眼科学

眼科学 · ML-44A

眼科電気生理検査と遺伝学的側面

Electrophysiology and genetic aspects

前提:正常
視覚の生理学網膜の視細胞

🧠 全体像:は、光を当てたときに眼と脳が出す電気を記録して、「視覚の通り道のどの段で機能が落ちているか」をに示す検査である。通り道を外から順にたどると、RPE を見る EOG → とを見る → 黄斑の錐体を見る → を見るパターン → 視神経からを見る VEPとなる。検査は病名ではなく障害の場所を教えるので、病歴・眼底・OCT と組み合わせて初めて診断になる。遺伝性では、この機能の地図にを重ね、遺伝子治療の対象になるかを決める時代になっている。

電気生理検査とは

眼のは、さまざまなを与えたあとに眼(網膜・RPE)とが発生する電気活動を記録する。網膜の各層の細胞と視神経の機能を、層ごとに分けて調べられる。

特徴 内容
性質 (患者の応答に頼らない)、非侵襲的、再現性がある
得られる情報 形ではなく機能の情報
答えられる問い 「何の病気か」ではなく「どこに障害があるか」「そもそも障害があるか」
限界 だけでは診断できない。病歴全体を知ってこそ正しい答えに近づく
異常の出やすさ の多くで何らかの異常が出る
用途 診断、、経過観察と術後の状態の評価、薬の副作用の監視
標準化 国際臨床視覚学会の ISCEV 標準に従って行い、施設間で結果を比べられるようにする

💡 視力や視野は患者の答えに頼る的検査である。乳幼児、協力できない人、・視力障害の疑い、で眼底が見えない人では、的検査の結果が当てにならない。は、こうした場面で「網膜と視神経が本当に働いているか」を示せる。

検査の種類と電気の発生源

検査 の種類 主に反映する層・細胞
EOG ― RPE(と RPE の接合部の働きを含む)
・の各反応 網膜全体のと・(〜中層)
― 黄斑を中心とした錐体系の機能の分布
パターン ― 黄斑の機能と
VEP ・パターンVEP 視神経から、のまで

網膜の組織像に当てはめると、最も外側の RPE を EOG が、の層から(・・・)までをが、最も内側のをパターンが、その先のからまでを VEP が受け持つ。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photic stimulation'>光刺激</span>"] --> B["RPE<br>静止電位の変化 → EOG"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>(杆体・錐体)<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroretinogram, ERG'>網膜電図</span>の <span class='jp-term jp-term-diagram' title='a-wave'>a波</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar cell'>双極細胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Müller cell'>Müller細胞</span><br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroretinogram, ERG'>網膜電図</span>の <span class='jp-term jp-term-diagram' title='b-wave'>b波</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amacrine cell'>アマクリン細胞</span><br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='oscillatory potentials'>律動様小波</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal ganglion cell'>網膜神経節細胞</span><br>→ パターン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroretinogram, ERG'>網膜電図</span>の N95"]
    F --> G["視神経 → 視交叉 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic tract'>視索</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic radiation'>視放線</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='occipital lobe'>後頭葉</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual cortex'>視覚野</span> → VEP"]

⭐ 「どの検査がどの層を見るか」は試験で問われやすい。EOG=RPE、=〜、パターン=と黄斑、VEP=視神経〜と、外から内への順に覚える。

網膜電図の基礎

は、に対して網膜が出すの記録である。の状態と刺激光の強さ・色・点滅の周波数を変えることで、杆体と錐体の機能を分けて調べられる。

杆体 錐体
働く明るさ 暗い環境 明るい環境
得意なこと 動き・の検出 ・鋭い視力
で取り出す条件 のあと、弱い のあと(背景光で杆体を飽和させる)、強いや 30 Hz の点滅
障害されたときの症状 、の狭窄 、、

には3つの種類がある。

種類 刺激 分かること
網膜全体を一様に照らす 網膜全体の杆体系・錐体系の機能
多数の六角形が個別に明滅するモニター 黄斑の錐体機能の分布(地図)
パターン 白黒のの反転 黄斑との機能

としてのの整理はにもある。

全視野網膜電図

検査の準備と方法

項目 内容
点眼 と薬
角膜に載せるコンタクトレンズ型電極(レンズの縁から細い導線が出る)。ほかに細い導電性の糸・金属箔を下眼瞼に沿わせる電極、下眼瞼の皮膚電極もある
こめかみ(の外側)
電極 額
刺激装置 ガンツフェルト刺激装置(顔を入れる半球状ので、内面全体が一様に光る)
刺激 1回ので網膜全体を刺激する

ISCEV 2022年版では、記録電極は角膜・に接するもの、または下眼瞼の皮膚電極とされ、コンタクトレンズ電極は最も大きな振幅が得られる一方でを要する1。は従来の標準では必須だったが、2022年版ではしない瞳孔に合わせて刺激を十分に補正すればなしでも標準を満たせるとされた1。

長所と短所

内容
杆体と錐体を分けて調べられる
短所 1 網膜全体の反応のである。の半分以上が障害されてはじめて異常が出る
短所 2 小さな範囲の障害(黄斑変性など)を検出できない
短所 3 小さく残った機能のある範囲(の中心に残った島など)を検出できない
短所 4 ・視神経・の情報は得られない
禁忌 てんかん(強いで発作が誘発されうる)

💡 黄斑は視力のほとんどを担うが、面積としては網膜のごく一部で、錐体の大部分も黄斑の外にある。そのためへの黄斑の寄与は最小で1、黄斑だけが壊れる病気(Stargardt病・Best病・黄斑円孔・)ではは正常のことが多い。黄斑を見たいときはかパターンを使う。

⚠️ てんかんを禁忌とするのは、による発作誘発への配慮である。ISCEV 2022年版の本文はてんかんを禁忌として挙げていないので、実際には施設の手順に従い、性てんかんの既往をで確かめてから検査する。

波形の成り立ち

典型的なは、の直後に下向き(角膜陰性)の が現れ、続いて大きな上向き(角膜陽性)の が、ゆっくりに戻る。

成分 発生源 測り方
振幅はから の谷まで。 La は刺激から の谷まで
と (も関与)。ISCEV では主に杆体駆動の ON型とされる1 振幅は の谷から の頂点まで。 Lb は刺激から の頂点まで
を中心とする。起源はまだ確定していない1 の上行脚に乗る小さな速い波。健常眼で記録できる

💡 はが光で過分極する電流、はその信号を受けたの活動である。したがって、が正常なのに だけ小さいなら、は働いているがへの伝達が途切れていると分かる。これが陰性型(の頂点がより下にとどまり、b/a比が1未満)で、や X連鎖性若年の手がかりになる(の遺伝性疾患)。

暗順応と明順応の5つの反応

記録は、まず(20〜30分)のあとに杆体系の反応を、次に(5〜10分)のあとに錐体系の反応をとる。ISCEV 2022年版ではは少なくとも20分、記録の後に記録をするならは少なくとも10分と定めている1。

反応 ISCEV の名称 何を見るか 正常波形の見え方
① 弱いへの反応 DA 0.01 杆体だけの反応 はほとんど見えず、ゆっくりした だけが立ち上がる
② 強いへの反応 DA 3(より強い DA 10 もある) 杆体と錐体の混合反応(最大応答) 深い に続いて大きな 。5つの中で最も振幅が大きい
③ DA を中心とする の上行脚に数個の小さな波が並ぶ
④ 強いへの反応 LA 3 主に錐体の反応 小さな と鋭い 。の反応より小さく速い
⑤ 30 Hz の点滅への反応 LA 30 Hz 錐体だけの反応 刺激ごとに同じ形の山が規則正しく繰り返す

ISCEV の標準記録は、上の5つに DA 10 を加えた6種類である1。DA 0.01 は杆体に由来し、機能する杆体があってはじめて出る。DA 3・DA 10 は杆体と錐体の混合反応だが、健常網膜では杆体系が優位である1。LA 30 Hz は主に錐体の ON型・OFF型で生じ、赤と緑の錐体の働きに依存する1。

💡 30 Hz の点滅が錐体だけを反映するのは、杆体が速い点滅についていけないからである。明るい背景で杆体を飽和させたうえで速く点滅させれば、残るのは錐体系の反応だけになる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark adaptation'>暗順応</span> 20〜30分<br>ISCEV では20分以上"] --> B["① 弱い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintillation flash'>閃光</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rod response'>杆体反応</span>"]
    B --> C["② 強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintillation flash'>閃光</span><br>杆体と錐体の混合反応"]
    C --> D["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='oscillatory potentials'>律動様小波</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner retina'>内層網膜</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light adaptation'>明順応</span> 5〜10分<br>ISCEV では10分以上<br>背景光で杆体を飽和"]
    E --> F["④ 強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintillation flash'>閃光</span><br>主に錐体反応"]
    F --> G["⑤ 30 Hz の点滅<br>錐体だけの反応"]

読み方の型

所見 考えること
がまず低下し、進むと錐体反応も低下 ()
錐体反応(・30 Hz)だけが低下し、は保たれる 、の初期、全色盲
杆体も錐体もほとんど記録できない(平坦) 、進行した
は正常で が小さい(陰性型) 、X連鎖性若年、関連(ON型の障害)。がん関連はが侵されて ・とも低下することが多い
は正常だが視力が悪い 黄斑に限られた病気、視神経・の病気、 → ・パターン・VEP へ

全視野網膜電図が役立つ病気

群 病気
網膜全体を侵す遺伝性 の群()、、、全色盲、X連鎖性若年、・、コロイデレミア
後天性の 眼球(残った鉄片による。)、がん関連、関連
角膜・の透明性の低下 など、眼底が見えないときに網膜が働いているかを確かめる

💡 濃いで眼底が見えない眼でも、はを通して網膜に届く。が正常なら、で視力の回復が期待できると判断する材料になる。

多局所網膜電図

方法と特徴

項目 内容
目的 黄斑の錐体機能の分布を地図として調べる
準備 と薬。電極とその位置はと同じ
刺激 モニター上の 61個の白黒の六角形(の条件)。中心の六角形ほど小さく、周辺ほど大きい
屈折 の矯正が必要
小さな範囲の障害(黄斑変性など)を検出できる。小さく残った機能のある範囲(など)も検出できる
禁忌 てんかん、協力が得られないこと(を保てないと記録できない)

各六角形はそれぞれ別の順序で明滅するので、コンピュータが一つひとつの六角形に対応する局所の反応を取り出せる。結果は、六角形ごとの小さな波形を並べた「の地図」と、同心円の輪(リング)ごとの平均、そして振幅を高さと色で表す立体図で示される。

正常な多局所網膜電図

正常では、に当たる中央の六角形の反応密度が最も高く、周辺に向かうほど下がる。単位面積あたりの振幅(nV/deg²)で表すと、錐体がに密集していることがそのまま山の形になる。

正常例の中央の六角形は 129 nV/deg² で、そのすぐ周りの6個が 73〜97 nV/deg²、最周辺はおおむね 20〜40 nV/deg² であった。リングごとの平均は次のとおりである(リング1=中央の1個、リング5=最外周)。

リング 反応密度(nV/deg²) 陽性波の振幅(µV) 陰性波の振幅(µV) 陽性波の(ms) 陰性波の(ms)
1 129 1.95 0.71 39.0 21.9
2 79 1.69 0.54 33.3 19.0
3 60 1.88 0.65 36.2 18.1
4 35 1.53 0.41 35.2 19.0
5 28 1.59 0.46 35.2 18.1

3次元表示では、正常は中心に鋭く尖った山(赤〜白)がそびえ、周辺は低く平らな緑の裾野になる。

病気ごとの多局所網膜電図

病気 眼底
黄斑の変性 中心の尖った山が消え、中央が平らに低くなる
周辺から進む変性 中心に小さな山だけが残り、周辺は青色(反応がほぼ無い)に沈む=残った中心の島を示す
黄斑に淡いの変化 中央のリングも 24.2 nV/deg²(正常の約5分の1)で、どのリングもほぼ同じ高さ(18.6〜24.2)に平坦化。中央では陰性波が記録できず、陽性波のも 47.6 ms と遅れる
Stargardt病 黄斑に境界のはっきりした黄色調の萎縮病変 中央 35.8、以下 26.1・14.3・14.2・12.7 nV/deg² と、中心の山が消えたうえ周辺も正常より低い
黄斑円孔 黄斑中心の円形の欠損と、周囲の小さな黄白色の点 中央 42.5(正常の約3分の1)、リング2・3も 36.9・34.7 と黄斑の中心部で低く、外側のリング4・5は 26.3・24.7 nV/deg² と正常に近い

💡 黄斑円孔では落ちるのは黄斑の中心部だけで、外側のリングは保たれる。では網膜全体の錐体が侵されるので、中心だけでなくすべてのリングが低くなる。「中央だけ落ちる」か「全体が平らになる」かが、局所の病気と錐体系全体の病気を分ける。

パターン網膜電図

項目 内容
分かること の機能と黄斑の機能
刺激 モニターに映した白黒のをに反転させる
瞳孔・屈折 しない。の矯正をし、両眼同時に記録する
電極 角膜か近くのに接する電極。ISCEV 標準では、を劣化させるコンタクトレンズ電極は使ってはならない2

⚠️ 「電極はと同じ」と整理されることがあるが、で最も振幅の大きいコンタクトレンズ電極は、パターンでは網膜に映る模様をぼかすので使わない。糸状・箔状の電極を使う。

波形の3つの成分

成分 意味
N35 約35 ms 小さな最初の陰性波
P50 45〜60 ms(約50 ms) 大きな陽性波。黄斑の機能(からまでの駆動)を反映する。振幅は通常 2.0〜8.0 µV
N95 90〜100 ms 大きな陰性波。に由来し、視神経の情報を与える

パターンは主にで生じ、とそれに続く網膜細胞に駆動される、刺激範囲に限った局所の反応である2。正常波形は N35・P50・N95 からなり、それぞれのと P50 の振幅の目安は上の表のとおりである2。

使いどころ

  • パターンVEP が異常なとき、原因が黄斑か視神経かを決める2。
  • の病気:緑内障、。
flowchart TD
    A["パターンVEP の異常<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='latency'>潜時</span>の遅れ・振幅の低下"] --> B["パターン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroretinogram, ERG'>網膜電図</span>を記録"]
    B --> C{"P50 が低下しているか"}
    C -->|"低下している"| D["黄斑の障害<br>VEP の異常は黄斑から来ている"]
    C -->|"保たれている"| E{"N95 が低下しているか"}
    E -->|"低下している"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ganglion cell'>神経節細胞</span>の障害<br>緑内障・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic neuropathy'>視神経症</span>"]
    E -->|"保たれている"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ganglion cell'>神経節細胞</span>より後ろ<br>視神経〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual pathway'>視覚路</span>の障害"]

💡 N95 はが作るので、視神経が障害されてが逆行性に失われると N95 が小さくなる。P50 は黄斑のが働いていなければ出ないので、P50 が落ちていれば問題は網膜側にある。

EOG

原理

EOG は RPE の機能を調べる検査である。眼球には、角膜側が陽性、眼球後部が陰性の常在する(、静止電位)があり、眼全体が一つの電池()のように振る舞う。この静止電位は主に RPE が作っていて、明るさによって大きさが変わる。EOG はその変化を測る。

項目 内容
電極 眼の左右(内眼角との近く)に貼る皮膚電極
記録の原理 眼を左右に動かすと、左右の電極がの陽性側と陰性側をに「見る」ので、視線の往復に応じた電位の振れが記録できる
刺激 ガンツフェルト刺激装置の中で、左右にに点く赤い点を目で追う。暗所と明所でそれぞれ15分ずつ
指標 Arden比=明所での最大値(明極大)÷暗所での最小値(暗極小)
主な用途 Best卵黄様の診断と鑑別

ISCEV 2017年版では、15分のと続く15分のの間、左右15°の赤い灯の間で視線を往復させて記録する3。

暗極小と明極大

暗所では静止電位が下がり続け、通常10〜15分で最小(暗極小)になる。明かりを点けると静止電位が上がり(光上昇)、点灯後7〜12分で最大(明極大)になる3。記録例でも、暗所の10分過ぎに振れが最小となり、明所に切り替えたあと上昇して点灯後12分前後で最大に達している。

光上昇には、杆体と RPE の正常な接合が必要である3。

Arden比 解釈
おおむね1.8〜2.0を超える 正常とされることが多い
自施設の正常範囲を下回る 光上昇が障害されている(RPE の異常)。Best病では光上昇が異常になり、眼底が正常な保因者でも異常が出る3(の遺伝性疾患)

ISCEV 2017年版は、この比を「明極大:暗極小比」と呼び直し、正常値はおおむね1.7〜4.3だが各施設が自施設の正常値を作るべきだとしている3。上の目安は施設ごとに異なりうる。

⭐ Best病ではは通常正常で、EOG の比だけが異常になる3。網膜全体のは働いているのに RPE の光上昇が起こらないという「と EOG の解離」が、Best病を他のから見分ける鍵である。

VEP

原理と記録

VEP は、視覚刺激から一定時間後にので生じるである。網膜からまでの中枢の視覚機能がどう働いているかを示す。

電極 位置
の上、後頭部正中の Oz。後頭隆起の約2 cm上
正中 Fz
電極 頭頂 Cz

電極の位置は、から後頭隆起までのを10%・20%の間隔で区切るで決める(から10%の位置が Fpz、そこから20%ずつ Fz・Cz・Pz と進み、後頭隆起から10%の位置が Oz)。

刺激には2種類ある。

パターンVEP
刺激 ガンツフェルト刺激装置のびまん性の モニター上で反転する白黒の(21インチのモニターを1 mの距離から見る)
部屋と瞳孔 薄暗い部屋、しない 薄暗い部屋、しない
不要 の矯正が必要
協力 不要。簡単に行える 協力と能動的な集中が必要。が重要
反応が表すもの すべてのからの情報 黄斑のからの情報
正常波形 小さな N1・P1・N2 に続き、大きな P2、深い N3、P3 が並ぶ N75・P100・N135 の3峰。P100 が
評価の要点 再現性のある波形があるか。あればは確実にある P100 のと振幅
頻度 ― 最もよく使われる

VEP の標準波形は N75・P100・N135 の3峰からなり、P100 のはパターンの大きさ・・・年齢・・・極端ななどの病気以外の要因でも変わる。 は、光学的な・協力不良・視力不良でパターン刺激が使えないときに役立つ。としての整理はにもある。

フラッシュVEP の対象

  • 乳児・幼児
  • 協力が得られない人
  • 高齢者
  • 視力が極めて悪い人(1 m 未満)
  • 法的な失明の判定

評価:潜時と振幅

所見 意味 代表的な病気
の延長 軸索の脱髄(伝導が遅くなる) 、
振幅の低下 軸索そのものの障害(伝える線維の数が減る) AION
両方 実際には常に両方が起こり、どちらかが優位になる ―

パターンVEP のが延びる原因は視神経だけではない。黄斑の病気、の障害、視神経の障害のいずれでも延びる。だから、VEP が異常なら上のパターンの流れで網膜側か視神経側かを確かめる。

💡 脱髄では「伝える速さ」が落ちるのでが延び、虚血では「伝える線維の数」が減るので振幅が落ちる。ではから回復して視力が戻ったあとも P100 のの延長が残ることが多く、過去のの痕跡として使える。

VEP の使いどころ

群 対象
視神経の病気 遺伝性()、炎症性・自己免疫性()、循環障害()、(アルコールなど。)、(視神経損傷。眼窩外傷と視神経外傷)
頭蓋内・ 、、の除外または確認
原因の分からない 原因不明の、の(うつ病など)、・誇張の除外
眼底が見えない・測れない の( で視機能を推定)、乳児の視力の推定、眼振
その他 代謝疾患、保因者の検査、、研究

検査の選び方

知りたいこと 選ぶ検査
がある。杆体系が侵されているか (の反応)
網膜全体の錐体系が侵されているか (・30 Hz)
が黄斑の病気によるか 、パターンの P50
で中心にどれだけ機能が残っているか
・視神経の障害か パターンの N95、パターンVEP
黄斑病変で RPE の病気(Best病)か EOG との組み合わせ
協力できない人・乳児にがあるか
で眼底が見えない。網膜は働いているか 、

遺伝学的側面

遺伝性網膜疾患と遺伝形式

遺伝性は、1つの遺伝子の異常が複数の病気を起こし、1つの病気が多数の遺伝子で起こるという、臨床的にも遺伝的にも多様な病気の群である(疾患ごとの遺伝子と頻度はの遺伝性疾患)。は遺伝形式を知る最初の手がかりになる(家系分析入門)。

遺伝形式 の特徴 眼科での例
常染色体優性 各世代に患者がいる。男女とも罹患し、親から子へ50%で伝わる の一部、Best病、の一部
親は無症状の保因者。同胞に患者が集まる。で増える Stargardt病(ABCA4)、(RPE65 など)、、の一部(ABCA4 など)
患者はほぼ男性。母が保因者で、男児に50%で伝わる。父から息子へは伝わらない X連鎖性若年(RS1)、コロイデレミア、X連鎖性
ミトコンドリア(母系) 母からすべての子に伝わり、父からは伝わらない ()
孤発例 家族に患者がいない。劣性遺伝やが隠れていることが多い では孤発例が少なくない

遺伝子検査

  • 原因となりうる遺伝子が多いので、1つずつ調べるのではなく、多数の遺伝子を一度に調べるパネル検査(遺伝子チップ)が使われる。
  • 目的は、診断の確定、遺伝形式と家族の再発リスクの説明(遺伝カウンセリング)、そして遺伝子治療やの対象になるかの判定である。
  • 遺伝子治療の対象になるには、の変異が確定していることと、治療が届く生きた網膜細胞が残っていることの両方が要る。

遺伝子治療

網膜は遺伝子治療に向いた臓器である。眼は小さく閉じた空間なので少量で届き、免疫反応が起こりにくく、片眼を治療して他眼と比べられ、OCT・で効果を直接測れる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>で原因変異を確定"] --> B["OCT などで<br>生きた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>・RPE が残っているかを確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitrectomy'>硝子体手術</span>のあと<br>正常な遺伝子を載せたベクターを網膜下に注入"]
    C --> D["網膜が局所的に剥がれて<br>ベクターが RPE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>視細胞</span>に届く"]
    D --> E["細胞の中で正常なタンパク質が作られる"]
    E --> F["残っていた細胞の機能が回復・維持される<br>失われた細胞は戻らない"]

遺伝子を運ぶベクターには主に2種類ある。は安全性が高いが載せられる遺伝子の大きさに限りがあり、ABCA4 のような大きな遺伝子は載らない。そこでレンチウイルスが試みられた。

対象の病気 治療 方法 現在の位置づけ
RPE65 による(・の一部) (ルクスターナ) 。RPE65 の遺伝子を2型に載せて届ける 承認薬。米国で2017年12月に最初に承認され(承認の経緯はの薬のノートにある)、欧州では2018年11月に承認。効能は RPE65 変異が確認され、十分な生存網膜細胞がある患者4
ABCA4 変異(Stargardt病、) SAR422459(旧名 StarGen) 。ABCA4 の遺伝子をレンチウイルスに載せて届ける 第I/IIa相試験は2019年に中止され、承認には至っていない
(を問わない) EYS611 ウイルスを使わない遺伝子治療。ヒトのをコードする DNA プラスミド。は眼内の鉄を管理するタンパク質で、鉄の毒性を抑えて神経を守り進行を遅らせることを狙う 開発段階の薬(米国での指定を受けたとされる)。承認薬ではない
X連鎖性若年(RS1) RS1 を載せた8型ベクター 米国国立眼研究所による第I/IIa相試験(2014〜2021年)

⚠️ 誤って伝えられやすい点を整理する。

  • は「」と紹介されることがあるが、実際のベクターはではなくである。また「にも使える」と説明されることがあるが、対象は RPE65 変異によるに限られ、は効能に含まれない(の原因は MYO7A・USH2A などで、RPE65 ではない)。
  • ABCA4 に対するレンチウイルス遺伝子治療 StarGen と EYS611 は、どちらも承認された治療ではない。StarGen はの治療として並べられることがあるが、ではなく Stargardt病を対象に開発された。

💡 は、失われた細胞を作り直す治療ではなく、残っている RPE に欠けた酵素を補う治療である。だから、網膜がすでに萎縮しきった進行例では効果が期待できない。とが重要になる理由がここにある。遺伝子治療の一般的な原理は遺伝子治療を参照。

まとめ

  • は、・非侵襲的・再現性のある機能の検査で、障害の場所を教える。診断には病歴・眼底・画像との組み合わせが要る。ISCEV 標準に従って施設間で比べられるようにする。
  • 担当する層:EOG=RPE、=〜、=黄斑の錐体、パターン=黄斑と、VEP=視神経〜。
  • :・、コンタクトレンズ電極、ガンツフェルト刺激。杆体と錐体を分けて見られるが、網膜全体のなので小さな病変と黄斑の病気は見逃す。てんかんは禁忌とされる。
  • =、=と 、=。正常で が小さい陰性型は・X連鎖性若年。
  • (20分以上)で ① ②混合反応 ③、(10分以上)で ④錐体反応 ⑤30 Hz 点滅(錐体だけ)。ISCEV 標準はこれに DA 10 を加えた6種類。
  • :61個の六角形で黄斑の錐体機能の地図を作る。正常は中心が尖った山。黄斑円孔は中央だけ、は全体が平坦、は中心の島だけが残る。
  • パターン:せず、コンタクトレンズ電極は使わない。P50=黄斑、N95=。パターンVEP の異常が黄斑由来か視神経由来かを分ける。
  • EOG:RPE が作るを暗所15分・明所15分で測る。Arden比=明極大÷暗極小。Best病ではが正常で EOG だけ異常。
  • VEP:Oz・Fz・Cz。 は協力不要での有無を示し、パターンVEP は黄斑のを反映する。延長=脱髄()、振幅低下=()。
  • 遺伝性は遺伝的に多様で、で原因を確かめる。遺伝性で承認された遺伝子治療の代表は(RPE65、2型、)で、生存網膜細胞が残る患者が対象。ABCA4 のレンチウイルス治療と EYS611 は承認されていない。

出典

  1. 1.ISCEV Standard for full-field clinical electroretinography (2022 update)(Documenta Ophthalmologica / International Society for Clinical Electrophysiology of Vision (ISCEV)・2022)PMC全文で、全視野刺激装置の閃光で網膜全体を照らし角膜・球結膜の電極または下眼瞼の皮膚電極で記録すること、暗順応は少なくとも20分、暗順応記録の後に明順応記録をするなら少なくとも10分の明順応をおくこと、標準記録がDA 0.01・DA 3・DA 10・暗順応律動様小波・LA 3・LA 30 Hzの6種であること、DA 0.01は杆体双極細胞に由来し機能する杆体に依存すること、DA 3・DA 10は杆体と錐体の混合反応だが健常網膜では杆体系が優位であり角膜陰性のa波と主に杆体駆動のON型双極細胞に由来するb波をもつこと、律動様小波がb波の上行脚に乗る高周波・低振幅の成分でアマクリン細胞と網膜神経節細胞を含む内層網膜の活動を反映するとみられ起源は確定していないこと、LA 30 Hzが主に錐体ON・OFF双極細胞で生じL・M錐体の機能に依存すること、全視野網膜電図は網膜全体から生じ黄斑の寄与は最小であること、2022年版で十分な刺激強度で補正すれば散瞳なしでも標準を満たせるとされたこと、コンタクトレンズ電極には点眼麻酔が必要なことを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.ISCEV standard for clinical pattern electroretinography (PERG): 2012 update(Documenta Ophthalmologica / International Society for Clinical Electrophysiology of Vision (ISCEV)・2012)出版社全文(Wayback経由)で、パターン網膜電図が白黒の市松模様の反転で誘発され黄斑と網膜神経節細胞の機能の情報を与えること、主に神経節細胞で生じ視細胞とそれに続く網膜細胞に駆動される局所反応であること、正常波形が約35 msの小さな陰性波N35、45〜60 msの大きな陽性波P50、90〜100 msの大きな陰性波N95からなりP50振幅は通常2.0〜8.0 µVであること、網膜像を劣化させるためコンタクトレンズ電極はすべて使ってはならないこと、散瞳せずに記録すること、両眼同時記録が推奨されること、パターンVEPが異常な患者で中心網膜の障害の有無を確かめ網膜と視神経の障害を区別するのに使えることを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.ISCEV Standard for clinical electro-oculography (2017 update)(Documenta Ophthalmologica / International Society for Clinical Electrophysiology of Vision (ISCEV)・2017)出版社全文(Wayback経由)で、EOGが15分の暗順応と続く15分の明順応の間に記録されること、暗所で静止電位が下がり通常10〜15分で最小(暗極小)となり、明所で光上昇が生じ点灯後7〜12分で最大(明極大)となること、光上昇には杆体視細胞とRPEの正常な接合が必要であること、左右15°の赤い固視灯の間で視線を往復させること、主な指標(Arden比)を明極大と暗極小の比と呼ぶようにしたこと、正常の比はおおむね1.7〜4.3で各施設が自施設の正常値を作る必要があること、Best病では全視野網膜電図は通常正常でEOGの比が異常になること、Best病の保因者は眼底が正常でも光上昇が異常になるため幼児の疑い例では両親を調べるとよいことを確認した(後者は2026-09-29にPMC5309273本文で確認)。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Luxturna 5 × 10^12 vector genomes/mL concentrate and solvent for solution for injection — Annex I Summary of Product Characteristics(European Medicines Agency・2025)2026-09-16にPDF本体を取得し、9項(DATE OF FIRST AUTHORISATION/RENEWAL OF THE AUTHORISATION)の初回承認日が2018年11月22日、直近の承認の更新(原文 Date of latest renewal)が2023年7月24日であること、4.1の効能が確認された両アレル性RPE65変異による遺伝性網膜ジストロフィーに起因する視力低下をもち十分な生存網膜細胞を有する成人および小児であることを確認した。yearは同じidを使う drugs/voretigene-neparvovec・lab-values/electroretinography に揃えてある閲覧 2026-09-16