病態生理学

病態生理学 · 2-27

敗血症性ショックにおける炎症・凝固障害・内皮機能障害

Septic shock: inflammation, coagulation & endothelial dysfunction

応用トピック
敗血症・敗血症性ショック・多臓器障害敗血症・敗血症性ショック敗血症敗血症・敗血症性ショックの認識と救急治療敗血症の徴候と発症数時間以内の管理循環性ショック 症例4
疾患
新型コロナウイルス感染症敗血症

🧠 3つの系が同時に暴走する: 敗血症では「炎症」「凝固」「内皮」が別々ではなく一体で動く。健康な内皮は抗凝固・抗炎症の“ブレーキ”だが、敗血症でそのブレーキが外れ、3系がお互いを増幅する。

内皮機能障害

健康な内皮は 抗凝固&抗炎症。敗血症でこれが反転する:

敗血症での変化 因子
(ブレーキが外れる) (血管内皮を覆う);PGI₂&NO(を抑制);t-PA(線溶活性化);()・・(抗凝固)
上方制御(アクセルが踏まれる) P-/E-selectin・ICAM-1(内皮);ESL1/PSGL1(単球)→ 白血球- → 活性化+;の緩み → 浮腫+

💡 の破綻が最初の一歩。 内皮の内腔面を覆うに富んだ層()は透過性を調節し、白血球や血小板の付着を抑えている。敗血症ではヘパラナーゼなどがそののを切り離し、この破綻がの最初の徴候の一つとして現れて、炎症・・透過性亢進を強める1。

  • 帰結:
    • 透過性↑
    • 浮腫
    • O₂ ↑

凝固と免疫のクロストーク

💡 凝固は最初“味方”、途中から“敵”。 はを出し、フィブリンで病原体を閉じ込める防御でもある。しかし微小循環を塞ぎ始めるとを奪い、害に転じる。

  • 病原体は・内皮 と 凝固を同時に活性化。
  • 凝固は初め 有益:
    • 酵素カスケード →
    • トロンビンがを活性化する。⚠️ 正確には、トロンビン自身がプロテアーゼとしての受容体を切断して働く——凝固で生じたトロンビンはプロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)を介して単球に作用し、の発現を増やす(凝固がさらに凝固を呼ぶ正のフィードバック)1。
    • フィブリンが物理的バリアを形成し、(NETs)とともに病原体を閉じ込める。⚠️ NETsはフィブリンそのものではない。 NETsは好中球が放出する・ヒストン・抗菌蛋白の網で、血小板や赤血球が付着するになり、フィブリノゲンなどのも結合し、トロンビンによるフィブリン生成にも寄与する——フィブリンとNETsが組み合わさって病原体を捕らえる網になる1。
  • やがて 組織障害性に:凝固が微小循環を塞ぐ → ↓。この「最初は宿主に有益な免疫血栓症が、制御を失って全身化するとの軽微な異常からまでの血栓・出血合併症を起こす」という捉え方は、敗血症の総説のでもある1。
  • 敗血症は 凝固↑+線溶↓(自然免疫と連動)。がこの両方向を同時に押す:
    • C5a → 凝固アクセル。 C5aがC5a受容体に結合すると、好中球と血管内皮に(TF)の発現が誘導され、の起点そのものが炎症の場に作り出されると報告されている2。
    • C5a → 線溶ブレーキ。 同じC5aが肥満細胞・に活性化因子インヒビター1()の発現を誘導し、がt-PA()を上回る量となる。はではなくアクチベータの側を阻害するため、生成が立ち上がらず線溶が抑えられる2。
    • ⚠️ 内皮に作用するのは「C5b単独」ではなく、C5b以降(C5b6・C7・C8・C9)が組み上がった終末補体複合体 (、)である。 が内皮細胞に作用すると細胞膜が小胞化して第Va因子の結合部位が露出し、内皮表面にプロトロンビナーゼ活性(トロンビンを作る)が立つ2。C5bはこの複合体の核となる断片名であり、それ単独でを提示するわけではない。
  • 正味:トロンビン↑、形成↑、//()↓ → → DIC リスク。
    • の臨床診断基準(2025年改訂ISTHスコア:・等・延長・フィブリノゲンの4項目、合計5点以上でに合致)は凝固系の低下と亢進が併存する病態(・HIT・)に譲る。本稿ではへ至る機序(凝固アクセル・抗凝固ブレーキ・線溶ブレーキが同時に壊れる過程)を扱う3。
    • 💡 2025年のISTHの再定義は、この機序をそのまま定義に取り込んだ。 は「全身性の凝固活性化・線溶の・を特徴とし症をきたす後天性の病態で、無症候でありうるから出血や臓器障害を伴う進行相へ進む」とされ、は基礎疾患ごとの基準で捉えるべきだとされた。敗血症から生じるの基準が、(SIC)スコアである3。
SICスコアの項目 2点 1点
(×10⁹/L) 100未満 100以上150未満
1.4超 1.2超1.4以下
(呼吸・循環・肝・腎の4項目の合計) 2以上 1

合計4点以上でSICとし、そのうえでとの点数の合計が2を超えることを要する(=凝固の2項目だけで3点以上が要り、SOFAの点で合計を底上げしただけではSICにならない)3。💡 SICは、どの臨床現場でも評価できるようすぐ測れる最小限の検査で組むという考え方で作られ(スコアにあるとフィブリノゲンは項目に無い)、同じ文書は早期に拾えばへの進行を防ぐ介入の時機を得られうるとしている3。

炎症促進・抗炎症の過程

  • SIRS(=炎症促進側)と CARS(=抗炎症側)が拮抗。
  • :
    • 抗炎症細胞(T-reg、未熟な〈PMN=好中球〉、〈MDSC〉、M2)→ IL-10、。
    • リンパ節:B 細胞・のアポトーシス。
    • 単球発現↓+PDL1↑。T 細胞が PD1 発現 → PDL1–PD1 相互作用 → T 細胞抑制/アポトーシス。T-reg/TH2↑ → T 細胞反応性↓。

急性・慢性の帰結

flowchart TD
  N["正常経過:炎症ピーク → 抗炎症上昇 → 収束 → 健康"] 
  S["敗血症の分岐"] --> A["強すぎ → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytokine storm'>サイトカインストーム</span>→ 致死(COVID <span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span> 等)"]
  S --> B["持続炎症 → PICS(持続炎症・免疫抑制・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span>症候群)"]
  S --> C["免疫抑制遷延 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent infection'>持続感染</span>(週〜年)→ 死"]
  S --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased catabolism'>異化亢進</span> → 急性期は生存も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cachexia'>悪液質</span>→ 死"]
  • 正常経過:炎症促進ピーク → 抗炎症上昇 → 収束 → 健康。
  • 敗血症の転帰:
    • 強すぎ → → 致死(例 COVID ARDS)。
    • 持続炎症 → 持続炎症・免疫抑制・症候群(PICS、persistent inflammation, immunosuppression & catabolism syndrome)。
    • 免疫抑制遷延 → (週〜年)→ 死。
    • → 急性期は生存も → 死。

まとめ

論点 押さえること
全体像 敗血症では炎症・凝固・内皮の3系が一体で暴走し、互いを増幅する
内皮(ブレーキの喪失) ・PGI₂/NO・t-PA・//が低下。の破綻が最初の徴候の一つ
内皮(アクセル) ・ICAM-1の発現で白血球が接着・、の緩みで浮腫 → 透過性↑・O₂↑・微小血管血栓
凝固は味方から敵へ ・トロンビンによるの活性化・フィブリンとNETsの網で病原体を封じるが、微小循環を塞ぐとを奪う
補体との連動 C5a → の発現(凝固アクセル)との発現(線溶ブレーキ)。終末補体複合体 → 内皮表面にプロトロンビナーゼ活性
正味の凝固 トロンビン↑、・・↓、線溶↓ → →
診断の物差し はISTH 2025の4項目スコアで5点以上。敗血症のはSICスコア(・・SOFA)で4点以上
炎症と抗炎症 (炎症促進)とCARS(代償性抗炎症)が拮抗。・MDSC・M2、B細胞のアポトーシス、低下とPD-L1–PD-1で免疫抑制
転帰の4分岐 致死的な/持続炎症(PICS)/免疫抑制の遷延と/と

出典

  1. 1.Endothelial dysfunction and immunothrombosis in sepsis(Frontiers in Immunology(Maneta E, et al.)・2023)敗血症の内皮機能障害と免疫血栓症の総説(PMC10110956、CC BY)の全文で確認した。好中球細胞外トラップ(NETs)は無細胞DNA・ヒストン・抗菌蛋白からなる細胞外構造で、主にNETosisという細胞死の過程で、あるいは細胞死を伴わない経路で放出される。NETsは血小板や赤血球が付着する足場となり、フォン・ヴィレブランド因子・フィブロネクチン・フィブリノゲンなどの血漿蛋白も結合し、トロンビンによるフィブリン生成にも寄与する。凝固カスケードの活性化で生じたトロンビンはプロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)を介して単球に結合し組織因子の発現を増やす。内皮グリコカリックスの破綻は敗血症の内皮機能障害の最初の徴候の一つで、ヘパラナーゼなどによる切断が炎症・血栓形成・透過性亢進を強める。結論は、免疫血栓症は当初は宿主に有益だが、敗血症で制御を失い全身化すると凝固検査の軽微な異常からDICまでの血栓・出血合併症につながるとまとめている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Unraveling the Intricate Web: Complement Activation Shapes the Pathogenesis of Sepsis-Induced Coagulopathy(Journal of Innate Immunity(Wei X, et al.)・2024)敗血症性凝固障害における補体活性化を扱った総説(PMC11249610。Europe PMCでOA全文を取得)が、C5aがC5a受容体を介して好中球に組織因子の発現を誘導すること、組換えヒトC5aがヒト臍帯静脈内皮細胞に組織因子活性とそのmRNA発現を用量依存的に誘導すること、C5aがヒト肥満細胞・好塩基球にPAI-1の発現を誘導し組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)を上回る発現となること、終末補体複合体C5b-9(膜侵襲複合体)が内皮細胞に曝露されると細胞の小胞化と第Va因子結合部位の発現を生じプロトロンビナーゼ活性を示すことを、それぞれ既報として整理していることを確認した。本ノートの記述はこの総説の整理に沿ったもので、個々の実験の原著までは当たっていない。閲覧 2026-08-14
  3. 3.Updated definition and scoring of disseminated intravascular coagulation in 2025: communication from the ISTH SSC Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(International Society on Thrombosis and Haemostasis (ISTH) SSC・2025)全文(出版社の全文ページのWayback保存版、2025-06-02取得分)で確認した。DICを「全身性の凝固活性化・線溶の調節不全・内皮傷害を特徴とし微小血栓症をきたす後天性の生命を脅かす血管内病態で、無症候でありうる早期相から出血や臓器障害を伴う進行相へ進む」と再定義した。Table 1は顕性DICスコアを血小板数・Dダイマー(またはFDP)・PT延長・フィブリノゲンの4項目、合計5点以上とし、同じ表に敗血症誘発性凝固障害(SIC)スコアを並べている。SICは血小板数(100×10⁹/L未満で2点、100以上150未満で1点)・PT-INR(1.4超で2点、1.2超1.4以下で1点)・SOFAスコア(呼吸・循環・肝・腎の4項目の合計で2以上が2点、1が1点)の合計4点以上で、血小板数とPT-INRの点数の合計が2を超えることを要する。本文は、早期相DICには全疾患共通の基準は不適切で基礎疾患ごとの基準が要るとし、敗血症から生じる早期相DICの基準として同小委員会が先に提案したのがSICで、その考え方はどの臨床現場でも評価できるよう最小限のすぐ測れる検査で基準を組むことであり、早期に見つければ時機を得た介入で顕性DICへの進行を防げる可能性があると述べている。閲覧 2026-09-24