水道水で大量に洗う"]
    B --> C["眼科・救急へ<br>到着後も洗浄を続ける"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topical anesthesia'>点眼麻酔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid speculum'>開瞼器</span><br>上眼瞼を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>翻転</span>し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fornix; convexity (cerebral)'>円蓋部</span>の粒子を除く"]
    D --> E["洗浄後5分以上おいて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival sac'>結膜嚢</span>の pH を測る"]
    E --> F{"pH は7.0〜7.2に戻ったか"}
    F -->|"戻っていない"| R["洗浄を再開し<br>残った粒子を探す"]
    R --> E
    F -->|"戻った"| G["視力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp'>細隙灯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='limbal ischemia'>輪部虚血</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の範囲を評価"]
    G --> H["Roper-Hall・Dua で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='severity classification'>重症度分類</span><br>予後を見積もる"]

💡 なぜ「病院に行ってから」では遅いのか。 アルカリは短い時間で角膜を通り抜けてに達しうる。現場で1分洗い始めるのが遅れるごとに、奥に入る量が増える。救急の電話で「目に薬品が入った」と聞いたら、まず「今すぐ水で洗ってください」と伝える。

問診で聞くこと(洗浄の後で)

  • 物質の名前(製品名・ラベル)。試料があれば pH を測る。
  • 受傷からの時間、現場でどれだけ洗ったか。
  • 職場か家庭か、暴行か。の有無。
  • 同時に吸い込んだり飲み込んだりしていないか、顔・皮膚の熱傷はないか。

洗浄後の診察で見ること

洗浄で pH が戻ったら、次の順に眼を評価する。重症度の分類と治療の選択は、この診察の結果で決まる。

見るところ 何を見るか 意味
視力 両眼を別々に 予後の基準。は両眼のことがある
眼瞼・顔面の皮膚 皮膚の熱傷、瞼が閉じるか 瞼が閉じなければ角膜が乾く
充血か、白く虚血か。上皮欠損の範囲(で染める) Dua 分類のの割合
輪部の血管が白く途切れている範囲(時計の時間数) Roper-Hall と Dua の中心の項目
角膜 上皮欠損の広さ、実質の(の模様が見えるか) Roper-Hall の角膜の項目
残った粒子、上皮欠損 粒子が残れば洗浄をやり直す。のちのの場所
・ 炎症、 アルカリは眼内に入ってを上げる
重いアルカリ外傷ではを起こす

💡 上皮欠損はで染めないと見落とす。 角膜の上皮が全部はがれていると、染める境目がなく「染まらない」ように見えることがある。角膜全体がのっぺりと染まっていないか、輪部とまで含めて見る。

⚠️ 両眼を確認する。 顔に浴びたはしばしば両眼に入る。痛みの強いほうだけを診て、もう一方の眼の洗浄を忘れない。

重症度の分類

Roper-Hall 分類(1965年)は、角膜の所見との範囲で4段階に分ける。各段階の基準は次のとおりである3。

度 角膜 予後
I 上皮の障害だけ なし 良い
II しているがの模様が見える 1/3未満 良い
III 上皮が全部なくなり、実質のでの模様が見えない 1/3〜1/2 要注意
IV 角膜が不透明で、も瞳孔も見えない 1/2を超える 不良

Dua 分類(2001年)は、輪部の障害の範囲(時計の時間数)との障害の割合で6段階に分ける3。

度 輪部の障害 の障害 連続尺度の例 予後
I 0時間 0% 0/0% とても良い
II 3時間未満 30%未満 0.1〜3/1〜29.9% 良い
III 3〜6時間 30〜50% 3.1〜6/31〜50% 良い
IV 6〜9時間 50〜75% 6.1〜9/51〜75% 良い〜要注意
V 9〜12時間未満 75〜100%未満 9.1〜11.9/75.1〜99.9% 要注意〜不良
VI 全周(12時間) 100% 12/100% とても不良

の割合は、までのだけで数える3。

比べる点 Roper-Hall Dua
何で分けるか 角膜のと 輪部の障害の時間数との障害の割合
段階 4段階 6段階
重症例 輪部の半分を超えればすべて IV 度(予後不良) Roper-Hall の IV 度を IV・V・VI の3段階に分ける
簡単で古くから使われる も評価し、や輪部移植が使える現在の重症例の予後をよく分ける

💡 Dua 分類が重症例を細かく分けるのは、輪部が1時間分でも生き残っていれば、そこから角膜の少なくともを上皮で覆い直せるからである3。「輪部の半分以上が駄目なら全部予後不良」とまとめると、治せる眼と治せない眼を区別できない。

英国の前向き研究では、Roper-Hall と Dua の I〜III 度は点眼治療だけで予後がとても良かった。一方、Roper-Hall IV 度(Dua IV〜VI 度)の4例は、早期のを含む治療を行っても重い欠乏に進んだ2。

典型例の比較:角膜が軽く濁ってもの模様が透けて見える眼は軽い側、角膜全体が青白く不透明でがまったく見えない眼は最も重い側にあたる。

急性期(0〜7日)の治療

目標:急性の炎症を抑え、上皮化を促し、合併症を防ぐ。

軽症 重症
抗菌薬の点眼 抗菌薬の点眼
ステロイドの点眼
― 、清の点眼
― ビタミン C であるを1日1,000 mg
― ドキシサイクリン 100 mg を1日2回
― 羊膜

それぞれの薬の役割は次のとおりである。

治療 働き
ステロイドの点眼(など) 好中球の浸潤と炎症を抑える
コラーゲンの合成を助ける。アルカリ外傷ではのが減る
ドキシサイクリン MMP などのを抑え、角膜の融解を防ぐ
クエン酸 カルシウムをして好中球の働きとを抑える
羊膜 炎症を抑え、上皮化を促す生物学的な被覆
の痙攣による痛みを和らげる
を下げる薬 アルカリ外傷ではが上がることがある

現行の推奨との違い

  • ステロイド点眼は最初の7〜10日に頻回に使い、約1週間を過ぎたら減量する。コラーゲンの分解が合成を上回り、角膜が溶けるおそれがあるからである。上皮が治らなければ10〜14日で減量を考える1。
  • の量は、1日1,000 mg という従来の処方に対し、現行の総説では成人で内服2 g を1日4回、点眼で10%を1時間ごととされる。⚠️ 大量のビタミン C は腎臓に毒性をもちうるので、腎機能の低下した患者では注意する1。
  • ドキシサイクリンは100 mg 1日2回で同じだが、小児では避け、妊娠可能な年齢の女性でも慎重に使う1。
  • クエン酸は作用でを抑え、は中等症〜重症で炎症を抑えて上皮化を促す1。

⚠️ ステロイドを長く続けすぎない。 1週間を過ぎても強いステロイドを続けると、角膜の融解と穿孔の危険が増える。一方、最初の1週間に使わないと炎症の悪循環が止まらない。「最初は強く、1週間を過ぎたら慎重に」が原則である。

⚠️ を忘れない。 アルカリ外傷では、の炎症や流出路の障害でが上がる。角膜が濁って測りにくくても評価し、必要なら点眼や内服で下げる。

早期修復期(7〜21日)の治療

目標:急性の炎症を抑え、合併症を防ぐ。

  • 、清の点眼を続ける。
  • の癒着が始まったら、はがす(を防ぐ)。
  • 角膜を守る:羊膜または自分ので覆う。

典型例では、羊膜で角膜全体を覆い、輪部に沿って縫い付けて固定する。

💡 羊膜と清が効く理由:羊膜は胎盤の最も内側の薄い膜で、炎症を抑える物質と上皮の成長を助ける基底膜をもつ。眼の表面に貼ると、上皮が這い上がるになり、同時に瞼の裏との摩擦と炎症細胞から角膜を守る「生きた」になる。清の点眼は、患者自身の血液から作る点眼で、涙に含まれるやビタミンを補い、より上皮の治りを助ける。どちらも、輪部の幹細胞が残っていることを前提に、その再生を後押しする治療である。輪部がすべて失われていれば、羊膜だけではは戻らない。

晩期(21日以降):眼表面の外科的な再建

晩期に残る問題と、それに対する治療は次のとおりである。

残る問題 治療の方向
癒着の剥離と、羊膜・粘膜によるの再建
睫毛乱生、 眼瞼の位置の矯正
欠乏 の移植(反対眼から、または他人から)、培養上皮の移植
角膜の瘢痕と(角膜盲) 眼表面を整えた後の。難しい眼では
重い 、清、

晩期にはとが選択肢になる1。の手技は角膜の手術、は、瞼の異常は睫毛乱生とを参照。

💡 輪部がないままをしても治らない。 移植した角膜の上皮も輪部から補充されるからである。先に輪部(幹細胞)を補い、眼表面を安定させてから、角膜のを取り替える。

予後を決めるもの

因子 内容
外傷の重さ 輪部との障害の範囲、眼の中の障害(・)
ただちに洗浄したか 現場で洗い始めるまでの時間
合併症を防ぐ治療を受けたか 急性期の炎症の制御、癒着の予防、の管理

⭐ 変えられるのは後の2つである。とくに現場ですぐ洗ったかどうかは、医療者ではなく本人や周りの人が決める。職場の設備と、家庭での「まず水で洗う」の知識が失明を防ぐ。

熱傷

原因

原因 例
炎 火事、ガスの爆発
熱い液体 熱湯、蒸気、油
溶けた金属 鋳造・溶接の作業
爆発 花火など
たばこ 顔の近くのたばこの火

熱傷の原因には、花火の爆発、蒸気、熱湯、溶けた金属(多くはアルミニウム)が挙げられる3。

重症度を決めるもの

  • の温度と蓄熱量(熱をどれだけ抱えているか)
  • 触れていた時間
  • 障害された眼表面の広さ、輪部が障害された割合

しくみ

  • 熱で蛋白が変性・凝固し、血管が閉じて虚血になる。
  • 1,000℃を超え、蓄熱量の大きい物(溶けた鉄など)では、角膜の深い層まで壊れる。角膜は不透明になり、表面の層が凝固する。凝固した層がはがれると、下に薄い組織しか残らない(穿孔の危険)。
  • 低い温度で溶ける金属(・錫など)では、涙の膜が冷やすので角膜は保たれることが多い。

💡 が眼を守る。熱いものが飛んでくると、瞼が反射的に閉じるので、熱傷は瞼の皮膚に強く、眼球は比較的軽いことが多い。ただし瞼が焼けて閉じられなくなると、二次的に角膜が乾いて傷む(性角膜症)。

典型的な所見

原因 所見
燃えたマッチ 角膜の局所の熱傷
熱湯 瞼と顔の皮膚の熱傷。皮膚が白くただれ、瞼は腫れて閉じる

治療

目標:上皮の治癒を促し、炎症を抑え、組織の破壊を防ぐ。

重症度 治療
軽症(上皮のすり傷だけ) 、抗菌薬の点眼
重症 抗菌薬の点眼、ステロイドの点眼、始まった癒着をはがしてを防ぐ
回復後の再建 、瞼の位置異常の矯正

⚠️ 顔の熱傷の患者では、全身の熱傷と気道の熱傷の治療が優先されるが、瞼が閉じるかどうかと角膜の乾燥を毎日確認する。全身の熱傷は熱傷を参照。

💡 溶接の光による「目の日焼け」は熱ではなく紫外線によるの障害で、別に扱う()。

電撃傷

原因

  • 頭部の(の電線など)

起こりうる障害

部位 障害
の浮腫
角膜 角膜の穿孔
ぶどう膜
()
網膜 、、黄斑円孔
視神経

典型的なでは、した瞳孔の中で、の周辺から中心へ向かう花びら状・の白いが放射状に並ぶ。

しくみ

部位 しくみ
蛋白の凝固、の透過性の亢進、熱の作用
網膜 と網膜の血管の閉塞

💡 電流は抵抗の低い組織(血管・神経・体液)を通りやすく、通り道で熱を出す。眼は頭部の電流の通り道にあたりやすく、は熱と膜の障害で濁る。は受傷直後ではなく、数週〜数か月たってから現れることが多いので、頭部のやの患者には後日の眼科受診を勧める。

治療

3つの外傷の比較

項目 熱傷
主な原因 アルカリ(石灰・・アンモニア)、酸 炎、熱湯・蒸気・油、溶けた金属、爆発、たばこ 頭部の、
障害の中心 角膜・・輪部。アルカリは眼内まで 瞼と角膜の表面。高温の金属では角膜の ・網膜・視神経
応急処置 ただちに大量の洗浄 冷却・洗浄、眼表面の保護 全身の救命、後日の眼科診察
特徴的な 欠乏、、角膜盲 瞼の変形、、

予防と教育

場面
職場(化学・建築現場・清掃) ・フェイスドの着用、作業場のそばに設備(シャワー)を置く、作業者に「まず洗う」を教える
家庭 洗浄剤・・排水管用を子どもの手の届かない場所に置く、容器を移し替えない
救急の電話相談 「病院に来る前に、今すぐ水で洗い続けてください」と最初に伝える
暴行 酸やアルカリをかける暴行では顔と両眼が重く障害される。警察・支援との連携も必要

⭐ は、最初の数分の行動がその後の数十年の視力を決める外傷である。にとっての必須能力は、自分で洗えることに加えて、電話越しや現場で周りの人に正しく洗わせることでもある。

まとめ

  • は失明につながりうる。の約2割を占め、家庭と職場で多い。アルカリが多く重い。
  • 酸(酢・硫酸・液)は蛋白を凝固させ、凝固層が障壁になって浅くとどまる(は例外)。アルカリ(・水酸化カリウム・石灰・アンモニア)は細胞膜をしコラーゲンを溶かして眼の中まで速く入る。塩素系は水溶液としてはアルカリ性。
  • の幹細胞は輪部にあり、の範囲が予後を決める。白い輪部は重症のしるし。
  • 経過は直後・急性期(0〜7日)・早期修復期(7〜21日)・晩期修復期(21日以降)。晩期には・・重い・の角膜への侵入・と瘢痕・角膜盲。
  • ⭐ 応急処置:現場でただちに水道水かで大量に洗う。眼を開けたまま上眼瞼をし、石灰などの粒子を除く。少なくとも30分、またはの pH が7.0〜7.2に戻るまで。洗浄後5分以上おいて pH を測り直す。中和剤は使わない。眼科でも洗浄を続け、視力・で重症度を分類する。
  • Roper-Hall 分類:角膜のとで I〜IV に分け、が半分を超えれば IV で予後不良。Dua 分類:輪部の時間数との割合で I〜VI、Roper-Hall IV を IV〜VI に細分し重症例の予後をよく分ける。
  • 急性期:軽症はと。重症は抗菌薬・ステロイド点眼(最初の7〜10日、1週間を過ぎたら減量)、・清、(従来は1日1,000 mg、現行は成人で内服2 g を1日4回)、ドキシサイクリン100 mg 1日2回(小児では避ける)、羊膜。も管理する。
  • 早期修復期:・清、始まったの癒着をはがす、羊膜か自己で角膜を覆う。晩期:、瞼の矯正、、。
  • 予後は外傷の重さ、ただちに洗ったか、合併症を防ぐ治療を受けたかで決まる。
  • 熱傷:炎・熱湯・蒸気・油・溶けた金属・爆発・たばこ。重さは温度と蓄熱量・時間・輪部の障害の割合で決まる。1,000℃を超える高蓄熱の物は角膜のまで壊すが、低温で溶ける金属は涙で冷えて角膜が保たれる。治療は軽症でと抗菌薬、重症でステロイドと癒着の予防、回復後にと瞼の矯正。
  • :頭部のと。・・・・・と黄斑円孔・。は蛋白の凝固と嚢の透過性亢進と熱、網膜はと網膜の血管の閉塞による。自然に治ることもあり、必要なら手術で回復を図る。

出典

  1. 1.Chemical (Alkali and Acid) Injury of the Conjunctiva and Cornea(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)化学外傷が眼外傷の11.5〜22.1%を占めアルカリが約60%であること、アルカリは細胞膜の鹸化で速く深く浸透し、酸は蛋白の変性でできる凝固層が障壁になって浅くとどまるが、フッ化水素酸は例外的に深く浸透すること、洗浄は手に入る無毒の液体(水道水でよい)ですぐに始め、少なくとも30分、1〜3 L、または生理的な pH(7.0〜7.2)に戻るまで続け、洗浄後少なくとも5分おいて pH を確かめ直すこと、酸やアルカリの溶液で中和しようとするとかえって障害を増やすこと、円蓋部を掃引し、瞼の痙攣には開瞼器や洗浄用レンズを使うこと、Roper-Hall 分類が角膜の所見と輪部虚血の程度に、Dua 分類が輪部の障害の時計の時間数と結膜の障害の割合に基づくこと、ステロイド点眼は最初の7〜10日に頻回に使い、約1週間後からはコラーゲンの分解が合成を上回るおそれから減量し、上皮が治らなければ10〜14日で減量を考えること、アスコルビン酸は内服で成人2 g を1日4回・点眼で10%を1時間ごと、大量のビタミン C は腎機能低下例で腎毒性に注意すること、ドキシサイクリンは100 mg 1日2回(小児では避け、妊娠可能な年齢の女性では慎重に)、クエン酸はキレート作用で蛋白分解を抑えること、羊膜移植が中等症〜重症で炎症を抑え上皮化を促すこと、輪部幹細胞移植と人工角膜が晩期の選択肢であることを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Acute Chemical Eye Injury and Limbal Stem Cell Deficiency-A Prospective Study in the United Kingdom(Cornea(Ghosh S, et al.)・2018)抄録で、英国の単一施設の前向き研究で急性化学外傷98人110眼(年間発生は人口10万人あたり5.6人と推定、52%が職場、78%がアルカリ)を調べ、Roper-Hall と Dua の I〜III 度は点眼治療だけで予後がとても良かった一方、Roper-Hall IV 度(Dua IV〜VI 度)の4例はいずれもアンモニアによる暴行で、早期の羊膜移植を含む治療を行っても全周または重い輪部幹細胞欠乏に進んだこと、結膜の障害を含む Dua 分類のほうが最終転帰の予測に価値が高いと結論したことを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.A new classification of ocular surface burns(British Journal of Ophthalmology(Dua HS, King AJ, Joseph A)・2001)出版社版 PDF の全文(Wayback 保存版)で、Table 1 の Roper-Hall 分類が I(角膜上皮の障害・輪部虚血なし・予後良い)、II(角膜の混濁があるが虹彩の細部が見える・輪部虚血1/3未満・良い)、III(上皮の全欠損と実質の混濁で虹彩の細部が見えない・1/3〜1/2・要注意)、IV(角膜が不透明で虹彩も瞳孔も見えない・1/2超・不良)であること、Table 2 の新しい分類が I(輪部0時間・結膜0%、予後とても良い)、II(3時間未満・30%未満、良い)、III(3〜6時間・30〜50%、良い)、IV(6〜9時間・50〜75%、良い〜要注意)、V(9〜12時間未満・75〜100%未満、要注意〜不良)、VI(輪部全周12時間・結膜100%、とても不良)の6段階で、輪部の時間数と結膜の割合を「6.1-9/51-75%」のような連続尺度でも記録し、結膜は円蓋部までの球結膜だけで数えること、Roper-Hall 分類は角膜の所見と輪部虚血の範囲による1965年の分類で、Dua 分類の4〜6度はすべて Roper-Hall の IV 度(予後不良)に入ること、1時間分でも輪部上皮が生き残っていれば角膜の少なくとも視軸を上皮で覆い直せる見込みがあること、アルカリ(アンモニア・水酸化ナトリウム・石灰やセメントの水酸化カルシウム)が親水性と親油性をもって細胞膜を速く通り前房に入り、酸は角膜の蛋白が緩衝し凝固組織が障壁になるため障害が小さいこと、熱傷の原因に花火の爆発・蒸気・熱湯・溶けた金属(多くはアルミニウム)があることを確認した。閲覧 2026-09-29