微生物学

微生物学 · 4/21

リーシュマニア

Leishmaniae

応用トピック
ハンセン病とリーシュマニア症の臨床病型・治療
微生物
Leishmania braziliensisLeishmania donovaniLeishmania infantumLeishmania tropica
疾患
カラアザール後皮膚リーシュマニア症リーシュマニア症

🧠 リーシュマニア属は感染の「深さ」で3つの臨床像に分かれる、と読むと整理できる。 に刺されて注入されたpromastigoteは、どの種でも必ずマクロファージに取り込まれてに変わる——ここまでは共通。違いはそこから寄生虫がどこまで広がるかで、皮膚にとどまれば(L. tropica)、粘膜まで破壊すれば(L. braziliensis)、全体に播種すれば=(L. donovani、最も致死的)になる。⚠️ この対応づけは代表的な組み合わせであって固定した規則ではない——ふつう皮膚型を起こすL. tropicaによる内臓感染の報告がある1。

形態・生活環

項目 内容
分類 ——原虫の分類ではの
形態① ——媒介動物()体内・細胞外に存在する感染型
形態② ——ヒトのマクロファージ内に寄生する細胞内型
アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカ、中東
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sandfly'>サシチョウバエ</span>が吸血<br>promastigoteを皮膚に注入"] --> B["マクロファージに貪食される"]
  B --> C["マクロファージ内でamastigoteに変化"]
  C --> D["細胞内で増殖し宿主細胞を破壊"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sandfly'>サシチョウバエ</span>が吸血<br>感染マクロファージを摂取"]
  E --> F["ハエの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut'>中腸</span>でpromastigoteに再変化"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proboscis'>口吻</span>に移動し再び感染可能に"]
  G --> A

感染経路・媒介動物

  • 媒介動物:の刺咬。
  • :都市部ではヒト、農村部では動物(rodents, dogs, catsなど)——人獣共通感染症としての性格を持つ。

臨床像

(/)— L. donovani

⚠️ の中で最も致死的な病型。 ・骨髄への浸潤により肝脾腫と(赤血球・白血球・血小板すべての低下)をきたし、腎障害も伴う。病態が持続すると、皮膚に色素沈着した(、通称“black spots”)を生じる。

— 主にL. tropica

  • の→掻痒・。
  • 潰瘍は硬化しながらも最終的には瘢痕を残して治癒するが、この段階でを合併しやすい。
  • ⚠️ 「皮膚型=皮膚にとどまる」と断定しない。 湾岸戦争の帰還兵8人に内臓のリーシュマニア感染がみられ、6株がL. tropicaと同定された。古典的なの徴候は誰にも無く、原因不明の発熱・慢性疲労・倦怠感などが帰国後最長7か月で現れ、皮膚病変は1人にも無かった1。流行地からの帰国者の原因不明の全身症状では鑑別に挙げる。

— L. braziliensisなど

  • L. tropicaと同様の潰瘍性丘疹に加え、鼻・口腔などのの破壊を伴う。
  • 浮腫とにより顔面の変形をきたすことがある。
  • ⚠️ 「L. braziliensisなら」ではない。 へ進むのは皮膚感染の少数にとどまり、またL. braziliensisに固有の性質でもなく、同じのL. panamensis・L. guyanensisでも起こる。粘膜病変は皮膚病変と同時にも、遅れても現れる2。皮膚の一次病変が治癒したあとに始まるは、患者本人が「もう治った」と思っている時期に出るため見逃されやすい。

診断

  • 確定診断:のによるの検出。
  • 血清学的検査。

治療

治療は病型ごとに異なり、全病型へ画一的なレジメンを当てはめない2。

  • :地域によって推奨が異なる。インド亜大陸では単回投与のが中心で、免疫正常患者の南アジア由来L. donovani感染では経口も代替となる。東アフリカはが2026年7月の改訂(推奨1.1)で経口+筋注(14日間、を使わないレジメン)を、従来の+併用より「提案される」とした(条件付き推奨・低い確実性であり第一選択への格上げではない)。併用は同レジメンが除外される患者向けの位置づけになった3。東アフリカでの+併用は、標準治療(+)と同等の治癒率(91.2% vs 91.8%)かつのがより低い(4.4% vs 20.9%)ことが多施設で示されている4。
  • :単純な病変は経過観察やなどのを優先し、複雑例(多発・大型・顔面/関節部・免疫不全・粘膜病変リスクあり)では、、、などから個別に全身治療を選ぶ。
  • :全例に全身治療を行う(醜形などのと、・気道閉塞による死亡を防ぐ目的)。従来の選択肢は(換算20 mg/kg/日、静注または筋注、28〜30日)と(1回0.5〜1.0 mg/kg、連日または隔日、約20〜45 mg/kg)である。脂質製剤(製剤で約20〜60 mg/kgと幅が広い)と経口(約2.5 mg/kg/日、最大150 mg/日、28日)は「比較的限られたデータに基づいて」近年加わった追加の選択肢であり、従来薬を置き換えたものではない。薬剤・用量・期間は個別化する2。
  • ⚠️ では、治療開始そのものが気道閉塞の引き金になりうる。 虫体崩壊後の炎症反応で腫脹が増悪するため、喉頭・咽頭に病変があり、症状と的・画像的評価から気道閉塞リスクが高いと判断される例では、入院監視のうえ予防的にステロイドを併用する(強い推奨)。治療開始前には専門医が鼻・口腔咽頭・喉頭粘膜を全て診て、病変の範囲と重症度を評価する2。

💡 かつて標準として教えられた「全病型に+」は、現行の/ASTMHガイドラインでは第一選択とされていない2。

まとめ

  • リーシュマニア属はで、体内のpromastigote(感染型)とヒトのマクロファージ内の(細胞内型)を行き来する。
  • 病型は感染の広がりの深さで決まり、L. donovaniは(、最も致死的)、L. tropicaは、L. braziliensisはを起こす。ただし種と病型は一対一ではない——L. tropicaによる内臓感染の報告があり1、へ進むのも皮膚感染の少数で、L. panamensis・L. guyanensisでも起こる2。
  • 内臓型は肝脾腫・・腎障害を、皮膚型は潰瘍性丘疹とを、はさらに鼻・口腔粘膜の破壊を特徴とする。
  • 診断はのによる検出が確定診断。
  • 治療は病型・原虫種・・で個別化し、内臓型はを軸に、単純皮膚型はを優先し、は全例で全身治療を行う。の従来薬はとで、脂質製剤とは限られたデータに基づく追加の選択肢である。喉頭・咽頭病変で気道閉塞リスクが高い例には入院監視と予防的ステロイドを併用する2。

出典

  1. 1.Visceral infection caused by Leishmania tropica in veterans of Operation Desert Storm(New England Journal of Medicine(Magill AJ, et al.)・1993)Europe PMC の抄録(PMID 8292114、328巻1383-1387頁)を直接確認した。湾岸戦争(砂漠の嵐作戦)帰還兵8人に内臓のリーシュマニア感染がみられ、古典的なカラアザールの徴候・症状を示した者は1人もいなかったこと。7人が原因不明の発熱・慢性疲労・倦怠感・咳・間欠的下痢・腹痛を帰国後最長7か月で発症し、5人にリンパ節腫大または軽度・一過性の肝脾腫があり、皮膚病変は誰にも無かったこと。分離株6株が『通常は皮膚病変のみを起こす』L. tropica と同定され、結論として L. tropica は内臓感染を起こしうるとされたこと。全文は未取得。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Diagnosis and Treatment of Leishmaniasis: Clinical Practice Guidelines by IDSA and ASTMH(Infectious Diseases Society of America / American Society of Tropical Medicine and Hygiene・2016)臨床型ごとに治療を個別化する方針を採り、全病型に五価アンチモン製剤+インターフェロンγを画一適用する古い方針を標準治療としていないことを確認した。2026-09-27に同時掲載版(PMC5239701)の全文で推奨文を逐語で追加確認:序文が「Leishmania (Viannia) braziliensis および L. (V.) panamensis・L. (V.) guyanensis を含む Viannia 亜属の近縁種による皮膚感染の少数(a minority)が、同時または遅発性(concomitant or late)の粘膜リーシュマニア症を伴う」と述べていること。推奨45が新世界型粘膜リーシュマニア症の全例に全身治療を行うべきとすること(Strong, low)。推奨46が治療開始前に専門医による鼻・口腔咽頭・喉頭粘膜の完全な診察を求めること(Strong, moderate)。推奨47が「喉頭・咽頭病変があり、症状と耳鼻咽喉科的・画像的診察から気道閉塞リスクが高いと示される患者には、抗リーシュマニア治療開始後の炎症反応のおそれがあるため、入院監視と予防的ステロイド投与を推奨する」とすること(Strong, low)。推奨48が薬剤・用量・期間を個別化すべきとし(Strong, moderate)、Remarks で従来の選択肢が五価アンチモン製剤(アンチモン換算20 mg/kg/日、静注または筋注、28〜30日)とアムホテリシンBデオキシコール酸(1回0.5〜1.0 mg/kg、連日または隔日、累積約20〜45 mg/kg)であり、「比較的限られたデータに基づいて(on the basis of comparatively limited data)」近年アムホテリシンB脂質製剤(リポソーマル製剤の累積総投与量は約20〜60 mg/kgと幅が広い)と経口ミルテホシン(約2.5 mg/kg/日、最大150 mg/日、28日)が加わったと述べていること。閲覧 2026-08-26
  3. 3.WHO guidelines on leishmaniases: treatment of visceral leishmaniasis and post-kala-azar dermal leishmaniasis in eastern Africa and South-East Asia(World Health Organization・2026)2026年7月28日発行のガイドライン本体(推奨1.1)で、東アフリカの内臓リーシュマニア症は経口ミルテホシン+パロモマイシン筋注(いずれも14日間)がSSG+パロモマイシン(17日間)より「提案される(suggested)」とされた。⚠️ 条件付き推奨・低い確実性のエビデンスであって「第一選択」への格上げではない。本ガイドラインは南アジアについては再発とPKDLのみを扱い、初回治療の推奨は出していない閲覧 2026-09-05
  4. 4.Paromomycin and Miltefosine Combination as an Alternative to Treat Patients With Visceral Leishmaniasis in Eastern Africa: A Randomized, Controlled, Multicountry Trial(Clinical Infectious Diseases・2022)ケニア・エチオピア・スーダン・ウガンダで実施された第3相多施設無作為化比較試験(439例登録・424例完了)で、パロモマイシン+ミルテホシン併用(PM/MF)の6か月時点での治癒率(91.2%)が標準治療のスチボグルコン酸ナトリウム+パロモマイシン(SSG/PM、91.8%)と同等であったこと、カラアザール後皮膚リーシュマニア症の発生率がPM/MF群4.4%・SSG/PM群20.9%とPM/MF群で有意に低かったことを確認した閲覧 2026-08-26