内科学

内科学 · S-16

カルチノイド症候群

Carcinoid Syndrome

前提:病態
多発性内分泌腫瘍症(MEN)/カルチノイド症候群
前提:正常
アドレナリン受容体とドパミン・セロトニンの合成代謝
疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)カルチノイド心疾患ペラグラ様症候群
症状
顔面紅潮
検査値
5-ヒドロキシインドール酢酸クロモグラニンA

🧠 全体像:は、から放出されるセロトニンなどがへ達して生じる。由来NETでは後に多く、なしに起こるのは5〜13%で主に卵巣・精巣原発などに限られる1。主徴はとで、を見逃さない。

症候と病態

過剰メディエーターの影響 臨床像
セロトニンなど 水様性下痢、腹痛、
、血圧変動
線維化 、、右心不全、腸間膜線維化
消費 まれに欠乏・pellagra

通常は肝ので不活化されるため、消化管NETではが症候発現の転機になる。病変は、気管支NET、極めて高度のメディエーター負荷などでみられる。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flushing'>紅潮</span>+下痢/既知のNET"] --> B["24時間尿または血漿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-hydroxyindoleacetic acid'>5-HIAA</span>"]
    B --> C["食事・薬剤・腎機能による偽値を確認"]
    C --> D["造影CT/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で原発・転移を評価"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatostatin receptor (SSTR)'>ソマトスタチン受容体</span>画像で全身病期"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart murmur'>心雑音</span>・高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-hydroxyindoleacetic acid'>5-HIAA</span>なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-terminal pro-B-type natriuretic peptide'>NT-proBNP</span>+心エコー"]

()はセロトニンで、の主要である。 Aは、腎機能低下、などで上昇し得るため、より「優れる」検査ではない。組織診断では形態、/、とを評価する。

💡 とは役割が違う。 24時間尿はの診断で感度73%・特異度100%と報告されており、「陽性なら強く支持するが、陰性では除外できない」検査である。を多く含む食品で偽陽性になるので検査の72時間前から摂取を控える。は感度は高いが特異度が低くスクリーニングには使えず、の進行・治療反応・切除後の再発の評価に回す。血漿・血清は腎機能を考慮すれば24時間尿の代替になる。心エコーは、・/高値・尖や尖の肥厚と可動性低下といった所見のあるの全例に行う2。

💡 「」という語ではなくの分類名で考える。 2022年分類は上皮性のを、高分化な(NET)と低分化な(NEC)にまず分ける。NETは(と)でG1・G2・G3に分かれ、NECは定義上すべてである。実務上の難所は高増殖のG3 NETとNECの区別で、(SSTR)の発現に加え、膵ではNECのRB消失・p53異常に対しNETではATRX・DAXX・menin消失という分子の違いが手掛かりになる。INSM1・・が系統マーカー、転写因子がの由来推定に使われる3。SSTRを発現しているかどうかが、そのまま画像との可否につながる。

治療

  • (octreotide LAR、lanreotide)が症候制御の基本である。
  • には・量を最適化し、telotristatを追加できる。
  • と病期に応じ、切除、、()、分子標的薬などを選ぶ。
  • は循環器・NET診療チームで評価し、適応があればを検討する。

💡 は症状だけでなく腫瘍の増殖も抑える。 未治療の転移性NET 85例のPROMID試験で、 30 mg月1回は腫瘍増悪までのを14.3か月へ延ばした(6か月、0.34、95%CI 0.20〜0.59、P=0.000072)。6か月時点のは66.7%対37.2%で、機能性でもでも効果は同じだった4。のG1/G2( 10%未満)消化管膵NET 204例のCLARINET試験でも、120 mgを28日ごとに投与した群は無増悪生存を延長した(中央値未到達対18.0か月、0.47、95%CI 0.30〜0.73);24か月無増悪率は65.1%対33.0%5。⚠️ どちらもの延長は示していない(PROMIDでは84.7か月対83.7か月、プラセボ群の88.4%が増悪後にへ移った)。

💡 テロトリスタットはセロトニン合成そのものを減らす。 阻害薬で、を安定用量で受けてもなお1日4回以上の排便が続く135例の第3相TELESTARでは、250 mg 1日3回で12週平均の排便回数がより1日0.81回少なく(P<0.001)、30%以上の減少が期間の半分以上続いた「反応」は250 mg 44%・500 mg 42%(20%)、尿中も有意に低下した6。下痢へのの薬であっての置き換えではない。

💡 は進行NETの確立した選択肢である。 進行性のNET 229例の第3相NETTER-1で、177Lu-+は高用量単独に比べ20か月時点のが65.2%対10.8%、進行・死亡の0.21(P<0.001)、18%対3%だった7。

カルチノイドクリーゼ

手術、麻酔、腫瘍操作などを契機に、著明な血圧変動、、、発熱、を来す。刺激を止め、気道・酸素化・輸液を確保し、静注を投与しながら麻酔・チームがを調整する。周術期予防は広く行われるが、クリーゼを確実に防ぐ高品質evidenceは限定的で、個別計画と即応が重要である。

⚠️ クリーゼの初期対応を頼みにしない。 術中の第一選択としてとを比較した検討では、単独に依存せずを優先するほうが妥当と報告された8。「予防投与を入れてあるから起きない/起きても効く」と考えず、循環を直接支える手段を最初から用意する。

まとめ

  • でメディエーター過剰を確認し、画像で原発・転移とを評価する。
  • を念頭にと心エコーを用いる。
  • が症候治療の中心で、クリーゼはと蘇生で対応する。

出典

  1. 1.European Neuroendocrine Tumor Society (ENETS) 2022 Guidance Paper for Carcinoid Syndrome and Carcinoid Heart Disease(Journal of Neuroendocrinology(Grozinsky-Glasberg S, et al.)・2022)全文(PMC9539661)で、腫瘍由来のホルモンは通常肝で不活化されるためカルチノイド症候群は門脈の還流域外の(転移)腫瘍の存在を示すこと、カルチノイド症候群の87〜100%に肝転移があり、肝転移なしに生じるのは5〜13%で、特に卵巣・精巣原発、ごくまれに肺原発、または後腹膜の大きな腫瘍量がある場合であることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Carcinoid Syndrome: A Review(Cureus (Gade AK, Olariu E, Douthit NT)・2020)24時間尿中5-HIAAが初期検査の第一選択でカルチノイド診断の感度73%・特異度100%であること、トリプトファンを多く含む食品で偽陽性となるため検査の72時間前から摂取を控えること、クロモグラニンAは感度は高いが特異度が低くスクリーニングには使えず病勢の進行・治療反応・切除後の再発評価に用いること、血漿・血清5-HIAAは腎機能を考慮すれば24時間尿の代替として使えること、経胸壁心エコーは心雑音・BNPまたはproBNP高値・三尖弁尖や肺動脈弁尖の肥厚と可動性低下など心病変を疑う所見のあるカルチノイド症候群の全例で行うべきこと、経食道心エコーが弁病変の程度と心房中隔の評価に優れることを本文で確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Overview of the 2022 WHO Classification of Neuroendocrine Neoplasms(Endocrine Pathology・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類2022年版が神経内分泌腫瘍を、神経由来のパラガングリオーマと上皮性の腫瘍に分け、上皮性のものをさらに高分化な神経内分泌腫瘍(NET)と低分化な神経内分泌癌(NEC)に分けること、NETは増殖能に基づき原則G1・G2・G3に分類される一方でNECは定義上すべて高悪性度であること、Ki-67が分類と異型度判定の要であること、系統・分化のマーカーとしてINSM1・シナプトフィジン・クロモグラニン・ソマトスタチン受容体(SSTR)が用いられ、原発不明転移巣の由来推定には転写因子が使えること、高増殖の高分化G3 NETとNECを区別するためにSSTR発現の染色に加え、膵ではNECのRB消失・p53異常に対しNETではATRX・DAXX・menin消失という分子学的差異が手掛かりになること、混合神経内分泌・非神経内分泌腫瘍(MiNEN)と両向性(amphicrine)腫瘍の概念、および治療選択に資するセラノスティック・バイオマーカーを整理したことを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Placebo-controlled, double-blind, prospective, randomized study on the effect of octreotide LAR in the control of tumor growth in patients with metastatic neuroendocrine midgut tumors: a report from the PROMID Study Group(Journal of Clinical Oncology(PROMID Study Group、Rinke A et al.)・2009)未治療の高分化転移性中腸神経内分泌腫瘍85例をオクトレオチドLAR 30 mg筋注月1回とプラセボへ無作為に割り付けた第3B相試験で、腫瘍増悪までの期間中央値はオクトレオチドLAR群14.3か月・プラセボ群6か月(ハザード比0.34、95%CI 0.20〜0.59、P=0.000072)であったこと、6か月治療後の病勢安定はオクトレオチドLAR群66.7%・プラセボ群37.2%であったこと、機能性腫瘍と非機能性腫瘍で効果が同様であったこと、肝腫瘍量が少なく原発巣を切除した患者で最も効果が大きかったこと、死亡数が少なく生存解析は確定的でなかったことを確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.Lanreotide in metastatic enteropancreatic neuroendocrine tumors(The New England Journal of Medicine(CLARINET、Caplin ME et al.)・2014)進行した高分化〜中分化・非機能性・ソマトスタチン受容体陽性のG1またはG2(Ki-67 10%未満)消化管膵神経内分泌腫瘍204例の無作為化二重盲検プラセボ対照多国間試験で、ランレオチド徐放製剤120 mgを28日ごとに96週投与した群は無増悪生存を有意に延長した(中央値未到達対プラセボ18.0か月、進行または死亡のハザード比0.47、95%CI 0.30〜0.73、P<0.001)。24か月時点の無増悪生存率はランレオチド群65.1%・プラセボ群33.0%であった。一方でQOLと全生存に有意差はなく、最も多かった治療関連有害事象は下痢(ランレオチド群26%対プラセボ群9%)であった閲覧 2026-08-25
  6. 6.Telotristat Ethyl, a Tryptophan Hydroxylase Inhibitor for the Treatment of Carcinoid Syndrome(Journal of Clinical Oncology(TELESTAR、Kulke MH et al.)・2017)安定用量のソマトスタチンアナログを受けてもなお1日4回以上の排便が続くカルチノイド症候群患者135例の第3相プラセボ対照試験で、トリプトファン水酸化酵素阻害薬テロトリスタットエチルは12週平均の1日排便回数をプラセボより250 mg 1日3回で0.81回(P<0.001)、500 mg 1日3回で0.69回(P<0.001)減らしたこと、12週時点の1日排便回数の平均減少がプラセボ−0.9・250 mg −1.7・500 mg −2.1であったこと、ベースラインから30%以上の排便回数減少が二重盲検期間の50%以上で続いた「反応」はプラセボ20%・250 mg 44%・500 mg 42%であったこと、両用量とも12週時点の尿中5-HIAAを有意に低下させたこと、軽度の悪心と無症候性のγ-GTP上昇がみられたことを確認した閲覧 2026-08-25
  7. 7.Phase 3 Trial of 177Lu-Dotatate for Midgut Neuroendocrine Tumors(New England Journal of Medicine(Strosberg J, et al.)・2017)NETTER-1試験(進行性の中腸原発神経内分泌腫瘍229例、177Lu-DOTATATE+オクトレオチドLAR対高用量オクトレオチドLAR単独)で、20か月時点の無増悪生存率が65.2%対10.8%、無増悪生存期間中央値は177Lu-DOTATATE群で未到達対対照群8.4か月(進行・死亡のハザード比0.21、p<0.001)、奏効率18%対3%であったことを確認した閲覧 2026-08-25
  8. 8.Comparison of Octreotide and Vasopressors as First-Line Treatment for Intraoperative Carcinoid Crisis(Annals of Surgical Oncology・2024)カルチノイドクリーゼの初期治療ではオクトレオチド単独に依存せず昇圧薬を優先する閲覧 2026-08-25