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Symptoms · Published

手掌紅斑

Palmar erythema

別名
肝掌
臓器系
肝胆膵皮膚
科目
PathologyPathophysiologyDermatologyObstetrics
トピック
病理学 C/47:急性・慢性肝炎病態生理学 2-4:肝機能障害(2)皮膚科 3-17:肝疾患の皮膚症状産科学 05:妊娠の徴候と症状
関連疾患
肝硬変

🧠 全体像を中心とする左右対称の紅斑で、圧迫でや鱗屑を伴わない、炎症性皮疹ではない血管性の所見である。の徴候として知られるが、肝疾患に特異的ではない点が診療上の要点で、妊娠、甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、、遺伝性のもの、喫煙、薬剤性など原因は幅広い。所見の形態そのものより、随伴する病歴・身体所見から背景疾患を絞り込むことが診療の骨格になる。

定義と用語の整理

は、(hypothenar)を中心に左右対称に生じる紅斑で、手掌中央や指はしばしば比較的保たれる。し、・鱗屑・・浮腫といった炎症性皮疹に伴う所見を欠く点が、他の手掌の皮疹と区別する手がかりになる。「原発性(特発性)」と、基礎疾患に伴う「続発性」に大別され、続発性の代表がに伴うもの(いわゆる、liver palms)である。

での確認点は、①分布が中心で左右対称か、②圧迫でするか、③表面変化(鱗屑・丘疹・水疱・膿疱)を欠くかの3つである。この3つがそろえばとして矛盾せず、いずれかを欠けば後述する炎症性・感染性の鑑別疾患を優先して考える。

」という呼称は、患者に高頻度でみられることに由来する通称であり、独立した疾患単位ではない。という所見名そのものは原因を問わない記述用語であることを踏まえ、「=肝疾患」と早合点せず、まず所見として記載してから背景疾患を検討する順序を守る。

病態生理

機序の中心はと皮膚血流の増加であり、単一のではなく複数の因子が重なって生じると考えられている。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palmar erythema'>手掌紅斑</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral vasodilation'>末梢血管拡張</span>・皮膚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased blood flow'>血流増加</span>"]
    B --> B1["エストロゲン過剰<br>肝疾患・妊娠"]
    B --> B2["高心拍出状態<br>甲状腺機能亢進症・妊娠"]
    B --> B3["サイトカイン・血管作動性物質<br>関節リウマチ等"]
    B --> B4["遺伝性<br>原発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palmar erythema'>手掌紅斑</span>"]

💡 エストロゲン過剰の機序はと共通する。 では、肝でのエストロゲン不活化低下・・末梢でのからの変換増加によってエストロゲンが相対的に過剰となり、手掌の細動脈・毛細血管を拡張させる。詳しい機序はを参照。ではこれに加え、甲状腺機能亢進症・妊娠でみられる高心拍出状態(循環血流量増加・低下)、関節リウマチなど炎症性疾患でのサイトカイン・血管作動性物質の関与も想定され、単一の機序に還元できない点が肝疾患以外でも起こりうる理由になっている。

⭐ 遺伝性(原発性)は他に基礎疾患を持たない健常者にもみられ、家族内発症がしばしば確認される。この場合は経過が安定しており、他の全身症状を伴わない。

💡 喫煙や一部の薬剤(エストロゲン含有製剤など)もを介してに関与しうる。で飲酒歴・肝疾患既往だけでなく、喫煙歴・服用中の薬剤も必ず確認する。

生検を行っても真皮以外に特異的な組織所見は得られないことが多く、診断は基本的にと病歴だけで進める。原因不明のまま断を求めて生検を急ぐ必要はない。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 肝疾患だけを考えて他の原因を見落とさない。 は妊娠、甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、、喫煙、薬剤性(エストロゲン製剤など)でもみられる。肝疾患の既往や飲酒歴がないままだけを見た場合、これらの鑑別を経ずに肝疾患と決めつけない。

⚠️ を示唆する随伴所見を見落とさない。 では血液の粘稠度上昇とによりを来しうる。(特に温熱刺激後)、頭痛、血栓症の既往といった随伴所見があれば、血算・の評価に進む。

⚠️ 単独ではを確定できない。 肝硬変を示唆する所見の一つではあるが、・黄疸など他の身体所見と組み合わせて評価する。

⚠️ 感染症・炎症性疾患に伴うを見逃さない。 では、急性のが発熱・粘膜変化・皮疹など全身症状とともに出現しうる。この場合は緩徐な経過をとる肝疾患や妊娠に伴うとは異なり、急性発症・全身状態の悪化を伴う点が鑑別の手がかりになる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palmar erythema'>手掌紅斑</span>を認める"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diascopy'>硝子圧法</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>を確認し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pruritus'>瘙痒</span>・鱗屑の有無を確認"]
    B --> C{"急性発症・発熱等の全身症状を伴うか"}
    C -->|"該当する"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kawasaki disease'>Kawasaki病</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic shock syndrome'>中毒性ショック症候群</span>等を疑う"]
    C -->|"該当しない・慢性の経過"| E["病歴を確認:飲酒歴・肝疾患既往・妊娠・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthropathy'>関節症</span>状・甲状腺症状・薬剤歴"]
    E --> F{"随伴所見は"}
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spider angioma'>クモ状血管腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gynecomastia'>女性化乳房</span>・黄疸等"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic liver disease'>慢性肝疾患</span>を評価"]
    F -->|"頻脈・体重減少・振戦"| H["甲状腺機能亢進症を評価"]
    F -->|"関節痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='morning stiffness'>朝のこわばり</span>"| I["関節リウマチを評価"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial flushing'>顔面紅潮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pruritus'>瘙痒</span>・頭痛・血栓症既往"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polycythemia vera, PV'>真性多血症</span>を評価"]
    F -->|"随伴所見なし・家族歴あり"| J["原発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palmar erythema'>手掌紅斑</span>を考慮"]

炎症性皮疹との鑑別が最初の分岐で、・鱗屑・境界不明瞭な紅斑であればを、無菌性膿疱と鱗屑を繰り返す慢性の経過であればを、丘疹・鱗屑を伴う両側性の手掌疹であればによる手掌疹を考える。は圧迫でし、これらに特徴的な表面変化(鱗屑・膿疱・丘疹)を欠く点で区別できる。急性か慢性か、随伴する全身症状の有無を確認したうえで、慢性であれば病歴から背景疾患を絞り込む。

対応の考え方

所見そのものへの治療法はなく、対応は原疾患の同定と治療に尽きる。が背景にあれば原疾患の管理を、甲状腺機能亢進症・関節リウマチであればそれぞれの治療を進める。薬剤性が疑われればの見直しを検討する。原発性(遺伝性・特発性)で他に異常を認めなければ、経過観察でよい。原疾患が改善すればも軽快しうるため、治療効果を追う指標の一つにもなる。

美容目的の外用・内服治療やによる対症療法は、根拠に乏しく背景疾患の評価を遅らせるだけなので勧められない。妊娠に伴うものであれば、分娩後の経過で軽快することが多い点を説明し、不要な検査や治療介入を避けることも対応の一部である。

診療録には、中心か、左右対称か、他の身体所見(、頻脈、関節腫脹など)の有無を明記しておくと、後日の経過比較や他科への情報共有に役立つ。

まとめ

  • を中心とする左右対称の紅斑で、圧迫で・鱗屑を伴わない血管性の所見である。
  • 機序は・皮膚で、エストロゲン過剰(機序はと共通)、高心拍出状態、サイトカイン・血管作動性物質、遺伝性など複数が想定される。
  • の徴候として知られるが、妊娠、甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、、喫煙、薬剤性など原因は肝疾患に限られない。
  • 単独ではを確定できず、など他の所見と組み合わせて評価する。
  • 急性発症・全身症状を伴うを考慮し、慢性の炎症性皮疹(の手掌疹)とは表面性状で区別する。
  • 所見自体への治療はなく、対応は背景疾患の同定と治療に尽きる。