病態生理学

病態生理学 · P-2-25

循環性ショック 症例4

Circulatory shock, Case 4

前提:病態
敗血症性ショックの機序と治療の原則敗血症性ショックにおける炎症・凝固障害・内皮機能障害

🧠 全体像: 放置した母指の汚染創から膿が出て前腕にの赤い線が伸び、・39.7℃の発熱・脈拍125/分・呼吸数30/分・血圧90/60 mmHg・・全身の点状出血と浮腫を来した47歳男性。皮膚軟部組織の感染を入口とする敗血症と、温かい()ショックへの進展を疑う。のの基準はこの時点の情報では確かめられないが、基準を待たずに抗菌薬・輸液・を始める。

症例提示

47歳男性。芝刈り機を修理中に母指を受傷。翌日には母指痛と創周囲発赤が出現したが、多忙のため処置しなかった。

夕方帰宅時には母指は腫脹し拍動痛を伴い、創部から黄白色膿が排出していた。さらに前腕内側に2本の赤い線状発赤を認めた。突然、悪心とが出現。妻が最寄り病院へ搬送したが、渋滞で約35分を要した。

来院時評価

  • 体温: 39.7°C
  • 。全身状態不良
  • 全身に点状出血と浮腫
  • 脈拍: 125/min
  • 血圧: 90/60 mmHg
  • 呼吸数: 30/min
  • そのほかで有意な追加異常なし

重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
“母指受傷後に適切な処置をしない” 未処置の汚染創が感染になった
“創部から黄白色膿が排出” 局所細菌感染が成立し膿瘍形成を示唆
“前腕内側に2本の赤色線状発赤” 。リンパ路に沿った感染拡大。免疫正常者ので最多の起因菌は(Streptococcus pyogenes)だが、⚠️ 本例のように・膿の排出を伴う創がの場合は黄色ブドウ球菌の関与も想定し、抗菌薬選択に反映させる(培養前に菌種を断定しない)
“悪心と戦慄が出現”; 体温 39.7°C 高熱と戦慄を伴う / 菌血症
“” 血管拡張に伴うウォームショック。初期敗血症性/の所見
“全身の点状出血と浮腫” と、()合併の可能性
脈拍 125/min, BP 90/60 mmHg, RR 30/min 頻脈・頻呼吸と境界域の血圧(約70 mmHg)。1991年の基準(旧定義)なら体温・心拍数・呼吸数の3項目を満たし、qSOFAは呼吸数22/分以上と100 mmHg以下の2項目が陽性。ただし現行のの敗血症(感染に伴う2点以上の急性上昇)は、が無いこの時点では判定できない1

要点

  • ショック型: ()疑い——皮膚軟部組織感染からの・菌血症を背景とした早期の温かいショック像(起因菌は培養で確定するまで断定しない)。
  • 感染源: 放置された汚染母指創 → → → 菌血症。
  • 病態生理: 微生物産物がメディエーターを惹起 → 広範な血管拡張 + → SVR低下と相対的 → 低血圧。
  • 臨床的特徴: 一般に早期は温かい皮膚と力強く触れる速脈(。冷たいと対照的)。全身の点状出血は合併を示唆。
  • 診断上の注意: ⚠️ のBP 90/60 mmHg(約70 mmHg)は、Sepsis-3が定めるの基準(十分な輸液を行ってもなおMAPを65 mmHg以上に保つためにを要し、かつ血清が2 mmol/Lを超えること)をこの時点では満たしていない1。qSOFA(呼吸数22/分以上・意識変容・100 mmHg以下)が複数項目陽性であることは転帰不良リスクを示す簡易な目安にすぎず、それ自体は敗血症やショックの確定ではない。Surviving Sepsis Campaign 2026も、院内の急病患者の敗血症スクリーニングには単独よりNEWS・NEWS2・・を用いることを推奨している(強い推奨、確実性は中等度)2。臨床では基準を機械的に待つのではなく、この時点の所見(高熱・頻脈・頻呼吸・・点状出血)からへの進展を強く疑って治療を開始する判断が適切である。
  • 治療優先: Surviving Sepsis Campaign 2026 に沿って整理する2。
    • 抗菌薬: の可能性がある例、またはショックがなくても敗血症の可能性が高い/確実な例では、直ちに、理想的には認識から1時間以内に投与する(いずれも強い推奨、確実性はきわめて低い)。本例は膿を出す創とという明らかなに循環の異常が重なっているので、どちらの条件でも1時間以内の側に入る。
    • 輸液: 敗血症による低灌流またはでは、最初の3時間に少なくとも30 mL/kgの晶質液が提案されている(条件付き、低い)。本例に低灌流があるかは、やなどで確かめる。
    • : を要する病変(本例では膿の貯留した母指創)を速やかに評価し、必要なら理想的には診断から6時間以内に・を行う(条件付き、きわめて低い)。
    • : 輸液に反応しない低血圧が持続すれば、ノルアドレナリンを第一選択のとして開始する(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)。

出典

  1. 1.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)敗血症性ショックは「十分な輸液を行ってもMAPを65 mmHg以上に保つのに昇圧薬を要し、かつ血清乳酸値が2 mmol/Lを超える」ことで臨床的に同定される(院内死亡率40%超)と定義され、qSOFAは確定診断・除外のツールではなく予後不良を示す簡易指標として提案されたことを確認した。2026-09-24 に抄録(PMC4968574)で、敗血症は感染に対する調節不全の宿主反応による生命を脅かす臓器障害と定義され、臨床的にはSOFAスコアの2点以上の上昇(院内死亡率10%超と関連)で表されることも確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)2026-09-24 に発行元SCCMの成人推奨一覧(https://www.sccm.org/survivingsepsiscampaign/guidelines/adult-patients 、ブラウザUAで200)で逐語確認した(DOI本体のSpringerはbot判定で取得できない)。敗血症性ショックの可能性がある/可能性が高い/確定した成人と、ショックのない可能性が高い/確定した敗血症の成人では、抗菌薬を直ちに、理想的には認識から1時間以内に投与する(いずれも強い推奨、確実性はきわめて低い)。ショックのない可能性のある敗血症では時間を区切った迅速な検索を行い、懸念が残れば最初に疑った時点から3時間以内に投与する(条件付き、きわめて低い)。院内の急病患者の敗血症スクリーニングにはqSOFA単独よりNEWS・NEWS2・MEWS・SIRSを用いる(強い推奨、中等度)。敗血症による低灌流または敗血症性ショックでは最初の3時間に少なくとも30 mL/kgの晶質液を投与する(条件付き、低い)。敗血症・敗血症性ショックでは感染源コントロールを要する解剖学的病変を速やかに評価し(good practice statement)、必要なら理想的には診断から6時間以内の早期の感染源コントロールを行う(条件付き、きわめて低い)。敗血症性ショックではドパミン・アドレナリン・セレプレシンよりノルアドレナリンを第一選択の昇圧薬とする(強い推奨、確実性はドパミンに対して高い、アドレナリン・セレプレシンに対して低い)。閲覧 2026-08-14