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Microbe Atlas · ウイルス

Morbillivirus

麻疹ウイルス

分類
パラミクソウイルス / Paramyxoviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/27: Paramyxoviruses: Mumps-, Morbillivirus5/12: The most important bacteria causing meningitis and encephalitis (list), their diagnosis, and principles of treatment5/19: Pathogens of air-borne viral infections (list)
原因となる疾患
麻疹

🧠 全体像:は「地球上で最も感染力の強いウイルス感染症の一つ」という一言で捉える。し(R0)はきわめて高く(慣用的に12〜18と引用されるが、既存免疫を織り込んだ推定値を集めた系統的レビューではばらつきはこの範囲より大きい1)、近縁のと同じF蛋白によるという武器を共有しながら、狙う先が全身の皮膚・粘膜である点で(腺組織)と対比される。近年最も強調されるのは、急性期を乗り越えても既獲得免疫を消し去る「」という長期的な影響と、感染から何年も後に発症しうる致死的な(SSPE)——「麻疹は治ったら終わり」ではない病気である。

構造とゲノム

項目 内容
科・ゲノム Paramyxoviridae科(Morbillivirus属)。(−)、エンベロープあり、
表面蛋白 HA()——細胞への接着/F蛋白——。・と異なりNAを持たない
血清型 ヒトのみを宿主とする単一血清型——変異が乏しく、ワクチンが長期にわたり有効な理由の一つ

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airborne transmission'>空気感染</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='measles virus'>麻疹ウイルス</span>が呼吸器上皮へ"] --> B["F蛋白による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytium formation'>合胞体形成</span>で増殖・免疫<span class='jp-term jp-term-diagram' title='escape'>逃避</span>"]
    B --> C["所属リンパ節→ウイルス血症で全身拡大"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catarrhal stage'>カタル期</span>:発熱・4つのC・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Koplik spots'>Koplik斑</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exanthem stage'>発疹期</span>:耳介から下降する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confluent'>癒合性</span>発疹"]
    C --> F["免疫系の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='memory lymphocyte'>メモリーリンパ球</span>にも感染"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune amnesia'>免疫健忘</span>:既獲得免疫が数か月〜数年減弱"]
    E --> H["合併症:中耳炎・下痢・肺炎・脳炎"]
    C --> I["まれ:SSPE(感染から平均7〜10年後)"]

呼吸器上皮に感染した後、F蛋白によるで増殖しながら所属リンパ節、続いて血流を介して全身の皮膚・粘膜・呼吸器・免疫系へ拡大する。

💡 は「免疫システムの記憶そのものを壊す」機序で起こる。 は既存の病原体に対するを担うに感染して枯渇させるため、麻疹から回復した後も他の感染症への罹患・重症化リスクが上昇する。未接種の小児77例を自然麻疹感染の前と感染2か月後で比較した研究では、数千の病原体エピトープに対する既存の抗体レパートリーのうち11〜73%が失われた(が大きい)。この影響はを接種した乳児では観察されず、麻疹に感染させたマカクで再現された2。ワクチンによるが麻疹そのものだけでなく他の感染症による死亡率も間接的に下げるという疫学所見は、この機序で説明される。

⚠️ SSPEは麻疹罹患から何年も後に発症しうる致死的な遅発性合併症。 変異・欠損ウイルスが脳内にし、急性期を無事に乗り切った患者でもの脳症(→→意識障害→)を発症しうる——の代表例。

感染経路と疫学

  • ——伝播は主に数分で拡散するによるヒト-ヒト感染で、分泌物との直接接触でも起こる3。感染症の中でも最も伝播力が強い部類に入り、濃厚接触の場では曝露した感受性者の90%超がする4
  • ⚠️ R0の「12〜18」は慣用的な引用値であって確立した範囲ではない。 既存免疫を計算に織り込んだ一次資料18研究・58推定値を集めた系統的レビューは、推定値のばらつきが12〜18より大きいとし、各国が自国のデータでR0を計算するべきだとしている1。💡 数値を1つ覚えるなら、R0よりも率90%超のほうが揺らぎが小さい
  • ヒトのみが宿主——ヒト以外に有意ながないため、理論上は可能なウイルスである。抗原型が1つだけであることもを支える条件になる3
  • 感染性期間は発疹出現の約4日前〜4日後で、この時期に気道内のウイルス量が最も高い3
  • ワクチン接種率が低下した地域で輸入例・が世界的に増加している——「過去の病気」ではない

起こす疾患

潜伏期は曝露から初発症状までふつう10〜14日(範囲7〜23日)で、特徴的なはの2〜4日後に出現する3。合併症は報告例の約30%に生じ3、米国の1987〜2000年の症例でも約30%に1つ以上の合併症が報告された。⭐ 合併症が多いのは5歳未満の小児と成人である4。

病期・所見 内容
発熱+“4つのC”(Cough咳・Coryza・結膜炎・)
に出現する、赤い背景に囲まれた小さな青白色斑点。発疹に先行する病原体特異的所見
の2〜4日後からが耳介から下方へ拡大し癒合する(風疹との鑑別点——風疹の発疹は)
中耳炎 先進国の小児で7〜9%——下痢(8%)と並んで頻度の高い合併症
下痢 先進国の小児で8%。開発途上国では乳児でを伴うに至ることがある
肺炎 先進国の小児で1〜6%。を含み、麻疹の重症合併症の中心
脳炎(感染後麻疹脳炎) 1,000〜2,000例に1〜4例。感染後数日〜2週間以内に発症する急性合併症
SSPE 10,000〜100,000例に約1例。感染(多くは2歳未満での罹患)から平均7〜10年後に発症する致死的な
既獲得免疫が減弱し他感染症の罹患・重症化リスクが上昇

⚠️ 「」は通常の麻疹肺炎ではなく、免疫不全者に生じる合併症である。 は免疫不全者に生じる特に重症の合併症として急性進行性の麻疹脳炎と特徴的なの2つを挙げている3。()はこのの組織像を特徴づける所見である。💡 「麻疹の死因=」と短絡しない——は免疫不全者に限られるまれな型であり、免疫能が保たれた患者に起こる肺炎(を含む)とは別物として数える。

💡 致死率も集団で大きく変わる。 開発途上国ではふつう3〜6%で、避難民など免疫学的に未感作の集団では30%に達しうる一方、先進国では0.01〜0.1%にとどまる。感染小児では50%に達する報告がある3。

すべて麻疹を参照。

診断

  • 呼吸器検体のRT-PCRと血清麻疹特異的IgMで確認する
  • の時点で確定を待たずマスク・を開始し、へ速やかに届け出る
  • 血算では・を認めることが多い

治療と予防

  • 特異的な抗ウイルス治療はなく支持療法が基本。重症の免疫不全患者ではが実験的に使用されることがあるが確立された適応ではない
  • は過去の投与時期にかかわらず急性期の全例に投与する。診断時ただちにし、翌日に反復する。用量は生後6か月未満50,000 IU・6〜11か月100,000 IU・12か月以上200,000 IUで、などの眼徴候があれば3回目を4〜6週後に追加する。麻疹が通常は重症化しない国でも、重症麻疹の全例には投与する3
  • ⚠️ 抗菌薬を予防的に投与しない。 肺炎・中耳炎などの二次性細菌合併症が生じた場合を除き推奨されない3
  • 予防は麻疹含有ワクチン()によるが基本。⚠️ 日本のはではなくMR(麻疹・風疹)混合ワクチンで、1歳から(1期)と5歳から(2期)の2回である5——米国などのMMR 2回接種をそのまま日本の話にしない
  • ⚠️ 麻疹含有ワクチンの禁忌は妊娠・免疫抑制状態・ワクチン成分(・ゼラチン等)への重篤なアレルギーである3
  • 曝露後予防:未接種・不十分接種者には曝露後72時間以内の麻疹ワクチン接種、ワクチン禁忌者(特に妊婦・生後6か月未満の乳児・免疫不全者)には曝露後6日以内のヒト免疫グロブリン投与を行う3

まとめ

  • はParamyxoviridae科Morbillivirus属の単一血清型ウイルスで、ヒトのみを宿主とし、きわめて感染力が強い性ウイルスである(R0の「12〜18」は慣用的な引用値で、系統的レビューではばらつきがこれより大きい。濃厚接触の場での率は90%超)。
  • F蛋白によるで増殖しながら全身の皮膚・粘膜へ拡大し、“4つのC”+に続く耳から下降する発疹を来す。潜伏期は10〜14日(範囲7〜23日)、感染性期間は発疹の約4日前〜4日後。
  • 合併症は報告例の約30%に生じ(5歳未満と成人に多い)、先進国の小児では中耳炎7〜9%・下痢8%・肺炎1〜6%。と麻疹脳炎は免疫不全者に生じる合併症で、通常の麻疹肺炎と区別する。
  • (への感染による既獲得免疫の減弱。既存抗体レパートリーの11〜73%が失われる)とSSPE(感染から平均7〜10年後に発症する致死的な遅発性合併症)が近年特に強調される長期的リスクである。
  • 診断は・血清IgMで確認し、時点から確定を待たずとを行う。
  • 治療は支持療法と(診断時と翌日の2回、年齢別用量)が中心。予防は麻疹含有ワクチン(妊娠は禁忌)と、曝露後72時間以内のワクチン/6日以内の免疫グロブリンによる曝露後予防が柱。⚠️ 日本のはMR(麻疹・風疹)混合ワクチンの1歳・5歳の2回で、MMRではない。

出典

  1. 1.The basic reproduction number (R0) of measles: a systematic review(The Lancet Infectious Diseases・2017)抄録で、麻疹のR0がしばしば12〜18と引用されること、既存免疫を計算に織り込んだ一次資料を対象にした系統的レビューで10,883件から18研究・58推定値が選ばれたこと、その結果「R0の推定値はしばしば引用される12〜18という範囲より大きくばらつく」と結論され、各国は自国のデータでR0を計算するか不可能なら類似の状況の推定値を用いるべきとされていることを確認した(抄録のみを閲覧し全文は未取得)。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens(Science(Mina MJ, et al.)・2019)抄録で、未接種の小児77例を自然麻疹感染の前と感染2か月後に比較し、数千の病原体エピトープへの抗体を追跡するVirScanで測定したところ、麻疹によって既存の抗体レパートリーの11〜73%が個人差をもって失われたこと、病原体への自然再曝露のあとに抗体の回復が検出されたこと、この影響はMMRワクチンを接種した乳児では観察されず麻疹に感染させたマカクでは再現されたこと、感染後の体液性免疫記憶の低下が将来の感染への脆弱性を生みうると結論されていることを確認した(抄録のみを閲覧し全文は未取得)。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Measles vaccines: WHO position paper – April 2017(World Health Organization(Weekly Epidemiological Record 92(17):205–227)・2017)Internet Archive の2020年11月13日保存版(apps.who.int/iris 由来のWER 92(17) 全24頁PDF)を curl で取得し、pypdf の全文で確認した。潜伏期が曝露から初発症状までふつう10〜14日(範囲7〜23日)で、特徴的な麻疹様発疹は前駆症状の2〜4日後に出現すること、患者は発疹出現の約4日前から4日後まで感染性を持ちこの時期に気道内のウイルス量が最も高いこと、ヒト以外に有意な保有宿主はなくヒトが唯一の自然宿主であること、伝播は主に数分で拡散する飛沫核によるヒト-ヒト感染で分泌物との直接接触でも起こること、抗原型は1つだけであること。合併症は報告例の約30%に生じ、先進国の小児では中耳炎7〜9%・下痢8%・肺炎1〜6%で、感染後麻疹脳炎が1,000〜2,000例に1〜4例、SSPEが10,000〜100,000例に約1例であること。⚠️ 免疫不全者に生じる特に重症の合併症として「急性進行性脳炎(麻疹封入体脳炎)」と「特徴的な巨細胞肺炎」の2つが挙げられており、巨細胞肺炎は通常の麻疹肺炎ではなく免疫不全者の合併症として記載されていること。致死率は開発途上国でふつう3〜6%(避難民など免疫学的に未感作の集団では30%に達しうる)、先進国では0.01〜0.1%、HIV感染小児では50%に達する報告があること。治療ではビタミンAを過去の投与時期にかかわらず急性期の全例に投与し、診断時ただちに経口投与して翌日に反復すること、用量は生後6か月未満50,000 IU・6〜11か月100,000 IU・12か月以上200,000 IUで、Bitot斑などビタミンA欠乏の眼徴候があれば3回目を4〜6週後に投与すること、麻疹が通常は重症化しない国でも重症麻疹の全例には投与すべきこと、抗菌薬は肺炎・中耳炎などの二次性細菌合併症が生じた場合を除き推奨されないこと。曝露後予防は未接種・不十分接種者への曝露後72時間以内の麻疹ワクチン接種と、ワクチン禁忌者(特に妊婦・生後6か月未満の乳児・免疫不全者)への曝露後6日以内のヒト免疫グロブリン投与であること。麻疹含有ワクチンの禁忌にワクチン成分(ネオマイシン・ゼラチン等)への重篤なアレルギー、妊娠、免疫抑制が含まれることも確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Chapter 13: Measles — Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (Pink Book)(CDC・2024)cdc.gov は素の curl が接続できなかったため、Internet Archive の2026年8月27日保存版(`web.archive.org/web/…id_/` 形式で元URLをそのまま取得)を curl で読んで確認した。麻疹が極めて伝染性が高く、濃厚接触の場では**曝露した感受性者の90%超が二次感染**すると述べられていること、感染性期間が発疹出現の4日前から4日後までとされていること、米国の1987〜2000年の麻疹症例の約30%に1つ以上の合併症が報告され、合併症は5歳未満の小児と成人で最も多かったこと、挙げられている合併症が下痢・中耳炎・肺炎・脳炎・亜急性硬化性全脳炎・死亡であること、ワクチン導入前の米国では年間約500,000例・約500人の死亡が報告され実際の症例数は年間300〜400万と推計されていたこと、1963年のワクチン承認後に発生率が95%以上低下したこと、抗原型が1つであることを確認した。⚠️ この章は合併症を列挙しているが、死亡原因の内訳や順位は示していない。ページの最終レビューは2024年4月24日。閲覧 2026-09-27
  5. 5.予防接種・ワクチン(定期接種の対象疾病)(厚生労働省・2026)「ワクチンを一覧で見る」の表の本文を取得し、麻しんに対する定期接種ワクチンが「MRワクチン(1歳〜、5歳〜)」として掲げられ、対象疾病が麻しんと風しんの2疾患であることを確認した。⚠️ 一覧にMMRワクチンは無く、ムンプスは定期接種の対象疾病に入っていない閲覧 2026-09-28