内科学

内科学 · I-11

敗血症・敗血症性ショック

Sepsis and Septic Shock

前提:病態
敗血症性ショックの機序と治療の原則敗血症性ショックにおける炎症・凝固障害・内皮機能障害敗血症(定義・病態機序・微生物学的診断)
疾患
敗血症毛細血管漏出症候群
症状
悪寒発熱頻呼吸
スコア
MEWS(改訂早期警告スコア)NEWS2(早期警告スコア)SOFAスコア

🧠 全体像:敗血症は感染に対するのによって生じる生命を脅かす臓器障害である。単なる菌血症や全身炎症ではなく、感染の治療、、循環・呼吸蘇生を分単位で並行して進める救急疾患である。12

定義

用語 での定義
敗血症 感染に伴うの急性2点以上上昇で表される生命を脅かす臓器障害
適切な循環血液量回復後もMAP 65 mmHg以上の維持にを要し、血清が2 mmol/Lを超える敗血症
菌血症 血中に生菌を認める状態。臓器障害がなければ敗血症とは限らない

旧来のと「」は現在の定義では用いない。は感度の高いスクリーニング要素としては残るが、感染に特異的ではない。1

SOFAスコア

臓器 0点 1点 2点 3点 4点
呼吸: 400以上 400未満 300未満 200未満+呼吸補助 100未満+呼吸補助
凝固:血小板 ×10^3/μL 150以上 150未満 100未満 50未満 20未満
肝:ビリルビンmg/dL 1.2未満 1.2〜1.9 2.0〜5.9 6.0〜11.9 12.0超
循環 MAP 70以上 MAP 70未満 ドパミン5未満または(任意用量) ドパミン5.1〜15またはアドレナリン/ノルアドレナリン0.1以下 ドパミン15超またはアドレナリン/ノルアドレナリン0.1超
中枢神経: 15 13〜14 10〜12 6〜9 6未満
腎:クレアチニンmg/dLまたは尿量 1.2未満 1.2〜1.9 2.0〜3.4 3.5〜4.9または500 mL/日未満 5.0超または200 mL/日未満

量の単位はμg/kg/分で、少なくとも1時間投与した量を採る1。既存臓器障害がなければ基準SOFAを0と仮定するが、がある場合は急性変化を評価する。

⚠️ 原著の表は区間の端がわずかに連続していない(ビリルビン11.9と12.0の間、クレアチニン4.9と5.0の間、ドパミン5ちょうど)。上の表は原文どおりに写してあるので、境界値の症例では原著の表記に戻って判断する。

qSOFAとスクリーニング

項目 基準
呼吸数 22/分以上
意識 15未満
100 mmHg以下

qSOFA 2点以上は転帰不良リスクを示すベッドサイド指標だが、感度が不足し、でも単独スクリーニング法でもない。現行のSurviving Sepsis Campaign(SSC)2026年版は、院内の急性期患者のスクリーニングでNEWS、NEWS2、、を単独より優先することを強く推奨する(確実性は中等度)。2 2021年版は同じ内容を「を・NEWS・と比べて単独スクリーニング手段として用いない」という否定形の強い推奨として掲げていた。3

💡 SSC 2026は「敗血症は臨床診断であり、単一のや検査で確定も除外もしない」ことをgood practice statementとして明記している。2 乳酸は、ストレス性解糖、低下などで上昇する予後指標であり、単独で敗血症を確定・除外しない。

臓器障害が生じる流れ

flowchart TD
  A["感染に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dysregulation'>調節不全</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='host reaction'>宿主反応</span>"] --> B["炎症・免疫抑制の併存"]
  B --> C["血管拡張・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary leak'>毛細血管漏出</span>・相対的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量低下</span>"]
  C --> E["凝固活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microthrombi'>微小血栓</span>"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue perfusion'>組織灌流</span>低下"]
  E --> F
  F --> G["肺・腎・脳・肝・心の機能障害"]

ではによると凝固因子・血小板消費による出血が併存する。低血圧だけでなく、と細胞代謝異常が多臓器障害に関与する。

初期対応

flowchart TD
  A["感染疑い+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute organ damage'>急性臓器障害</span>"] --> B["蘇生を開始し乳酸・血液培養"]
  B --> C{"ショックまたは敗血症の確率"}
  C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic shock'>敗血症性ショック</span>(可能性あり・高い・確定のいずれでも)<br>またはショックのない可能性の高い・確定した敗血症"| D["抗菌薬を直ちに、理想的に1時間以内"]
  C -->|"ショックのない「可能性のある」敗血症"| E["感染/非感染を迅速評価"]
  E -->|"懸念が残る"| F["初回疑いから3時間以内に抗菌薬"]
  E -->|"感染の可能性が低くショックもない"| G["厳重な監視を続けながら<br>抗菌薬を差し控える"]
  D --> H["晶質液・必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasopressor'>昇圧薬</span>"]
  F --> H
  H --> I["感染源処置を理想的に6時間以内"]
  I --> J["培養・反応で狭域化と期間決定"]

検体と抗菌薬

  • 抗菌薬開始のタイミングは4つに分かれる。(可能性がある・可能性が高い・確定のいずれでも)と、ショックのない可能性の高い・確定した敗血症では直ちに、理想的には認識から1時間以内(いずれも強い推奨・確実性はきわめて低い)。ショックのない「可能性のある」敗血症では時間を区切った迅速な検索を行い、懸念が残れば最初に疑った時点から3時間以内(条件付き推奨・きわめて低い)。感染の可能性が低くショックもなければ、厳重な監視を続けながら抗菌薬を差し控える(条件付き推奨・きわめて低い)。⚠️ 差し控えは「打たなくてよい」という許可ではなく、監視を続けることとセットで提案されている。2
  • 血液培養は可能な限り速やかに、理想的には抗菌薬投与前に採取する(2026年版で強い推奨・確実性は低い)。2 2021年版は同じことを「抗菌薬開始を実質的に遅らせないなら投与前に採る」というbest practice statementとして書いていた。3
  • 感染部位から尿、喀痰、髄液、、組織など良質な検体を採る。
  • 経験的薬は感染源、重症度、過去の菌・耐性、直近抗菌薬、局所、臓器機能で選ぶ。
  • 特定のリスクが高い場合だけカバーを広げ、低リスクなら不要な・耐性グラム陰性菌カバーを避ける。
  • 真菌・嫌気性菌も一律にはカバーせず、免疫抑制、長期抗菌薬、などのリスクで決める。
  • βラクタムは初回負荷投与後の維持を延長投与とすることが強く推奨される(2026年版・確実性は中等度)。2021年版では同じ内容が弱い推奨だった。23

抗菌薬を開始するかどうかの判断では、を臨床評価に加えるより臨床評価単独を優先する(条件付き推奨)。一方、が十分で最適な投与期間が分からない例で中止時期を決めるときは、臨床評価単独よりと臨床評価の併用を優先する(条件付き推奨)——開始と中止で向きが逆である。2

循環蘇生

輸液

項目 SSC 2026の考え方
初期液 晶質液を蘇生の第一選択とする(強い推奨・確実性は中等度)。では0.9%食塩液よりを選ぶ(条件付き推奨・中等度)。ただしを合併する例では0.9%食塩液が提案される
初期量 敗血症性低灌流・ショックで最初の3時間に少なくとも30 mL/kgを提案(条件付き推奨・確実性は低い)
体重の採り方 で計算する。 30 kg/m²超では補正体重またはを用いる2
位置づけ 初期投与量は個々の患者背景と状況(心不全、腎不全、肥満、肺水腫リスクなど)を踏まえて決め、過少蘇生と過剰蘇生のどちらの害も避けるために頻回に再評価する
継続 や少量負荷に対する・など動的指標で判断する(条件付き推奨)

30 mL/kgは「全員へ再評価なしにする固定命令」ではない。、皮膚、意識、尿量、乳酸推移、肺うっ血を反復評価し、がなければ追加を止める。⭐ 30 mL/kgを投与しても低灌流が続く例で制限的と寛容のどちらを採るかは、患者側の要因(現在の病態と心不全などの)と医療側の要因(監視できる病床が確保できるか)で決めるとされ、どちらか一方が一律に優れるとはされていない(条件付き推奨・確実性は低い)。2 実際、初期晶質液後の制限的輸液・早期戦略と自由輸液戦略で90日死亡に差はなかった。4

昇圧薬・強心薬

  • ノルアドレナリンが第一選択で(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)、確保を待たず、監視下で適切なから開始できる(条件付き推奨)。
  • 初期目標MAPは65 mmHgで、より高い目標より優れるとして強く推奨される(確実性は中等度)。実務上ちょうど65 mmHgに保つことはできないので、前後5 mmHg程度の幅を目標域としてする。⭐ 65歳以上では初期目標域を60〜65 mmHgとすることが提案される(条件付き推奨・確実性は低い)。2 、、の有害事象を踏まえて個別に調整する。
  • ノルアドレナリン増量中ならを追加し、それでもMAP不足ならアドレナリンを追加する(いずれも条件付き推奨)。が手に入らない環境では、ノルアドレナリンにアドレナリンを追加してよい。
  • 適切な容量とMAPでも心機能低下・低灌流が続けば、ノルアドレナリンにを追加するかアドレナリン単剤を用いる(条件付き推奨)。を合併するでは、第一選択をノルアドレナリンとアドレナリンのどちらにしてもよい。
  • には静注副腎皮質ステロイドを用いる(2026年版で条件付き推奨・確実性は低い)。2 2021年版は対象を「の継続投与を要する」に限り、200 mg/日を6時間ごとに50 mg静注またはとし、ノルアドレナリンまたはアドレナリン0.25 µg/kg/分以上が開始後4時間以上続く時点からの開始を目安として付記していた。3

感染源コントロール

感染源 処置
・ 経皮または
閉塞性胆管炎・
直ちに
感染カテーテル・デバイス 安全に可能なら・交換
消化管穿孔・虚血 緊急手術

解剖学的感染源があれば遅いより早い処置が提案され、理想的にはを要する敗血症・と診断してから6時間以内に行う(条件付き推奨・確実性はきわめて低い)。2

再評価と臓器支持

領域 要点
抗菌薬 感受性判明時は不要薬を中止・狭域化。培養陰性でも毎日中止可能性を評価
期間 十分な感染源処置後は長期より短期を選ぶ。期間不明なら臨床評価+PCTで終了補助
呼吸 ARDSでは6 mL/kg前後の低と30 cmH2O以下(いずれも強い推奨)、中等症〜重症では1日12時間超の。でない敗血症関連のでは6〜8 mL/kgとし、それより低い換気量にはしない(条件付き推奨)2
輸血 原則として。虚血・出血・重度低酸素を個別評価
腎 適応がなければ早期をルーチン開始しない
禁忌がなければ薬理学的予防
栄養 可能なら72時間以内にを開始

まとめ

  • 敗血症は感染に伴う生命を脅かす臓器障害で、や菌血症と同義ではない。
  • は予後指標であり、単独スクリーニングや診断に使わない。
  • 抗菌薬は、またはショックのない可能性の高い・確定した敗血症なら直ちに、理想的に1時間以内(強い推奨)。ショックのない「可能性のある」敗血症なら迅速評価のうえ、懸念が残れば最初に疑った時点から3時間以内(条件付き推奨)。
  • 感染の可能性が低くショックもなければ、厳重な監視を続けながら抗菌薬を差し控える(条件付き推奨)。差し控えは監視の継続とセットで提案されている。
  • 初期MAP目標は65 mmHg(前後5 mmHg程度の幅に)で、65歳以上では初期60〜65 mmHgが提案される。
  • 、動的輸液評価、ノルアドレナリン、早期感染源処置を並行し、毎日狭域化する。

出典

  1. 1.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)全文をPMC(PMC4968574)で取得してSOFAの表(Table 2の前に置かれた臓器別配点表)を逐語で確認した。循環の欄は2点が「ドパミン5未満またはドブタミン(任意用量)」、3点が「ドパミン5.1〜15またはアドレナリン0.1以下またはノルアドレナリン0.1以下」、4点が「ドパミン15超またはアドレナリン0.1超またはノルアドレナリン0.1超」で、脚注はカテコラミンの用量をμg/kg/分で少なくとも1時間投与した量とする。肝の4点は「12.0超」、腎の4点は「5.0超」であり、いずれも「以上」ではない。呼吸は400以上・400未満・300未満・200未満(呼吸補助あり)・100未満(呼吸補助あり)、凝固の血小板は150以上・150未満・100未満・50未満・20未満、中枢神経のGCSは15・13〜14・10〜12・6〜9・6未満。敗血症性ショックの定義(適切な輸液蘇生後もMAP 65 mmHg以上の維持に昇圧薬を要し、かつ血清乳酸値が2 mmol/L超)も確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)DOI本体(Springer)はbot判定で取得できず、発行元SCCMが公開している推奨一覧のページで推奨文と格付けを逐語で確認した。院内の急性期患者ではNEWS・NEW2・MEWS・SIRSをqSOFA単独より優先する(強い推奨・中等度)。敗血症と敗血症性ショックは救急疾患であり治療と蘇生を直ちに開始する(good practice statement)。血液培養は可能な限り速やかに、理想的には抗菌薬投与前に採取する(強い推奨・低い)。抗菌薬は、可能性のある/可能性が高い/確定した敗血症性ショックと、ショックのない可能性が高い・確定した敗血症のいずれでも直ちに、理想的には認識から1時間以内(いずれも強い推奨・きわめて低い)。ショックのない「可能性のある」敗血症では時間を区切った迅速な検索を行い、懸念が残るなら最初に疑った時点から3時間以内(条件付き・きわめて低い)。感染の可能性が低くショックが無ければ厳重に監視しながら投与を差し控える(条件付き・きわめて低い)。敗血症は臨床診断であり、単一のバイオマーカーや検査で確定も除外もしない(good practice statement)。抗菌薬開始の判断では臨床評価単独をプロカルシトニン併用より優先する(条件付き・きわめて低い)が、感染源制御が十分で最適な投与期間が不明な例の中止判断では、臨床評価単独よりプロカルシトニンと臨床評価の併用を優先する(条件付き・低い)。βラクタムは初回負荷後の維持を延長投与とすることを強く推奨(中等度)。晶質液を第一選択とし(強い推奨・中等度)、初期蘇生では平衡晶質液を0.9%食塩液より優先(条件付き・中等度。付記で外傷性脳損傷を合併する例は0.9%食塩液)、最初の3時間に少なくとも30 mL/kg(条件付き・低い。付記で個々の背景と状況を考慮し頻回に再評価すること、実体重で計算しBMI 30 kg/m²超では補正体重または理想体重を用いること)。30 mL/kg投与後も低灌流が続く例で制限的と寛容のどちらを採るかは、患者側の要因と医療体制側の要因による(条件付き・低い)。輸液の継続は身体所見や静的指標のみより動的指標で導く(条件付き・低い)。初期MAP目標65 mmHg(強い推奨・中等度。付記で前後5 mmHg程度の幅に滴定)、65歳以上は初期60〜65 mmHg(条件付き・低い)。ノルアドレナリンを第一選択とし(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)、中心静脈路の確保を待たず末梢から開始してよい(条件付き・きわめて低い)。増量中の例にバソプレシンを追加し(条件付き)、なお不足すればアドレナリンを追加する(条件付き。付記でバソプレシンが手に入らない環境ではノルアドレナリンにアドレナリンを追加してよい)。心機能障害を合併する例では第一選択をノルアドレナリンまたはアドレナリンとしてよく(条件付き)、十分な輸液と血圧でも低灌流と心機能障害が続く例ではノルアドレナリンにドブタミンを追加するかアドレナリン単剤とする(条件付き)。敗血症性ショックには静注副腎皮質ステロイドを用いる(条件付き・低い)。感染源制御は理想的に診断から6時間以内(条件付き・きわめて低い)。ARDSでない敗血症関連の低酸素性呼吸不全では理想体重6〜8 mL/kgの一回換気量(条件付き・低い)。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021(Intensive Care Medicine・2021)Europe PMC(PMC8486643)で全文を取得して確認した。推奨2はqSOFAをSIRS・NEWS・MEWSと比べて敗血症・敗血症性ショックの単独スクリーニング手段として用いないことを強く推奨(中等度の質)。培養はbest practice statementとして「抗菌薬開始を実質的に遅らせないなら投与前に採取する」。推奨25はβラクタムの負荷投与後の維持を延長投与とすることを弱い推奨(中等度の質)。推奨58は対象を「敗血症性ショックで昇圧薬の継続投与を要する成人」に限って静注副腎皮質ステロイドを弱く推奨(中等度の質)し、付記でヒドロコルチゾン200 mg/日を6時間ごとに50 mg静注または持続投与とし、ノルアドレナリンまたはアドレナリン0.25 µg/kg/分以上が開始後4時間以上続く時点からの開始を目安としている。閲覧 2026-09-07
  4. 4.Early Restrictive or Liberal Fluid Management for Sepsis-Induced Hypotension(2023)初期晶質液後の制限的輸液・早期昇圧薬戦略と自由輸液戦略で90日死亡差がなかったことを確認した。閲覧 2026-08-13