小児科学

小児科学 · 3-64

先天代謝異常症

Metabolic disorders

前提:正常
窒素平衡・アミノ酸の異化・尿素回路アミノ酸の分解:炭素骨格の運命ビタミンB12欠乏とメチルマロン酸血症常染色体劣性遺伝(AR I)
薬剤
ヒドロキソコバラミンフォスデノプテリン
疾患
イソ吉草酸血症コバラミンC欠損症テトラヒドロビオプテリン欠損症(BH4欠損症)ペラグラ様症候群ホモシスチン尿症ミトコンドリア病メチルマロン酸血症モリブデン補因子欠損症先天代謝異常症
症状
眼瞼下垂水晶体亜脱臼
検査値
アシルカルニチン分析フェニルアラニンメチオニン血漿アミノ酸分析

🧠 全体像:は「出生直後は正常でも授乳・ストレス後に嘔吐、、傾眠、けいれん、異常臭、代謝性アシドーシス、で悪化する」ことが多い。は障害される代謝経路に基づく病態生理学的な分類が可能で、どの病型であれ診断・治療可能な疾患を見逃さないことが最も重要である1。は発症前治療の入口だが、症候性児では結果を待たず、採血後にを止める緊急治療を開始する。本項では、、、Hartnup病、、を整理する。

代謝クリーゼの初期対応

flowchart TD
    A["原因不明の嘔吐・傾眠・けいれん・アシドーシス"] --> B["血糖・血液ガス・電解質・乳酸・アンモニア"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma amino acids'>血漿アミノ酸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acylcarnitine'>アシルカルニチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary organic acids'>尿中有機酸</span>を治療前採取"]
    C --> D["蛋白/原因基質を一時中止し高ブドウ糖で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span>抑制<br>完全除去は48時間以内にとどめ少量の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='essential amino acid'>必須アミノ酸</span>を再開"]
    D --> E["代謝専門医へ緊急連絡"]
    E --> F{"高アンモニア・脳浮腫・重症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leucine'>ロイシン</span>上昇"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antidote'>解毒薬</span>・透析など迅速除去"]
    F -->|"なし"| H["疾患別食事・補因子治療"]

アミノ酸代謝異常の比較

疾患 障害部位 主要所見 診断・治療
PAH欠損症/ →チロシン 未治療で発達障害、けいれん、湿疹、色素低下、かび臭 、低Phe食+特殊、チロシン、反応例
→ マルファン様、下方/内側、、発達障害、血栓 ↑、↑。B6反応性評価、、、
障害 → 神経/血液所見、血栓、 ↑、低値。、、を病型別に使用
MSUD 分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素 新生児、脳症、、 アロ/BCAA↑、BCAA制限、反応性評価、クリーゼ時透析
Hartnup病 腸・腎中性 性ペラグラ様皮疹、 中性、蛋白栄養、アミド
1,2-dioxygenase 尿が放置で黒変、組織黒変症、成人期 測定、疼痛/関節管理、専門的に検討

フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損症

PAH遺伝子のバリアントにより(Phe)がチロシンへ変換できず、Pheが脳に蓄積する。で血中Phe上昇を検出し、()代謝異常も鑑別する。尿フェニルケトン検査は早期スクリーニングとして感度が低く、現在の中心ではない。

治療は生涯にわたる血中Phe目標管理、低Phe食、Phe除去アミノ酸、十分なチロシンと栄養である。米国医学遺伝学会の2025年ガイドラインは、未治療時血中Phe値が360 µmol/Lを超える患者への治療を生涯継続すべきこと、生涯を通じて血中Phe値360 µmol/L以下を維持した患者の方が知的転帰が良好であることを示している2。PAH活性が残る反応例ではを、年齢・地域承認に応じを検討する。では、10 mg/kg/日を6週間投与された群で血中Phe値が平均236 µmol/L低下した(プラセボ群は3 µmol/L上昇)3。妊娠可能な患者はから厳格にPheを管理しないと、胎児に、発育不全、CHD、発達障害を起こすとなる。国際共同研究では、または妊娠8〜10週までに血中Phe値120〜360 µmol/Lを達成・維持した群で最も良好な出生転帰が得られた4。

ホモシスチン尿症

「」は複数病態を含み、濃度で大別すると治療の誤りを防げる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total homocysteine'>総ホモシステイン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methionine'>メチオニン</span>"}
    B -->|"高値"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CBS deficiency'>CBS欠損</span>を疑う"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyridoxine (vitamin B6)'>ピリドキシン</span>反応性評価"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methionine-restricted diet'>低メチオニン食</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cystine'>シスチン</span>+必要時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='betaine'>ベタイン</span>"]
    B -->|"低値/正常低値"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='remethylation'>再メチル化</span>障害を疑う"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methylmalonic acid (MMA)'>メチルマロン酸</span>・B12/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='folate pathway'>葉酸経路</span>評価"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydroxocobalamin'>ヒドロキソコバラミン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='betaine'>ベタイン</span>等を病型別に開始"]

で高食を行うのは誤りで、制限が基本である。はの上外方に対し、では典型的に下内方へ偏位する。血栓症は年齢を問わず生命を脅かす。

メープルシロップ尿症

は、、の分解障害で、特にが脳浮腫と脳症を起こす。の、嘔吐、性筋緊張、傾眠、甘い焦げ砂糖様臭は緊急所見である。

急性クリーゼではBCAA摂取を一時停止し、十分なブドウ糖±脂質でを抑え、BCAA除去でを促す。を頻回測定し、重症脳症・高度上昇では/を急ぐ。反応例にはを用い、は必須量を保った個別BCAA制限食、計画を継続する。37例超を対象とした長期では、後4.5±2.2年時点の患者・がともに100%で値も術後数時間で是正・安定したが、移植前から知的障害があった患者では移植1年後も統計学的に有意な改善はみられなかった。は代謝安定性を大きく改善するが、既存神経障害は戻らない5。

Hartnup病・アルカプトン尿症

Hartnup病は中性アミノ酸、特にのと腎再吸収障害で、合成不足から日性皮疹、下痢、、を来す。多くは軽症で、十分な蛋白栄養、、症候例のアミドを用いる。

は分解障害で、乳児では尿が空気に触れて黒変する。長期には結合組織への組織黒変性色素沈着、脊椎・症、弁/腎結石を来す。尿で診断し、症状管理と専門施設での適応を検討する。4年間の国際多施設(SONIA 2)では、1日10 mgの投与で尿中排泄量が12か月時点で対照群比99.7%減少し、臨床評価スコアに基づき疾患進行が緩徐化した6。

ミトコンドリア病

障害は脳、骨格筋、心筋、眼、耳、内分泌など高エネルギー臓器を多系統に障害する。mtDNAバリアントはだが、核由来ならAD/AR/X-linkedもあり、「=必ず」ではない。とにより同一家系でも表現型が異なる。

  • 所見:、、、筋力低下、難聴、糖尿病、心筋症、けいれん、。
  • 検査:乳酸/、、心・眼・聴覚評価、、血液/尿/筋の遺伝検査。真に上昇した血漿の感度は34〜62%・特異度は83〜100%にとどまり、乳酸・が正常でも否定できない7。
  • (および)のや所見は有用な場合があるが、検査で診断が確定できない場合にルーチンの精査として行うものであり、全例必須ではない7。
  • 治療は治療、栄養、運動、心不全・けいれん・内分泌管理を組み合わせ、のある薬剤を病型に応じ避ける。

まとめ

  • 症候性新生児ではスクリーニング結果を待たず、検体採取後に抑制と専門治療を始める。
  • は低Phe、は低、MSUDは個別BCAA制限で管理する。
  • は高値のと、低値の障害で治療が異なる。
  • はmtDNAだけでなく核でも起こり、正常乳酸/でも除外できない。

出典

  1. 1.Inborn Errors of Metabolism Overview: Pathophysiology, Manifestations, Evaluation, and Management(Pediatric Clinics of North America・2018)先天代謝異常症の病態生理学的な分類を更新して提示し、新生児期・遅発性代謝クリーゼ・神経学的退行など臨床場面ごとの系統的な鑑別の進め方を示すとともに、高度な生化学的検査を用いることで治療可能な疾患を見逃さないよう促したこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.Phenylalanine hydroxylase deficiency diagnosis and management: A 2023 evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG)(Genetics in Medicine・2025)米国医学遺伝学会(ACMG)のエビデンスに基づく診療ガイドラインで、未治療時血中フェニルアラニン値が360 µmol/Lを超える患者への治療は生涯継続すべきであること、生涯を通じて血中フェニルアラニン値360 µmol/L以下を維持した患者の方が知的転帰が良好であること、妊娠前に360 µmol/L以下を達成することが妊娠合併症と児への悪影響の予防に強く推奨されること、PAH遺伝子検査を出生時に行い診断確定と治療方針決定に用いることを推奨したこと閲覧 2026-08-27
  3. 3.Efficacy of sapropterin dihydrochloride (tetrahydrobiopterin, 6R-BH4) for reduction of phenylalanine concentration in patients with phenylketonuria: a phase III randomised placebo-controlled study(The Lancet・2007)フェニルケトン尿症患者89例を対象とした二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験で、サプロプテリン10 mg/kg/日を6週間投与された群は血中フェニルアラニン濃度が平均236 µmol/L低下したのに対しプラセボ群は3 µmol/L上昇したこと。BH4反応性がある一部の患者ではサプロプテリンが厳格な低フェニルアラニン食への追加治療として有効であり、一部では食事制限の緩和・代替になりうること閲覧 2026-08-27
  4. 4.The Maternal Phenylketonuria International Study: 1984-2002(Pediatrics・2003)高フェニルアラニン血症の女性382例・572妊娠を登録した国際共同研究で、受胎前または妊娠8〜10週までに血中フェニルアラニン値120〜360 µmol/Lを達成し妊娠中を通じて維持した群で最も良好な出生転帰が得られたこと。母性フェニルケトン尿症症候群(小頭症・発育不全・先天性心疾患・発達障害)の予防には受胎前からの厳格な食事管理が重要であること閲覧 2026-08-27
  5. 5.Liver transplantation for classical maple syrup urine disease: long-term follow-up in 37 patients and comparative United Network for Organ Sharing experience(The Journal of Pediatrics・2012)古典型メープルシロップ尿症で肝移植を受けた35例(米国臓器分配ネットワーク登録の追加症例を含め計37例超で比較検討)の長期追跡研究で、移植後4.5±2.2年時点の患者・移植片生存率がともに100%、分岐鎖アミノ酸値が術後数時間で是正・安定したこと。一方、移植前に知的障害(IQ 70以下)があった患者の約3分の1は移植1年後も統計学的に有意な改善が無く、肝移植は代謝を安定化させ脳損傷の進行を止めうるが既存の神経障害を改善しないこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Efficacy and safety of once-daily nitisinone for patients with alkaptonuria (SONIA 2): an international, multicentre, open-label, randomised controlled trial(The Lancet Diabetes & Endocrinology・2020)アルカプトン尿症患者138例を対象とした4年間の国際多施設非盲検無作為化比較試験(SONIA 2)で、ニチシノン1日10 mgの投与により尿中ホモゲンチジン酸排泄量が12か月時点で対照群比99.7%減少し、忍容性は良好で、臨床評価スコア(cAKUSSI)に基づき疾患進行が緩徐化したこと閲覧 2026-08-27
  7. 7.Diagnosis and management of mitochondrial disease: a consensus statement from the Mitochondrial Medicine Society(Genetics in Medicine・2015)Mitochondrial Medicine Societyのコンセンサス声明で、原発性ミトコンドリア病における真に上昇した血漿乳酸値の感度は34〜62%・特異度は83〜100%にとどまり正常乳酸値だけでは除外できないこと。筋生検(および肝生検)はDNA検査で診断が確定できない場合にのみルーチンの精査として行うべきであり、全例に必須ではないこと閲覧 2026-08-27