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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

黄斑円孔

Macular hole

別名
全層黄斑円孔特発性黄斑円孔FTMH
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体
鑑別疾患
網膜前膜
症状
変視症視力低下中心暗点
スコア
Watzke-Allen試験
原因となる疾患
黄斑分離症硝子体黄斑牽引

🧠 全体像:黄斑円孔は、の網膜がからまで全層でした状態である1。原因の大半は加齢に伴うの引っ張りで、の行き着く先にあたる。⭐ 臨床で効くのは病期の名前ではなく「円」と「牽引の有無」の2つ——この2つが手術の術式(をどう扱うか)とを決めるからである。⚠️ 「円孔に見える」所見の多くは全層ではない(・)。全層かどうかはOCTでしか決められない。

誰に起こるか

特発性黄斑円孔は60〜70歳代の女性に多い。米国の研究では発症率が年間10万人あたり7.8人、女性優位(F:M=3:1、報告により1.2:1〜7:1)とされる2。の報告は2〜28%と幅があり2、も必ず診る理由になる。

💡 加齢と女性優位という組み合わせは、のとの起こり方の性差を反映していると考えられている。 発症の主体はあくまで側にある。

どうやって穴が空くか

出発点はと同じで、が均一に進まないことである。周辺のが先に剥がれ、接着の強いだけが離れ残ると、その1点に前後方向の牽引が集中する。は網膜の中で最も薄く、を欠くため(組織学 17.1)、構造的にもっとも切れやすい。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefaction'>液化</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior vitreous detachment'>後部硝子体剥離</span>の開始"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>の付着だけが残る<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreomacular adhesion'>硝子体黄斑癒着</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foveal contour'>中心窩形態</span>が歪む<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreomacular traction'>硝子体黄斑牽引</span>)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudocyst'>偽嚢胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schisis cavity'>分離腔</span>ができる"]
    D --> E["全層で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>する<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-thickness macular hole'>全層黄斑円孔</span>)"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>が完全に剥離し牽引が解除される"]

⚠️ この連鎖は必ず最後まで進むわけではない。 途中でが完全に剥離すれば牽引は解除され、穴は空かない。逆に、いったん空いたでも4〜11.5%はすると報告されている2。

一次性・二次性の区別もここで決まる。IVTSはによるものを一次性、以外の病態に直接起因するものを二次性と定める1。外傷・・や網膜手術後などが二次性の代表で、二次性ではを切除しても背景の病態が残る。

IVTS分類:径と牽引で分ける

IVTSは2013年、OCTの解剖所見だけを根拠にしたの分類を示した1。・と並んでを定義し、円孔を径と牽引の有無で細分する。

因子 区分
径(の水平径) 小 250 µm以下/中 250〜400 µm/大 400 µm超2
あり/なし2
一次性(による)/二次性(それ以外の病態による)1

⭐ 径は「の水平径」で測る。 円孔はOCT断面でに見えることが多く、網膜表面の開口部(頂点の径)は網膜中層のくびれより広い。どこを測るかで区分が変わるため、測定点が定義に含まれている。

⚠️ 径の µm 区分は IVTS 原著の本文にあるもので、PubMed のには数値そのものは載っていない。 上表の数値は原著の分類を逐語で引用している総説から採った2。

Gass分類との関係

IVTS以前は、OCTが普及する前に所見から作られたが使われていた。今も病期の呼称として文献に残るので対応を押さえておく。

Gass病期 内容
1 の消失。まだではなく、約半数は自然消退しうる
2 の全層欠損で400 µm未満
3 全層欠損で400 µm超
4 3に完全なを伴うもの2

💡 Gassの400 µmとIVTSの400 µmは同じ線ではあるが、意味づけが違う。 Gassでは病期の進行段階、IVTSでは治療反応を予測する解剖学的サイズである。⚠️ IVTSの「小 250 µm以下」に相当する区分はGassには無いので、両者を混ぜて「2=中サイズ」と読み替えない。

症状と診察

そのものが欠けるので、症状は中心視の症状に限られる。

⚠️ 片眼ずつ確認しないと気づかれない。 両眼で見ているとが補ってしまう。

は、を通して細いをに当て、患者に線の見え方を言わせる検査である。では線の中央が「途切れる」と訴え(陽性)、では「中央が細くなる・曲がる」と訴えてはない2。

⭐ ただし確定はOCTで行う。 は患者の主観に依存し、全層かどうかという定義そのものが「からまでの」というOCTの言葉で書かれている1。診察室の所見はOCTを撮る根拠であって、代わりにはならない。

「円孔に見えるが全層ではない」もの

⚠️ ここを外すと、手術の要らない眼に手術を勧めることになる。

欠損の深さ からまで全層1 欠損なし。膜による形態の変形 の欠損
成り立ち (一次性)または他病態(二次性) が周囲を縮ませ、断面がな陥凹に見える 円孔形成が全層に至らず途中で止まった、またはが剥がれた
Watzke-Allen 線がする 線が細くなる・屈曲するがしない2 しない
の底 網膜組織が無い 底に網膜組織が残る 底に網膜組織が残る

💡 区別の決め手は一つで、「の底に網膜組織が残っているか」である。 もも底は残る。OCT断面でこの1点を見れば、見かけの陥凹の深さに惑わされない。のがにあるときも同じで、天井()が残っていればではない。

治療

手術が原則

無症候で視力の良い小円孔を経過観察することはあるが、視力に影響するの治療はである。が手術の中心で、を加えることでが改善した2。手術は3つの操作の組み合わせで理解する。

  1. :牽引そのものを断つ。が残っていれば併せて剥がす。
  2. :周囲のの硬さを取り除き、網膜が寄れるようにする。
  3. :C3F8・C2F6・SF6・空気とその組み合わせが用いられる2。ガス泡で円孔を覆い、閉鎖するまで支える。

術後の保持が併用される。⚠️ StatPearlsは「400 µm 未満の円孔の閉鎖に有用でありうる」と記すが、これは出典側の誤りと考えられる——5件・358眼(183眼/非175眼)のでは、400 µm 未満ではのが無く(1.32、95%信頼区間0.39〜4.49、P = 0.66)、400 µm 超で有意にが高かった(2.95、1.10〜7.94、P = 0.03)3。⭐ 径が大きいほどが要る——これは径が大きいほどのが出ることと同じ向きを指している。⚠️ 日数は施設によって扱いが分かれており、本ノートでは示さない。

径が術式を決める

⭐ ここが「円を測る」ことの実利である。

大きい円孔では、剥がしたを切り取らずに円孔の上へ折り返すが用いられる。円孔最小径400 µm超を対象とした4件・276眼のでは、解剖学的閉鎖が反転フラップ法94.8%(128/135眼)に対し従来の78.7%(111/141眼)、4.89(95%信頼区間2.09〜11.47)だった4。円孔の縁が寄って正常なに近づくtype 1 閉鎖でも差が大きく、83.7%対53.2%(5.23、95%信頼区間2.83〜9.66)で、術後logMAR視力も反転フラップ法で良好だった(0.17、95%信頼区間0.11〜0.24)4。

⚠️ この差は「大きい円孔」で示されたものである。 400 µm超という母集団の話であり、小さい円孔で同じがあるという結果ではない。⭐ 小さい円孔は従来のでもよく閉じるため、フラップのが残っていない、と読むほうが素直である。

牽引の有無が「薬で済むか」を決める

牽引を伴う小さい円孔では、に酵素を注射してを解除するが検討されうる。⚠️ はで2023年8月30日に販売承認が撤回されており、入手できない国がある(詳細と成績はのノート)。牽引の無い円孔にはそもそも適応が無い——切る対象が無いからである。

まとめ

  • 黄斑円孔はからまでの全層がでした状態で、によるものが一次性、他の病態によるものが二次性である1。
  • 特発性は60〜70歳代の女性に多く、発症率は年間10万人あたり7.8人、の報告は2〜28%と幅がある2。
  • IVTS分類は径(の水平径で小 250 µm以下・中 250〜400 µm・大 400 µm超)との有無で細分する2。の400 µmと数字は重なるが、意味づけは別である。
  • 症状は・・。で線のを訴えれば全層を疑うが、確定はOCTである。
  • ・との分かれ目は「の底に網膜組織が残るか」の1点にある。
  • 治療は++。400 µm超の円孔ではがを高める(94.8%対78.7%、4.89)4。

出典

  1. 1.The International Vitreomacular Traction Study Group classification of vitreomacular adhesion, traction, and macular hole(Ophthalmology (International Vitreomacular Traction Study Group)・2013)全層黄斑円孔を「内境界膜から網膜色素上皮まで全網膜層が断裂した中心窩病変」と定義し、硝子体牽引によるものを一次性・硝子体黄斑牽引以外の病態に直接起因するものを二次性とすること、全層黄斑円孔をOCTで測った円孔径と硝子体黄斑牽引の有無で細分すること、硝子体黄斑癒着を「中心窩周囲の硝子体分離が残存する硝子体黄斑付着を伴い中心窩形態が乱れていないもの」、硝子体黄斑牽引を「異常な後部硝子体剥離に中心窩の解剖学的な歪みを伴うもの」と定義すること、この分類が治療成績を予測しうる臨床応用可能な体系を意図していることを確認した。PubMedの抄録(Ophthalmology 2013;120(12):2611-2619)を閲覧しており全文は未取得で、抄録には円孔径の µm 区分そのものは記載されていない。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Macular Hole(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)IVTS分類の第1因子である円孔径を「最狭部の水平径」と定義し、250 µm以下を小、250〜400 µmを中、400 µm超を大とすること、第3因子が硝子体黄斑牽引の有無であることを逐語で記載していること、Gass分類のステージ1が中心窩陥凹の消失で約半数が自然消退しうること・ステージ2が400 µm未満の全層神経感覚網膜欠損・ステージ3が400 µm超・ステージ4がステージ3に完全な後部硝子体剥離を伴うものであること、Watzke-Allen試験で細いスリット光を中心窩に当てたとき全層黄斑円孔では線の断裂を訴え、偽円孔では中央での細まりや屈曲を訴えて断裂はないこと、全層黄斑円孔の自然閉鎖が4〜11.5%に生じること、米国の研究で発症率が年間10万人あたり7.8人・女性優位(F:M=3:1、範囲1.2:1〜7:1)で60〜70歳代に多いこと、両眼罹患が2〜28%と幅広く報告されていること、扁平部硝子体切除術が手術の中心で内境界膜剥離が閉鎖率を改善したこと、タンポナーデにC3F8・C2F6・SF6・空気とその組み合わせが用いられることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Macular hole surgery recovery with and without face-down posturing: a meta-analysis of randomized controlled trials(BMC Ophthalmology・2019)無作為化比較試験5件・伏臥位群183眼/非伏臥位群175眼のメタアナリシスで、全体の黄斑円孔閉鎖率は伏臥位群で有意に高かったこと(オッズ比2.27、95%CI 1.02〜5.05、P = 0.04)、円孔径400 µm未満のサブグループでは伏臥位群の閉鎖率が有意に高くなかったこと(オッズ比1.32、95%CI 0.39〜4.49、P = 0.66)、円孔径400 µm超では伏臥位群の閉鎖率が有意に高かったこと(オッズ比2.95、95%CI 1.10〜7.94、P = 0.03)、結論が「400 µm未満では術後伏臥位は不要と思われるが、400 µm超では強く推奨されうる」であることを、Europe PMC の全文(PMC6925505)で逐語確認した閲覧 2026-09-03
  4. 4.Inverted ILM flap technique versus conventional ILM peeling for idiopathic large macular holes: A meta-analysis of randomized controlled trials(PLoS One・2020)円孔最小径400 µm超を「大きい黄斑円孔」と定義した無作為化比較試験4件・276眼(反転内境界膜フラップ法135眼、従来の内境界膜剥離141眼)のメタアナリシスで、解剖学的閉鎖が反転フラップ法128/135眼(94.8%)・従来法111/141眼(78.7%)、統合オッズ比4.89(95%信頼区間2.09〜11.47、P=0.0003)であったこと、type 1 閉鎖が113/135眼(83.7%)・75/141眼(53.2%)、統合オッズ比5.23(95%信頼区間2.83〜9.66、P<0.00001)であったこと、術後logMAR視力が反転フラップ法で良好(加重平均差0.17、95%信頼区間0.11〜0.24、P<0.00001)であったことを確認した。閲覧 2026-09-03