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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

カルチノイド心疾患

Carcinoid heart disease

別名
Hedinger症候群Hedinger syndrome
臓器系
循環器腫瘍
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 S-16:カルチノイド症候群
鑑別疾患
Ebstein奇形感染性心内膜炎
合併症
三尖弁閉鎖不全症肺動脈弁狭窄
治療薬
オクトレオチド
症状
労作時呼吸困難倦怠感
検査値
5-ヒドロキシインドール酢酸
元疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)

🧠 全体像:は、が放出するセロトニンがの弁を線維化させて生じる。セロトニンはで不活化されるため、通常は右心弁だけが侵され左心弁は保たれる——これが「なぜ右だけなのか」の答えであり、逆に左心弁病変を見たらや気管支・卵巣原発など「肺を経由しない経路」を疑う手がかりになる。は破壊されるのではなく線維性のプラークで覆われて短く固定され、不全とという組み合わせを作る。治療は原病()と弁そのもの(重症例の)の二本立てで、いったん線維化が完成すると多くは不可逆である。

病態:なぜ右心弁だけが侵されるのか

由来の()がを来すと、腫瘍が分泌するセロトニンなどの血管作動性物質が肝臓でのを経ずに、まずに達する。セロトニンはにある受容体を介して線維芽細胞の増殖と線維化を刺激し、・・・心室壁の表面にのプラーク様沈着を作る1。

⭐ の血管作動性物質はを通過する際に酵素的に不活化されるため、左心弁は通常保たれる。 この「肺という」の存在が、が優位(・病変が心病変全体の95%超)になる理由である2。

💡 左心弁病変を見たら「肺を経由しない経路」を探す。 例外的に左心弁が侵されるのは、①によるでセロトニンが直接へ流入する場合、②のが肝の代謝能力を凌駕するほど大きい場合、③気管支原発・卵巣原発など(したがって肝の)を経ないをもつ場合である1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midgut'>中腸</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='carcinoid tumours'>カルチノイド腫瘍</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver metastasis'>肝転移</span>"] --> B["セロトニンなどが肝の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first-pass metabolism'>初回通過代謝</span>を経ず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic circulation'>全身循環</span>へ"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right heart (right-sided)'>右心系</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve leaflet'>弁尖</span>にまず到達"]
    C --> D["線維芽細胞増殖・線維化<br>プラーク様沈着"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve leaflet'>弁尖</span>が短縮・固定"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricuspid atresia'>三尖弁閉鎖</span>不全+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonic valve stenosis'>肺動脈弁狭窄</span>"]
    B --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular bed'>肺血管床</span>を通過"}
    G -->|"通常:酵素的に不活化"| H["左心弁は保たれる"]
    G -->|"例外:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patent foramen ovale, PFO'>卵円孔開存</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic metabolism (liver metabolism)'>肝代謝</span>を凌駕する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor burden'>腫瘍量</span>・気管支/卵巣原発"| I["左心弁病変も生じうる"]

弁病変の特徴

の弁病変は、のような組織破壊ではなく線維化による固定である。

典型像
主な病変 不全+(を伴うこともある)
の変化 プラーク様のが沈着し、短縮・肥厚して固定される
可動性 心エコーで肥厚と可動性低下として描出される
侵される部位 に加え・・心室壁の表面にも及ぶ

不全の一次性()の原因のひとつがである。不全そのものの成り立ちや重症度評価はを参照する。

⚠️ ・Ebstein奇形との違いを意識する。 いずれも一次性不全の原因になりうるが、はによる急性の、Ebstein奇形は先天性の付着異常であり、は後天性・進行性の線維化という点で機序が異なる。

診断

症候性のは50〜70歳での発症が多く、初発症状はと倦怠感である。(・下痢)の経過中にや高値が出た患者では心病変を疑う2。

  • 24時間尿中(セロトニン):診断に高い特異度をもつ。診断時に測定し、高値なら心エコーへ進む。所見が無ければ2年ごとに心エコーを繰り返す2。
  • :診断と経過観察の。確立した心病変では、臨床状態の変化があればその都度、なければ重症度に応じて3〜6か月ごとに施行する2。
  • :の評価、心臓転移の検出、右室サイズと機能の評価に有用。
  • NT-proBNP:右心不全の進行を追う補助的。

💡 心エコーの適応は「がある患者全員」に広く構えるのが実務的である。無症状のうちに弁病変が進行し、症状が出た時点ではすでに線維化が完成していることが多いためである。

治療

治療は原病の制御と弁そのものへの介入の二段構えになる。

手 内容
原病の制御 などでセロトニン産生を抑える。の症状制御と抑制のである1
心不全管理 薬物療法(利尿薬など)、塩分・、体液バランスと体重のモニタリング2
弁への介入 選択された症例で外科的またはカテーテル的弁治療。生活の質との改善が期待できるため、右室機能が保たれているうちのが有益とされる2

⚠️ いったん完成した弁の線維化と弁膜症は、多くの場合不可逆である。 は症候の制御との抑制を目的とするものであり、既存の弁病変を退縮させる根拠は確立していない。

⚠️ の弁種選択には注意が要る。 持続する血管作動性物質への曝露が続く限り、であっても同様のプラーク沈着と弁狭窄を来した症例が報告されている。そのためも選択肢として検討される1。

💡 は循環器・・心臓外科による診療が前提になる。原病のコントロールが不十分なまま弁を治療しても再発しうるため、両者を並行して進める。

まとめ

  • は、を伴うが放出するセロトニンがの弁を線維化させて生じる。でセロトニンが不活化されるため、通常は右心弁のみが侵される。
  • 例外的に左心弁病変が生じるのは、・を凌駕する・気管支や卵巣原発など「肺を経由しない経路」がある場合である。
  • 典型像は不全との組み合わせで、はプラーク様ので短縮・固定される。
  • 診断は24時間尿中とが柱で、の全患者に広く心エコーを行う。
  • 治療はによる原病制御と、重症例でのの二段構え。でもしうるためも検討される。線維化が完成すると多くは不可逆である。

出典

  1. 1.Carcinoid Heart Disease: Pathophysiology, Pathology, Clinical Manifestations, and Management(Cardiology (Karger Publishers)・2021)カルチノイド心疾患が進行したカルチノイド腫瘍のまれで致死的となりうる合併症であり、腫瘍が放出する血管作動性物質のうちセロトニンが病態の中心で弁の線維芽細胞増殖・線維化を刺激すること、右心系の血管作動性物質は肺血管床で酵素的に不活化されるため通常は左心弁が保たれるが、卵円孔開存による右左シャント・肝転移の腫瘍量が肝代謝を凌駕する場合・気管支や卵巣原発など門脈循環を経ない原発巣では例外的に左心弁病変が生じうること、病理所見が弁尖・腱索・乳頭筋・心室壁に及ぶ線維性組織のプラーク様沈着であること、心エコーで右心弁の肥厚と可動性低下・逆流として描出されること、症候性カルチノイド心疾患は50〜70歳での発症が多く初発が労作時呼吸困難と倦怠感であること、尿中5-HIAA測定と心エコーが評価の柱であること、オクトレオチドなどソマトスタチンアナログがカルチノイド症候群の制御と病勢進行抑制に用いられる第一選択薬であること、選択された症例で外科的弁置換とカテーテル的弁治療が有効なことがあるが持続する血管作動性物質への曝露により生体弁でも再度のプラーク沈着と弁狭窄を来した症例が報告されており機械弁も選択肢として検討されることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Carcinoid Heart Disease(Journal of the Advanced Practitioner in Oncology・2024)肺動脈弁・三尖弁の病変が心病変全体の95%超を占めて右心系優位であること、弁尖が典型的に短縮し固定されること、24時間尿中5-HIAAはカルチノイドの診断に高い特異度をもち、診断時にまず測定し高値なら心エコーを行うこと(所見が無ければ2年ごとに心エコーを繰り返す)こと、経胸壁心エコーがカルチノイド心疾患の診断と経過観察のゴールドスタンダードであり、確立した心病変では臨床状態の変化に応じて、そうでなくとも重症度に応じて3〜6か月ごとに施行すること、心臓MRIが肺動脈弁評価・心臓転移の検出・右室サイズと機能評価に有用なこと、NT-proBNPが補助的なバイオマーカーであること、心不全治療として薬物療法・塩分と水分制限・体液バランスと体重のモニタリングを行うこと、弁置換により生活の質と機能状態が改善しうるため早期の外科的介入が有益な場合があること、腫瘍内科・循環器内科・心臓外科による集学的診療が望ましいことを確認した。閲覧 2026-09-06