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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

黄斑分離症

Myopic foveoschisis

別名
近視性黄斑分離症中心窩分離症近視性中心窩分離
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体
鑑別疾患
硝子体黄斑牽引
続発疾患
黄斑円孔網膜剥離
関連疾患
近視性脈絡膜新生血管
症状
視力低下変視症近視
画像所見
後部ぶどう腫

🧠 全体像:()は、の内側で網膜が層と層の間で裂けて広がる病態である。⭐ 核心は「外側のは伸びるのに、だけが伸びない」という一点にある1。を引き留めているのは・・・で、この4つが手術で何を剥がすかをそのまま決める。⚠️ 恐いのは分離そのものではなく、その先にある黄斑円孔とである——そして眼の黄斑円孔は閉じにくい。⚠️ とは別の病気であり、名前が似ているだけである。

用語の整理

は、眼で網膜に牽引が加わって生じる病態の総称で、・なども含む1。そのなかでだけがに固有の病態である1。

⚠️ 「=」ではない。 前者は後者に含まれる一つの病態であって、同義語ではない。

は「眼における黄斑円孔を伴わないの」として1958年にPhillipsが症例報告し、約40年後にTakanoとKishiがOCTを用いて眼にとが多いことを見いだした1。

なぜ層が裂けるか

前提はである。はで最も多い所見で、とを分ける鍵になる因子でもある2。が後方へ膨らむと、その内側を裏打ちする網膜には引き伸ばす力がかかる。

⭐ このときはほど伸びない。 OCTでとの間に分離が生じる像から、この「のほうが柔軟性に乏しい」という仮説が立てられた1。

の柔軟性を制限する因子は4つある1。

因子 手術での扱い
網膜に接着した の作成で除く
剥離する。眼では認識しにくいが顕微鏡レベルでは存在する
(ILM) 剥離の要否に議論が残る
剥がせない。のテント状の隆起がの位置と一致する
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial elongation'>眼軸伸長</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior staphyloma'>後部ぶどう腫</span>"] --> B["外側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='globe wall'>眼球壁</span>が後方へ膨らむ"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outer retina'>外層網膜</span>は追随するが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner retina'>内層網膜</span>は伸びにくい"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous cortex'>硝子体皮質</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiretinal membrane'>網膜前膜</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal limiting membrane'>内境界膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal vessel'>網膜血管</span>"] --> C
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoschisis'>網膜分離</span>型<br>(分離のみ)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foveal detachment'>中心窩剥離</span>型<br>(限局した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-thickness macular hole'>全層黄斑円孔</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular hole retinal detachment'>黄斑円孔網膜剥離</span>"]

⚠️ この連鎖は必ず進むわけではない。 何年も安定したままのこともある(後述の)。

OCTで何を見るか

は眼底では網膜のわずかな隆起として見えるにすぎず、萎縮眼底では特に、正確な診断にはOCTが不可欠である1。

OCT所見 意味
複数の網膜層にまたがる分離 そのもの
を橋渡しする柱状構造(column) 残存したと推定される1
の分離(ILM detachment) 由来の牽引の良い指標1
のテント状の隆起 の位置と一致する()1
ellipsoid zone の保たれ方 ⭐ 部では典型的に保たれる。部では消失することがある1

💡 ellipsoid zone がでは保たれるという所見が、「分離だけならの機能は保たれている」という臨床像を説明する1。だから視力が意外に良い患者が多く、それが手術適応の判断を難しくする。

2つの亜型

亜型 内容
型 を伴わない分離のみ1
型 限局したを伴い、がから離れる1

自然経過

⭐ 数字は一つの症例集積に依存しており、母集団を意識して読む。 平均屈折−14.4 D・平均29.1 mmの23例29眼(手術例11眼を含む)を平均31.2か月追跡した研究である3。

ベースラインのOCTでは、は単独ではなく他の黄斑異常と併存していることが多かった3。

併存所見 頻度(29眼中)
13眼(44.8%)
10眼(34.5%)
6眼(20.7%)
孤立性の 4眼(13.8%)

追跡期間中、20眼で分離と視力が悪化し、9眼では安定していた3。は9眼に生じ、そのうち6眼では先行してを認めていた3。悪化した20眼のうち10眼にはがあった3。

⭐ この研究のは2つの条件文でできている3。

  1. は視力に影響せず何年も安定していることがある。⚠️ ただし「安定しうる」は「安定する」ではない——総説は上記研究と並べて、を伴う症例の50%が2年で黄斑円孔またはを来したとする別報告を引き、これらの観察が「より重篤な状態を防ぐための手術を後押しする」と述べている1。
  2. ただしを伴えばのリスクが上がり、を伴えば手術の有無にかかわらず黄斑円孔がしばしば生じる。

💡 つまり「分離があるか」ではなく「があるか」が経過を分ける。 型は、分離型と同じ病気の別の重症度ではなく、円孔へ進む一歩手前として扱う。

黄斑円孔・網膜剥離との関係

⚠️ ここが本症を学ぶ最大の理由である。

眼の黄斑円孔は、の特発性黄斑円孔とは成り立ちが違う。が網膜層の分離を誘発し、それが性黄斑円孔における foveoschisis につながる——これが性黄斑円孔との黄斑円孔を分ける重要な因子である2。

眼の黄斑円孔には2種類ある1。

型 特徴 経過
円孔縁がで肥厚した型 周囲にを伴わない 数か月から数年、変化しないことが多い
周囲にを伴う型 から生じる ⚠️ 下地の牽引のため典型的に急速に進行する

⚠️ ⭐ 眼の黄斑円孔は閉じにくい。 またはを伴う黄斑円孔のOCT上のは約40〜50%にとどまる1。を伴う黄斑円孔に対する後の平均視力は20/200未満、は約50〜70%であった1。💡 のせいで網膜が極度に引き伸ばされていることが、この難しさの背景と考えられている1。が長いほど予後は悪い1。

💡 黄斑円孔のノートで扱う一次性・二次性の区別でいえば、から生じる円孔は二次性にあたる。を切っても背景のは残る、という点が予後の悪さそのものである。

⚠️ X連鎖先天性網膜分離症と混同しない

名前も「網膜が分離する」という所見も似ているが、別の疾患である。

(性)
による機械的牽引1 RS1の(X連鎖遺伝)4
発症 の経過中(成人) 10歳までに発症(生後3か月という早期の報告もある)4
罹患者 性差を問わない 男性が発症する4
分離の層 複数の網膜層1 黄斑の深部網膜層にと分離。に見えることがある4
主たる病変ではない 主に耳下側の分離が約50%に生じる4
視力の経過 ・円孔の発生で低下 典型的に20/60〜20/120。20歳までに低下し、その後40〜50歳代まで比較的安定4

治療

手術適応

⚠️ 無症候のは良い手術適応ではない。 少なくない数の患者が手術によって視力を落とすからである1。

術前の状態 視力改善の見込み
のみ 例より小さい1
あり 分離のみより大きい1
黄斑円孔あり ⚠️ 大幅に小さい1

⭐ この並びは「円孔ができる前に手を打てるか」を問うている。 の段階が手術のが最も大きい時期であり、円孔ができてしまうと得られるものが減る。

術式

  • の作成が決定的に重要である1。・・が網膜表面に強固に接着しているため、極めて薄い膜を剥がす器具が用いられる1。⚠️ 黄斑部でを分離する際は黄斑円孔を作ってしまうリスクに細心の注意を払う1。
  • の要否には議論が残る。 ただし多くの眼でOCT上、が他の網膜層から分離しており、の硬さが関与していることを示唆する1。
  • のを残す非が導入された。術後黄斑円孔の発生は有意に減ったが、⚠️ が上がったほどには視力は変わらなかった1。
  • 眼の黄斑円孔に対しては、黄斑円孔と同じくがを高めうる。⚠️ ただしを伴う例での視力上の利益は証明されていない1。
  • 黄斑周囲には凝固の手段がないため、との接着が回復するまで長く支える必要がある。長時間作用型ガス()のタンポナーデがを高め、も有効な選択肢である1。

術後合併症

⚠️ に対する後、10〜20%に黄斑円孔が開く1。極度に薄く伸展したにを行った症例がこの合併症のリスクを負う1。

⭐ 予測因子は術前のOCT所見である。 術前の ellipsoid zone のが黄斑円孔発生の予測因子であり、年齢・性別・視力はに影響しなかった1。

分類における位置づけ

ATN分類はを萎縮(A)・牽引(T)・血管新生(N)の3軸で記述する体系で、萎縮の軸はMETA-PM分類の5カテゴリーをそのまま用いる1。牽引の軸が新設された部分で、およびのfoveoschisis・・黄斑円孔・の5段階からなる1。

💡 この5段階は、本ノートで追ってきた進行の順序そのものである。 血管新生の軸にはを含むMETA-PM分類のplus病変が置かれる1。

まとめ

  • はの内側でがほど伸展できず、層間で裂ける病態である。のうちに固有の病態である1。
  • を引き留めるのは・・・の4つで、これが手術で何を剥がすかを決める1。
  • OCTではを橋渡しする柱状構造との分離が特徴的で、⭐ では ellipsoid zone が保たれるため視力が保たれていることが多い1。
  • は一様でない。29眼を平均31.2か月追跡した研究では20眼が悪化・9眼が安定し、⭐ を伴う例では黄斑円孔がしばしば生じた3。
  • ⚠️ から生じた黄斑円孔は下地の牽引のため急速に進行し、眼ではが約40〜50%と閉じにくい1。
  • 無症候例は手術適応にならない。の段階が最もが大きく、円孔ができてからでは得られるものが減る1。
  • ⚠️ 術後10〜20%に黄斑円孔が開き、術前の ellipsoid zone のが予測因子である1。
  • ⚠️ RS1によるは別疾患で、10歳までに発症し黄斑のが分離する4。

出典

  1. 1.IMI Pathologic Myopia(Investigative Ophthalmology & Visual Science(International Myopia Institute; Ohno-Matsui K, et al.)・2021)近視性牽引黄斑症が高度近視眼で網膜に加わる牽引に由来する病態の総称で網膜前膜・層状円孔などを含み、そのうち近視性黄斑分離症(myopic foveoschisis)が病的近視に固有の病態であること、黄斑分離症が「高度近視眼における黄斑円孔を伴わない後極の網膜剥離」として1958年にPhillipsが症例報告し、約40年後にTakanoとKishiがOCTで高度近視眼に網膜分離と中心窩剥離が多いことを見いだしたこと、後部ぶどう腫の内側で内層網膜と外層網膜が分離するOCT像から内層網膜が外層網膜より伸展しにくいという仮説が立てられたこと、内層の柔軟性を制限する因子として網膜に接着する硝子体皮質・網膜前膜・内境界膜・網膜血管が挙げられること、OCTで分離腔を橋渡しする柱状構造(残存Müller細胞と推定される column)が見えること、内境界膜が他の網膜層から分離する所見(ILM detachment)が内境界膜由来の牽引の良い指標であること、内層のテント状の隆起が網膜血管の位置と一致すること、網膜剥離部では視細胞のellipsoid zoneが消失することがある一方で網膜分離部では典型的に保たれ視細胞機能が保たれていることを示唆すること、黄斑分離症に網膜分離型と中心窩剥離型の2亜型があること、高度近視眼の黄斑円孔に「円孔縁が網膜嚢胞で肥厚し周囲に網膜剥離を伴わず数か月から数年変化しない型」と「周囲に網膜分離を伴い下地の牽引のため典型的に急速に進行する型」の2種類があること、無症候の黄斑分離症は術後の視力低下が少なくない数で起こるため良い手術適応ではないこと、中心窩剥離を伴う症例のほうが網膜分離のみの症例より術後視力改善の可能性が大きく術前に黄斑円孔があると改善の可能性が大幅に小さいこと、網膜剥離を伴う黄斑円孔に対する硝子体切除術後の平均視力が20/200未満で初回復位率が約50〜70%であったこと、網膜分離または網膜剥離を伴う黄斑円孔のOCT上の閉鎖率が約40〜50%であること、眼軸長が長いことが一般に予後不良因子であること、後部硝子体剥離の作成が手術で決定的に重要であること、内境界膜剥離の要否には議論が残るが多くの眼でOCT上内境界膜が分離しており内境界膜の硬さが関与すると示唆されること、中心窩の内境界膜を残す非中心窩内境界膜剥離が術後黄斑円孔の発生を有意に減らした一方で視力は解剖学的成功率の向上ほどには変わらなかったこと、反転内境界膜フラップ法が高度近視例の黄斑円孔閉鎖率を従来法より高めうること、長時間作用型ガス(パーフルオロプロパン)タンポナーデが解剖学的成功率を高めシリコーンオイルも有効な選択肢であること、黄斑分離症に対する硝子体切除術後の黄斑円孔開孔が10〜20%に生じ術前のellipsoid zoneの断裂が予測因子で年齢・性別・視力は発生率に影響しなかったこと、ATN分類が牽引成分として内層および外層のfoveoschisis・中心窩剥離・黄斑円孔・網膜剥離の5段階を新たに含めたことを、Europe PMC の全文(PMC8083114)で確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Myopic maculopathy: Current status and proposal for a new classification and grading system (ATN)(Progress in Retinal and Eye Research(Ruiz-Medrano J, et al.)・2019)病的近視が先進国における不可逆的失明原因の第4位であること、高度近視が眼軸伸長(26〜26.5 mm)を背景とする強い近視性屈折異常(−6〜−8 Dより強い)として定義され、高度近視と病的近視がしばしば互換的に用いられるが同じ疾患を指さないこと、病的近視の発症を駆動する2因子が眼軸長の伸長と後部ぶどう腫であること、後部ぶどう腫が病的近視で最も多い所見であり高度近視と病的近視を分ける鍵となる因子であること、後部ぶどう腫の存在が多くの場合やがて萎縮性・牽引性・血管新生性の黄斑症へつながること、後部ぶどう腫が網膜剥離を伴う/伴わない近視性黄斑円孔と特発性黄斑円孔との違いの原因であること、後部ぶどう腫が典型的に網膜層の分離を誘発して近視性黄斑円孔におけるfoveoschisisにつながり、これが近視性黄斑円孔と正視眼の黄斑円孔を分ける重要な因子であることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Long-term follow-up of high myopic foveoschisis: natural course and surgical outcome(American Journal of Ophthalmology(Gaucher D, et al.)・2007)近視性黄斑分離症の23例29眼(手術例と非手術例を含む)を平均31.2か月追跡した後方視的観察症例集積で、平均屈折が−14.4 D・平均眼軸長が29.1 mmであったこと、OCTで黄斑分離症に併存した所見が前黄斑構造29眼中13眼(44.8%)・中心窩剥離29眼中10眼(34.5%)・層状黄斑円孔29眼中6眼(20.7%)で、孤立性の黄斑分離症は4眼(13.8%)であったこと、追跡期間中に黄斑分離症と視力が20眼で悪化し9眼では安定していたこと、悪化した20眼のうち10眼に前黄斑構造があったこと、黄斑円孔が9眼に生じそのうち6眼では先行して中心窩剥離を認めていたこと、手術を受けた11眼では視力が有意に改善した(P = .04、Wilcoxon検定)が3眼で黄斑円孔が生じたこと、結論が「黄斑分離症は視力に影響せず何年も安定していることがあるが、前黄斑構造を伴うと視力低下のリスクが上がり、中心窩剥離を伴うと手術の有無にかかわらず黄斑円孔がしばしば生じるようである」であることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03
  4. 4.X-Linked Congenital Retinoschisis(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2020)X連鎖先天性網膜分離症が両眼対称性の黄斑病変を特徴とし生後3か月という早期を含めて10歳までに発症すること、眼底では黄斑の網膜神経線維層の分離が車軸状に見えることがあること、周辺網膜(主に耳下側)の分離が約50%に生じること、罹患男性の視力が典型的に20/60〜20/120であること、視力が20歳までにしばしば低下しその後は40〜50歳代まで比較的安定すること、診断が示唆的な眼所見をもつ男性発端者でRS1のヘミ接合性病的バリアントを同定することで確定すること、X連鎖遺伝であることを確認した。閲覧 2026-09-03