病態生理学

病態生理学 · 2-30

腫瘍による二次的障害(1):癌患者の他臓器障害

Secondary disorders caused by tumors (1): organ disorders in cancer

応用トピック
小児がん治療の早期・晩期合併症
疾患
がん治療関連心機能障害悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症
検査値
PTHrP全体長軸方向ストレイン
スコア
IMPEDE-VTEスコアKhoranaスコアOttawaスコア(癌関連VTE再発)SAVEDスコア

🧠 2つの加害者を区別する: 癌患者の臓器障害は「腫瘍そのもの(例:PTHrP による)」と「治療(化学療法・放射線・免疫療法)」のどちらが原因かを常に意識する。心臓・は主に治療由来、は腫瘍由来。

心臓障害

  • 癌患者で非常に多く、しばしば死因。主因 = (減量を要することも)。
  • 原因:
    • ( 複製阻害 → 分裂細胞=心幹細胞も傷害)
    • 免疫療法( → 自己免疫 → 心筋攻撃)
    • (筋)
    • (不整脈源性)
    • 胸部放射線
  • 心毒性の型:
  • 帰結:
    • 心不全
    • 梗塞
    • 不整脈(併発し互いを悪化)
  • 機序: (ROS)が中心 — 毒性ROS → 膜/ 障害+アポトーシス(心臓は能が低い)。死んだ心筋 → 瘢痕。
  • : -R 遮断()→ 出血、創傷治癒↓、冠動脈障害/MI、BP↑。心筋の HER-2/EGFR/-R 遮断 → 萎縮、適応↓。

血管障害 — 上大静脈症候群

  • 肺癌とリンパ腫が(SVC)を圧迫・浸潤し、頭頸部・上肢からの静脈還流が障害される。顔面・頸部・上肢の浮腫、、呼吸困難、嗄声が典型像で、臥位・で悪化する。
  • ⚠️ かつては「診断を待たず直ちに治療すべき緊急」とされていたが、現在は・脳浮腫・を伴う真の緊急例に限り緊急を行い、それ以外の安定例では治療が組織型(腫瘍の種類)で大きく変わるため、可能な限り組織診断を先行させる。 組織診断前のステロイド投与はリンパ腫の組織像を不明瞭にしうるため、生命を脅かす緊急時以外は安易なルーチン投与を避ける。
  • 詳細な評価・治療アルゴリズムはを参照。

消化管障害

  • 化学療法の → 末梢性悪心。中枢のの刺激。
  • 化学療法誘発悪心・嘔吐
  • 歯の障害
flowchart TD
  CT["化学療法"] --> P1["第1相:急性・末梢・24時間以内<br>セロトニン駆動 → 5-HT₃拮抗薬"]
  CT --> P2["第2相:遅発・中枢・2〜5日<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='substance P'>サブスタンスP</span> → NK1受容体"]
相 時期 機序 標的
第1相 急性・末梢・<24h セロトニン駆動 5-HT₃拮抗薬(など)
第2相 遅発・中枢・2–5日 NK1受容体(拮抗薬はなど)

筋骨格 — 悪性骨溶解

  • 骨粗鬆症
  • リウマチ様症状(免疫療法)
  • Ca²⁺ 放出 → 不整脈、筋力低下、腎不全
  • 機序: 腫瘍(治療ではない) → (PTHrP)が最も多い原因()→ 腎 Ca²⁺再吸収↑+破骨細胞活性化 → 、骨折、、血清 Ca²⁺↑。
  • 治療:
    1. 静注輸液()による十分な補液が一次治療で、の効果が出るまでの時間をこれで稼ぐ(量を戻し、腎からのCa²⁺排泄を促す)。投与量は心機能に応じて調整する1。
    2. などの、またはで破骨細胞を抑制する(はを止める → 骨折治癒が遅れる副作用がある。両者を比較した場合はを優先する提案がある1)。
  • ⚠️ (など)は避ける。 でのCa²⁺再吸収を促進して尿中Ca²⁺排泄を減らすため、そのものを悪化させる(単独でも高Ca血症を起こしうる)。の患者が内服していれば中止する。
  • ⚠️ などをルーチンに使わない。 はでのCa²⁺再吸収を抑えてを増やすが、でその有効性・安全性を支持する根拠はごくわずかしかなく、補液より先に使えば脱水を悪化させて血行動態を不安定にする。や心不全があり、補液によるを防ぐ必要がある場合に限って慎重に併用する1。

神経障害 — 脊髄圧迫

  • (原発は乳癌・肺癌・前立腺癌が多い)による脊髄・の圧迫。
  • ⭐ が(・筋力低下・膀胱直腸障害)に先行するのが典型。 夜間臥位で増悪し、患者を睡眠から覚醒させる性質を持つことが多い。
  • ⚠️ 癌患者に新規のが出現したら、神経症状が出る前の段階で緊急にを撮る。 麻痺が完成してからでは神経機能は戻りにくく、受診時のが軽いほど治療後の回復も良好——時間そのものが予後を決める。
  • 治療: ステロイド(の軽減)+放射線療法またはが柱。摘出しきれないでは術後に放射線療法を追加することもある。
  • 詳細は・を参照。

代謝・腎障害 — 腫瘍崩壊症候群

  • ・増殖速度の速い血液腫瘍(、など)で、大量の腫瘍細胞が急速に崩壊 → 細胞内のK・P・核酸が血中に放出される。
  • 核酸はを経て尿酸に変換されを来す。放出されたリンはカルシウムと結合してするため、高K血症・高P血症・低Ca血症(⚠️ 高Caではない)という組み合わせが特徴的。
  • ⭐ 予防が治療より重要。 リスクに応じて十分な輸液を行い、尿酸対策として低〜例には、高リスクまたは既にがある例にはを用いる。
  • ⚠️ は欠損症で禁忌。 尿酸分解の過程でが生成され、欠損患者では溶血を来しうる。
  • 詳細な()・治療アルゴリズムはを参照。

骨髄障害

  • 原因:
    • 化学療法(増殖↓)
    • 放射線
    • (転移、白血病//リンパ腫)
  • 貧血:
    • 骨髄抑制
    • (Fe/B12/葉酸)
    • 出血(腫瘍低酸素/びらん— 鉄欠乏が初発のことも)
    • 欠乏
    • 溶血/
    • ↑(IL-6 による)→ 十二指腸 Fe 吸収↓
  • :
  • =( — ただし〈MDSC〉を誘導する)で予防。
  • /入院/減量で治療。
  • : 症状は <50,000。リスク <10,000。ただし の方が重要 — (、80%静脈、20%動脈)、(、、)を介して。
    • ⚠️ かつては癌関連のの長期治療ではが第一選択とされていたが、現在は・・といった()も、と並んで6か月以上の長期抗凝固の選択肢に位置づけられている(いずれもより優先される)3。
    • ⚠️ ただしのうちは、消化管・尿路系の悪性腫瘍など粘膜出血のリスクが高い状況では慎重に用いる。 に比べて臨床的に重要な非大出血が増えると指摘されており、こうした症例ではを選ぶ理由になる3。

リンパ系障害

  • 原因:
  • 治療: (圧迫、)、手術。

まとめ

臓器・病態 主な原因 押さえること
心臓 主に治療(化学療法・免疫療法・胸部放射線) 1型は不可逆に向かい、2型は可逆的なことが多い。機序の中心は
腫瘍(肺癌・リンパ腫) 真の緊急例は、安定例は組織診断を先行。ステロイドのルーチン投与を避ける
化学療法誘発悪心・嘔吐 治療 急性(24時間以内)はセロトニン→5-HT₃拮抗薬、遅発(2〜5日)は→NK1受容体
・高Ca血症 腫瘍(PTHrPが最多) 補液が一次治療、(/)。は中止、はルーチンに使わない
脊髄圧迫 腫瘍(転移) が神経症状に先行。癌患者の新規は緊急
腫瘍の急速な崩壊 高K・高P・低Ca・高尿酸。予防が中心で、は欠損症で禁忌
骨髄 治療・ は38.3℃以上(または38.0℃が1時間)+ 500/mm³未満(48時間以内にそこまで下がる見込みを含む)。感染源が同定されない例のほうが多い
血栓 腫瘍() 長期抗凝固はまたは。消化管・尿路の腫瘍では阻害薬の粘膜出血に注意
リンパ系 治療・ 続発性は

出典

  1. 1.Treatment of Hypercalcemia of Malignancy in Adults: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society / Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の治療として、成人にデノスマブまたは静注ビスホスホネートを強く推奨し、両者を比較した場合はデノスマブを優先することを条件付きで推奨した。あわせて、未格付けの適正診療声明(UGPS 1)として「骨吸収抑制薬の効果が現れるまでの一次治療は静注輸液による十分な補液であり、治療は心機能に応じて調整する」と述べ、フロセミドについては「悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の管理におけるフロセミドの有効性・安全性を支持する根拠はごくわずかしかない」「ループ利尿薬をルーチンに用いるべきではない。ただし腎機能障害または心不全のある患者では、生理食塩水補液中の溢水を防ぐためにループ利尿薬を慎重に用いることが必要になりうる」としていることを確認した。サイアザイド系利尿薬への言及は本ガイドラインには無い。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Clinical Practice Guideline for the Use of Antimicrobial Agents in Neutropenic Patients with Cancer: 2010 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2011)誌上版HTML(academic.oup.com、Wayback Machine 2020-05-13保存版)の全文で確認した。発熱を口腔温の単回測定で38.3℃以上、または38.0℃以上が1時間持続するものと定義し、好中球減少をANC 500/mm³未満、または48時間以内に500/mm³未満へ低下すると見込まれる状態と定義する。疫学の節は、発熱エピソードの大半で感染源が同定されず、臨床的に確認される感染は発熱エピソードの20〜30%、菌血症は全患者の10〜25%で、その多くは遷延性または高度(ANC 100/mm³未満)の好中球減少で起こると述べる閲覧 2026-09-24
  3. 3.Venous Thromboembolism Prophylaxis and Treatment in Patients With Cancer: ASCO Guideline Update(Journal of Clinical Oncology・2023)癌患者の新規静脈血栓塞栓症では初期5〜10日の抗凝固に低分子量ヘパリンが未分画ヘパリンより優先され(フォンダパリヌクス・リバロキサバン・アピキサバンも選択肢)、長期抗凝固では低分子量ヘパリン・エドキサバン・リバロキサバン・アピキサバンを6か月以上用いることがビタミンK拮抗薬より有効性の点で優先されるとしたこと、および「消化管および尿路系の悪性腫瘍、その他粘膜出血リスクの高い状況では直接第Xa因子阻害薬の使用に注意を要する」「直接第Xa因子阻害薬は低分子量ヘパリンに比べ臨床的に重要な非大出血が増える」と注意喚起していることを確認した。閲覧 2026-08-14