外科学

外科学 · B/07

食道損傷

Injuries of the esophagus

前提:病態
食道の病理
前提:正常
消化管:食道
疾患
Boerhaave症候群Mallory-Weiss症候群縦隔炎食道異物食道穿孔
症状
空嘔吐静脈瘤出血吐血皮下気腫
画像所見
NaclerioのV徴候縦隔気腫
スコア
Pittsburgh食道穿孔重症度スコア

ポッドキャスト

🧠 食道損傷は「全層が破れる(穿孔)」か「粘膜だけが破れる(裂傷)」かでまず二分する。 は全層の破綻で、消化管内容が周囲の腔へ漏れ、早期に診断・治療されなければ重症敗血症と死に至る。原因は内視鏡手技などの医原性が最多である。1 嘔吐を契機に生じるが、の粘膜裂傷がで2、深さの違うとして扱う。⚠️ どちらも初診時の訴えは曖昧で、診断の遅れがそのまま死亡率に跳ね返る——このトピックはそこを軸に読む。3

1. 食道穿孔

好発部位

解剖学的な狭窄・収縮部位に起こりやすい。列からの距離を一緒に覚えると、内視鏡中に生じた穿孔がどの高さのものかを推定しやすい。

狭窄部位 列からの距離
14〜16 cm
(・との交叉) 22〜24 cm
(GEJ) 40〜45 cm

💡 B/05で整理した食道のがそのまま穿孔の好発部位になる——「狭い場所は詰まりやすく、かつ器具が引っかかって穿孔しやすい」という単純な力学。

帰結: 漏出した消化管内容が縦隔・胸腔・腹腔を汚染し、から敗血症・へ進む。死亡率は10〜20%で、治療の遅れが最大の生存規定因子である。1

症状(部位別)

部位 症状
頸部 疼痛、嚥下障害、、(の触診所見)
胸部 痛、・、、呼吸困難、発熱、敗血症、頻呼吸、頻脈、低血圧
腹部 、、仰臥位

⚠️ この表を「揃えば診断できるチェックリスト」として読まない。 嘔吐・胸痛・のは古典像だが、三徴すべてが揃って現れることはまれで、患者は曖昧で非特異的な訴えのまま受診する——これが診断の遅れと不良な転帰につながる3。初期の臨床像にも血液検査にも特異的なパターンは無く、診断の遅れは症例の半数を超えるため、受診の時点で強く疑うこと自体が最初の手技になる1。⭐ が触れないことを否定の根拠にしない。

原因(内訳)

原因 割合
医原性(診断・治療内視鏡、、、など) 最多。系統的レビュー(52研究2,830例)では46.5%4、ガイドラインは約60%とする1
自然穿孔() 15%1
異物後 12%
外傷 9%
2%
悪性腫瘍 1%

⭐ 医原性が主役だという構図を最初に置く。 そうでないと、内視鏡直後の胸痛を穿孔として疑うタイミングが遅れる。は自然穿孔の代表だが、穿孔全体では少数派である。1

💡 このほか強酸・のも穿孔の原因になる1。急性期の重症度評価(分類・Zargar内視鏡分類)と遠隔期の狭窄・癌化の追跡はにまとめてある。

診断

治療方針の決め方

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal perforation'>食道穿孔</span>の診断確定"]
  A --> B["全例共通の初期管理<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nil per os (NPO)'>絶飲食</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor, PPI'>プロトンポンプ阻害薬</span><br>早期栄養・内視鏡下の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasogastric tube (NG tube)'>経鼻胃管</span>留置"]
  B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonoperative management'>非手術的管理</span>の基準を満たすか<br>24時間以内・敗血症なし・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated'>被包</span>された漏出<br>既存食道疾患なし・24時間<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body plan'>体制</span>の監視"}
  C -->|"満たす"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonoperative management'>非手術的管理</span><br>ドレナージを併用し反復評価"]
  C -->|"満たさない"| E["可及的速やかに手術<br>部位別の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary closure'>一次縫合</span>+補強+ドレナージ<br>困難なら除外・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diversion'>転流</span>・T<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube'>チューブ</span>・切除"]
  B --> F["内視鏡中に生じ認識された穿孔<br>→ 内視鏡的閉鎖が第一選択"]
  F --> G["2 cm未満はクリップ<br>より大きな欠損は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='covered stent'>被覆ステント</span><br>最低2〜4週留置"]
  D --> H{"悪化・漏出の制御不良"}
  H -->|"あり"| E

全例共通の初期管理

、(・嫌気性菌をカバー)、、または栄養による早期の、内視鏡下での を行う1。

⚠️ の推奨に抗真菌薬は含まれていない。 同ガイドラインは抗を管理の柱としつつ、最適な抗菌薬レジメンと投与期間についての合意は無いとも明記している1。

非手術的管理の適応

早期に受診し、漏出がされ、周囲の汚染が軽度で、高度な監視がある安定した患者に限って検討できる(Grade 1C)。判断の骨格は今も Altorjay の基準である1。

項目 条件
発症からの時間 24時間以内
臨床像 敗血症の症状・徴候が無い
部位 頸部または胸部の穿孔
漏出 周囲組織でされている(/造影剤の食道周囲への漏出が最小限で食道内へ排出される/大量の胸腔汚染が無い)
背景 既存の食道疾患が無い
専門チームによる厳密な監視と、24時間の外科・が利用できる

⭐ Pittsburgh重症度スコアは、この絞り込みの補助になる。は、多国籍研究で検証された同スコアの2点以下の患者がの対象になりうると示唆されている、と紹介している1。⚠️ 点数だけで保存的治療を決めない——上の表の条件を別に確かめる。

内視鏡治療の適応

  • 内視鏡手技の最中に生じ、その場で認識された穿孔の閉鎖は、がである(Grade 2A)1
  • 2 cm未満の小さな内腔穿孔にはクリップ(through-the-scope/over-the-scope)が標準的な閉鎖手段1
  • より大きな欠損には被覆型の(SEMS)・を用い、封鎖には最低2〜4週の留置が提唱されている1
  • は、一次治療としても後の遺残漏出に対する救済としても報告されている1
  • ⚠️ 受診が遅れた例や、内視鏡以外の原因による穿孔では、を第一選択にすることに慎重さが要る(Grade 2C)。 症状・敗血症所見の軽いでの成功例はあるが、安全性への懸念が残る1

外科治療の適応と術式

⭐ の基準を満たさない患者は全例が手術の対象になる(Grade 1C)。 手術と決めたら可及的速やかに手術室へ運ぶ(Grade 1C)——24時間以内に治療された患者の死亡率は10%未満だが、それを過ぎると30%になる1。

部位 第一選択 が困難なとき
頸部 左頸部切開(必要なら)による(Grade 1C)。・顎二腹筋で補強しドレナージ 全周の50%を超える、探査の遅れなどでは。側方または端の食道瘻を検討
胸部 が。縦隔・とを併せる 、探査の遅れ、広範な食道損傷では除外・・切除(Grade 1C)。大口径Tで制御性食道皮膚瘻を作る方法もある
腹部 による一次修復(Grade 1C)。による被覆()、、、ドレナージ —

💡 縫合線を血流のある組織で覆って補強するのは、率が25〜50%と高いからである。 ・胸膜弁・心膜が用いられ、経裂孔到達ではNissen形成がそのまま補強になる1。⚠️ 既存の食道疾患がある症例では切除が最善の選択肢とされ、完全・切除の後は6〜12か月してから結腸間置・胃管挙上による再建を行う1。

2. Mallory-Weiss症候群

⚠️ 「激しい嘔吐の既往」を必須条件にしない。 同じ報告で、出血に先行する嘔吐という古典的な病歴が得られたのは11例中4例のみであり、著者は嘔吐が無いことは診断を否定しないと明記している2。のと同じ型の落とし穴である。

⚠️ とはどちらも激しい嘔吐が誘因になりうるが、である。 前者は粘膜のみの裂傷、後者は食道壁全層の破綻であり1、深さで分ける。が進行してになるという連続的な関係ではない。

3. 食道静脈瘤

⚠️ の鑑別を「痛みの有無」だけで決めない。 破裂ももの原因になり、疼痛の有無は可変である。で出血源を直接確認するのが原則で、静脈瘤であれば・、であれば・薬剤注入と、止血の手段そのものが変わる。

4. バレット食道

⭐ は「扁平上皮→円柱上皮」という化生そのものが病名の定義。 慢性のの終着点であり、(B/08)の代表的なとして位置づけられる。

5. 食道ウェブ

💡 とを混同しない。 は単独病変としても生じるが、・との3徴が揃えばと呼ぶ——鉄欠乏の是正が根本治療になる。

6. 気管食道瘻

まとめ

  • は(列から約14〜16 cm・22〜24 cm・40〜45 cm)に好発し、原因は内視鏡などによる医原性が最多——系統的レビューで46.5%4、は約60%とする1。は15%1。
  • ⚠️ (嘔吐・胸痛・)が揃うことはまれで、訴えが曖昧なまま診断が遅れる3。死亡率は10〜20%、24時間以内の治療なら10%未満だがそれを過ぎると30%になる1。
  • 画像は造影CT・が選択すべき検査(Grade 1C、感度92〜100%)で、内視鏡は穿孔を広げうるため第一選択にしない1。
  • 全例で・・・早期栄養を開始し、の基準(24時間以内・敗血症なし・された漏出・既存食道疾患なし・24時間の監視)を満たさない患者は全例が手術の対象になる(Grade 1C)1。は内視鏡中に生じた穿孔で第一選択となり、2 cm未満はクリップ、より大きな欠損はを最低2〜4週留置する1。
  • は粘膜のみの、はであり、ともに嘔吐を契機にしうるである。⚠️ 先行する嘔吐の病歴は11例中4例でしか得られておらず、無いことは診断を否定しない2。
  • はによる拡張で、破裂すると無痛性を来す。の鑑別は痛みの有無ではなく内視鏡で行う。
  • は扁平上皮→で慢性のの終着点、腺癌の。
  • は上部食道の粘膜突出で扁平上皮癌のリスク因子、・とそろえば。
  • は+気管起始の遠位食道という組み合わせが最多の。

出典

  1. 1.Esophageal emergencies: WSES guidelines(World Society of Emergency Surgery・2019)全文(PMC6544956)で、食道穿孔の大多数(60%)が内視鏡手技による医原性でありBoerhaave症候群は15%を占めること、死亡率が10〜20%で治療の遅れが最大の生存規定因子であること、診断の遅れが半数超に生じるため高い疑いを持つことが要ること、造影CT・CT食道造影が選択すべき画像検査(Grade 1C)で感度92〜100%であること、非手術的管理の適格条件(Altorjay基準、Table 1)とPittsburghスコア2点以下が候補になりうると示唆されていること、非手術的管理では絶飲食・広域抗菌薬・プロトンポンプ阻害薬(Grade 1C)・早期栄養(Grade 1C)・内視鏡下の経鼻胃管留置(Grade 2A)を行うこと、内視鏡治療が内視鏡中に生じ認識された穿孔の閉鎖のゴールドスタンダード(Grade 2A)で2 cm未満はクリップ、より大きな欠損はステントで最低2〜4週留置すること、非手術的管理の基準を満たさない患者は全例手術の対象(Grade 1C)で24時間以内の治療なら死亡率10%未満・それ以降は30%であること、部位別の術式と補強、縫合不全率25〜50%、既存食道疾患があれば切除が最善であることを確認した。抗真菌薬(antifungal)は全文に0件で、最適な抗菌薬レジメンと投与期間の合意が無いと明記している。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Mucosal tears at the oesophagogastric junction (the Mallory-Weiss syndrome)(Gut・1961)抄録で、胃食道接合部の粘膜裂傷を有する11例の報告であること、8例が消化管出血で発症し2例が縦隔炎、1例は関連症状が無かったこと、出血に先行する嘔吐という古典的な病歴が得られたのは11例中4例のみで、嘔吐が無いことは診断を否定しないと述べていること、小さな食道裂孔ヘルニアと加齢に伴う粘膜萎縮が粘膜裂傷の素因と考えられたことを確認した。PMC版は紙面のスキャンであり本文は未取得。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Aetiology, Clinical Manifestations, Diagnosis, and Treatment of Oesophageal Perforation: A Review(Cureus・2024)CC BY全文(PMC10977004)で、食道穿孔がMackler三徴(嘔吐・胸痛・皮下気腫)と結び付けられるものの三徴すべてが揃うことはまれで、訴えが曖昧・非特異的なため診断が遅れて転帰を悪くしうること、痛みに続いて嘔吐と呼吸困難が現れるのは25%であること、穿孔後24〜48時間で全身性炎症反応が生じ細菌性縦隔炎から多臓器不全に至りうること、頸部穿孔は保存的治療で良好な転帰になることが多く、胸部穿孔では小さな穿孔が保存的治療の対象で、内腔周囲径の70%を超えない範囲の広い穿孔にはステント留置が有用でありうると述べていることを確認した。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Epidemiology, diagnosis, and management of esophageal perforations: systematic review(Diseases of the Esophagus・2017)抄録で、52研究2,830例を集めた系統的レビューにおいて穿孔の原因が医原性であったのは46.5%(1,933例中899例、40研究)であること、24時間以内の受診は58.1%にとどまること、部位は胸部が72.6%であること、初期治療が保存的だったのは51.3%(1,762例中904例、41研究)であること、全体の死亡率が13.3%であったこと、最適な治療法・診断法について合意が無いと結論していることを確認した。全文は未取得。閲覧 2026-09-21
  5. 5.Diagnosis and Management of Barrett's Esophagus: An Updated ACG Guideline(American College of Gastroenterology・2022)バレット食道は食道腺癌の前駆病変であり、杯細胞を診断要件とするかは地域のガイドラインで差があることを確認した。閲覧 2026-08-09