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Disease Atlas · 皮膚 · 外傷

薬剤の血管外漏出

Drug extravasation injury

別名
血管外漏出起壊死性薬剤による組織傷害薬剤性血管外漏出extravasation
臓器系
皮膚腫瘍全身
科目
Oncology and Reconstructive Oncoplastic SurgeryIntensive Therapy and AnesthesiologyPharmacologyInternal Medicine
トピック
腫瘍学 I-23:化学療法の副作用麻酔科学 A-18:血管収縮薬と強心薬薬理学 A7:α受容体拮抗薬麻酔科学 B-16:静脈麻酔薬腫瘍学 II-31:乳癌の外科治療と薬物療法内科学 E-04:カルシウム代謝異常
鑑別疾患
Nicolau症候群壊死性軟部組織感染症丹毒・蜂窩織炎
合併症
コンパートメント症候群
治療薬
フェントラミンヒアルロニダーゼチオ硫酸ナトリウム
原因薬剤
ドキソルビシンダウノルビシンエピルビシンリポソーム化ドキソルビシンダクチノマイシンビンクリスチンビンブラスチンビンデシンパクリタキセルドセタキセルオキサリプラチンシスプラチンエトポシドダカルバジンベンダムスチンノルアドレナリンドーパミンチオペンタールプロメタジン
症状
疼痛紅斑水疱注射部位反応
適応薬
デクスラゾキサンヒアルロニダーゼ

🧠 全体像:薬剤のとは、中の薬液がからの周囲組織へ漏れ出し、を来す医原性の局所病態である。同じ表現が使われる「造影剤の(画像上の出血所見)」や「による血漿の漏出(アナフィラキシー・敗血症など)」とは別概念であり、混同しない。臨床的に最も重要なのは薬剤を・刺激性・非に分類することで、この分類が罨法の選択との有無を決める。はさらに結合性(など)と非結合性(など)に二分され、この違いがかか、かかという正反対の対応を導く。以外にも、や・薬のは虚血・化学的という別機序で同様の壊死を起こしうる。初期対応の骨格は薬剤によらず共通しており、その上に薬剤別の対応を重ねるという二段構えで理解するのが実践的である。

定義と類縁概念の整理

「」という語は文脈によって指すものが異なる。

用法 意味
薬剤の(本ノートの主題) 中の薬液がから周囲組織へ漏れ出し、を起こす医原性の局所病態
造影剤の ・で観察される、出血点から周囲へ造影剤が漏れ出す所見。活動性出血を示唆する画像所見であり薬剤の漏出とは
による漏出 アナフィラキシー・敗血症などで血管内皮の透過性が亢進し、が間質へ漏れ出す全身病態。場が局所ではなく全身である点が異なる
注射部位反応 皮下注・筋注部位の紅斑・腫脹・疼痛などの局所炎症反応で、多くは良性で自然軽快する。は「炎症」ではなく不可逆的な「」である点で異なる

病因

薬剤の3分類

分類 定義
に漏れると水疱・潰瘍・に至りうる薬剤
疼痛・炎症・は起こすが、通常は壊死に至らない薬剤
漏れても通常はを来さない薬剤

⭐ はさらに結合性と非結合性に分けると対応が決まる。結合性薬剤(・・・などの、)は死細胞のに結合したまま組織にとどまり、隣接する健常細胞に取り込まれて障害を持続・進行させる。非結合性薬剤(・・の、・の)は組織内で代謝されるため損傷が限局し、時間とともに軽快しやすい1。

その他の・として、(末梢神経障害増悪のためは避けを用いる)、高濃度シスプラチン、、、がある。高濃度シスプラチン・のにはを用いる1。

抗癌薬以外の機序

危険因子

細い、・手関節周囲など関節上の、同一静脈への反復穿刺、意識障害・鎮静下・小児など症状を訴えられない患者、の針脱落・位置異常がリスクを高める。

臨床像

初期は穿刺部の疼痛・灼熱感・腫脹・発赤にとどまることが多いが、数時間〜数日で水疱が生じ、進行すれば潰瘍・壊死に至る。

⭐ 結合性薬剤()は遅発性・進行性である。 初期は軽微に見えても数週間かけてが進行しうるため、初診時の見た目だけで軽症と判断してはならない。対照的に非結合性薬剤()による損傷は比較的急速に出現するが、多くは限局し自然軽快しやすい。

初期対応

薬剤の種類によらず、まず次の手順を共通して行う。

  1. 直ちに投与を中止する。
  2. ・カテーテルはせず、その場から可能な限り薬液を吸引する。
  3. を挙上する。
  4. 漏出の範囲を皮膚上にマーキングし、時刻・推定漏出量・症状を記録する。
  5. 薬剤に応じて罨法・を選択する(次節)。
  6. 疼痛・紅斑の範囲をに再評価する。

薬剤別の治療

⚠️ との選択、の種類は薬剤群で正反対になる。 取り違えると病態を悪化させうる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>を疑う"] --> B["投与中止・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indwelling needle (IV catheter)'>留置針</span>から吸引<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb elevation'>患肢挙上</span>・範囲マーキング"]
    B --> C{"薬剤の種類は"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>結合性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vesicant drug'>起壊死性薬</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anthracyclines'>アントラサイクリン系</span>等)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold compress'>冷罨法</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexrazoxane'>デクスラゾキサン</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vinca alkaloids'>ビンカアルカロイド系</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='warm compress therapy'>温罨法</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyaluronidase'>ヒアルロニダーゼ</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='taxanes'>タキサン系</span>"| E2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyaluronidase'>ヒアルロニダーゼ</span>を使うなら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='warm compress therapy'>温罨法</span><br>使わないなら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold compress'>冷罨法</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoconstrictor'>血管収縮薬</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phentolamine'>フェントラミン</span>局所浸潤"]
    C -->|"刺激性・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vesicant drug'>起壊死性薬</span>"| G["支持療法で経過観察"]
    D --> H{"壊死・難治性潰瘍・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment syndrome'>コンパートメント症候群</span>の合併は"}
    E --> H
    E2 --> H
    F --> H
    G --> H
    H -->|"あり"| I["外科(形成外科)へ紹介"]
    H -->|"なし"| J["継続的な創部評価"]
薬剤群 罨法
結合性(・)
(・) を併用するなら、併用しないなら (suggested use)
(エピ系) 特異的なし
(のうちこれだけ例外) 特異的なし
(ノルアドレナリンなど) — 局所浸潤
薬・薬 — 特異的なし。での局所希釈が中心

は漏出後6時間以内に、漏出部位とは別の四肢・部位にある大口径静脈(反対側の上肢など)から投与を開始する2。はのを分解し、薬液の組織内拡散・吸収を促して局所濃度を下げる目的で、漏出部へ局所注射する3。

⚠️ の罨法は、を使うかどうかで向きが逆になる。 ONS/ASCOのアルゴリズムは側に Paclitaxel (when coadministering hyaluronidase)・Docetaxel (when coadministering hyaluronidase) を置く一方、側に Taxanes (without hyaluronidase use) を挙げている4。💡 「非結合性だから」と一本で覚えると、を使わない症例で逆向きの処置を導く。 は薬液を散らして局所濃度を下げる方向、は薬液を留めて広がりを抑える方向なので、拡散を助けると組む場合にだけが理屈に合う。⭐ はだが、だけはという例外も同じ図に明示されている4。

同図は、を150単位/mLの製剤1 mL(150単位)とし、0.2 mLずつ5か所に分けて漏出部の外周へ皮下注射すること、漏出から2〜4時間以内に行うこと、注射ごとに針を交換することを定めている4。⚠️ 単位数をそのまま他国へ持ち込まない——英国のSmPCは1500 I.U.製剤を患部へ浸潤させる形で規定しており、製剤が違う(詳細は)。

⚠️ 「+」はではない——投与の15分以上前に冷却を外す。 の添付文書は、氷嚢などで冷却している場合は漏出部位への十分な血流を確保するため、投与の少なくとも15分前に漏出部位から取り外すよう定めている2。💡 は全身投与された薬が血流に乗って漏出部位へ届いて働くので、局所を冷やして血流を落としたままでは効かない。上の表と図の「+」は薬剤群と対応づけの覚え方であって、同じ時刻に両方を行えという指示ではない。

⚠️ を使うときは局所の(DMSO)を併用しない。 米国の添付文書は「の治療に用いるとき、局所(DMSO)との併用を推奨しない」とし、で併用がの効果を下げたことを根拠に挙げている2。DMSO は漏出のとして古くから語られるが、と組み合わせない。

はで、の漏出部周囲へ皮下浸潤することで血管拡張を起こし、虚血を解除する。漏出後12時間以内に、5〜10 mgを10 mLに希釈してする5。

外科的介入

壊死が完成した組織、難治性の潰瘍、腫脹した区画が循環を圧迫してを合併した場合は、保存的治療にとどめず形成外科・へ紹介し、や・による再建を検討する。アクセスデバイスからの漏出や結合性薬剤の漏出は、皮下への広がりが分かりにくく重症化しやすいため、早期の外科紹介が推奨される1。

鑑別

急速に拡大する発赤、不釣り合いに強い疼痛、発熱を伴う場合は、単なるではなく蜂窩織炎やの合併を疑う。によるは無菌性の化学的損傷から始まる点で、これらの感染症とは経過が異なるが、壊死組織がの場になることもあり、経過を見ながら再評価する。

予防

が見込まれる、特に結合性薬剤では、でなくの確保を検討する。投与開始前・投与中はを確認し、太く安定した血管を選び、・関節周囲の穿刺を避ける。意識障害・鎮静下・小児の患者では症状に頼らず、穿刺部の観察を頻回に行う。患者には、穿刺部の疼痛・腫脹に気づいたら直ちに知らせるよう投与前に説明する。

まとめ

  • 薬剤のは、中の薬液がから周囲組織へ漏れ出す医原性の局所病態で、造影剤のやによるとは別概念である。
  • 薬剤は・刺激性・非に分類し、はさらに結合性()と非結合性()に分けて罨法・を選ぶ。
  • 初期対応は共通で、投与中止、を抜かずに吸引、、範囲のマーキングと記録を行う。
  • は+、は+と正反対の対応になる。の漏出には局所浸潤を用いる。
  • ⚠️ 「+」は同時に行うという意味ではない——投与の15分以上前に氷嚢などの冷却を外す(漏出部位の血流を確保するため)。局所DMSOとも併用しない。
  • 壊死・難治性潰瘍・を合併すれば外科的介入(、・)を検討する。
  • 予防の中心は、が見込まれるでのの選択、確認、頻回の穿刺部観察である。

出典

  1. 1.ONS/ASCO Guideline on the Management of Antineoplastic Extravasation(Oncology Nursing Society (ONS) / American Society of Clinical Oncology (ASCO)・2025)⚠️ 本文(CJON版 10.1188/25.cjon.384-399・JCO OP版 10.1200/op-25-00579)は出版社サイトが403、Europe PMCは inEPMC 0・isOpenAccess 0、NCBI の PMC12463152 は reCAPTCHA で、2026-09-08時点でも全文を取得できていない。薬剤群ごとの解毒薬選択(非DNA結合性起壊死性薬にヒアルロニダーゼ、温罨法を併用)という枠組みは、同ガイドラインの公式アルゴリズム図 ons-asco-extravasation-algorithm-2025 を読んで確認したものであり、本エントリ自体では本文を照合していない。⚠️ アルゴリズム図によればタキサン系の温罨法はヒアルロニダーゼを併用するときに限られるので、「非DNA結合性なら温罨法」と平坦に読まないこと。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Totect (dexrazoxane for injection) — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2020)アントラサイクリン系血管外漏出に対するデクスラゾキサンの用法を確認した。2.5 は投与部位を「漏出部位とは別の四肢・部位にある大口径静脈」(a large caliber vein in an extremity/area other than the one affected by the extravasation)と定めており、「反対側上肢」とは書いていない。漏出後6時間以内に開始し1000/1000/500 mg/m²を1〜2時間かけて3日間投与、2日目・3日目は1日目と同時刻(±3時間)に開始、クレアチニンクリアランス40 mL/min未満で50%減量。2.5 は「氷嚢などの冷却を用いている場合は、漏出部位への十分な血流を確保するため Totect 投与の少なくとも15分前に漏出部位から取り外す」と定め、7.1 は血管外漏出の治療に用いる際の局所ジメチルスルホキシド(DMSO)との併用を推奨しないとする。閲覧 2026-08-02
  3. 3.VINBLASTINE SULFATE injection — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed・2025)ビンカアルカロイド系血管外漏出時にヒアルロニダーゼの局所注射と適度な温罨法を併用する対応が添付文書に記載され、冷罨法は推奨されていないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Algorithm on the Management of Antineoplastic Extravasation of Vesicant or Irritant with Vesicant Properties in Adults(Oncology Nursing Society (ONS) / American Society of Clinical Oncology (ASCO)・2025)ONS/ASCOガイドライン本体(CJON版・JCO OP版とも出版社サイトが403で全文未取得)の公式アルゴリズム図を、ONSのサイトから画像PDFとして取得し逐語で読んだ。ヒアルロニダーゼ欄は「Use for vinca alkaloids and suggested use for paclitaxel or docetaxel.」「DOSAGE: Typical formulation is 150 units/ml. Administer 1 ml (150 units) divided into five 0.2 ml subcutaneous injections around the perimeter of the extravasation site.」「NOTES: Administer within 2-4 hours of extravasation, and use a new needle with each injection.」。罨法欄は「Apply thermal compress. Continue application for 15-20 minutes 3 to 4 times daily for 48-72 hours.」とし、Warm 側に「Vinca alkaloids/Epipodophyllotoxins (etoposide)/Oxaliplatin/Paclitaxel (when coadministering hyaluronidase)/Docetaxel (when coadministering hyaluronidase)」、Cold 側に「Alkylating agents (except oxaliplatin)/Anthracyclines/Antimetabolites/Taxanes (without hyaluronidase use)」を挙げる。⚠️ 表題どおり成人が対象で、小児の用量・手技は本図の射程外である。閲覧 2026-09-08
  5. 5.PHENTOLAMINE MESYLATE for injection — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed・2024)ノルアドレナリン血管外漏出に対するフェントラミンの適応と用法(5〜10 mgを生理食塩水10 mLに希釈し漏出部周囲へ皮下注射、漏出後12時間以内に投与)を確認した。閲覧 2026-08-02