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Disease Atlas · 消化器 · 症候群

Mallory-Weiss症候群

Mallory-Weiss syndrome

臓器系
消化器
科目
SurgeryPathology
トピック
外科学 B/07:食道損傷病理学 C/32:食道の病理
鑑別疾患
Boerhaave症候群
症状
吐血嘔吐空嘔吐下血低血圧
原因となる疾患
アルコール使用障害

🧠 全体像:は、嘔吐・によるの粘膜(〜)にとどまるである。全層が破れて縦隔へ内容が漏れると同じ「嘔吐による」から出発しながら、裂ける深さが1枚違うだけで臨床像がまったく別物になる——本症は感染ではなく出血で現れ、しかも多くは何もしなくても自然に止まる。⭐ の3〜10%を占める頻度の高い原因でありながら1、最大90%が内視鏡的処置なしにするという点が、この疾患の予後を根本的に穏やかなものにしている1。

病態:なぜ食道胃接合部が縦に裂けるのか

激しい嘔吐や持続するは、腹腔内・を急激に上昇させる。このとき対抗する筋収縮との間にずれが生じてが働き、の粘膜(多くはにとどまる)に縦走する裂傷を作る1。深部へ及んで血管を損傷すれば出血として現れる。

flowchart TD
    A["激しい嘔吐・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retching'>空嘔吐</span>・持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hiccups'>しゃっくり</span>"] --> B["腹腔内・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intragastric pressure'>胃内圧</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surge'>急上昇</span>"]
    B --> C["対抗する筋収縮とのずれ→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shear force'>剪断力</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastroesophageal junction, GEJ'>食道胃接合部</span>の粘膜に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='longitudinal laceration'>縦走裂傷</span><br>(多くは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal layer'>粘膜層</span>にとどまる)"]
    D --> E["血管損傷があれば出血→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematemesis'>吐血</span>"]
    D -->|"深部へ進展する稀な例"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural rupture'>全層破裂</span>へ移行しうる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Boerhaave syndrome'>Boerhaave症候群</span>の項を参照)"]

裂傷は最大90%がで、長さ1〜2 cm、のに多い1。

危険因子

⚠️ 「アルコール性の病気」という思い込みだけで診療しない。 慢性・過剰な飲酒は最も頻度の高い危険因子で症例の50〜70%に認められるが1、独立した21研究のでは飲酒のは0.81(有意な予測因子とはいえない)で、むしろのが1.96と最も強い関連を示した2。臨床で見る「最多の危険因子」と、統計的に「最も強い予測因子」が一致するとは限らない。

危険因子・合併状況 頻度・強さ
慢性・過剰な飲酒 症例の50〜70%に認める(頻度として最多)1
の合併 23.6%1
の合併 19.7%。危険因子としてのは1.96と最強12
識別可能な危険因子なし 約20%
に伴うもの 5.4%
に伴うもの 0.07〜0.49%

その他、代謝性疾患による嘔吐(・腎不全)、、摂食障害、、化学療法、咳嗽、挙上・、、留置、なども誘因になる1。

臨床像と内視鏡所見

⭐ が代表的な症状で、や嘔吐の反復に続いて生じることが多いが、必ずしも先行するとは限らない。出血量に応じて、低血圧などへの影響を伴うことがある。内視鏡では付近、多くはに、長さ1〜2 cmの縦走するとして観察される1。

Boerhaave症候群との鑑別

⚠️ 同じ誘因(嘔吐・)から出発するが、裂ける深さが違うと別の病気になる。

損傷の深さ 粘膜(〜)にとどまる 食道壁の全層破裂
内容の行き先 (出血として現れる) 縦隔へ直接漏出
主症状 胸痛・・
進行の速さ 多くはし軽快 未治療なら数時間〜数日で敗血症・死亡
代表的な検査 造影CT

両者は臨床像が似て救急診療での鑑別を要するが、はに進展しうるである点で明確に異なる1。稀に未治療のMallory-Weiss型裂傷がさらなるを受けてへ進展した経過が報告されており、詳細はの項に譲る。

診断

が診断の中心である。血行動態が安定していれば入院後12時間以内に、不安定であれば安定化後24時間以内に施行する1。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mallory-Weiss syndrome'>Mallory-Weiss症候群</span>を疑う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematemesis'>吐血</span>"] --> B["血行動態の評価・安定化"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span><br>(安定なら12時間以内、不安定なら安定化後24時間以内)"]
    C --> D{"活動性出血があるか"}
    D -->|"なし(多くはこちら)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous hemostasis'>自然止血</span>として経過観察<br>最大90%はこの経過"]
    D -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic hemostasis'>内視鏡的止血療法</span><br>エピネフリン注入・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrocoagulation'>電気凝固</span>・APC<br>クリップ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic band ligation'>内視鏡的結紮術</span>"]
    F --> G["90%超で止血成功"]
    G --> H{"再出血(約7%、多くは24時間以内)"}
    H -->|"あり"| F
    H -->|"なし"| I["経過観察"]

⭐ 最大90%は内視鏡的処置なしにする1。活動性出血がある場合の第一選択はで、エピネフリン注入・・・クリップ・のいずれかにより90%超で止血が得られる1。💡 クリップやなどの機械的手技は、エピネフリン注入単独より初回止血・の両方で優れる1。止血後の再出血率は約7%で、多くは24時間以内に生じる1。外科手術を要することは稀である。

予後

高齢、初診時の、持続または再発する出血、、、があると合併症・死亡のリスクが増す1。これらが無ければ、本症候群は消化管出血の中でも比較的予後良好な部類に入る。

まとめ

  • は嘔吐・によるの(全層ではない)で、の3〜10%を占める。
  • 危険因子として頻度が最も高いのは飲酒(50〜70%)だが、統計的に最も強い予測因子は(1.96)であり、両者は一致しない。
  • ⭐ 最大90%は内視鏡的処置なしにする。 活動性出血には(機械的手技が注入より優れる)が90%超でし、再出血率は約7%にとどまる。
  • ⚠️ とは「裂ける深さ」で区別する。 にとどまるに対し、はでに進展しうる、別の病気である。

出典

  1. 1.Mallory-Weiss Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)Introduction・Pathophysiology・Etiology・Evaluation・Treatment/Management・Prognosisの各節で、Mallory-Weiss症候群が非静脈瘤性上部消化管出血の3〜10%を占めること、嘔吐・持続するしゃっくりによる腹腔内・胃内圧の急激な上昇と対抗する筋収縮のずれによる剪断力が食道胃接合部の粘膜(多くは粘膜層にとどまる)に縦走裂傷を生じさせること、裂傷は最大90%が孤発性で長さ1〜2 cm・胃噴門部小弯側に多いこと、慢性・過剰な飲酒が危険因子として最多で症例の50〜70%に認められる一方、逆流性食道炎(23.6%)・食道裂孔ヘルニア(19.7%)の合併が多く約20%は識別可能な危険因子を欠くこと、内視鏡処置に伴う裂傷が5.4%・経食道心エコーに伴う裂傷が0.07〜0.49%で報告されていること、up to 90%の裂傷が内視鏡的処置なしに自然止血すること、活動性出血に対する第一選択は内視鏡的止血療法でエピネフリン注入・多極電気凝固・アルゴンプラズマ凝固・クリップ・内視鏡的結紮術のいずれかにより90%超で止血が得られること、クリップや結紮術などの機械的手技が注入単独より初回止血と再出血予防の両方で優れること、止血成功後の再出血率が約7%で多くは24時間以内に生じること、血行動態が安定していれば入院後12時間以内に、不安定であれば安定化後24時間以内に内視鏡を行うべきこと、高齢・初診時の循環血液量減少性ショック・持続または再発する出血・凝固障害・急性腎障害・慢性肝疾患があると合併症・死亡のリスクが増すこと、Boerhaave症候群が縦隔炎に進展しうる全層の食道破裂である点で本症候群(粘膜層にとどまる縦走裂傷)と対比されることを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.The prevalence and risk factors for Mallory-Weiss syndrome: a systematic review and meta-analysis(International Journal of Community Medicine and Public Health・2021)21件の研究を統合したメタ解析で、Mallory-Weiss症候群の統合有病率が15.46%(95%信頼区間13.63〜17.29)であったこと(抄録は母集団を明示していない。結論は「さまざまな集団で広く高頻度とはいえない」としている)、危険因子として食道裂孔ヘルニアの統合オッズ比が1.96(95%信頼区間1.73〜2.22)と最も強い関連を示した一方、飲酒の統合オッズ比は0.81(95%信頼区間0.63〜1.05)で有意な予測因子とはいえず、しゃっくりのオッズ比は1.04(95%信頼区間0.78〜1.39)であったことを確認した閲覧 2026-09-01