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Microbe Atlas · ウイルス

Variola virus

痘瘡ウイルス

分類
ポックスウイルス / Poxviruses
性状
エンベロープあり EnvelopeddsDNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/19: Poxviruses

🧠 全体像の原因ウイルス)は、人類がに成功した唯一のヒト感染症という一点で他のすべての病原体と一線を画す。1980年のWHO宣言は感染症学における最大の成功例であり、そのを可能にした条件(が存在しない、有効なワクチンがある、発疹という見分けやすい臨床像を持つ)は今もワクチン戦略を考える際の教科書的な指標になっている。同時に、されたがゆえにが失われ、としてのリスクが今なお警戒されるというを抱える。

構造・ゲノム型・複製様式

Poxviridae科(Orthopoxvirus属に属する。この属にはエムラクダ痘ウイルスなど互いにが近い近縁種が含まれ、感染・ワクチン接種による免疫が属内で交差するワクチンがmpoxにも有効な理由はここにある)。

項目 内容
ゲノム 線状二本鎖DNA(dsDNA)、約190kb——DNAウイルスの中で最大
エンベロープあり(宿主膜由来ではなく自前で合成)、ではなく
大きさ 直径200〜400nm——でも観察できる最大級のウイルス
増殖部位 細胞質のみ——DNAウイルスで唯一の例外
特殊酵素 自前の内に保有

💡 なぜ細胞質だけで増殖できるのか。 通常のDNAウイルスは宿主核内のを借りて転写するため、核内への侵入が増殖の前提になる。は自分専用のと転写因子一式をに積んで持ち込むため、核に入らず細胞質だけで転写・複製を完結できる——最大級のゲノムサイズを持ちながら宿主の核内装置に依存しない、DNAウイルスとしては例外的な自己完結性を持つ。

病原性の仕組み

ウイルスは上気道から吸入され、局所リンパ節で増殖したのちリンパ系を介して播種し、第1次ウイルス血症を起こす。この時点では無症候(潜伏期)。ウイルスは脾臓・骨髄などのでさらに増殖し、第2次ウイルス血症を経て全身の皮膚・粘膜・内臓に到達し、古典的な「pocks(痘疹)」を形成する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variola virus'>痘瘡ウイルス</span>吸入<br>(上気道)"] --> B["局所リンパ節・<br>リンパ系で増殖・播種"]
  B --> C["第1次ウイルス血症<br>(無症候・潜伏期)"]
  C --> D["脾臓・骨髄など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial system (RES)'>細網内皮系</span>でさらに増殖"]
  D --> E["第2次ウイルス血症<br>(発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prodromal symptoms'>前駆症状</span>)"]
  E --> F["全身の皮膚・粘膜への到達"]
  F --> G["口腔粘膜から発疹開始<br>→顔面→四肢へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrifugation'>遠心</span>性に拡大"]
  G --> H["全身の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pocks'>同時性発疹</span>"]

臨床像

潜伏期5〜7日ののち、2〜4日間の高熱・頭痛・全身感などインフルエンザ様が先行する。発疹は口腔内から始まり顔面・四肢へ拡大し、24時間以内に全身に及ぶ。

水痘との鑑別が最頻出。 は全ての病変が同一の発育段階にある(のに対し、水痘は病変の段階が混在する()。分布も対照的で、四肢優位(性)、水痘は体幹優位(求心性)

項目 水痘
病変の深さ 表在性 深く硬い
病変の段階 混在( 全て同一段階(
好発部位 体幹優位 四肢優位
リンパ節腫脹 目立たない 目立たない

の致死率は約30%。生存例は多くの瘢痕()を残す。

⚠️ としてのリスクを今なお持つ。 1980年にWHOがを宣言して以降、は世界からしなくなったが、に認められたウイルス保管施設(米国CDC・ロシアのVECTOR研究所)が存在し、実験室株の流出や合成生物学による人工合成のリスクから、依然として生物学的テロのとして警戒される。

診断

  • 現在は自然感染例が存在しないため、上の緊急事態として扱い、専門施設でのPCR確認と当局への即時通報が原則
  • 歴史的には細胞質内好酸性=ウイルス複製巣)の証明が診断に用いられた

治療と予防

まとめ

  • ヒト感染症で唯一に成功した病原体(1980年WHO宣言)。
  • Orthopoxvirus属:線状dsDNA・エンベロープあり・最大のDNAウイルスで自前のRNAポリメラーゼにより細胞質のみで増殖する例外的存在。
  • →リンパ系播種→第1次ウイルス血症→での増殖→第2次ウイルス血症→全身性のという経過。
  • 水痘との鑑別は発疹の vs 、四肢優位 vs 体幹優位が最重要。致死率約30%。
  • 後もとしてのリスクが残り、の低下がエムなど近縁種の流行余地を生んでいる。