外科学

外科学 · B/06

食道憩室とアカラシア

Diverticuli of the esophagus, achalasia

前提:病態
食道の病理
前提:正常
消化管における調節:腸管神経系と消化管ホルモン
疾患
Zenker憩室アカラシア遠位食道痙攣過収縮性食道三A症候群食道胃接合部流出障害
検査値
高解像度食道内圧検査
画像所見
コークスクリュー食道
スコア
Eckardtスコア

ポッドキャスト

🧠 は「機序(圧か牽引か)」「部位(上・中・下)」「組織(か仮性か)」の3枚ので整理する。 =仮性・粘膜とだけが突出(、)、=・全層が炎症瘢痕に引かれる()。はLES()が「緩めない」病気 — の(NO・VIP)が変性し、興奮系(ACh・substance P)だけが残るため括約筋が過緊張し、蠕動も失われる。

1. 食道憩室

定義: 食道壁から生じる異常な突出。粘膜・のみが突出すると、食道壁全層が突出するがある。

⭐ 最多のは、後壁の粘膜・が——の()と()のあいだにある筋層の——を貫いて脱出したのである。1

1.1 病因と2つの機序

flowchart TD
  A["食道括約筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired relaxation'>弛緩不全</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achalasia'>アカラシア</span>・痙攣性運動異常)+<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased intraluminal pressure'>管腔内圧上昇</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pulsion diverticulum'>圧出性憩室</span><br>通常は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudodiverticulum'>仮性憩室</span>"]
  B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper esophageal sphincter'>上部食道括約筋</span>(UES)部位<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='pharyngoesophageal (Zenker) diverticulum'>咽頭食道憩室</span>(例: <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Zenker diverticulum'>Zenker憩室</span>)"]
  B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower esophageal sphincter, LES'>下部食道括約筋</span>(LES)部位<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphrenic diverticulum'>横隔膜上憩室</span>"]
  C["縦隔の炎症+瘢痕・牽引<br>(結核・真菌感染など)"] --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traction diverticulum'>牽引性憩室</span><br>通常は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='true diverticulum'>真性憩室</span>"]
  D --> D1["好発部位: 食道中部"]

1.2 分類

部位による分類:

部位 名称 特徴
最多は(後壁のから生じる)
— レベルの憩室
—

組織学的分類:

分類 内容
食道壁の全層が突出
により粘膜・のみが筋層の脆弱部を貫いて突出(例: )

病態生理による分類:

分類 機序
により粘膜・のみが膨隆
炎症による瘢痕・牽引が原因。通常は全層が関与

⭐ は「部位・・」という3条件が全部揃った代表例として頻出。

1.3 臨床像

  • 嚥下障害、未消化食物の逆流、誤嚥、食事後の咳嗽
  • の圧迫感・疼痛、体重減少、

⭐ では嚥下障害が80〜90%に生じる主症状である。頻度の高い病態だが見逃されやすい。1

1.4 診断

と内視鏡が中心で、これにと経皮的を加える。は憩室の背景にある(・痙攣性運動異常)を拾うために行う。

1.5 治療

内科的治療: 薬物治療は憩室そのものではなく、随伴する病態に向けたものになる——逆流症状には、手術が禁忌となるの有症状例には注射。

:

  • 内視鏡下の+
  • :
    • →
    • →

💡 のは「袋を取ること」ではなく「を切離し、憩室腔を食道内腔につなげること」である。(経頸部+)は頸部可動制限などの技術的な難しさとできない有害事象率を伴うため、近年はによる()や、を用いるといった内視鏡的手技の比重が増している。1

2. アカラシア

定義: ・のとの正常蠕動消失を特徴とする一次性。2

特徴:

  • LESの(、hypertonia)
  • ()のの変性
  • 遠位食道のの消失

2.1 病態生理

嚥下は興奮性物質(アセチルコリン〔ACh〕、)と抑制性物質(〔NO〕、〔VIP〕)によって制御される。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Auerbach plexus / myenteric plexus'>Auerbach神経叢</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory neuron'>抑制性ニューロン</span>の萎縮"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory neurotransmitter'>抑制性神経伝達物質</span>(NO・VIP)の欠乏"]
  B --> C["LESが弛緩できない + LES<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resting pressure'>安静時圧</span>の上昇"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peristalsis'>蠕動運動</span>の機能不全"]
  C --> E["LESより<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral side (proximal, toward the mouth)'>口側</span>の食道拡張"]
  D --> E

2.2 病因

⚠️ の流行地は中南米であってアフリカではない。 媒介する(のカメムシ)が生息するのは米州大陸で、「南アフリカ」と覚えると流行地を取り違える。アフリカで問題になるは別種(Trypanosoma brucei)によるである。

2.3 臨床像

  • 嚥下障害、「食物が食道につかえる感覚」
  • 逆流、嘔吐、体重減少、誤嚥、痛・攣縮

2.4 診断

  • が標準で、と蠕動消失を確認し、第4版(CCv4.0)のI〜III型に亜分類する2
  • ではの輪状の狭小化——いわゆる——と食道の拡張がみられる。内視鏡は腫瘍によるの除外に用いる3
  • 胸部X線では、拡張した食道によるの拡大、貯留物による、胃泡の消失が偶発的に見つかることがある

CCv4.0の亜型。 共通の条件は、一次体位での湿性嚥下において(IRP)の中央値が異常高値であることと、蠕動が100%失敗することである。そのうえでの収縮パターンで3つに分ける。2

亜型 の所見
I型 汎食道加圧を伴わない完全な蠕動消失
II型 嚥下の20%以上で汎食道加圧を認める
III型(痙攣型) 嚥下の20%以上がで、意味のある蠕動を欠く

⚠️ 内圧所見が確定的でない例がある。 IRPが一方の体位で境界値またはにとどまる場合、両体位でIRPが異常でも蠕動や汎食道加圧・の所見が残る場合、一次体位で様でも二次体位で蠕動が現れる場合は「確定的でない」と判定する。嚥下障害があってこの判定になったときは、タイムド(TBE)や機能的内腔イメージング(FLIP)といった内圧検査以外の支持的検査を追加する。2

亜型ごとの詳しい治療の使い分けはのノートで扱う。

2.5 治療

治療
が可能 段階的、、またはを、年齢・内圧検査の亜型・患者希望・施設経験に応じて選択する3
が不適 LESへの注射を考慮する。・拮抗薬の効果は短期的かつ限定的

UEG/ESNMの2020年欧州ガイドラインは、この使い分けを推奨の強さまで含めて次のように置いている。3

推奨 強さ/確実性
治療の選択は患者固有の特性・患者の希望・起こりうる副作用や合併症・施設の習熟度に基づいて決める。段階的な反復・・の3者は全体として有効性が同等である 強い推奨/中等度
年齢と内圧検査の亜型を治療戦略の選択に加味する 条件付き推奨/中等度
は、より侵襲的な治療に耐えられない患者、または確定的治療を延期せざるをえない患者に限って用いる 条件付き推奨/中等度

⚠️ 「3者が同等」なのは全体としての有効性であって、亜型ごとでは差がある。 ESGE 2020は、III型(痙攣型)ではがや術より好まれうると述べている(と術を比べた多施設比較研究で成功率98%対80%。ただしこれを裏づけるはまだ無い)。逆にIII型ではの成績が全治療のなかで際立って悪く、の全体成功率は21%である(個々のでは0〜73%とばらつく)。4

⭐ 「段階的」の中身。 ESGE 2020は、30 mmのバルーンから始め、2〜4週の計画的な間隔をおいて35 mmへ進め、効果が不十分なら40 mmを追加するという段階的プロトコルを、1回だけの拡張や最初から大きいバルーンを使うやり方より推奨している(強い推奨、エビデンスの質は高い)。を使うときは、保存剤を含まないで希釈した100単位を0.5〜1 mLずつ、のすぐ上の4に注射する(強い推奨、エビデンスの質は高い)。4

💡 はから内視鏡的に筋層を切開する手技で、外科手術である術とは別の術式である。抗逆流機構を併設しないため術後の逆流が問題になりやすく、ESGE 2020は低流量CO₂の使用、周術期の予防的抗菌薬投与、の胃側へ2〜3 cmを延ばすことを推奨している。4

まとめ

  • は「 vs 」「 vs 仮性」「部位(上・中・下)」の軸で整理する。(UES・・仮性、から脱出)と(LES・)が代表。
  • 治療は内視鏡的またはでの(Zenker→、→食道)。ではを切離して憩室腔を食道内腔につなげることが目標で、嚥下障害が80〜90%に生じる主症状である。1
  • はの(NO・VIP)変性によるLES+蠕動消失。特発性が多いが、(Trypanosoma cruzi、中南米の)による二次性もある。
  • 診断はで、IRP高値+蠕動の100%失敗を確認したうえでCCv4.0のI〜III型に分ける(II型=汎食道加圧20%以上、III型=20%以上)。内圧所見が確定的でないときはタイムドやFLIPを追加する。2
  • ・術・は全体としては同等の有効性をもち(強い推奨)、選択は患者背景・希望・施設の習熟度で決める。はに耐えられない例などに限る(条件付き推奨)。3
  • ただし亜型では差があり、III型ではが好まれうる一方の成績は最も悪い。空気圧拡張は30→35→(必要なら)40 mmの段階的プロトコルで行う(強い推奨、エビデンスの質は高い)。4

出典

  1. 1.The Endoscopic Management of Zenker's Diverticulum: A Comprehensive Review(Diagnostics・2024)Europe PMC(PMC11475965)の全文を確認した。本総説の対象はZenker憩室の内視鏡治療に限られる。Zenker憩室は下咽頭後壁の粘膜・粘膜下層がKillian三角(下咽頭収縮筋の斜走線維=甲状咽頭筋と横走線維=輪状咽頭筋のあいだの locus minoris resistentiae)を貫いて脱出した圧出性憩室であり、最多の下咽頭憩室でありながら診断されないことが多い。嚥下障害が主症状で80〜90%に生じる。治療の第一目標は輪状咽頭筋を切離し憩室腔を食道内腔につなげることで、従来の経頸部憩室切除・中隔筋切開は技術的困難と無視できない有害事象率を伴うため、軟性内視鏡的中隔切開(FESD)やZ-POEMが広まった。⚠️ 真性憩室、横隔膜上憩室、牽引性憩室、食道憩室一般の診断手順、薬物治療については本総説に記述が無い(true diverticulum・epiphrenic・manometry・pharmacological・botulinum はいずれも全文0件)。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Chicago Classification update (version 4.0): Technical review on diagnostic criteria for achalasia(Neurogastroenterology & Motility・2021)出版社サイトが購読制のため抄録で確認した。Chicago分類第4版はアカラシアをI・II・III型に亜分類する。確定的(conclusive)なアカラシアは、湿性嚥下の一次体位で統合弛緩圧(IRP)の中央値が異常高値であることと蠕動が100%失敗することで定義され、I型は汎食道加圧を伴わない蠕動の100%失敗、II型は嚥下の20%以上で汎食道加圧、III型は嚥下の20%以上が早期収縮で意味のある蠕動を欠くものである。IRPが一方の体位で境界値または正常上限にとどまる場合などは確定的でない(inconclusive)と判定し、嚥下障害があってこの判定になったときはタイムドバリウム食道造影や機能的内腔画像プローブなど内圧検査以外の支持的検査を推奨する。閲覧 2026-09-21
  3. 3.European guidelines on achalasia: United European Gastroenterology and European Society of Neurogastroenterology and Motility recommendations(United European Gastroenterology/European Society of Neurogastroenterology and Motility・2020)Europe PMC(PMC7005998)の全文を確認した。推奨2.8のIは「アカラシアの治療決定は患者固有の特性・患者の希望・起こりうる副作用や合併症・施設の習熟度に基づいて行う。全体として段階的な反復空気圧拡張術・腹腔鏡下Heller筋層切開術・POEMは同等の有効性をもつ」(強い推奨、確実性は中等度、合意率100%)、IIは「ボツリヌス毒素療法は、より侵襲的な治療に耐えられない患者、または確定的な治療を延期せざるをえない患者に限るべきである」(条件付き推奨、中等度、合意率100%)。推奨2.7は「年齢と内圧検査の亜型を治療戦略の選択に加味することを提案する」(条件付き推奨、中等度)。診断の記述では、バリウム食道造影が古典的な「鳥のくちばし」徴候・食道拡張・コークスクリュー像を示しうるとし、食道内圧検査を診断のゴールドスタンダードとする。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Endoscopic management of gastrointestinal motility disorders – part 1: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline(European Society of Gastrointestinal Endoscopy・2020)Wayback の id_ 付きスナップショットで出版社版PDF(18頁)の全文を確認した。ESGE 自身の推奨として、アカラシアでは30 mmから始め2〜4週の計画的間隔で35 mmへ進み効果不十分なら40 mmを追加する段階的空気圧拡張プロトコルを、単回拡張や当初から大口径バルーンを使うやり方より推奨する(強い推奨、エビデンスの質は高い、合意率100%)。ボツリヌス毒素は保存剤を含まない生理食塩水で希釈した100単位を0.5〜1 mLずつ扁平円柱上皮接合部直上の4象限へ注射する(強い推奨、高、合意率100%)。POEM は低流量CO2送気で行い、周術期に予防的抗菌薬を用い、筋切開を噴門の胃側へ2〜3 cm延ばす(いずれも強い推奨)。III型アカラシアでは食道体部への追加注射を日常的には提案しない(弱い推奨、非常に低い)。本文の叙述部分は、POEM が III型アカラシアで Heller 筋層切開術より優れるように見える(成功率98%対80%)が裏づける無作為化比較試験は無いこと、III型では空気圧拡張術や Heller 筋層切開術より POEM が好まれうること、III型でのボツリヌス毒素の成績が全治療中で際立って悪い(全体21%)ことを述べる。⚠️ 本文書の Table 1 は「UEG と ESNM による欧州アカラシアガイドラインからの関連推奨の要約」と明記されており、治療選択の一般原則やボツリヌス毒素の適応を述べる推奨は ESGE 自身のものではない。閲覧 2026-09-21