内科学

内科学 · L-71

敗血症

Septicemia

前提:病態
敗血症性ショックにおける炎症・凝固障害・内皮機能障害
前提:正常
微小循環の機能的構成とその調節
疾患
ストレス潰瘍

🧠 全体像:敗血症は「感染に対するの破綻による生命を脅かす臓器障害」である。現在は陽性を診断条件とせず、感染疑い+SOFA上昇を軸に捉える。認識後は抗菌薬、、を並行する。

定義と病態

  • 敗血症:感染に伴いが基礎値から2点以上上昇する臓器障害(、2016年)1。
  • :十分な輸液後もMAP ≥65 mmHg維持にを要し、血清乳酸 >2 mmol/Lである状態1。
  • qSOFA(呼吸数 ≥22/分、 ≤100 mmHg、意識変容)は重症化に使えるが、単独のスクリーニング/除外法ではない。Surviving Sepsis Campaign(SSC)2021は「を・NEWS・と比べて単独のスクリーニングツールとして用いない」ことを強い推奨・中等度の質のエビデンスとして明記した(理由は感度の低さ)2。SSC 2026は同じ内容を肯定形にし、入院中の急性期患者のスクリーニングではNEWS・NEWS2・・を単独より優先する(原文の表記は NEWS, NEW2, MEWS, or SIRS)ことを強い推奨(確実性は中等度)として掲げている3。
  • と「」は歴史的概念で、現在の診断には用いない。

💡 はから外れたが、スクリーニングのとしては生き残っている。 は陽性をから外し「」という段階も廃止した1。一方でSSC 2021が単独使用に反対したときの比較対象が・NEWS・であり、これらは許容される選択肢として残っている2。「定義から外れた」=「使ってはいけない」ではない点を分けて覚える。

感染により炎症・免疫抑制、、血管拡張、、凝固活性化、が併存し、、AKI、、肝障害、意識障害を起こす。感染源は肺、腹腔、尿路、皮膚軟部、血管内デバイスなどが多い。

SOFAスコアの6臓器

各臓器を0〜4点で評価し、点数が高いほど臓器障害が重い。

臓器 指標 0点 → 4点の代表的範囲
呼吸 ≥400 → <100かつ呼吸補助あり
凝固 血小板(×10³/μL) ≥150 → <20
肝 ビリルビン(mg/dL) <1.2 → >12.0
循環 MAP・ MAP ≥70 → 高用量を要する
中枢神経 Glasgow Coma Scale 15 → <6
腎 クレアチニンまたは尿量 <1.2 mg/dL → >5.0 mg/dLまたは尿量 <200 mL/日

初期評価と治療

flowchart TD
    A["感染疑い+臓器障害"] --> B["ABCDE、乳酸、血算・臓器機能"]
    B --> C["血液培養を速やかに<br>理想的には抗菌薬投与前に採取"]
    C --> D["感染源に応じた経験的抗菌薬"]
    B --> E["低灌流なら晶質液を投与し動的に再評価"]
    E --> F{"MAP <65 mmHgが持続"}
    F -->|"はい"| G["ノルアドレナリン開始"]
    C --> H["膿瘍排膿・感染デバイス除去などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>ソースコントロール</span>"]
項目 実践
抗菌薬 SSC 2026は開始時期を4つに分ける。(可能性がある・可能性が高い・確定のいずれでも)と、ショックのない可能性の高い・確定した敗血症では直ちに、理想的には認識から1時間以内(いずれも強い推奨・確実性はきわめて低い)。ショックのない「可能性のある」敗血症では時間を区切った迅速な検索を行い、懸念が残れば最初に疑った時点から3時間以内(条件付き推奨・きわめて低い)。感染の可能性が低くショックもなければ、厳重な監視を続けながら投与を差し控える(条件付き推奨・きわめて低い)3。地域耐性・感染源・/MDRリスクで選び、に応じて
培養 血液培養は可能な限り速やかに、理想的には抗菌薬投与前に採取する(SSC 2026で強い推奨・確実性は低い)3。実務では血液培養2セットに加えて感染源の検体も採る。2021年版は同じことを「抗菌薬開始を実質的に遅らせないなら投与前に採る」という形で述べていた2
輸液 低灌流・ショックでは晶質液を開始。最初の3時間で30 mL/kg以上が目安だが、これは弱い推奨・低い質のエビデンスであり根拠は観察研究にとどまる2。SSC 2026でも同じ30 mL/kgが条件付き推奨・確実性は低いのまま据え置かれ、付記で「初期投与量は個々の患者背景と状況を考慮して選ぶ」「過少蘇生と過剰蘇生のどちらの害も避けるため頻回に再評価する」「体重はで計算し、 30 kg/m²超では補正体重またはを用いる」としている3。心腎機能、、、、乳酸推移で個別化。無制限に4〜6 L投与しない
ノルアドレナリンが第一選択(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)、初期MAP目標65 mmHg(強い推奨・確実性は中等度。実務上ちょうど65 mmHgには保てないので前後5 mmHg程度の幅に)。増量中ならを追加し、なお不足すればアドレナリンを追加する(いずれも条件付き推奨)。SSC 2026は65歳以上のでは初期MAP 60〜65 mmHgを提案し(条件付き推奨・確実性は低い)、敗血症性低血圧では晶質液ののち低血圧が続けばを併用するとした(条件付き推奨)。付記では、身体所見で不安定と判断される(著明な低血圧、皮膚のまだら、灰色調、チアノーゼ・低下、頻脈、意識変容)に限り、症例ごとに輸液との同時開始がされうるとしている。の確保を待たず、監視下で適切なから開始してよい(条件付き推奨)3
コントロール 排膿、壊死組織処置、穿孔修復、感染カテーテル/除去を可能な限り早く

乳酸上昇は低灌流以外でも起こるため、絶対値だけで輸液を継続しない。尿量、皮膚灌流、意識、酸塩基、超音波を含め再評価する。では6 mL/kgの低(高に対し強い推奨・高い質のエビデンス)と ≤30 cmH2Oを用いる2。を伴わない敗血症関連のでは、SSC 2026が6〜8 mL/kgのを、それより低い(4〜6 mL/kg未満)より提案している(条件付き推奨・確実性は低い。付記での発症を定期的にスクリーニングすること)。⚠️ 酸素化の初期デバイスの推奨は「を伴わない」例に限った話ではなく、敗血症に伴う一般に対するもので、をより、また初期デバイスとしてより優先する(いずれも条件付き推奨)3。副腎皮質ステロイドは、SSC 2026の推奨文が「の成人には静注副腎皮質ステロイドを用いることを提案する」(条件付き推奨・確実性は低い)で、推奨文にに関する限定を置いていない3。SSC 2021は対象を「の継続投与を要する」に絞った弱い推奨(中等度の質)で、 200 mg/日(50 mgを6時間ごと、または)を標準とし、開始の目安をノルアドレナリンまたはアドレナリン 0.25 μg/kg/分以上を4時間以上要する時点としていた2。用量の目安は2021年版に書かれたもので、いずれの版でも条件付き(弱い)推奨であり、輸液とに代わるものではない。・予防、、は適応に応じて行い、でAKIを治癒させようとしない。

⚠️ 「1時間バンドル」は、時間の縛りそのものが議論を呼んだ。 早期抗菌薬が死亡率を下げることは広く受け入れられているが、時間で縛る品質指標(米国のSEP-1)に対しら6学会は、敗血症の過剰診断率の高さを考慮せず「可能性がある」全例に積極的抗菌薬を促すため抗菌薬の過剰使用を招くこと、複雑な「time zero」の定義がエビデンスに基づかず観察者間でばらつくことを問題として挙げた4。SSC 2021がショックの有無で1時間/3時間と推奨を分けたのは、この批判に応えた構成である2。SSC 2026はこの構成をさらに4分岐へ細分し、感染の可能性が低くショックもない群には、厳重な監視を続けながら抗菌薬を差し控えることを提案している3。

まとめ

  • ではなく、感染に伴う臓器障害が敗血症の本体である。
  • 抗菌薬、、コントロールを同時進行する。
  • 抗菌薬の開始時期は敗血症らしさとショックの有無で4つに分かれる。ショックまたは可能性の高い・確定した敗血症は1時間以内(強い推奨)、可能性のある敗血症は迅速評価のうえ3時間以内(条件付き)、感染の可能性が低くショックもなければ厳重な監視を続けながら差し控える(条件付き)。
  • 輸液は反応性を反復評価し、ノルアドレナリンを遅らせない。

出典

  1. 1.The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / JAMA・2016)敗血症を「感染に対する調節不全の宿主反応による生命を脅かす臓器障害」と再定義し、臨床的にはSOFAスコアの急性2点以上の上昇で表すとした。SIRS基準に基づく段階分類と「重症敗血症」という語は廃止され、qSOFA(呼吸数22/分以上、収縮期血圧100 mmHg以下、意識変容)は確定診断・除外の道具ではなく予後不良を簡便に予測する指標として提示された。敗血症性ショックは十分な輸液後もMAP 65 mmHg以上の維持に昇圧薬を要し、かつ血清乳酸2 mmol/L超と定義した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021(Critical Care Medicine(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine)・2021)推奨2で「qSOFAをSIRS・NEWS・MEWSと比べて単独のスクリーニングツールとして用いないこと」を強い推奨・中等度の質のエビデンスとして明記し、その理由をqSOFAの感度の低さとした(SIRS・NEWS・MEWSは許容される選択肢として残る)。初期輸液は「敗血症性低灌流または敗血症性ショックに最初の3時間で晶質液30 mL/kg以上」を弱い推奨・低い質のエビデンスとし、根拠は観察研究であって前向き比較試験は無いとした。抗菌薬は敗血症性ショックまたは敗血症の可能性が高い成人で認識から理想的には1時間以内(強い推奨)、ショックのない可能性例では迅速評価のうえ懸念が続けば最初の疑いから3時間以内。昇圧薬依存が続く敗血症性ショックには静注副腎皮質ステロイドを弱い推奨(中等度の質)とし、標準はヒドロコルチゾン200 mg/日を50 mg 6時間ごとまたは持続投与、ノルアドレナリン/アドレナリン0.25 μg/kg/分以上を4時間以上要する時点での開始とした。敗血症性ARDSでは一回換気量6 mL/kg(高一回換気量に対し強い推奨・高い質)、プラトー圧30 cmH2O以下を目標とする。閲覧 2026-08-25
  3. 3.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)2021年版を土台とする改訂版。DOI本体(Springer)はbot判定で取得できないため、発行元SCCMが公開している推奨一覧のページで推奨文と格付けを逐語で確認した。院内の急性期患者のスクリーニングではNEWS・NEW2・MEWS・SIRSをqSOFA単独より優先する(強い推奨・中等度)。血液培養は可能な限り速やかに、理想的には抗菌薬投与前に採取する(強い推奨・低い)。抗菌薬開始は4分岐で、敗血症性ショック(可能性がある・可能性が高い・確定のいずれでも)とショックのない可能性の高い・確定した敗血症では直ちに、理想的には認識から1時間以内(いずれも強い推奨・きわめて低い)、ショックのない可能性のある敗血症では時間を区切った迅速な検索を行い懸念が残れば最初に疑った時点から3時間以内(条件付き・きわめて低い)、感染の可能性が低くショックが無ければ厳重な監視を続けながら投与を差し控える(条件付き・きわめて低い。原文は deferring antimicrobial therapy while continuing to closely monitor the patient)。最初の3時間に少なくとも30 mL/kgの晶質液(条件付き・低い。付記で個々の患者背景と状況を考慮すること、過少蘇生と過剰蘇生の害を避けるため頻回に再評価すること、実体重で計算しBMI 30 kg/m²超では補正体重または理想体重を用いることを挙げる)。敗血症性低血圧では晶質液ボーラスののち低血圧が続けば昇圧薬を併用する(条件付き・きわめて低い。付記で身体所見から不安定と判断されるショックに限り症例ごとに同時併用が正当化されうるとする)。30 mL/kg投与後も低灌流が残る例は寛容と制限のどちらの戦略でもよく、患者側と医療体制側の要因で決める(条件付き・低い)。ノルアドレナリンを第一選択とし(ドパミン・アドレナリン・セレプレシンに対して強い推奨)、中心静脈路の確保を待たず末梢から開始してよい(条件付き・きわめて低い)。増量中の例にバソプレシンを追加し、なお不足すればアドレナリンを追加する(いずれも条件付き)。初期MAP目標65 mmHg(強い推奨・中等度。付記で前後5 mmHg程度の幅に滴定)、65歳以上は初期60〜65 mmHg(条件付き・低い)。敗血症性ショックには静注副腎皮質ステロイドを用いる(条件付き・低い)。この推奨文には2021年版にあった昇圧薬の継続投与という限定が無く、推奨一覧の側には用量の付記も載っていない。急性低酸素性呼吸不全では高流量鼻カニュラを従来型酸素より優先し、初期デバイスとして非侵襲的陽圧換気よりも優先する(いずれも条件付き)。ARDSを伴わない敗血症関連の低酸素性呼吸不全では理想体重6〜8 mL/kgの一回換気量(条件付き・低い)。閲覧 2026-09-07
  4. 4.Infectious Diseases Society of America Position Paper: Recommended Revisions to the National Severe Sepsis and Septic Shock Early Management Bundle (SEP-1) Sepsis Quality Measure(Clinical Infectious Diseases(Infectious Diseases Society of America)・2021)時間で縛る敗血症バンドル(SEP-1)は敗血症を国家的優先課題に据えた功績がある一方、敗血症の過剰診断率の高さを考慮せず「敗血症の可能性がある」全例に積極的な抗菌薬投与を促すため抗菌薬の過剰使用を招きうること、複雑な「time zero」の定義がエビデンスに基づかず観察者間のばらつきを生むことをIDSAと5学会が問題として指摘した。閲覧 2026-08-25