病理学

病理学 · C/46

肝の循環障害

Circulatory disorders of liver

応用トピック
肝硬変
疾患
バッド・キアリ症候群肝紫斑病肝類洞閉塞症候群結節性再生性過形成脾静脈血栓症
症状
肝腫大腹水脾腫
画像所見
ニクズク肝

🧠 全体像:肝の循環障害は「血液がどこで滞るか」で3つに整理できる(肝への流入、、肝からの流出)。特に右心不全と・ショックが同時に働くと、うっ血と虚血が重なっての=を生じる。

解剖のおさらい

  • 肝は二重のをもつ:
    • 門脈(、消化管由来)
    • (酸素化)
  • 両者はへ流入 → → → IVC。
  • 循環障害の3カテゴリー:
    1. 肝への血流障害
    2. の血流障害
    3. 流出の閉塞

肝への血流障害

A)肝動脈の流入

B)門脈の閉塞・血栓症

  • 門脈圧亢進の徴候を生じる:腹痛、腹水、脾腫、(破裂しやすい)。
  • 内臓流入の急性閉塞 → うっ血 → 腸梗塞。
  • の原因:
    • 腹膜敗血症
    • 膵炎 → → 門脈への進展
    • 腫瘍
  • の血栓症 → 境界明瞭な赤青色領域 = (偽梗塞) — 壊死なし、+うっ血のみ。

肝内血流障害

原因

  • 肝硬変 = 門脈閉塞の最多の原因。
  • 鎌状赤血球症 → した赤血球でが詰まる → 。
  • DIC → 閉塞。
  • ⭐ は、現在はというより広い枠組みに置き換えられつつある。 従来の(INCPH)と異なり、門脈圧亢進の臨床徴候を伴わず特異的組織所見のみを呈する例やを合併する例も含み、肝硬変との鑑別が臨床的に難しい1。

受動性うっ血と小葉中心性壊死(心臓性肝)

  • 右心不全 → 受動性のうっ血2 → 持続すると → +心臓性硬化(の線維化、数十年の経過で「」に至りうる3)。
  • ・ショック → 肝の低灌流+低酸素 → の。
  • 左+右心不全の併存 → — の+の蒼白領域。
flowchart TD
    A["右心不全"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrilobular'>小葉中心性</span>の受動性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>うっ血"]
    C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Left-sided heart failure / LHF'>左心不全</span>・ショック"] --> D["肝の低灌流+低酸素"]
    B --> E["持続すると<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrilobular necrosis'>小葉中心性壊死</span>+心臓性硬化"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrilobular'>小葉中心性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic necrosis'>虚血性壊死</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Nutmeg liver'>ニクズク肝</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrilobular'>小葉中心性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic necrosis'>出血性壊死</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate zone'>中間帯</span>の蒼白)"]
    F --> G

肝紫斑病

  • は、肝血流の流出障害によるの拡張。
  • タンパクステロイドと関連、稀に経口避妊薬。
  • 合併症:。

肝静脈流出の閉塞

A)Budd-Chiari症候群(肝静脈流出路閉塞)

  • EASL 2016はを、小から下大静脈の右房流入部までのどこにでも生じうる流出路の閉塞と定義する4。病理学の古典的な記述では、主要1本の血栓は通常無症状で、臨床像がはっきり出るのは2本以上の主要が閉塞したときとされる。
  • 原因(複数のが重なることが多い):
  • 肉眼:腫大し赤紫色で被膜が緊張した肝臓。
  • 顕微鏡:+壊死。
  • 症状:、体重増加、腹水、腹痛。
  • 治療: 2016は、できるだけ早く無期限にを行い、腹水・静脈瘤は肝硬変に準じて治療したうえで、反応が乏しければより侵襲的な治療へ進む段階的アルゴリズムを推奨する4(は2025年に改訂版を公開しており、ここに挙げた定義・数値・推奨は2016年版に基づく5)。順序は内科的治療 → ・(膜様・の狭窄例)→ ()→ である6。欧米のBCSでは・だけで治療が完結するのは10%未満にとどまる4。
  • ⚠️ 段階的アルゴリズムには異論もある。 Rössleの総説は、内科的治療単独では80〜90%で明確かつ持続的なが得られないという既報を引き、・はいずれも約95%で技術的に成功するとして、症状のある患者には早期のインターベンション治療を提案している。著者施設で内科的治療に反応しなかった重症BCSにを行った59例では、無移植が1・5・10年で95・90・80%だった。の普及により、外科的はがしない少数例にしか用いられなくなった6。

B)類洞閉塞症候群(静脈閉塞性疾患)

  • への毒性傷害 → 内皮細胞の剥離 → 塞栓 → 流出閉塞。この病態は(VOD)として知られてきたが、原発部位が自体ではなくであることが分かり、(SOS)という呼称も広く併用されるようになった——両呼称は今も併用される7。
  • 赤血球がへ漏出、の増殖 → 終末枝の線維化。
  • 古典的な状況:後の最初の1か月(+全身放射線)——通常は移植後3週間以内に発症するが、15〜20%はそれより遅れて発症する。多くは数週間で軽快するが、最重症型はを来し死亡率は80%を超える7。
  • 成人のについて、EBMT 2016は発症時期でを分けた7。
区分 (EBMT 2016、成人)
(移植後21日以内) ビリルビン2 mg/dL以上+次の2つ以上:、体重増加5%超、腹水
(21日超) 上のの基準、または組織で証明された、または「ビリルビン2 mg/dL以上・・体重増加5%超・腹水」の2つ以上+超音波・血行動態の所見(、腹水、の速度低下または逆流)。ではを必須としない

いずれの型も、これらの所見が他の原因で説明できないことが前提である7。

💡 ポイント: = → 偽梗塞(萎縮+うっ血、壊死なし)。 = 左+右心不全の併存。Budd-Chiari = 流出路の閉塞(、経口避妊薬、妊娠)→ +壊死 → 早期から無期限のを基盤に、・・へ段階的に進める(早期インターベンションを推す立場もある)。VOD/SOS = 傷害、古典的に後。 → 門脈圧亢進(脾腫、静脈瘤、腹水)。

まとめ

  • 肝は門脈()と(酸素化)の二重血流を持つため肝梗塞は稀。循環障害は流入・・流出の3カテゴリーで整理する。
  • は門脈圧亢進(腹水、脾腫、)を来す。の血栓は(壊死を伴わない偽梗塞)を生じる。
  • 右心不全は、・ショックはのを来し、両者の併存は()となる。
  • はの拡張で、タンパクステロイドと関連しを来しうる。
  • は小から下大静脈・右房接合部までの流出路の閉塞で(古典的には2本以上の主要の閉塞で症状が出る)、・経口避妊薬・妊娠が誘因となる。治療はできるだけ早い無期限のを基盤に、→→と段階的に進める。
  • はへの毒性傷害が原因で、後1か月以内が古典的な発症状況(⚠️ EBMT 2016は15〜20%が21日を超えて遅発するとし、ではがなくても、・体重増加・腹水などのうち2つ以上に超音波・血行動態の所見が加われば診断できるとする)。

出典

  1. 1.Imaging features facilitate diagnosis of porto-sinusoidal vascular disorder(European Radiology・2023)門脈肝血管疾患(porto-sinusoidal vascular disorder, PSVD)は、従来の特発性非肝硬変性門脈圧亢進症(idiopathic non-cirrhotic portal hypertension, INCPH)に代わる新しい肝血管疾患の枠組みとして導入されたこと、INCPHと異なり門脈圧亢進の臨床徴候を伴わず特異的組織所見のみを呈する例や門脈血栓症を合併する例も含むこと、肝硬変との鑑別が臨床的に難しく誤診・診断の遅れにつながりやすいことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Congestive hepatic fibrosis score: a novel histologic assessment of clinical severity(Modern Pathology・2014)慢性心不全42例の肝生検の検討で、類洞拡張と中心静脈周囲(zone 3)の肝細胞萎縮・中心静脈周囲線維化が受動性うっ血の指標であり、うっ血性肝線維化スコアが右房圧と相関したこと(傾向のP<0.001)を確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Congestive Hepatopathy(International Journal of Molecular Sciences・2020)慢性右心不全による受動性うっ血(congestive hepatopathy)が小葉中心性線維化を経て数十年の経過で「心臓性肝硬変(cardiac cirrhosis)」に至りうることを確認した総説である。閲覧 2026-08-27
  4. 4.EASL Clinical Practice Guidelines: Vascular diseases of the liver(European Association for the Study of the Liver・2016)J Hepatol 64:179–202 の誌上HTML全文(Wayback保存版、2022-12-08)で確認した。Budd-Chiari症候群(BCS)を、小肝静脈から下大静脈の右房流入部までのどこにでも生じうる肝静脈流出路の閉塞と定義していること、BCSでの骨髄増殖性腫瘍の平均有病率が40.9%(JAK2 V617F 41.1%)であること、経口避妊薬・妊娠を内臓静脈血栓症の危険因子とし経口避妊薬はBCSのリスクを少なくとも2倍にするとしていること、BCS患者はできるだけ早く無期限に抗凝固療法を受けるべきとしていること、後ろ向きコホートと前向き症例集積に基づく段階的(stepwise)治療アルゴリズムを推奨し、欧米のBCSで血管形成術・ステントが最終治療となるのは10%未満であることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.EASL Clinical Practice Guidelines on vascular diseases of the liver(European Association for the Study of the Liver・2025)抄録で、EASLが2016年版以降に蓄積したデータに基づいて肝血管疾患(門脈血栓症、門脈類洞血管疾患、Budd-Chiari症候群、類洞閉塞症候群など)の診療ガイドラインを改訂したことを確認した(オンライン公開2025年11月、誌上は J Hepatol 2026;84:399–456)。全文は出版社・Unpaywall(closed)・Wayback のいずれでも取得できず、Budd-Chiari症候群の定義・抗凝固・段階的治療の記述が2016年版から変わったかは確認していない閲覧 2026-09-24
  6. 6.Interventional Treatment of Budd-Chiari Syndrome(Diagnostics (Basel)・2023)PMC全文(PMC10137827)で確認した。2006年の報告に基づき、内科的治療から開始し、無反応なら血管形成術(膜様・短区域閉塞例)→TIPS→最後に肝移植と進めるstep-upアルゴリズムが提唱され現行ガイドラインが推奨していること、内科的治療単独では80〜90%が明確で持続的な奏効を示さないという既報(Valla 2008)を引いていること、TIPSの成功により外科的シャントはTIPSが奏効しない少数例にしか用いられなくなったこと、血管形成術・TIPSとも約95%で技術的に成功することを確認した。抄録の「5年・10年生存率90%・80%」は、内科的治療に反応しなかった重症BCSの著者施設TIPS 59例における無移植生存率(1・5・10年で95・90・80%)である。著者はstep-upアルゴリズムに異論を唱え、症状のある患者への早期のインターベンション治療を提案している。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Revised diagnosis and severity criteria for sinusoidal obstruction syndrome/veno-occlusive disease in adult patients: a new classification from the European Society for Blood and Marrow Transplantation(Bone Marrow Transplantation(European Society for Blood and Marrow Transplantation)・2016)類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome, SOS)は静脈閉塞性疾患(veno-occlusive disease, VOD)としても知られ両呼称が併用されていること、造血細胞移植後の条件づけ化学療法が類洞内皮細胞と肝細胞を傷害し類洞バリアの間隙形成・類洞内皮の剥離を経て流出路が狭小化するという機序であること、多くは数週間で軽快する一方最重症型は多臓器不全を来し死亡率が80%を超えること、通常は移植後3週間以内に発症するが15〜20%はそれより遅れて発症すること、成人の新基準(Table 2)が移植後21日以内の古典型を「ビリルビン2 mg/dL以上+有痛性肝腫大・体重増加5%超・腹水のうち2つ以上」とし、21日超の遅発型を「古典型の基準、組織で証明された例、または上記4項目のうち2つ以上+血行動態・超音波の所見」として遅発型ではビリルビン上昇を必須としないこと、いずれの所見も他の原因に帰せないことを条件とすることを確認した(PMC全文 PMC4935979)。閲覧 2026-08-27