微生物学

微生物学 · 3/36

従来型・非従来型の遅発性ウイルス感染

Conventional and non-conventional slow virus infections

疾患
プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病)進行性多巣性白質脳症致死性家族性不眠症

🧠 「」という同じ臨床像——数年〜数十年の潜伏期を経て発症する進行性・の中枢神経変性疾患——が、全く異なる2種類の病原体から生まれる。 は実在するウイルス(・麻疹・風疹・JCウイルス)が長い潜伏の末に脳を破壊する経路であり、はウイルスですらない、核酸を持たないタンパク質だけの感染性因子=(3/1で導入した)が、正常タンパクのを次々に「感染」させて広がる経路である。免疫応答を惹起するかどうか(は起こす、は起こさない)が、両者の最大の違いになる。

遅発性感染の定義・共通点

  • が数年〜数十年と長い——急性期を欠くこともある

  • 中枢神経系の進行性変性疾患を引き起こす

  • 経過は進行性で、致死的な転帰(死亡)をたどる

従来型遅発性ウイルス感染

実在するウイルスによって引き起こされる。

ウイルス 疾患 特徴
(, human immunodeficiency virus) 認知症候群 中枢神経系での。詳細は3/32
モルビリウイルス(Morbillivirus=, measles virus) 急性感染から数年後に発症することがある。詳細は3/27
詳細は3/33
JCウイルス 免疫不全患者に発症。詳細は3/18

非従来型遅発性感染:プリオン病

ウイルスではない他の病原体=によって引き起こされる。

  • =「タンパク質のみ」からなる感染性因子(3/1で導入したの一つ)——疎水性の凝集体

  • 生きた細胞内で複製し、感染性を持ち、非常に抵抗性が高い(熱・化学薬品・放射線に強い)

  • 宿主の免疫応答を惹起しない——ウイルス感染との決定的な違い

  • 誤って折り畳まれたタンパク質が、正常な変異体タンパクに自らの異常なを伝達(鋳型的に伝播)する能力を持つ

    → CNS内にが形成され、が進行する

    • ニューロンの、アストロサイトの増殖、ニューロンとの融合
    • ——脳組織がになる

💡 正常タンパク(PrPC)と異常タンパク(PrPSc)。 誤って折り畳まれたが正常型に接触すると、正常型を自分と同じ異常なへ変換させる——これが連鎖的に広がることで・が蓄積していく。抗原として認識されないため炎症・免疫応答が起こらず、「感染」していても宿主に気づかれにくい。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slow infection'>遅発性感染</span><br>Slow virus infection"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conventional'>従来型</span><br>Conventional:実在するウイルス"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-conventional'>非従来型</span><br>Non-conventional:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prion, PrP'>プリオン</span>"]
  B --> D["長い潜伏期を経て<br>CNSに persist・再活性化"]
  C --> E["誤って折り畳まれたタンパクが<br>正常タンパクの構造を鋳型的に変換"]
  D --> F["進行性CNS変性疾患<br>致死的"]
  E --> F

プリオン病各論

疾患 特徴
(Creutzfeldt–Jakob disease, CJD)
パプアニューギニアでみられた伝達性
—
ゲルストマン・ストロイ・カー症候群(Gerstmann–Sträussler–Scheinker syndrome, GSS) —
(bovine spongiform encephalopathy, BSE、通称““) ヒトに伝播しうる(, variant CJD, として)

💡 (sCJD)は一枚岩ではなく、複数の分子亜型に分かれる。 PRNP遺伝子の多型(/)と、プロテアーゼ抵抗性の(PrPSc)の型(1型・2型)の組み合わせにより、Parchi・Gambettiの分類ではsCJDは6つの分子亜型に分けられる。はsCJDのいずれの亜型とも異なる、明確に区別可能なPrPSc型を持つ1。

⭐ は英国で2000年に年間28例のピークを迎えた後、急速に減少している。 (BSE)対策により2006年以降は年間数例に減り、2014年以降は新規報告がない2——ピーク時の懸念に反し、これまでのところなの波は観測されていない。

⚠️ 遅発性ウイルス感染に対して有効な治療法は存在しない。 ・を問わず、いずれも根本的ながなく、対症療法の域を出ない——これが本トピック最大の臨床的注意点である。

まとめ

  • は数年〜数十年の長い潜伏期を経て発症する、進行性・のCNS変性疾患という共通の臨床像を持つ。

  • は(認知症候群)、(SSPE)、(PRP)、JCウイルスなど実在するウイルスによるである。

  • は(タンパク質のみの感染性因子)によるもので、誤って折り畳まれたタンパクが正常タンパクの構造を鋳型的に変換し、免疫応答を惹起せずに・を蓄積させる。

  • にはCJD、、FFI、GSS、BSE(ヒトへの伝播=)が含まれる。

  • ・を問わず、遅発性ウイルス感染に対する有効な治療法は存在しない。

出典

  1. 1.Molecular pathology of human prion diseases(International Journal of Molecular Sciences・2009)孤発性CJD(sCJD)は`PRNP`遺伝子コドン129多型とプロテアーゼ抵抗性PrP(PrPSc)の型(1型・2型)の組み合わせにより、Parchi・Gambettiの分類で6つの分子亜型に分けられること、vCJDはsCJDのいずれの亜型とも異なる明確に区別可能なPrPSc型を持つことを確認閲覧 2026-08-26
  2. 2.Epidemiological characteristics of human prion diseases(Infectious Diseases of Poverty・2016)英国におけるvCJD年間死亡数は2000年に28例でピークに達した後2006年以降急減し、2012年は0例、2013年は1例、2014年以降は新規報告なしという推移を確認閲覧 2026-08-26