脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 02

髄膜刺激徴候の診察(Meningeal signs)

Neurological examination: meningeal signs

前提:病態
中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎)
前提:正常
背部・脊柱:脊髄と髄膜
疾患
髄膜癌腫症
症状
項部硬直

🧠 全体像:は、髄膜炎・などの炎症・出血によって神経根が伸展・刺激されたときに誘発される一群の身体所見であり、・・の3つが代表的である。Laségue徴候は本来はの徴候だが、でも陽性となりうるため、の有無で両者を鑑別する。ただし実測すると3徴候はいずれも感度が低く(Kernig・Brudzinskiで5〜30%、で30〜60%)、陰性でも髄膜炎は否定できない——疑ったら所見の有無にかかわらずを行う12。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第2回。・・頭蓋/脊椎の診察は前のノートを参照。

髄膜刺激徴候

徴候 手技 陽性所見
仰臥位で股・を90°屈曲させた状態から、股関節屈曲位を保ったまま膝を伸展させる 伸展に対する抵抗と疼痛
仰臥位で(起き上がらないよう胸部を押さえながら)的に頸部をさせる=頭部を挙上する 股関節・の反射性屈曲(片側のことも両側のこともある)
仰臥位で後頭部に手を当て、的に頸部をさせる(顎を胸に近づける) に対する抵抗と疼痛。回旋・は保たれるのがの特徴で、回旋も制限されれば疾患・を疑う
— で膝・股関節を屈曲させた姿勢を自発的にとる
Laségue徴候 仰臥位で位のまま下肢を挙上する(的股関節屈曲) 10〜60°の股関節屈曲でから支配へ放散する疼痛

💡 は、頭部を動かしたときに生じる項部筋の防御性と定義される。

⚠️ 古典的3徴候は「あれば疑う」だけの所見で、除外には使えない。 髄膜炎を疑った患者をの前に診察した研究をまとめると、診断精度は次のとおりである。3徴候はいずれもが1前後で、陽性でもがほとんど動かない点に注意する(jolt accentuationだけは点推定が高いが、95% CIが0.67〜44.9と広く確定的ではない)。

徴候 感度 特異度 尤度比
5%(成人297例の前向き研究)/20〜30%() 85〜95%() LR+ 0.97/LR+ 1.84・LR− 0.93
5%(前向き)/20〜30%() 85〜95%() LR+ 0.97/LR+ 1.69・LR− 0.95
30%(前向き)/40〜60%() 65〜75%() LR+ 0.94/LR+ 1.33・LR− 0.86
jolt accentuation(頭部を水平に素早く振らせると頭痛が増強) 40〜60%() 65〜75%() LR+ 5.52(95% CI 0.67〜44.9)・LR− 0.95

(感度・特異度は Thomas 2002 の成人297例1 と Akaishi 2019 の9研究・1815例3、尤度比は Waghdhare 2010 の190例2 による。)

💡 例外は「炎症が激烈なとき」だけ。 髄液細胞数1000/μL以上の高度な髄膜炎症に限ればの感度は100%だった(ただし該当4例のみ)1。逆に言えば、軽度〜中等度の炎症では所見が出ないことが普通で、髄膜炎患者のおよそ半数は典型的なを示さない3。徴候は単独で使わず複数を組み合わせ、病歴と併せて解釈する。

💡 Laségue徴候は神経根の刺激(など)で陽性となり、この場合は大腿後面のを伴うことがある。でも陽性になりうるが、髄膜炎の場合はへの放散がなく股関節屈曲の制限もない(=疼痛のみ)点で神経根性のLaségue徴候と鑑別できる。

⚠️ Laségue徴候は「陽性なら」ではない。 手術所見を基準にした11研究のでは、に対する感度0.91(95% CI 0.82〜0.94)に対し特異度は0.26(0.16〜0.38)しかない。つまり陰性ならは考えにくいが、陽性はほとんど絞り込みにならない。反対に交差性(を挙上して患側に痛みが出る)は感度0.29・特異度0.88で、陽性のときにこそ意味がある4。

💡 陽性を角度で決めない。 「10〜60°」という角度の目安は覚えやすいが、挙上角度の検者間の(SDD95)は13〜20°あり、だけでこの幅が動く。陽性の判定は角度ではなく下肢症状が再現されること、さらになどのstructural differentiation(同じで神経だけに張力を加え、症状が変わるかをみる)で行うほうが検者間の一致が高い5。

正常所見の記載例:なし。その他のなし。

⚠️ 「なし」と書いても髄膜炎は除外できない。 190例の研究で、・jolt accentuation・・のいずれもが0.86〜0.95(=1に近い)で、陰性でもがほとんど下がらなかった。髄膜炎を疑ったら所見の有無にかかわらずを行う2。

原因

代表的な原因は髄膜炎、、である。

💡 上に挙げた感度・特異度・尤度比は、いずれも髄膜炎()を基準に測定されたもので、やで各徴候がどれだけ当たるかは別問題である。とくに発症直後のでは、血液が髄膜を刺激するまでに時間がかかるためが出ていないことがある。

まとめ

  • ・・は、の炎症・出血で神経根が伸展刺激を受けることで陽性となる。
  • ただし実測の感度はKernig・Brudzinskiが5〜30%、が30〜60%と低く、も1前後にすぎない。陰性でも髄膜炎は除外できず、疑ったらという原則が最重要である12。髄膜炎患者の約半数は典型的なを示さない3。
  • Laségue徴候は本来はの所見だが、でも陽性になりうる。と可動域制限の有無(では両方あり、髄膜炎では疼痛のみ)で鑑別する。
  • Laségue徴候はに対して感度0.91・特異度0.26で、陰性で否定する検査であって陽性で確定する検査ではない。陽性判定は角度ではなく症状の再現で行う45。
  • の主な原因は髄膜炎、、である。
  • 続く脳神経の診察は次のノートを参照。

出典

  1. 1.The diagnostic accuracy of Kernig's sign, Brudzinski's sign, and nuchal rigidity in adults with suspected meningitis(Clinical Infectious Diseases・2002)髄膜炎を疑った成人297例を腰椎穿刺前に前向きに診察した研究で、Kernig徴候は感度5%・LR+0.97、Brudzinski徴候は感度5%・LR+0.97、項部硬直は感度30%・LR+0.94にとどまり、髄液細胞数6/μL以上を髄膜炎とした場合の識別能はなかった。髄液細胞数1000/μL以上の高度炎症4例に限れば項部硬直の感度・陰性的中率は100%だった閲覧 2026-08-22
  2. 2.Accuracy of physical signs for detecting meningitis: a hospital-based diagnostic accuracy study(Clinical Neurology and Neurosurgery・2010)急性脳炎症候群で入院した190例(髄膜炎52%)の二重盲検研究で、項部硬直LR+1.33/LR−0.86、jolt accentuation LR+5.52/LR−0.95、Kernig徴候LR+1.84/LR−0.93、Brudzinski徴候LR+1.69/LR−0.95。いずれの身体所見も髄膜炎をrule inもrule outもできず、所見の有無にかかわらず腰椎穿刺を行うべきとされた閲覧 2026-08-22
  3. 3.Sensitivity and specificity of meningeal signs in patients with meningitis(Journal of General and Family Medicine・2019)9研究(髄液細胞増多あり599例・なし1216例)のメタ解析で、Kernig徴候とBrudzinski徴候は感度20〜30%・特異度85〜95%、項部硬直とjolt accentuationは感度40〜60%・特異度65〜75%。髄膜炎患者のおよそ半数は典型的な髄膜刺激徴候を示さない閲覧 2026-08-22
  4. 4.The test of Lasègue: systematic review of the accuracy in diagnosing herniated discs(Spine・2000)手術所見を基準とした11研究のプール解析で、Laségue徴候(下肢伸展挙上試験)の椎間板ヘルニアに対する感度は0.91(95% CI 0.82〜0.94)だが特異度は0.26(0.16〜0.38)と低く、陽性だけでは神経根症を確定できない。交差性の下肢伸展挙上試験は感度0.29・特異度0.88と逆の特性を示す閲覧 2026-08-22
  5. 5.Reliability of the straight leg raise test for suspected lumbar radicular pain: A systematic review with meta-analysis(Musculoskeletal Science and Practice・2022)15研究の系統的レビューで、下肢伸展挙上試験は下肢症状の誘発を陽性条件とすれば少なくとも fair な検者間一致、足関節背屈などのstructural differentiationを加えれば moderate 以上の一致を示す。一方、挙上角度の検者間の最小可検変化量(SDD95)は13〜20°あり、測定誤差のため角度そのものを臨床判断に使うことはできない閲覧 2026-08-22