眼科学

眼科学 · ML-44B

後眼部の遺伝性疾患

Genetic diseases of the posterior segment

前提:正常
網膜の視細胞単一遺伝子遺伝

🧠 全体像:は、どの細胞が最初に壊れるかで整理すると覚えやすい。杆体が先ならとの狭窄で始まり()、錐体が先なら昼盲・・の低下・で始まる(錐体・)。黄斑だけならだけが落ち(Stargardt病・Best病・X連鎖性若年)、杆体も錐体も最初からなら乳児期から見えない()。どの病気も両眼性で、診断は眼底++の組み合わせで決まる。治療はまだ限られるが、RPE65 の遺伝子治療が承認され、遺伝子の特定が治療への入口になった。

遺伝性網膜・硝子体網膜ジストロフィーとは

項目 内容
定義 遺伝子の変異で起こる、両眼性の病気の群
障害される組織 ・RPE・の形と機能
約2,000人に1人(世界で400万〜500万人)
多様性 臨床的にも遺伝的にも多様。1つの遺伝子が複数の病気を起こし、1つの病気が多数の遺伝子で起こる
経過 進行しないもの(停在性)と進行するもの。進行性には全身症状を伴うと、眼だけのがある

💡 「1遺伝子で複数の病気」の例が ABCA4 で、変異の重さによって Stargardt病にもにもに近い病像にもなる。逆には100を超える遺伝子のどれでも起こる。だから病名だけではが決まらず、が要る。

遺伝形式の頻度

遺伝形式 遺伝性全体での割合
孤発例と(合わせて最多) 50〜60%
常染色体優性 30〜40%
X連鎖 5〜20%
ミトコンドリア(母系) ごくまれ

からの遺伝形式の見分け方と・遺伝子治療の原理は眼科と遺伝学的側面にまとめてある。

病気の分類

主に侵される細胞と、進行するかどうかで4群に分ける。

群 進行性 非進行性
1. 杆体が主に侵される(のちに錐体も) ()
2. 錐体が主に侵される(のちに杆体も) 錐体・、(Stargardt病・Best病・X連鎖性若年) (全色盲・青錐体一・・第3)
3. 杆体と錐体が全般に侵される 、状、コロイデレミア、のもの ―
4. 症 家族性症、Wagner病など ―
flowchart TD
    A["遺伝性網膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreoretinal'>硝子体網膜</span>ジストロフィー"] --> B["1. 杆体が先<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='night blindness'>夜盲</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral visual field'>周辺視野</span>の狭窄"]
    A --> C["2. 錐体が先<br>昼盲・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central visual acuity'>中心視力</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color vision deficiency'>色覚異常</span>"]
    A --> D["3. 杆体と錐体が全般に<br>乳幼児期からの重い視力障害"]
    A --> E["4. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreoretinal'>硝子体網膜</span>症<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>の異常と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>"]
    B --> B1["進行性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinitis pigmentosa'>網膜色素変性</span><br>非進行性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital stationary night blindness'>先天停在性夜盲</span>"]
    C --> C1["進行性:錐体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cone-rod dystrophy'>錐体杆体ジストロフィー</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular dystrophy'>黄斑ジストロフィー</span>"]
    C --> C2["非進行性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color vision deficiency'>色覚異常</span>"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leber congenital amaurosis'>Leber先天黒内障</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gyrus'>脳回</span>状萎縮・<br>コロイデレミア・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syndromic'>症候群性</span>"]
    E --> E1["家族性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exudate'>滲出性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreoretinal'>硝子体網膜</span>症・Wagner病・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Stickler syndrome'>Stickler症候群</span>・Norrie病など"]

1. 杆体が主に侵される進行性ジストロフィー:網膜色素変性

概念

はの同義語である。まず主に杆体(と RPE)が、のちに錐体が障害される。症状はゆっくり気づかれないうちに始まり、通常は数十年かけて末期に至る。

項目 内容
2,000〜4,000人に1人
130を超える遺伝子の変異
20〜30%。約140の遺伝子の変異

症状

症状 特徴
最初の症状。10代までに始まることが多い
絶えず進む。最後は筒をのぞくようなになる
錐体が侵されると低下する。でも落ちる
錐体が侵されると明るさがつらくなる

最初の症状は通常はで、続いて視野の狭窄が生じる1。では、中心部だけを残して周辺全体が暗く抜けた、ほぼ左右対称のを認める。

遺伝形式と予後

遺伝形式 割合 予後
孤発例(など) 53% ―
常染色体優性 22% 最も良い
16% 急速に進むこともある。中等度
9% 最も悪い
ミトコンドリア まれ ―

StatPearls の整理でも、が約5〜20%、常染色体優性が約15〜25%、が約5〜15%、残り約40〜50%が孤発例とされ、数字はおおむね一致する1。

眼底所見の進み方

眼底のは、・の・のである1。

病期 眼底
早期 正常に見える。それでもでは杆体の障害が出ている。色素の無い型はと呼ぶ
中期 血管の、色素のの変化。と RPE が壊れ、RPE から遊離したメラニンが網膜内に移動してを作る。の血管に沿って現れる
後期 著明な血管の、の。が前後に(周辺へもへも)広がる

中期の眼底では、黄斑と乳頭は比較的保たれ、アーケード血管の外側のに黒い骨小体様の色素が集まって見える。後期になると眼底全体の色調がくすみ、黒い色素が周辺部全体に広がり、乳頭は黄白色に蒼白化する。

flowchart TD
    A["杆体の遺伝子変異"] --> B["杆体が変性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='night blindness'>夜盲</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral visual field'>周辺視野</span>の欠損"]
    B --> C["RPE の障害<br>メラニンが網膜内へ移動"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midperiphery'>中間周辺部</span>の血管沿いに<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone spicule pigmentation'>骨小体様色素沈着</span>"]
    B --> E["杆体が失われると<br>錐体も二次的に変性"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular (tunnel) visual field'>管状視野</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>"]
    D --> G["後期:血管の著明な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='attenuation'>狭細化</span><br>乳頭の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='waxy pallor'>蝋様蒼白</span>"]
    F --> G

合併症

診断

手段 所見
・症状 、暗い所でつまずく、視野が狭い
眼底 上記の病期に応じた所見
家系の調査 遺伝形式の推定
視野 進んでいく
の低下 → の消失 → 錐体反応の低下 → 錐体反応の消失の順に進む
最初は周辺の、のちに中心の反応密度が低下する
OCT 約30%に
検査 杆体の閾値の上昇、の延長
が50を超えるので難しい。多数の遺伝子を一度に調べる遺伝子チップ・パネル検査を使う

では、早期にの振幅低下と延長が現れ錐体反応は保たれるが、進行すると振幅がさらに低下して最終的に記録できなくなる1。

⭐ 眼底がまだ正常に見える早期でも、でが落ちている。を訴える子どもの眼底が正常でも、を取らずに「異常なし」としない。

治療

治療 内容 位置づけ
1日15,000 IU(エステル)で進行を遅らせることを狙う 従来の推奨。Cochrane レビュー(2020)では利益があるかは不確か
1日25,000 IU 同上。有効性の根拠は乏しい
Cochrane レビューで利益は不確か
紫外線からの保護 サングラス 眩しさを和らげる
補助具 などの補助具 残った視機能を生かす(と)
()で浮腫を減らし、視力を上げる 合併症の治療として重要
網膜下 網膜の下にの電極チップを埋め込む人工網膜(ドイツ・テュービンゲン大学の開発) 末期の患者で研究的に使われた
jCell:ヒト網膜前駆細胞のをに注射する の段階
遺伝子治療 RPE65 変異:の(米国・欧州で承認) 対象は RPE65 があり生存網膜細胞が残る患者に限られる

に対するとの効果を統合した Cochrane レビューは、4件の(944人)を検討し、や、またはその両方に利益があるかは不確かだとした2。の進行を抑えた試験は無く、群での年間低下率がわずかに小さかった(6.1%対7.1%)試験が1件あるだけで、エビデンスの確実性は非常に低い2。

⚠️ の大量服用には注意がいる。

  • 妊娠中・妊娠を計画している女性では、の過剰は催奇形性があるので避ける。
  • ABCA4 変異(Stargardt病)では、の補充が RPE のの蓄積を早めるので避ける3(下の Stargardt病の項)。
  • ABCA4 変異に対するレンチウイルス遺伝子治療 StarGen はではなく Stargardt病を対象に開発された治療で、承認されていない(眼科と遺伝学的側面)。

網膜色素変性を伴う症候群

症候群 に伴うもの
感音難聴。に合併する症候群で最も多い
知的障害、肥満(体幹中心の著明な肥満)、(手の指が6本)

はに合併する症候群として最多で全患者の約18%を占め、・も代表的なの型である1。

💡 のは、が変形してできた構造である。・・Joubert症候群はの病気(病)なので、網膜・腎臓・脳・指などのに依存する臓器がまとめて侵される。

1. 杆体が主に侵される非進行性ジストロフィー:先天停在性夜盲

は、遺伝的に多様な病気の群である。

項目 内容
症状 。進行しない
発症 通常は小児期。遺伝形式はさまざま
眼底 特徴的な所見が無い(正常に見える)
診断 で陰性型:の は正常なのに が小さい
型 (X連鎖)、完全型(X連鎖)、白点状眼底()
14の遺伝子の変異

白点状眼底では、黄斑を避けてを中心に、無数の小さな黄白色の点が散らばる。

💡 陰性型は「は光に反応している(正常)が、その信号がに伝わらない(低下)」ことを意味する。の多くはからへの伝達の異常なので、この形になる。

2. 錐体が主に侵される進行性ジストロフィー

錐体が主に侵される進行性の病気には、網膜全体の錐体が侵される・と、特に黄斑が侵されるがある。

錐体・錐体杆体ジストロフィー

項目 内容
遺伝形式 主に常染色体優性(・もある)
経過 進行性、両眼性。主に錐体が侵される
まれ(2万〜10万人に1人)
発症 小児期後半(10歳頃)〜成人早期。生まれたときの錐体機能は正常
46の遺伝子の変異が知られる

の症状は次のとおりである。

眼底

所見 内容
黄斑 黄斑の RPE 萎縮、()。を取り囲む輪状の萎縮が標的のように見える
周辺 周辺の RPE 萎縮からのへ()。血管の、乳頭の蒼白
その他 、水尾-中村現象

水尾-中村現象は、明るい所で眼底が金色がかった金属様の光沢を示し、すると消える現象である。古典的にはでみられる。

診断

手段
昼盲 昼盲 →
眼底 早期は正常、のちに に加えて
萎縮部の窓陰影(RPE が薄くなりの蛍光が透けて見える) 同左
OCT 下の層が消える(の下での反射帯が途切れ低反射になる)。 同左
錐体反応の振幅だけが低下し、は保たれる 明所の反応が先に低下 → 杆体は長く保たれるが、やがて低下
中心の機能低下 中心の機能低下
視野 +
の特定 同左

治療

治療 目的
サングラス 光を減らしを上げる
赤色のコンタクトレンズ 光を減らし、杆体のを助ける
人工網膜 研究段階
の治療 で視力を上げ、を減らす
米国での(2016〜2021年)
遺伝子治療 ABCA4 変異に対する StarGen のは試験段階で終了し、承認されていない

💡 赤いレンズが役立つのは、杆体が長い波長(赤)の光にほとんど反応しないからである。赤い光だけを通せば、眩しさの原因になる光を減らしつつ杆体を暗い状態に保てる。

黄斑ジストロフィー

は、特に黄斑が侵される群である。症状はの低下とで、34の遺伝子の変異が知られる。代表は Stargardt病・Best卵黄様・X連鎖性若年の3つである。

Stargardt病 Best病 X連鎖性若年
遺伝形式 主に 常染色体優性 (男性のみ発症)
主な遺伝子 ABCA4 BEST1 RS1
発症 10代まで 3〜15歳(平均6歳) 5〜10歳
典型的な眼底 叩いた青様・様の黄斑病変、 卵黄様病変(目玉焼きの黄身) 黄斑のの嚢胞、耳下側の分離
正常 正常 陰性型(b/a比が1未満)
EOG 長く正常、のちに低下しうる 全病期で異常(保因者でも) ―
特徴的な の暗い Arden比が1.5未満 OCT で網膜の多層にわたる

Stargardt病

概念

項目 内容
位置づけ 最も多いの。主に、進行性、両眼性
8,000〜10,000人に1人。全体の約7%を占める3(「の7%」と整理されることもあるが、この割合は全体に対するもの)
発症 10代まで(小児期から思春期、成人早期に多い3)

遺伝的背景

型 割合 遺伝形式 遺伝子
STGD1 大多数 ABCA4
STGD3 まれ 常染色体優性 ELOVL4
STGD4 まれ 常染色体優性 PROM1

ABCA4 型が最も多く、ELOVL4 の STGD3 と PROM1 の STGD4 は ABCA4 型より少ない3。従来は「STGD1 が90%、STGD3 が10%」と整理されることがあったが、優性型はまれで、10%という割合は裏づけが乏しい。

病態

  • の輸送の障害 → 二次的な錐体(と杆体)の障害
  • 代謝の障害 → の延長
flowchart TD
    A["ABCA4 の変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outer (external) segment'>外節</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitamin A'>ビタミンA</span>由来の物質を運び出せない"]
    B --> C["毒性のあるビス<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoid'>レチノイド</span> A2E が生じる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outer (external) segment'>外節</span>を貪食した RPE に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipofuscin'>リポフスチン</span>として蓄積"]
    D --> E["RPE が障害される"]
    E --> F["黄斑の錐体・杆体が二次的に変性"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central visual acuity'>中心視力</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central scotoma'>中心暗点</span>"]
    B --> H["視覚回路の遅れ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark adaptation'>暗順応</span>の延長"]

💡 この病態から、治療の考え方が決まる。材料であるを摂りすぎない、A2E の生成を促す光を避ける、A2E を減らす薬を探す——という方向である。

症状

  • 両眼のの低下(重い例では視力0.05〜0.1)
  • (典型的ではない。後期に赤緑の異常)
  • の延長

眼底の進み方

段階 眼底
1 反射が消える
2 黄斑に細かな色素の乱れ
3 叩いた青様の黄斑病変(黄斑に境界のはっきりした楕円形の病変があり、内部は黄褐色で金属を叩いたようなまだらな光沢を示す)、または(を囲む輪状の萎縮)
4 RPE のと色素の乱れ(黄斑の広い範囲が萎縮し、黒い色素塊が散らばる)

検査

手段 所見
眼底 上記の病期に応じた所見
OCT 下の層(との接合部の反射帯)が消え、の陥凹が広く深くなる
暗い(従来の整理では約75%、EyeWiki では最大62%3。RPE のがの蛍光を遮る)、萎縮部の窓陰影(・萎縮)
FAF 萎縮部でが(黒く抜ける)。その周りに斑状のが散る
視野
EOG Arden比が下がることがある(長く正常で、のちに低下)
正常
中心の機能低下(長く保たれることもある)
延長
ABCA4 などの変異の確認

⭐ 暗いは Stargardt病を示唆する有名な所見である。の早い時期に、の背景蛍光が暗く沈み、だけが白く浮き上がって見える。

治療

治療 内容 位置づけ
の摂取制限 毒性のビス A2E を減らす 生活上の基本
光が有害物質の産生を促すため 生活上の基本
人工網膜 網膜上・網膜下の 研究段階
フェンレチニド A2E を減らし、RPE のの蓄積を抑えることを狙う 「FDA承認」と整理されることがあるが、Stargardt病の治療薬として承認されたものではなく、A2E を減らす他の薬とともに研究段階にある3
(Zimura) 阻害薬での拡大を抑えることを狙う。Stargardt病では第IIb相試験(ブダも参加) 米国で承認されている効能はに続発するだけで、Stargardt病には承認されていない
ヒトから作った RPE 細胞を網膜下に移植(第I/II相試験 2010〜2016年、長期追跡 2012〜2029年) の段階
遺伝子治療 StarGen(SAR422459):ABCA4 遺伝子をレンチウイルスに載せて網膜下に注射し、正常な ABCA4 を発現させる(2011〜2019年)。長期の安全性・・生物学的活性の(2012〜2033年) 第I/IIa相試験は2019年に中止。承認されていない

⚠️ Stargardt病は現在も治癒できない病気で、日常診療でできるのはと補助が中心である3。に使うも、効果は萎縮の進行を遅らせることで、視力を改善する薬ではない()。

Best卵黄様黄斑ジストロフィー

概念

項目 内容
位置づけ まれな、常染色体優性、進行性、両眼性の(Franz Best、1905年)
約23,000人に1人
発症 3〜15歳(学童期の初め、平均6歳)。成人の発症はまれ
遺伝子 BEST1(11q13)

症状

病態

flowchart TD
    A["BEST1 の変異"] --> B["RPE の働きの異常"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipofuscin'>リポフスチン</span>が RPE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subretinal space'>網膜下腔</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>の層に蓄積"]
    C --> D["RPE の変性"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>が二次的に障害"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central visual acuity'>中心視力</span>の低下"]

病期

病期 眼底 ・OCT
1. ほぼ正常(黄斑にわずかな変化) 自発蛍光もほぼ正常、OCT での輪郭は保たれる
2. 卵黄期 黄斑中央に円形の黄色い卵黄様病変(目玉焼きの黄身) 病変は自発蛍光で明るい。OCT では網膜下に高反射の物質が盛り上がる
3. 期 卵黄様物質が嚢の下方に沈み、上が透明・下が黄色の液面を作る 自発蛍光では下方に明るいの、OCT では網膜下に液の貯留した大きな空間
4. 卵黄破裂期 物質が崩れて炒り卵様のまだらな黄色い斑点 自発蛍光でまだらな明暗、OCT で網膜下の不規則な物質
5. 黄斑の萎縮 自発蛍光で黄斑が暗く抜け、OCT でが薄くなる

⚠️ や、どの病期にも起こりうるが、視力を大きく落とす原因になる。

検査

手段 所見
眼底 病期に応じた所見
OCT 病期に特徴的(例:卵黄期は網膜下の卵黄様病変)
EOG 全病期で異常、表現型が正常な保因者でも異常(Arden比が1.5未満)
c波の低下のほかは正常
中心の機能低下
病期により・が変わる
BEST1 の変異

⭐ Best病の決め手は EOG である。が正常なのに EOG の Arden比が1.5未満、という解離が診断の鍵になる。眼底に病変の無い保因者でも EOG は異常になるので、家族の診断にも使える。EOG の原理と正常値の考え方は眼科と遺伝学的側面を参照。

💡 c波は RPE が作る遅い陽性の成分である。Best病は RPE の病気なので、RPE 由来の EOG と c波だけが落ち、とが作る ・は保たれる。

治療

  • などの視覚補助具
  • → 直接の、PDT、の(など。現在はが中心)
  • 遺伝子治療(イヌで研究中)

X連鎖性若年網膜分離症

概念

項目 内容
遺伝形式 。進行性、両眼性のジストロフィー
性差 男児・男性だけが発症。女性は眼底もも正常な無症状の保因者
約22,000人に1人
発症 5〜10歳(で矯正できないの困難で気づかれる)
遺伝子 RS1(Xp22.2〜p22.1)

GeneReviews では、両眼対称性の黄斑病変が生後3か月という早期を含めて10歳までに現れ、罹患男性の視力は典型的に20/60〜20/120とされる4。視力は20歳までにしばしば低下し、その後は40〜50歳代まで比較的安定する4。

病態

flowchart TD
    A["RS1 の変異"] --> B["網膜の細胞どうしを<br>接着させるレチノスキシンが働かない"]
    B --> C["網膜の層どうしが離れる"]
    C --> D["黄斑:網膜内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystic space'>嚢胞腔</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spoke-wheel pattern'>車軸状</span>の模様"]
    C --> E["周辺:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoschisis'>網膜分離</span><br>主に耳下側"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central visual acuity'>中心視力</span>の低下"]
    E --> G["合併症:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cord-like structure'>索状物</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>"]

症状と所見

所見 内容
視力 両眼のの低下
黄斑病変(100%) 早期はを中心とする嚢胞様で、の模様(から放射状に並ぶ細かなひだ状の嚢胞)。後期はの萎縮
周辺の(50%) 典型的には耳下側。分離したにいくつもの円形の孔(円孔)が開いて見える
屈折 (軸性)
・眼振 眼振、
水尾-中村現象 明所で網膜に金色の光沢
合併症 との、

眼底では黄斑の分離がに見えることがあり、(主に耳下側)の分離は約50%に生じる4。

診断

手段 所見
家系の分析 母方の男性に患者がいる
眼底 黄斑のの模様、耳下側の分離
視野 と、耳下側の分離に対応する上鼻側の周辺
赤緑の
OCT の網膜内の。・・・・・層と多くの層に及び、特にに大きなができる
花弁状の漏出が無い(との違い)。後期に分離した腔へ色素がたまる(貯留)ことはある
陰性型の最大応答(b/a比が1.0未満)。は深く、の頂点が低くとどまる
中心の機能低下(中心部の波形が小さい)
RS1 の変異。男性で RS1 のを確認すれば確定する4

⚠️ OCT の見た目はに似るが、で漏出が無い点が違う。男児の両眼の「」で、蛍光漏出が無くが陰性型なら、この病気を疑う。

治療

治療 内容
嚢胞様 の点眼・内服
への適応は限られ、主な対象は・などの合併症(の疾患と手術)
遺伝子治療 2007年、マウスで Rs1h を載せたをに注射し、嚢胞様とが消え、陰性型も消えた。2014〜2021年、米国国立眼研究所でヒトの第I/IIa相試験(RS1 を載せた8型ベクターの)

錐体が侵される非進行性ジストロフィー:色覚異常

先天のは、早くに発症し、杆体の機能は保たれる。遺伝形式によって病気が違う(、の検査は調節・・・)。

遺伝形式 病気 特徴
常染色体優性 第3(青の錐体の異常) 青黄の区別が難しい
全色盲(完全型・不完全型) 錐体がほぼ働かない。・・眼振。で錐体反応が消える
青錐体一 青の錐体だけが働く
:第1(赤)の欠損と異常、第2(緑)の欠損と異常 最も多い。男性に多い

3. 杆体と錐体が全般に侵される病気

非症候群性

病気 遺伝形式・原因 特徴
1歳前から眼振、(眼を指で押したりこすったりする)、、。視力は0.1から完全な失明まで。RPE65 は遺伝子治療の対象
状 。OAT 遺伝子の変異(ミトコンドリアのの欠損) 周辺から始まる。、、50歳頃までに失明
コロイデレミア 。CHM 遺伝子の変異 と RPE の萎縮 → 、。視力は長く保たれ、のちに低下()

状の眼底では、周辺からへ向かって、境界がはっきりした扇形の萎縮巣が互いにつながって広がり、萎縮巣の中では白いとの大血管が透けて見え、縁に色素が並ぶ。コロイデレミアでは、RPE とが広く失われて眼底全体が黄白色になり、の大血管が透見される中で、黄斑だけが赤橙色の島として残る。

💡 状では、酵素の欠損で血中のが増える。が網膜とに毒性を示すので、を制限した食事でを下げることが治療の基本になる。

症候群性

症候群 網膜以外の主な特徴
の減少による胆汁うっ滞、心疾患、椎体の異常
小児期のてんかん・の退行と視力障害
フィタン酸の蓄積による、失調、、
Joubert症候群 の低形成(臼歯状の脳幹)、、発達遅滞、腎臓の病変

4. 硝子体網膜症

群 病気 要点
家族性症 の血管が発達しない。に似た所見が児にみられる
Wagner病 がして空虚に見え、・を起こす
常染色体優性症 BEST1 の変異。の輪状の
強調症候群(Goldmann-Favre病) 青の錐体が過剰で杆体が乏しい。、
・の異常・に、・難聴・関節の症状を伴う
Norrie病 X連鎖。生まれつきの網膜形成異常・による失明。難聴・発達遅滞を伴う

⚠️ 症はを起こしやすい。は小児のの重要な遺伝性の原因で、家族歴のある小児では定期的なが欠かせない。

鑑別の手がかり

flowchart TD
    A["両眼の進行する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual dysfunction'>視機能障害</span><br>遺伝性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal disease'>網膜疾患</span>を疑う"] --> B{"最初の症状は何か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='night blindness'>夜盲</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral visual field'>周辺視野</span>の狭窄"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-field electroretinography'>全視野網膜電図</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rod response'>杆体反応</span>から低下"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinitis pigmentosa'>網膜色素変性</span><br>非進行なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital stationary night blindness'>先天停在性夜盲</span>"]
    B -->|"昼盲・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color vision deficiency'>色覚異常</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-field electroretinography'>全視野網膜電図</span>で<br>錐体反応から低下"]
    D --> D1["錐体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cone-rod dystrophy'>錐体杆体ジストロフィー</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central visual acuity'>中心視力</span>の低下だけ"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-field electroretinography'>全視野網膜電図</span>は正常か陰性型"]
    E --> E1{"決め手の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Laboratory findings'>検査所見</span>は何か"}
    E1 -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein angiography'>蛍光眼底造影</span>で暗い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid'>脈絡膜</span>"| F["Stargardt病"]
    E1 -->|"EOG の Arden比が1.5未満"| G["Best病"]
    E1 -->|"陰性型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroretinogram, ERG'>網膜電図</span>・男児・<br>漏出の無い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystic space'>嚢胞腔</span>"| H["X連鎖性若年<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoschisis'>網膜分離症</span>"]
    B -->|"乳児期からの重い視力障害と眼振"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-field electroretinography'>全視野網膜電図</span>がほぼ平坦<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leber congenital amaurosis'>Leber先天黒内障</span>"]

まとめ

  • は両眼性、約2,000人に1人。1遺伝子で複数の病気、1病気で多数の遺伝子。孤発例とが50〜60%、常染色体優性30〜40%、X連鎖5〜20%。
  • 分類は杆体が先・錐体が先・杆体と錐体が全般・症の4群と、進行性か非進行性か。
  • : → → 。三徴は・血管・乳頭の。早期は眼底正常でもでが低下。合併症はと(30%、)。予後は常染色体優性が最良、X連鎖が最悪。・の利益は不確か。遺伝子治療は RPE65 変異に限りが承認。
  • 症候群:Usher(難聴)、Senior-Løken()、Bardet-Biedl(知的障害・肥満・)。
  • :進行しない、眼底は非特異的、陰性型。白点状眼底は。
  • 錐体・:主に常染色体優性、10歳頃から低下・・昼盲 → 、。で錐体反応から低下。
  • Stargardt病:最多の、ABCA4()。叩いた青様・様病変 → 。暗い、正常。の制限と。フェンレチニド・・StarGen は Stargardt病に承認されていない。
  • Best病:BEST1(常染色体優性)、卵黄期 → 期 → 炒り卵期 → 。正常で EOG の Arden比が1.5未満(保因者でも)。には。
  • X連鎖性若年:RS1、男児のみ。黄斑のの嚢胞(100%)、耳下側の周辺分離(50%)。漏出の無いと陰性型。、合併症に。
  • :第3は常染色体優性、全色盲は、青錐体一とは 。
  • 全般型:(1歳前の眼振・)、状(OAT 遺伝子)、コロイデレミア(CHM 遺伝子、X連鎖)。症:家族性症・Wagner病・・Norrie病はに注意。

出典

  1. 1.Retinitis Pigmentosa(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)最初の症状が通常は夜盲であり、続いて視野の狭窄が生じること(Introduction節)、眼底の古典的三徴が骨小体様色素沈着・血管狭細化・視神経乳頭の蝋様蒼白であること(History and Physical節)、網膜電図で早期には杆体反応の振幅低下・潜時延長がみられ錐体反応は正常にとどまるが、進行すると振幅がさらに低下し最終的に検出不能となること(Evaluation節)、常染色体劣性が約5〜20%、常染色体優性が約15〜25%、X連鎖劣性が約5〜15%、残り約40〜50%が孤発例であること(Etiology節)、Usher症候群がRPに合併する症候群として最多で全RP患者の約18%を占め、Bardet-Biedl症候群・Senior-Løken症候群も代表的な症候群性の型であること(Differential Diagnosis節)を確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Vitamin A and fish oils for preventing the progression of retinitis pigmentosa(Cochrane Database of Systematic Reviews・2020)PubMedの抄録(PMID 32573764)で、4〜55歳の944人を含む4件の無作為化比較試験を統合したこと、ビタミンA単独・ドコサヘキサエン酸単独・両者の併用を評価したこと、視力低下の進行に対するビタミン補充の利益を示した試験は無く、ビタミンA群で網膜電図の年間低下率がわずかに小さかった(6.1%対7.1%)試験が1件あるもののエビデンスの確実性は非常に低いこと、著者の結論が網膜色素変性の人にビタミンAやドコサヘキサエン酸、またはその両方による治療の利益があるかは不確かだというものであることを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Stargardt Disease/Fundus Flavimaculatus(American Academy of Ophthalmology(EyeWiki)・2026)2026年7月21日更新版で、Stargardt病が網膜変性全体の約7%を占めること、ABCA4型(STGD1)が最も多く、ELOVL4による常染色体優性のSTGD3とPROM1によるSTGD4はABCA4型より少ないこと、蛍光眼底造影の暗い脈絡膜が最大62%にみられること、ビタミンAの補充はRPEのリポフスチン蓄積を早めるので避けるべきこと、フェンレチニドなどA2Eとリポフスチンを減らす薬が研究段階であり、Stargardt病は現在も治癒できない病気で遮光とロービジョン補助が中心であることを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.X-Linked Congenital Retinoschisis(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2020)X連鎖先天性網膜分離症が両眼対称性の黄斑病変を特徴とし生後3か月という早期を含めて10歳までに発症すること、眼底では黄斑の網膜神経線維層の分離が車軸状に見えることがあること、周辺網膜(主に耳下側)の分離が約50%に生じること、罹患男性の視力が典型的に20/60〜20/120であること、視力が20歳までにしばしば低下しその後は40〜50歳代まで比較的安定すること、診断が示唆的な眼所見をもつ男性発端者でRS1のヘミ接合性病的バリアントを同定することで確定すること、X連鎖遺伝であることを確認した。閲覧 2026-09-03