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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

Weill-Marchesani症候群

Weill-Marchesani syndrome

別名
ワイル・マルケザーニ症候群WMS
臓器系
眼科運動器循環器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Pediatrics
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼小児科 3-17:小児の成長障害
鑑別疾患
ホモシスチン尿症マルファン症候群
続発疾患
緑内障
症状
水晶体亜脱臼近視

🧠 全体像:は、を裏返した結合組織疾患である1。・・——の・・と3点そろって逆になる。⭐ 眼の所見はすべて「が小さくになる()」1点から導ける2。だから屈折が強すぎてになり、小さいから吊り下げが不安定で偏位し、そして小さく丸いから瞳孔をすり抜けて前へ出る。⚠️ 最も重大なのは緑内障で、機序はである2。⚠️ もも禁じ手という、緑内障の常識が通じない点がこの疾患の実務上の要である。

マルファン症候群と正反対の体型

StatPearlsは本症を端的に「の逆」と記す1。

身長 (全例)2 痩せて背が高い1
手指 ・短い2 1
関節 硬直(進行性でありうる)2 過可動1
で小さい()が本態2 は本態ではない(その他の所見として挙げられるにとどまる)1
の方向 下方21 両眼性の(他の方向にも起こりうる)1
の頻度 約50%1 約80%1

💡 成人身長には具体的な目安がある。 成人男性で142〜169 cm、成人女性で130〜157 cmであり、は生後数年のうちに標準を下回る2。

⚠️ 偏位の方向はとの対比としては成り立つが、との対比にはならない。 も60%で偏位を示すからである1。⭐ 下方寄りの偏位を見たら、方向だけでは絞れない——本症はと・、は・血中高値というように、方向以外の所見で分ける。

疾患 偏位の方向 頻度 決め手になる所見
1 約80%1 ・・
(60%)1 約90%、25歳までにほぼ100%1 血中・高値
下方2 約50%1 ・・・

⚠️ の頻度は出典で食い違う。 StatPearls は約50%と記すが1、文献報告例128例を集計した検討では型64%・型84%であった3。後者は文献に報告された症例の集計であって住民集団の頻度ではないため、重症例に偏りうる。「半数以上に見られるが必発ではない」程度に押さえる。

眼所見はすべて球状水晶体から導ける

⭐ が本症で最も重要な所見である2。ここから3つの帰結が順に出る。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microspherophakia'>球状水晶体</span><br>(小さく球形の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='curvature'>曲率</span>が強すぎる"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が小さく<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='zonule of Zinn'>Zinn小帯</span>の支持が不安定"]
    A --> D["小さく丸いので<br>瞳孔をすり抜けやすい"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lenticular myopia'>レンズ性近視</span><br>(通常いちばん先に現れる眼所見)"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopia lentis'>水晶体偏位</span>(下方が典型)"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior translation'>前方移動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation into the anterior chamber'>前房脱臼</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary block'>瞳孔ブロック</span>"]
    H --> I["緑内障"]
所見 要点
の形状異常そのものに由来する。通常いちばん先に現れる眼所見2
通常下方への偏位2
緑内障 ⚠️ 失明に至りうる最も重大な合併症2

眼の問題が認識される平均年齢は7.5歳であり、小児期に気づかれるのが通常である2。⚠️ 視力の喪失は他の症候群より早く、かつ重い2。

緑内障の機序は瞳孔ブロック

⚠️ 大多数の患者で、緑内障は「隅角がごと壊れている」のではなく、のまたはによるで起こる2。がからへ抜けられなくなり、が前方へ膨隆して隅角を閉じる、という閉塞隅角のかたちである。

⚠️ が引き金になることがある。 眼球へのでが弱まったあとにとが現れる例が報告されている2。⭐ だからのリスクを高める活動を避けることが管理項目に入る2。

⚠️ の数値をそのまま信じない。 の増加が本症の病的特徴として認識されており、がを過大評価しうる2。

全身所見

系 所見
成長 (全例)。成人男性142〜169 cm、成人女性130〜157 cm2
骨格 、短い。・が突出しうる。手指・手関節・肩・股関節・膝・のは進行性でありうる2
心血管 ⚠️ が高頻度。・・・。⚠️ FBN1関連の3世代家系でとが報告されており、体型がと正反対でも大動脈が安全とは限らない。 系統的心電図でQT延長も報告されている2
皮膚 厚い皺を伴うした皮膚2
発達 知的障害が11〜17%に報告され、いずれも軽度である2

遺伝

⭐ 型と型があり、が分かれている2。

遺伝形式 遺伝子 変異の状態
ADAMTS10・ADAMTS17・LTBP2 の2
FBN1 の2

💡 FBN1が両側に出てくることが、との近さを説明する。 GeneReviewsはFBN1のアレル性疾患として・・MASS症候群・/解離などを並べており、はその一つに位置づけられる2。⚠️ 同じ遺伝子でありながら表現型が正反対になるという点が、FBN1の異常を「が足りない」という一方向の話に還元できないことを示している。

💡 ADAMTS10はプロテアーゼをコードする。 型の責任領域を19p13.3-p13.2へ絞り込んだうえでが同定され、皮膚・胎児・胎児および成人心臓で発現していること、患者のでの障害が確認されたことから、ヒトの成長と皮膚・・心臓の発生に主要な役割を果たすとされた4。⭐ 「成長・眼・心臓」という本症の3本柱がそのまま1つの分子の機能で説明される。

は潜性型・型とも100%と考えられているが、家系内・家系間のには差がある2。は10万人に1人と推定されている2。

遺伝形式は臨床所見だけでは決まらない

⚠️ 型と型をだけで区別することはできない2。文献から集めた128例(潜性57例・50例・孤発21例)で12の臨床項目を比較した検討では、・緑内障・・・・厚い皮膚・筋肉質な体型・知的障害には有意差がなかった3。

有意差がついたのは次の4項目だけである3。

項目
94% 74% 0.007
64% 84% 0.016
制限 49% 77% 0.010
39% 13% 0.004

⚠️ この割合は文献報告例を集めたものであって、住民集団での頻度ではない。 ⭐ 群として差があっても、個々の症例で潜性かかを言い当てることはできなかったというのがこの研究のである3。だから遺伝形式の確定にはが要る。

診断

診断は特徴的なをもつで確立する2。だけで決められないときに、ADAMTS10・ADAMTS17・LTBP2のバリアント、またはFBN1のバリアントの同定が診断を確認する2。

治療と管理

水晶体は「早く見つけて早く取る」

⭐ 治療の基本は、と緑内障の可能性を減らすために偏位したを早期に発見し摘出することである2。緑内障が起きてから対応するのではなく、起こす部品を先に取り除く、という組み立てになっている。

緑内障の外科的管理には、の予防・解除を目的とすると、進行した慢性に対するが含まれる2。

⚠️ 縮瞳薬も散瞳薬も使えない

⚠️ ⭐ 本症で最も試験に出しやすく、最も間違えやすい点である。 ・に対してな反応を示すため、緑内障の薬物治療そのものが困難である2。眼科用の・は、を誘発しうるため避けるべき薬剤として明記されている2。

💡 なぜが効かないどころか悪化させるのか。 の常識ではのようながを引いて隅角を開く。しかし本症では小さく丸いが瞳孔にはまり込んでいるので、瞳孔を縮めればをいっそう締めつけてを強めることになる。も、瞳孔が開いた隙にがへ落ちれば同じことが起きる。

その他の管理とサーベイランス

  • 関節の問題にはを検討する2。
  • ⚠️ 麻酔前には慎重な評価を要する——、、があるためである2。💡 いずれも気道確保と体位保持を難しくする要素である。
  • の治療は循環器医に委ねる2。
頻度
眼科診察(偏位の早期発見・摘出のため) 年1回2
身長との評価 年1回2
心エコー・心電図 定期的2
のリスクを高める活動 ⚠️ 避ける2

まとめ

  • は・・・眼所見・心血管異常からなる結合組織疾患で、と体型が正反対になる12。は10万人に1人2。
  • ⭐ 眼所見はすべてから導ける——(最初に現れる)、下方への、そして緑内障2。眼所見が認識される平均年齢は7.5歳である。
  • ⚠️ 緑内障は最も重大な合併症で、機序はの・によるである2。の増加でがを過大評価しうる。
  • 偏位の方向(下方)は()との対比にはなるが、(60%)とは重なるため、方向だけでは絞れない1。
  • 型はADAMTS10・ADAMTS17・LTBP2のバリアント、型はFBN1のバリアントによる2。⚠️ だけでは両者を区別できない3。
  • 治療は偏位の早期摘出が基本で、緑内障には・を用いる2。
  • ⚠️ ・はいずれもを誘発しうるため避ける。 のため緑内障の薬物治療は困難である2。

出典

  1. 1.Ectopia Lentis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Weill-Marchesani症候群を「マルファン症候群の逆(the reverse of Marfan's syndrome)」と記し、水晶体偏位が約50%に見られ下方への亜脱臼を示すこと、青年期または成人早期に見られうること、他に多い眼所見が球状水晶体と瞳孔ブロック緑内障であること、全身所見が低身長・手足の短い指・短指症であること、マルファン症候群では水晶体偏位が約80%に見られ両眼性の上耳側偏位を示すが他の方向にも起こりうること、マルファン症候群の骨格所見が痩せて背が高い体型・クモ状指・関節過可動であること、ホモシスチン尿症では水晶体偏位がほぼ90%に見られ両眼性で60%に下鼻側偏位を示し25歳までにほぼ100%で観察されることを、Europe PMC の bookXML(NBK578193)で確認した。本章の最終更新日はNCBI Bookshelfの表示で2023年6月11日である。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Weill-Marchesani Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2020)Weill-Marchesani症候群が水晶体の異常・低身長・短指・関節硬直・心血管異常を特徴とする結合組織疾患であること、眼所見が通常小児期に認識され球状水晶体(microspherophakia)・水晶体の形状異常に由来するレンズ性近視・水晶体偏位・緑内障からなること、球状水晶体が最も重要な所見でレンズ性近視が通常最初の眼所見であること、眼の問題が認識される平均年齢が7.5歳であること、水晶体偏位が通常下方への偏位を生じること、緑内障が失明に至りうる最も重大な合併症で大多数では水晶体の前方移動または前房への脱臼による瞳孔ブロックが機序であること、中心角膜厚の増加がWMSの病的特徴として認識されておりアプラネーション眼圧計による眼圧の過大評価につながりうること、視力の喪失が他の水晶体脱臼症候群より早期かつ重度であること、眼球への鈍的外傷が小帯線維を弱めた後に水晶体脱臼と瞳孔ブロックが現れる例があること、成人男性の身長が142〜169 cm・成人女性が130〜157 cmであること、成長速度が生後数年で標準成長曲線を下回ること、骨格所見が短指と短い中手骨からなり中手指節関節・指節間関節が突出しうること、手指・手関節・肩・股関節・膝・足関節の関節硬直が進行性でありうること、心奇形が高頻度で動脈管開存・肺動脈狭窄・大動脈弁狭窄・僧帽弁逸脱を含むこと、皮膚が厚い皺を伴って緊満していること、知的障害が11〜17%に報告されいずれも軽度であること、常染色体潜性型と常染色体顕性型を臨床所見だけでは区別できないこと、診断がADAMTS10・ADAMTS17・LTBP2の両アレル性病的バリアントまたはFBN1のヘテロ接合性病的バリアントの同定によって確認されること、常染色体潜性型・顕性型ともに浸透率が100%と考えられていること、有病率が10万人に1人と推定されていること、旧称に spherophakia-brachymorphia syndrome があること、治療が瞳孔ブロックと緑内障の可能性を減らすための偏位水晶体の早期発見・摘出であること、緑内障の外科的管理に瞳孔ブロックの予防・解除を目的とする周辺虹彩切除術と進行した慢性閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術が含まれること、縮瞳薬・散瞳薬に対する逆説的反応のため緑内障の薬物治療が困難であること、避けるべきものとして瞳孔ブロックを誘発しうる眼科用の縮瞳薬・散瞳薬と眼外傷のリスクを高める活動が挙げられること、関節硬直・歯列不正・上顎低形成のため麻酔前に慎重な評価を要すること、サーベイランスが年1回の眼科診察・身長と関節可動域の年1回の評価・心エコーと心電図による定期的な心臓の経過観察であることを、Europe PMC の bookXML(NBK1114)で確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Clinical homogeneity and genetic heterogeneity in Weill-Marchesani syndrome(American Journal of Medical Genetics Part A(Faivre L, et al.)・2003)文献から集めたWeill-Marchesani症候群128例(常染色体潜性57例・常染色体顕性50例・孤発21例)について12の臨床項目の割合を潜性型と顕性型で比較した検討で、近視・緑内障・白内障・低身長・短指・厚い皮膚・筋肉質な体型・知的障害には両群で有意差がなかったこと、有意差が認められたのが球状水晶体(潜性型94%・顕性型74%、Fisher 0.007)・水晶体偏位(潜性型64%・顕性型84%、Fisher 0.016)・関節可動域制限(潜性型49%・顕性型77%、Fisher 0.010)・心奇形(潜性型39%・顕性型13%、Fisher 0.004)の4項目であったこと、それでも個々の症例で潜性型と顕性型を区別することはできなかったこと、結論がWMSの臨床的均一性と遺伝的異質性を支持するものであったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得であり、この割合は文献報告例を集計したものであって住民集団での頻度ではない。閲覧 2026-09-03
  4. 4.ADAMTS10 mutations in autosomal recessive Weill-Marchesani syndrome(American Journal of Human Genetics(Dagoneau N, et al.)・2004)Weill-Marchesani症候群が低身長・短指・関節硬直・球状水晶体と水晶体偏位を含む眼異常・ときに心奇形の合併を特徴とすることを前提に、常染色体潜性型の責任領域として先に染色体19p13.3-p13.2へマップした区間から、細胞外マトリックスプロテアーゼ族の一員であるADAMTS10をコードする遺伝子に機能喪失型変異を同定したこと(血族婚の2家系と孤発1例で3種の変異:ナンセンス変異R237Xとスプライス変異2種)、ADAMTS10が皮膚・胎児軟骨細胞・胎児および成人心臓で発現していること、患者皮膚線維芽細胞の電子顕微鏡・免疫学的検討で細胞外マトリックスの障害が確認されたこと、結論としてADAMTS10がヒトの成長と皮膚・水晶体・心臓の発生に主要な役割を果たすとしたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03