神経解剖学

神経解剖学 · 07

中脳の微細構造(顕微鏡解剖)

Fine structure of the midbrain

応用トピック
中脳障害の症候群

🧠 中脳は「=背側の反射中枢」「=中間の伝導路・」「=腹側ののみの通過点」という3層構造で読み、そののさらに内側にという特別な区画が入れ子になっていると捉える。 にはが一切なく、皮質脊髄路・・(=Arnold路、=Türk路)が黒質のすぐ隣を通過するだけ。には・・・が橋から続き、には群との中枢が並ぶ——正中=運動、外側=感覚という延髄以来の配列原則もここでまだ保たれている。

中脳の全体構成

中脳は背側から腹側へ以下のように区分される。

  • 蓋(tectum、 quadrigeminal plate):・からなる反射中枢。
  • :を取り囲む特殊な領域。
  • :・・網様体を含む。
  • :最も腹側。のみを含み、は存在しない。

大脳脚

は下行性の伝導路のみからなり、を含まない。

  • 皮質脊髄路:脊髄で終止する。
  • :2つの成分に分かれ、いずれもで終止する。
    • (fronto-pontine tract, Arnold路):起始の線維。
    • (Türk路):・・起始の線維。
  • 皮質脊髄路の内部にはも含まれる(脳神経へ向かう)。
  • 皮質脊髄路のすぐそばに黒質がある。を含み、脳幹のドパミン作動性経路の起始核として線条体と辺縁系へ投射する。
flowchart TD
  A["黒質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopaminergic neurons'>ドパミン作動性ニューロン</span>"] --> B["線条体への投射<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nigrostriatal pathway'>黒質線条体路</span>)"]
  A --> C["辺縁系への投射<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mesolimbic pathway'>中脳辺縁系路</span>)"]

💡 黒質は脳幹の「作動性核」の1つ。 ドパミンを産生する黒質は、橋の(ノルアドレナリン)と並ぶ脳幹作動性システムの代表例であり、網様体・作動性システムで体系的に扱う。

被蓋

  • が引き続き確認できる。
  • :の起始核であり、に属する。大細胞部(の起始)と小細胞部(への投射、橄欖系)に分かれる。
  • も引き続き確認できる。
  • はのすぐそばを通り、・に隣接する。

中心灰白質

はを取り囲む特殊な領域で、多数の網様体核からなる。

  • の中枢として最も重要な調節の場である。
  • 三叉神経中脳路+:の固有受容を担う。
  • :の内臓運動性核。眼の調節を担う。軸索はとして脳を出る。
  • のすぐそばには(Schütz束)があり、視床下部・中枢と多数の連絡を持つ。
  • の位置にはがあり、の一部としてがここに終止する。からはさらにが大脳皮質()へ向かう。

⚠️ ヒトのは「の起始核」という説明どおりの機能的重みを持つとは限らない。 ヒト成人ではの大細胞部(の起始)とそのものが機能的意義に乏しい的な残存物にすぎないと一般に考えられている一方、小細胞部(へ投射する橄欖系)が優位になる——ヒト胎児・新生児では逆に大細胞部が先に発達し構造的に優位という所見もあり、の反復を示すと解釈されている1。「起始核である」という記述自体は誤りではないが、ヒト成人でこの経路がどれだけ機能しているかは、サル・ネコなど他のとは分けて考える必要がある。

⚠️ ()は単一の核ではない。 ・(調節)を支配する群(EWpg)と、瞳孔・調節には関与せずストレスや摂食に関わるペプチド作動性の中枢投射性ニューロン群(EWcp)という、由来・投射先の異なる2つの細胞集団が古くから同じ名前で呼ばれてきた。ヒトでは、瞳孔・調節を担うEWpgニューロンは、に「EW核」と定義されてきた学的な位置そのものには存在せず、そこを占めるのは主に瞳孔となEWcpである——サルなど他の霊長類とは異なる。この混同のため、でのEW核変性と異常を結び付けようとした研究は、実際には瞳孔とな細胞群の変性を見ていたにすぎなかった2。「=瞳孔・調節の中枢」という理解は、EWpgに限れば正しいが、EW核全体には当てはまらない。

⭐ はCNS内に細胞体を持つ唯一の一次群である。 通常、一次の細胞体は末梢の神経節(例:)にあるが、この核だけは中枢神経系内(中脳)にの細胞体を持つ——高頻度に問われるポイント。

💡 は本来、視床の一部。 のレベルで中脳のにが写り込むのは、この高さがすでに(視床)へ移行しつつある証拠——中脳・移行部の目印として使える。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Edinger-Westphal nucleus'>動眼神経副核</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oculomotor nerve (CN III)'>動眼神経</span>として出る"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary ganglion'>毛様体神経節</span>でシナプス"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sphincter pupillae'>瞳孔括約筋</span>の収縮(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miosis'>縮瞳</span>)"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary muscle'>毛様体筋</span>の収縮(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>の調節)"]

脳神経核のまとめ

核 脳神経 機能的分類 内容
III 性 (GSE) ・・・・
核 III 一般内臓運動性 (GVE) ・(調節)
IV 性 (GSE)
V 固有受容性(特殊) の。CNS内に細胞体を持つ唯一の例

💡 とは同じ断面には写らない。 はレベル、はレベルとやや高さが異なるため、実際の図では通常どちらか一方のみが見える。

正中寄りに(・)、そのすぐ外側に核()という配列は、延髄・橋(05・06)から一貫する原則であり、の分類で改めて体系化される。

まとめ

  • 中脳は背側から蓋(反射中枢)・・(伝導路・)・(のみ)の順に区分される。
  • は皮質脊髄路・・(Arnold路)・(Türk路)というのみからなり、そのすぐ隣に黒質(ドパミン作動性)がある。
  • には(の起始)・・・が通る。
  • はの中枢であり、(CNS内に細胞体を持つ唯一の一次)・(、調節反射)・(Schütz束)を含む。
  • のレベルでは(本来は視床の一部)が写り込み、が起始する——中脳・移行部の目印になる。
  • (GSE)・・が中脳レベルのであり、正中寄りの配列原則は延髄・橋から一貫する。

出典

  1. 1.Red nucleus structure and function: from anatomy to clinical neurosciences(Brain Structure and Function・2021)総説で、ヒトの赤核は大細胞部(赤核脊髄路の起始)と小細胞部(オリーブ核へ投射する橄欖赤核系)に分かれ、ヒト成人の脳では大細胞部と赤核脊髄路は機能的意義に乏しい退化的な残存物にすぎないと一般に考えられていると述べる一方、ヒト胎児・新生児では大細胞部が小細胞部より先に発達し構造的に優位であるという所見(Ulfig and Chan 2001, 2002; Yamaguchi and Goto 2008)を紹介し、これを系統発生の反復(大細胞部優位→小細胞部優位への移行)を示唆するものと解釈している。閲覧 2026-08-26
  2. 2.The Edinger-Westphal nucleus: a historical, structural, and functional perspective on a dichotomous terminology(The Journal of Comparative Neurology・2011)総説で、古典的に「Edinger-Westphal核(EW)」と呼ばれてきた部位には、瞳孔括約筋・毛様体筋を支配しコリン作動性で毛様体神経節へ投射する節前ニューロン群(EWpg)と、瞳孔・調節には関与せずストレスや摂食など非眼球運動性の機能を担うペプチド作動性(ウロコルチン1陽性)の中枢投射性ニューロン群(EWcp)という、由来・投射先が異なる2つの細胞集団が混同されてきたことを指摘する。ChAT免疫染色によるヒト脳の検討では、瞳孔・調節を担うEWpgニューロンはIII野背側に不明瞭な柱状に分布するが、Olszewski and Baxter (1982) が細胞構築学的に定義した古典的EW核の位置そのものには存在せず、その位置を占めるのは主にEWcp(ウロコルチン1陽性)であるとし、サルなど他の霊長類とは対照的だと述べる。この混同のため、アルツハイマー病患者でEW核の変性から瞳孔反射異常を探索した先行研究(Scinto et al. 1999)は、実際には瞳孔と無関係なEWcpの変性を見ていたにすぎず、想定した結果が得られなかったと指摘している。閲覧 2026-08-26