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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

三尖弁閉鎖不全症

Tricuspid regurgitation

別名
三尖弁逆流症TR
臓器系
循環器
科目
Internal MedicinePathologyPulmonology and Thoracic SurgeryCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
内科学 L-05:心臓弁膜症病理学 B/35:弁膜症(弁膜障害)とその結果呼吸器内科 42:肺高血圧症循環器内科 B-21:感染性心内膜炎の外科的治療
上位概念
心臓弁膜症
続発疾患
慢性心不全
関連疾患
心房細動肺高血圧症
治療薬
フロセミドスピロノラクトン
症状
肝腫大頸静脈怒張肝頸静脈逆流末梢浮腫腹水労作時呼吸困難第三心音
検査値
ナトリウム利尿ペプチド
スコア
NYHA心機能分類
元疾患
Ebstein奇形カルチノイド心疾患右心不全
原因となる疾患
感染性心内膜炎

🧠 全体像:の9割近くは、弁そのものは正常なまま右室・右房とが拡大してが閉じきれなくなった二次性(機能性)である。だから「弁の病気」として弁だけを見ると本質を外す。原因は右室(肺高血圧・左心疾患)か右房(心房細動)のどちらにあるかで分かれ、治療も原因側から入る。身体所見は吸気で増強する(Carvallo徴候)・頸静脈の目立つ収縮期陽性波・という体静脈系の所見に集約され、進行すると腹水・・腎機能悪化という「右心不全の全身像」になる。

一次性と二次性を分ける

不全は、そのもののによる一次性と、の形が右室・右房の変形に引きずられて生じる二次性(機能性)に大きく分かれる。頻度は圧倒的に二次性で、一次性は5〜10%、二次性が85〜90%を占める1。

一次性() 二次性(機能性)
頻度 5〜10% 85〜90%
そのもの 破壊・肥厚・退縮・偏位がある 形態は正常
逆流の成り立ち ・の異常で接合しない ・の牽引で接合しない
代表的な原因 、、Ebstein奇形、、、、、心内デバイスのリード ・左心疾患による、心房細動による右房・
治療の入り口 弁そのものへの介入 原因(左心疾患・肺高血圧・心房細動)とうっ血の治療

⚠️ 「弁膜症だから弁を治す」という発想が最も通じにくい弁である。 二次性ではに異常が無く、右室・右房の拡大が是正されれば逆流も軽くなりうる。一方で、の弁膜症を手術してもは必ずしも軽快しないことが分かってきており、「左を治せば右は自然に治る」という古い前提は否定されている1。

一次性の原因

  • :では()が主戦場になる。による・が逆流を生む。
  • :を伴うが放出するセロトニンなどがの弁を線維化させ、が肥厚・退縮して固定する。不全との組み合わせが特徴である。
  • Ebstein奇形:のとして最も多い。が右室心筋から剥がれきらないまま側へ偏位し、接合できない。
  • 心内デバイスのリード:・のリードがを挟み込む、あるいは穿孔することで逆流を生じる。植込み件数の増加に伴って増えている類型である。
  • そのほか(病変を伴う)、(に合併することが多い)、、後の反復するでが支持を失ってするものがある。

二次性は心房性と心室性に分ける

二次性はさらに、右房との拡大が主因の心房性と、右室の拡大・リモデリングが主因の心室性に分けられる。予後が違うことがこの区別の実用的な意味で、心室性は心房性に比べて死亡と心不全入院ののリスクが2.7倍高い1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricuspid atresia'>三尖弁閉鎖</span>不全"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve leaflet'>弁尖</span>そのものに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural aberration'>構造異常</span>があるか"}
    B -->|"ある(5〜10%)"| C["一次性:心内膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carcinoid tumor'>カルチノイド</span>・Ebstein奇形・リード・外傷"]
    B -->|"ない(85〜90%)"| D["二次性(機能性)"]
    D --> E{"変形の主座はどちらか"}
    E -->|"右房・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annulus'>弁輪</span>の拡大"| F["心房性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-standing persistent'>長期持続性</span>心房細動が代表"]
    E -->|"右室の拡大・リモデリング"| G["心室性:肺高血圧・左心疾患が背景"]
    G --> H["予後は心房性より不良"]
    F --> I["進行すると右房・右室の両方が拡大し混合型になる"]
    G --> I

身体所見が診断の入り口になる

軽度の不全は肺高血圧やを伴わなければ性が高く、無症状で経過する。中等症以上になると心拍出量低下との所見が前面に出る1。

所見 成り立ち
吸気で増強する(Carvallo徴候) 吸気でが下がりへの静脈還流が増えるため、由来の雑音は吸気で強まる。胸骨下部から下で聴取する
頸静脈の目立つc-と深いy谷 収縮期に右室から右房へ逆流した血液が頸静脈まで伝わる。拡張早期には貯まった血液が一気に右室へ流入するのでy谷が深くなる
同じ収縮期の圧波がへ逆行して伝わり、軟らかい肝縁が拍動として触れる
右房が容量を受け止めきれず、腹部圧迫でが上昇したまま戻らない
右心性III音 が加わると下でIII音を聴く
・腹水 体静脈系への逆流が続いた結果。右心不全の早期からみられる

⚠️ 雑音の大きさで重症度を測らない。 massive・torrential と呼ぶ極度の逆流では右室と右房の圧が収縮期に均等化してしまい、駆動するが消えるため雑音はかえって弱く(あるいはに)なる1。同様に、右室機能が高度に低下していると吸気による静脈還流増加に右室が応じられず、Carvallo徴候そのものが消えることがある。

💡 腹水とが前面に出るため、消化器疾患として肝臓の精査に回されることが珍しくない。では延長・上昇・上昇がみられ、の浮腫がからを招く。の上昇は腎機能悪化とを生む1。

重症度は多項目で評価する

は圧が低いため、のだけを見ると重症度を過小評価する。のジェット波形、の(収縮期の逆流波)、とを合わせた多項目評価が要る。従来の3段階では収まらない高度例が経の対象として増えたため、高度の上に massive・torrential を置いた5段階が用いられる1。

指標 軽度 中等度 高度 massive torrential
(mm) 3未満 3〜6.9 7〜13 14〜20 20超
PISA法による(mm²) 20未満 20〜39 40〜59 60〜79 80超
  • 右室の大きさと機能は TAPSE・・のS’・・元右室のいずれか、または組み合わせで評価する。右室機能の評価で最も精度が高いのはである。
  • 経を検討する段階では、で形態とを、でと・上下大静脈の位置関係を評価する。
  • 心エコーで肺高血圧が疑われたら、介入の前にでを実測し、かかを分ける。高度の逆流があると心エコーの推定は過小評価になる1。

治療は原因とうっ血から入る

二次性ではまずとでを最適化する。心房性の二次性逆流で心房細動があれば、やによるを外科・より先に試みる。の回復は右房容積を縮小させ逆流を軽減しうる1。

⚠️ ただし内科治療で介入の時期を遅らせない。 右室機能が不可逆に低下してから介入しても得られるものは少なく、と腎機能悪化が出た時点ですでに予後は悪い。

外科的治療の位置づけ(米国ACC/AHA 2020年版)

以下は本文で引いた総説が同ガイドラインの推奨として記述している内容である1。

場面 推奨クラス
弁手術を行う患者の重症不全に対する同時の弁手術 Class I
症候性の重症一次性逆流に対する弁手術 Class IIa
内科治療で改善しない孤立性の重症二次性逆流に対する弁手術(肺高血圧が無い場合) Class IIa
弁手術時、逆流がにとどまるがが4.0 cmを超える、または右心不全の既往がある場合の同時手術 Class IIa
手術の既往がある患者に対する孤立性の手術 Class IIb

孤立性の手術が Class IIb にとどまるのは、手術後のの死亡率が10〜25%と高いためである1。()との選択はの牽引の程度との程度で決め、牽引が強くが大きい例では置換のほうが成績がよいとされる。

経カテーテル治療

外科リスクが高い集団に対する代替として、(TriClip・PASCAL)、、(EVOQUE)が開発された。

⭐ TRILUMINATE Pivotal 試験(2023年)の読み方が要点になる。 症候性の重症逆流350例をと薬物治療に割り付けたところ、は治療群が優った(win ratio 1.48、95%信頼区間1.06〜2.13)が、その差は生活の質の改善(KCCQ で12.3点対0.6点)に由来しており、死亡・手術のと心不全入院率には群間差がみられなかった2。逆流の低減自体は確実で、30日時点で中等度以下に留まった患者は治療群87.0%に対し対照群4.8%、回避率は98.3%であった。

💡 「逆流は確かに減り、症状は改善するが、1年時点で生命予後の改善は示されていない」というのがこの試験の正確な要約である。適応の判断は右室機能が保たれているうちに、という時間軸の問題に帰着する。

鑑別

  • ・左心疾患:二次性逆流の背景であって鑑別ではないが、逆流が「原因なのか結果なのか」の判断がを分ける。
  • ・:・・腹水というの像は共通する。のと吸気で増強するが不全を示唆する。
  • 肝硬変・:腹水とで受診したときの実際的な鑑別。頸静脈の観察を省略すると見誤る。
  • :どちらもだが、性はで腋窩へ放散しに乏しい。性は胸骨下部で吸気に増強する。重症の30〜50%に不全が併存するので、両者は択一ではない1。

まとめ

  • 不全の85〜90%は二次性(機能性)で、は正常なまま右室または右房との拡大で接合できなくなる。一次性は5〜10%にすぎない。
  • 二次性は心房性(心房細動による右房・)と心室性(肺高血圧・左心疾患による)に分け、心室性のほうが予後が悪い。
  • 一次性の原因は・・Ebstein奇形・心内デバイスのリード・・外傷・。
  • 身体所見の核は吸気で増強する(Carvallo徴候)、頸静脈の目立つc-と深いy谷、。極度の逆流と高度ではこれらが消えることに注意する。
  • 重症度はだけでは過小評価する。とを含む多項目で、高度の上に massive・torrential を置いた5段階で評価する。
  • 治療は利尿薬とによる体液管理と原因治療から入り、心房細動があればを先に試みる。弁手術時の同時手術はClass I、孤立性の手術は死亡率の高さからClass IIbにとどまる。
  • 経カテーテルは逆流を確実に減らし生活の質を改善するが、1年時点の死亡・心不全入院は改善が示されていない。

出典

  1. 1.Tricuspid Regurgitation: A Comprehensive Review of Clinical, Imaging and Therapy(Reviews in Cardiovascular Medicine (IMR Press)・2025)三尖弁閉鎖不全のうち一次性(弁装置そのものの構造異常)は5〜10%、二次性(機能性)が85〜90%を占め、二次性はさらに心房性と心室性に細分されること、75歳超の4%超に臨床的に問題となる逆流がドプラ心エコーで検出されること、身体所見が頸静脈の目立つc-v波と深いy谷・軟らかく拍動する肝縁・肝頸静脈逆流・末梢浮腫からなり、収縮期雑音が吸気で増強すること(Carvallo徴候)、ただし massive・torrential な逆流では右室・右房の圧が均等化して雑音がかえって弱くなること、色ドプラでは縮流部幅と PISA 法による有効逆流弁口面積で軽度から torrential まで5段階に分けること、治療がループ利尿薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による体液管理から始まり心房細動では洞調律化を先に試みること、心室性の二次性逆流は心房性より死亡・心不全入院の複合エンドポイントのリスクが2.7倍高いことを確認した。あわせて、本総説が米国ACC/AHA 2020年版ガイドラインの推奨として記述している内容(左心系弁手術と同時の重症三尖弁逆流に対する弁手術がClass I、症候性の重症一次性逆流および内科治療が奏効しない孤立性の重症二次性逆流に対する弁手術がClass IIa、弁輪拡大4.0 cm超または右心不全の既往があれば左心系弁手術時の同時手術がClass IIa、再手術例の孤立性三尖弁手術がClass IIb)を確認した。原ガイドライン本文は未取得。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Transcatheter Repair for Patients with Tricuspid Regurgitation(The New England Journal of Medicine・2023)TRILUMINATE Pivotal 試験は症候性の重症三尖弁閉鎖不全350例(平均78歳、女性54.9%)を経カテーテル的縁端接合修復(TEER)と薬物治療へ1対1で割り付け、階層的複合主要評価項目で TEER 群が優った(win ratio 1.48、95%信頼区間1.06〜2.13、P=0.02)こと、しかし死亡または三尖弁手術の発生率と心不全入院率には群間差がみられず、差はもっぱら生活の質(KCCQ 変化量 12.3±1.8点 対 0.6±1.8点、P<0.001)に由来したこと、30日時点で中等度以下の逆流に留まった患者が TEER 群87.0%・対照群4.8%であったこと、30日の重大有害事象回避率が98.3%であったことを確認した。閲覧 2026-09-03