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Disease Atlas · 皮膚 · 腫瘍

毛包上皮腫

Trichoepithelioma

別名
trichoepithelioma線維形成性毛包上皮腫desmoplastic trichoepithelioma
臓器系
皮膚腫瘍
科目
Pathology (Histopathology)
トピック
組織病理 H2-112A:基底細胞癌の鑑別診断(類似病変との区別)
鑑別疾患
Birt-Hogg-Dubé症候群基底細胞癌結節性硬化症
症状
丘疹皮膚結節

🧠 全体像:毛包上皮腫は毛包の胚細胞に由来する良性腫瘍で、に2〜5 mmのとして現れる1。⚠️ 臨床でも組織でもと紛らわしいことが、この腫瘍の全部である。 良性なのに「悪性と読みすぎられる」側の誤りが起きる。💡 問いは2つしかない——①この基底様腫瘍はか毛包上皮腫か、②多発しているなら(旧称Brooke-Spiegler症候群)ではないか2。⭐ 多発なら遺伝性を疑い、孤発ならとの鑑別に全力を注ぐ、と入口で分ける。

毛芽腫との関係

毛包上皮腫とは、いずれもに由来する良性の毛包系腫瘍である1。

毛包上皮腫
記載の由来 Brookeが1892年にとして記載 Headingtonが1970年に記載
好発部位 ⭐ (・鼻・) 頭皮・顔面・体幹の孤発結節(最大3 cm程度)
表皮との連続 ありうる。が目立つ 通常なく、真皮内に限局した多結節性
の分子背景 ⚠️ (体細胞 PTCH 変異、PTCH mRNA増加) ⚠️ (の約11%に HRAS 変異)で、PTCH 変異は主役でない

⚠️ 両者を「近縁だが区別される実体」とする立場と、毛包上皮腫を系腫瘍のスペクトラムの一部(より浅在でに富む型)とみなす立場が併存する1。名称が文献で揺れる理由がここにある。💡 の分子背景が逆(ヘッジホッグ対RAS-MAPK)である点は、この2つを「同じもの」と片づけないための手掛かりになる。

臨床像

  • 孤発例:成人のに生じる2〜5 mmのまたは硬い結節。⚠️ 臨床的にと区別できないことが多い1。
  • :平均17歳ごろに発症し、左右対称に分布する。⚠️ のと取り違えられうる1。
  • :無症候の輪状で硬い顔面局面。辺縁が隆起し中心が陥凹する。推定発生頻度は成人皮膚生検およそ5000件に1件1。

⭐ 多発するの鑑別は「症候群を探す」問題になる。 ()、の、、などが並ぶ。⚠️ 臨床像だけでは決まらないので、疑ったら生検する。

CYLD皮膚症候群(多発例の背景)

多発性の毛包上皮腫は、CYLD のによる疾患の一表現型である。

項目 内容2
発症 典型的には10歳代から20歳代。最初の腫瘍は思春期に生じ、成人期を通じて数が増える
腫瘍の種類 、、毛包上皮腫。まれに唾液腺の
部位 頭皮・顔面が主。⚠️ 体幹・陰部・腋窩などにも生じる
性差 女性のほうが腫瘍数が多いことが多い
まれな病変 ⚠️ のが呼吸を障害しうる
遺伝 。罹患者の子が受け継ぐ確率は50%
不明だが10万人に1人を超える程度と見積もられている

💡 旧来の3つの病名は同じ遺伝子の1つのスペクトラムだった。 Brooke-Spiegler症候群・・は、優位な腫瘍型と部位に基づく記述名にすぎず、同一家系内に3つの表現型が並存しうる。予後を言い当てないこれらの呼称より、という名が用いられる2。

⭐ 表現型は民族で偏る。 欧州系では頭皮の優位型が、アジア系・アフリカ系では頭皮が比較的保たれる型が多い1。

⚠️ CYLD はNF-κBとJNKを負に制御するで、遺伝子座は16q12〜q13。 100を超える変異が同定され、そのほとんどがを生じる・である1。はほぼ完全なをもつがは大きく変わる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midface'>中顔面</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin-colored papule'>皮膚色丘疹</span>"] --> B{"病変は多発・左右対称か"}
    B -->|"孤発"| C["生検して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell carcinoma, BCC'>基底細胞癌</span>と区別する"]
    B -->|"多発"| D["頭皮の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cylindroma'>円柱腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spiradenoma'>らせん腺腫</span>を探す<br>家族歴を聴取する"]
    D --> E["生検確認された腫瘍が2つ以上<br>または1つ+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first-degree relative'>第一度近親者</span>に同様の腫瘍"]
    E --> F["CYLDの遺伝学的検査を考慮"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CYLD cutaneous syndrome'>CYLD皮膚症候群</span>として<br>年1回以上の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total-body skin examination'>全身皮膚診察</span>を開始"]
    C --> H{"組織で確定できるか"}
    H -->|"できない"| I["PHLDA1・CK20・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgen receptor'>アンドロゲン受容体</span>などを追加"]
    H -->|"できる"| J["良性なら切除、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell carcinoma, BCC'>基底細胞癌</span>なら癌として治療"]

⚠️ CYLD 候群には正式なが無い2。顔面・頭皮のや、鼻周囲の毛包上皮腫、あるいはその組み合わせがあれば疑う。

基底細胞癌との鑑別

⭐ ここが本症の中心である。 まず組織形態で寄せ、決まらないときだけ免疫染色を足す。

組織所見 向き
(形成の未熟な再現) ⭐ 毛包上皮腫のおよそ93%に対しでは7%。良性系腫瘍への特異度が高い1
、を欠く 毛包上皮腫を支持
と間質のあいだの裂隙、細胞異型、増加、、 を支持
⚠️ 両者が共有する。単独では決め手にならない

免疫染色は補助である。

マーカー 所見
PHLDA1() ⭐ 毛包上皮腫19例すべてで陽性・11例すべてで陰性という完全な分離3。21例と17例でも同じ完全分離4
CK20() 15例中15例(100%)対 /31例中1例(3%)、P<0.0015。⚠️ ただし完全ではない——11例中2例に存在し、毛包上皮腫3例では欠如していた3
13%(2/15)対 65%(20/31)5
BerEP4 ⚠️ 「陽性なら」と読めない。 の全17例で陽性だったが、でも21例中16例が陽性で両者を分けられなかった4
CK15 21例中20例で陽性。との多くは陰性4
CD10 間質陽性が毛包上皮腫を、上皮陽性がを支持する1

💡 組み合わせると切れ味が上がる。 陰性かつCK20陽性はに対し感度87%・特異度100%、陽性かつCK20陰性はに対し特異度100%・感度61%である5。⚠️ 後者は特異度が高くても感度が61%しかない——陰性でもを否定できない。

⚠️ 免疫染色に期待しすぎない。 免疫染色パネルが毛包上皮腫とを区別できるのはおよそ36%の症例にとどまるとも報告されており、臨床像と組織像との突き合わせが要る1。小さな生検検体ではPHLDA1がで判定できる点で有利である3。

⚠️ は/に加えてとも紛らわしい。 BerEP4が役に立つのはと(BerEP4陰性)の区別であって、毛包系良性腫瘍との区別ではない4。

治療

第一は外科的切除で、の再発率が最も低い1。

治療 338例の系統的レビューでの再発率1
⭐ 0%(24例、平均経過観察41.9か月)
・ 2.1%
通常切除 13.1%

⚠️ 多発例では「取り切る」戦略が成り立たない。 早期切除と・・といった組織温存的な方針をとる21。は小さな鼻周囲病変に有用だが反復治療を要する。

⚠️⚠️ 放射線療法は避ける。 損傷が新たなや既存病変のを招きうる2。

薬物療法は確立していない。1%外用がの新規病変形成を抑えたという報告、が CYLD 変異とGLI-1をもつ患者の毛包上皮腫を著明に退縮させたという報告があるが、いずれも限られた症例の観察である1。

⭐ では年1回以上ので監視する2。急速増大・・出血・表面のはを示唆する1。

予後

孤発例の予後は良好で、切除でほぼ治癒する。⚠️ は稀である。 ⭐ そもそもの大半は既存の良性病変から生じるのではない——文献上の93例のうち87.1%はde novo発生で、既存の良性病変からのは12.9%にとどまった1。💡 この数字が言っているのは「の由来の内訳」であって、「毛包上皮腫が何%癌化するか」ではない。 後者は本ノートの出典が示していない。

多発例では病変が反復し、治療の回数・費用・整容面の負担が問題になる。

まとめ

  • 毛包上皮腫は由来の良性腫瘍で、の2〜5 mmのとして現れる。孤発例は臨床的にと区別できないことが多い1。
  • ⚠️ とは近縁だが別の名称で、の分子背景も逆(毛包上皮腫は、は)。毛包上皮腫を系スペクトラムの一部とみなす立場も併存する1。
  • ⭐ 多発例は CYLD 候群(旧称 Brooke-Spiegler症候群・・)を疑う。・を伴い、で子への伝達率50%2。
  • 組織の決め手は(毛包上皮腫の93%対 の7%)1。免疫染色ではPHLDA1が最も切れ味がよい34。
  • ⚠️ BerEP4はでも21例中16例が陽性で、との区別に使えない4。免疫染色パネル全体でも区別できるのは約36%の症例にとどまる1。
  • 治療は切除(ではの再発率0%対 通常切除13.1%)。多発例は組織温存的に扱い、⚠️ 放射線療法は避ける21。

出典

  1. 1.Trichoblastoma and Trichoepithelioma(StatPearls Publishing・2026)NCBI Bookshelfの本文(2026年6月8日最終更新)で、毛包上皮腫と毛芽腫がいずれも毛芽上皮に由来する良性の毛包系腫瘍で成人の顔面・頭皮に好発し基底細胞癌に類似するため組織学的確認を要すること、毛包上皮腫の名称がBrookeによる1892年のepithelioma adenoides cysticumに始まること、毛芽腫がHeadingtonにより1970年に記載されたこと、両者が近縁だが区別される実体とされる一方で毛包上皮腫を毛芽腫系腫瘍のスペクトラムの一部とみなす立場があること、散発性毛包上皮腫では体細胞PTCH変異とPTCH mRNA発現の増加というヘッジホッグ経路の関与が示され、対照的に散発性毛芽腫はPTCH変異を欠きRAS-MAPK経路の活性化(散発例の約11%にHRAS変異)を示すこと、家族性毛包上皮腫が16q12〜q13のCYLD(NF-κBとJNKを負に制御する脱ユビキチン化酵素)の生殖細胞系列変異により生じ100を超える変異が同定されそのほとんどが切断型蛋白を生じるフレームシフト・ナンセンス変異であること、多発性家族性毛包上皮腫が平均17歳ごろに発症し常染色体顕性でほぼ完全な浸透率と多様な表現度を示すこと、Brooke-Spiegler症候群が女性優位で男女比1対3〜1対9.6と報告されること、表現型が民族により異なり欧州系では頭皮の円柱腫優位型、アジア系・アフリカ系では頭皮が比較的保たれる多発性家族性毛包上皮腫型が多いこと、線維形成性毛包上皮腫の推定発生頻度が成人皮膚生検およそ5000件に1件であること、毛包上皮腫が中顔面(鼻唇溝・鼻・上口唇)の2〜5 mmの皮膚色丘疹または硬い結節として現れ孤発例は臨床的に基底細胞癌と区別できないことが多いこと、乳頭状間葉小体が毛包上皮腫のおよそ93%に認められる一方で角化型基底細胞癌では7%にとどまり良性毛芽系腫瘍に高い特異度をもつこと、免疫染色でCK20・アンドロゲン受容体・CD10が用いられCD10の間質発現が毛包上皮腫を、上皮発現が基底細胞癌を支持する一方で免疫染色パネルが両者を区別できるのはおよそ36%の症例にとどまること、治療の第一が外科的切除でMohs顕微鏡下手術の再発率が最も低いこと、線維形成性毛包上皮腫338例の系統的レビューでMohs顕微鏡下手術の再発率が0%(24例・平均経過観察41.9か月)、通常切除が13.1%、電気外科・焼灼が2.1%であったこと、多発例では組織温存的な方針(早期切除と直接縫合・腫瘍核出・二次治癒)が推奨され炭酸ガスレーザーが小さな鼻周囲病変に有用だが反復治療を要すること、放射線療法が新たな腫瘍形成や悪性転化を促しうるため避けるべきであること、1%シロリムス外用が多発性家族性毛包上皮腫の新規病変形成の抑制に有益と報告されたこと、ヘッジホッグ経路阻害薬ビスモデギブがCYLD変異とGLI-1過剰発現をもつ患者の毛包上皮腫を著明に退縮させたと報告されたこと、悪性転化が極めて稀であり文献上の毛芽細胞癌93例のうち87.1%がde novo発生で12.9%が既存の良性病変からの悪性転化であったこと、急速増大・潰瘍化・出血・表面の血管増生が悪性転化を示唆する臨床所見であることを確認した閲覧 2026-09-04
  2. 2.CYLD Cutaneous Syndrome(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2020)本文(2020年4月16日公開)で、CYLD皮膚症候群が典型的には10歳代から20歳代に円柱腫・らせん腺腫・毛包上皮腫、まれに唾液腺の膜性基底細胞腺腫という多発性皮膚腫瘍として発症すること、最初の腫瘍が思春期に生じ成人期を通じて蓄積すること、女性のほうが腫瘍数が多いことが多いこと、腫瘍が頭皮・顔面に好発するが体幹や陰部・腋窩など日光非露光部にも生じること、まれに大気道の肺円柱腫が呼吸を障害しうること、悪性転化が認められること、Brooke-Spiegler症候群・家族性円柱腫症・多発性家族性毛包上皮腫という従来の呼称が優位な腫瘍型と部位に基づく記述名であり現在は1つの臨床スペクトラムと理解され同一家系内に3つの表現型が並存しうるためCYLD皮膚症候群という単一遺伝子疾患名が用いられること、正式な診断基準は確立していないが顔面・頭皮の円柱腫またはらせん腺腫、鼻周囲の毛包上皮腫、あるいはこれらの組み合わせがある場合に本症を疑うこと、生検確認された腫瘍が2つ以上ある場合、または1つでも第一度近親者に同様の生検確認腫瘍がある場合にCYLDの遺伝学的検査を考慮すること、有病率は不明だが10万人に1人を超える程度と見積もられていること、毛包上皮腫が中顔面に好発する2〜5 mmの皮膚色丘疹または硬い結節で左右対称に分布することが多いこと、組織像が角化性嚢胞腔と表層の毛包分化を伴う基底様胚細胞の胞巣を線維性間質が取り囲むもので間質内裂隙と間葉性乳頭状芽が見られうること、治療が外科的切除で頭皮・皮膚をできるだけ温存する方針をとること、DNA損傷により新たな腫瘍形成や既存病変の悪性転化を招きうるため放射線療法を避けるべきであること、年1回以上の全身皮膚診察による監視を行うこと、常染色体顕性遺伝で罹患者の子が変異を受け継ぐ確率が50%であることを確認した閲覧 2026-09-04
  3. 3.Follicular stem cell marker PHLDA1 (TDAG51) is superior to cytokeratin-20 in differentiating between trichoepithelioma and basal cell carcinoma in small biopsy specimens(Journal of Cutaneous Pathology・2011)毛包上皮腫19例と基底細胞癌11例の比較で、毛包幹細胞マーカーPHLDA1(TDAG51)が毛包上皮腫19例すべてで陽性・基底細胞癌11例すべてで陰性であったこと、一方でCK20陽性Merkel細胞は基底細胞癌11例中2例に存在し毛包上皮腫3例では欠如していたためCK20が完全な指標ではないこと、CK20陽性Merkel細胞が毛包上皮腫を示唆する代用マーカーとして使われるものの小さな生検検体ではPHLDA1のほうが弱拡大で判定でき優れることを確認した閲覧 2026-09-04
  4. 4.The immunohistochemical differential diagnosis of microcystic adnexal carcinoma, desmoplastic trichoepithelioma and morpheaform basal cell carcinoma using BerEP4 and stem cell markers(Journal of Cutaneous Pathology・2013)線維形成性毛包上皮腫21例・硬化型基底細胞癌17例・微小嚢胞性付属器癌10例の検討で、BerEP4が硬化型基底細胞癌の全例で陽性であった一方で線維形成性毛包上皮腫21例中16例でも陽性となり両者を区別できなかったこと、これに対しPHLDA1は線維形成性毛包上皮腫21例すべてで陽性・硬化型基底細胞癌17例すべてで陰性であったこと、CK15が線維形成性毛包上皮腫21例中20例で陽性であり微小嚢胞性付属器癌と硬化型基底細胞癌の多くは陰性であったことを確認した閲覧 2026-09-04
  5. 5.Does the panel of cytokeratin 20 and androgen receptor antibodies differentiate desmoplastic trichoepithelioma from morpheaform/infiltrative basal cell carcinoma?(Journal of Cutaneous Pathology・2008)線維形成性毛包上皮腫15例と硬化型/浸潤型基底細胞癌31例の免疫染色で、CK20陽性Merkel細胞が線維形成性毛包上皮腫15例中15例(100%)に対し基底細胞癌31例中1例(3%)にとどまったこと(P<0.001)、アンドロゲン受容体が線維形成性毛包上皮腫の13%(2/15)・基底細胞癌の65%(20/31)で陽性であったこと、アンドロゲン受容体陰性かつCK20陽性という組み合わせが線維形成性毛包上皮腫に対し感度87%・特異度100%、アンドロゲン受容体陽性かつCK20陰性が基底細胞癌に対し特異度100%・感度61%であったことを確認した閲覧 2026-09-04