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Microbe Atlas · 原虫

Leishmania braziliensis

分類
鞭毛虫 / FlagellatesLeishmania
科目
Medical Microbiology
トピック
4/21: Leishmaniae
原因となる疾患
リーシュマニア症
作用する薬剤
スチボグルコン酸ナトリウムペンタミジンミルテホシン

🧠 全体像:L. braziliensisは皮膚の一次病変から鼻・口腔粘膜へ転移して破壊する——を起こす種である。粘膜病変は皮膚病変と同時に出ることも、遅れて出ることもある——/ASTMHも「同時または遅発性の」と両方を並べて書いている。⚠️ ただしへ進むのは皮膚感染の少数にとどまり、またL. braziliensisだけの性質でもなく、同じViannia亜属のL. panamensis・L. guyanensisも同じ合併症を起こす1。しかも組織破壊の激しさの割に病変中の寄生虫量は少ない()というを示す。これは寄生虫自体の破壊力ではなく、宿主の過剰な細胞性免疫反応が組織を壊しているためで、L. donovani(免疫を回避して播種する)とは正反対の機序である。属共通の・治療の全体像はL. donovaniのページを参照。

微生物学的な特徴

L. donovani・L. tropicaと同じく、媒介動物体内のとヒトマクロファージ内のを行き来するの。新世界(中南米)に分布し、媒介動物も旧世界のPhlebotomus属ではなく中南米のLutzomyia属である点が他の2種と異なる。

生活環

刺咬からが注入されマクロファージ内でに変化する基本サイクルは属共通(詳細な図はL. donovaniを参照)。本種に特徴的なのは、寄生虫がリンパ・血行性に播種して鼻・口腔粘膜へ達する点である。粘膜病変は皮膚病変と同時に現れることもあるが、皮膚の一次病変が臨床的に治癒したあと数か月〜数年を経て現れるが臨床上やっかいで、患者本人が「もう治った」と思っている時期に始まる1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sandfly'>サシチョウバエ</span>(Lutzomyia属)が刺咬<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='promastigote'>前鞭毛型</span>を注入"] --> B["局所マクロファージで<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='amastigote'>無鞭毛型</span>に変化・増殖"]
    B --> C["一次皮膚病変(潰瘍)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic'>リンパ行性</span>・血行性に<br>鼻・口腔粘膜へ播種"]
    D --> E["同時型<br>皮膚病変がある時期に粘膜病変が出る"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='late onset'>遅発型</span><br>皮膚病変が治癒したのち<br>数か月〜数年後に粘膜病変が出る"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucocutaneous leishmaniasis'>粘膜皮膚リーシュマニア症</span><br>(espundia)"]
    F --> G

病原性の仕組み

  • ⭐ 組織破壊の主因は寄生虫そのものではなく宿主の免疫応答である。 粘膜病変では寄生虫数が少ない()にもかかわらず、過剰なTh1/優位の細胞性免疫反応が組織を持続的に破壊する——L. donovaniが免疫を回避して播種するのとは対照的な機序。
  • ・口蓋・の粘膜が破壊され、いわゆる「」変形をきたすことがある。
  • 病変がに及ぶと気道閉塞やにより致死的になりうる——/ASTMHがの全例に全身治療を求める理由が、この「醜形などの」と「・気道閉塞による死亡」の2つである1。L. tropicaによる単純皮膚型が自然に治癒していくのとは経過が違う。

感染経路と疫学

  • 媒介動物:中南米のLutzomyia属。
  • 主要:ブラジル、ペルー、ボリビアなど中南米——森林伐採・農業従事者の曝露が典型的。はの症例の90%超がボリビア・ブラジル・エチオピア・ペルーの4か国で発生すると報告している2。うち3か国が南米で本種の分布とよく重なる。⚠️ ただしエチオピアが並んでいるとおり粘膜病変は新世界の専売ではないので、「=中南米=L. braziliensis」と短絡しない。本種が起こすのは/ASTMHがアメリカ大陸型()のとして扱う病型である。
  • :森林性のげっ歯類など(人獣共通感染症としての性格を持つ)。

起こす疾患

——L. tropicaと同様の潰瘍性丘疹に加え、鼻・口腔などのの破壊を伴う。浮腫とにより顔面の変形をきたすことがある。皮膚感染のうちへ進むのは少数であり、大多数は皮膚病変で終わる1。

本種はもう1つ、播種性(多数の散在性病変ができる病型)の原因にもなり、これも通常は全身治療を要する1。L. donovani(内臓型・最も致死的)、L. tropica(皮膚型)との対比は・L. donovaniのページを参照。

診断

  • 病変辺縁からの生検——のため顕微鏡での検出感度が低い点に注意する。粘膜病変では肉眼的に異常のある部位から採るのが原則で、生検は医が行うのがよい1。
  • などの分子増幅法が現在利用できるなかで最も感度の高い検査とされ、病変での診断の主体になる1。
  • ⭐ のリスクがある患者は、症状が無くても鼻・口腔咽頭粘膜を診察する。 粘膜症状が持続する例は専門医へ紹介し、通常はによる検査まで行う1。
  • 血清学はがあり単独での確定には向かない。
  • ⚠️ 型皮膚反応(leishmanin skin test、Montenegro反応)は強い細胞性免疫を反映してしばしば強陽性となるが、北米では標準化・承認・された製品が存在せず、/ASTMHは推奨していない1——流行地の研究やで出てくる検査であり、渡航者診療の武器にはならない。

治療と予防

  • ⚠️ 皮膚型と異なり、は経過観察の対象にならず全例で全身治療を行う(/ASTMH 推奨45、Strong・エビデンスの確実性は low)。目的は醜形などのを防ぐことと、・気道閉塞による死亡を防ぐことの2つである1。
  • 治療開始前に、専門医が鼻・口腔咽頭・喉頭粘膜を完全に診察して病変の広がりと重症度を評価する(推奨46、Strong, moderate)。これが予後に直結する1。
  • ⚠️ 喉頭・咽頭に病変があり気道閉塞のリスクが高い例では、入院監視と予防的ステロイド投与を行う(推奨47、Strong, low)。抗リーシュマニア治療の開始後に寄生虫の死滅に伴う炎症反応が起こり、狭い気道がさらに狭まりうるためである1。
  • 薬剤・用量・期間は個別化する(推奨48、Strong, moderate)。従来の選択肢は(など。20 mg SbV/kg/日を静注または筋注で28〜30日)と(1回0.5〜1.0 mg/kg、で約20〜45 mg/kg)である。比較的限られたデータに基づいて脂質製剤(製剤のは約20〜60 mg/kgと幅が広い)と経口の(約2.5 mg/kg/日、最大150 mg/日、28日)が近年加わった1——新しい選択肢が従来の選択肢を置き換えたわけではない。
  • 予防は対策(防虫ネット、森林作業時の)が中心。ワクチンは実用化されていない。

まとめ

  • L. braziliensisは中南米(Lutzomyia属が媒介)に分布し、を起こす。
  • 粘膜病変は皮膚病変と同時にも、治癒後に遅れても出る。は皮膚の一次病変が治まった数か月〜数年後に鼻・口腔粘膜で始まる。
  • へ進むのは皮膚感染の少数で、L. panamensis・L. guyanensisでも起こる——本種の独占ではない。
  • 組織破壊の主因は寄生虫量ではなく宿主の過剰な細胞性免疫反応——にもかかわらず高度な組織破壊を起こすがある。
  • は経過観察の対象にせず全例に全身治療(Strong, low)。喉頭・咽頭病変で気道閉塞リスクがあれば入院監視と予防的ステロイドを併せる。
  • 診断はゆえに(分子増幅法)が最も感度が高い。Montenegro反応は北米では使えない。治療は・が従来の柱で、脂質製剤とは限られたデータに基づく追加の選択肢。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Leishmaniasis: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and the American Society of Tropical Medicine and Hygiene (ASTMH)(Infectious Diseases Society of America / American Society of Tropical Medicine and Hygiene・2016)同じ指針の同時掲載版(Am J Trop Med Hyg、PMC5239701)の全文XMLで推奨文を逐語で確認した。序文が「Leishmania (Viannia) braziliensis および L. (V.) panamensis・L. (V.) guyanensis を含む Viannia 亜属の近縁種による皮膚感染の少数(a minority)が、同時または遅発性(concomitant or late)の粘膜リーシュマニア症を伴う」と述べていること。推奨45が「臨床的に明らかな転移性のアメリカ大陸型(新世界型)粘膜リーシュマニア症の患者は全員、醜形などの後遺症と誤嚥性肺炎・気道閉塞による死亡を防ぐ目的で全身抗リーシュマニア治療を受けるべき」(Strong, low)とすること。推奨46が治療開始前に専門医による鼻・口腔咽頭・喉頭粘膜の完全な診察を求めること(Strong, moderate)。推奨47が喉頭・咽頭病変があり気道閉塞リスクが高い例には、治療開始後の炎症反応に備えて入院監視と予防的ステロイド投与を推奨すること(Strong, low)。推奨48が薬剤・用量・期間を個別化すべきとし(Strong, moderate)、Remarks で従来の選択肢が五価アンチモン製剤(20 mg SbV/kg/日、静注または筋注、28〜30日)とアムホテリシンBデオキシコール酸(1回0.5〜1.0 mg/kg、累積約20〜45 mg/kg)であり、比較的限られたデータに基づいて近年アムホテリシンB脂質製剤(リポソーマル製剤の累積総投与量は約20〜60 mg/kgと幅が広い)と経口ミルテホシン(約2.5 mg/kg/日、最大150 mg/日、28日)が加わったと述べていること。推奨16が分子増幅法を「現在利用できる最も感度の高い Leishmania 検査」とすること(Strong, moderate)、推奨17が Leishmania 皮膚試験は米国・カナダでは推奨されず利用もできない(標準化・承認・市販された製品が北米に無い)とすること(Strong, very low)、推奨4が肉眼的異常のある粘膜からの検体採取を推奨し耳鼻咽喉科医による生検が有用とすること(Strong, low)、推奨8が粘膜症状の持続例を専門医へ紹介し通常はファイバースコープを含む検査を行うとすること(Strong, low)、推奨34が L. (V.) braziliensis による播種性皮膚リーシュマニア症も通常は全身治療を要するとすること(Strong, low)。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Leishmaniasis(World Health Organization・2023)2023年1月12日付のファクトシートで、粘膜皮膚リーシュマニア症の症例の90%超がボリビア多民族国・ブラジル・エチオピア・ペルーで発生すること、皮膚リーシュマニア症の新規症例が世界で年間60万〜100万人と推計されるがWHOへ報告されるのは約20万人であること、Leishmania が感染した雌のサシチョウバエの刺咬で伝播することを確認した。閲覧 2026-09-27