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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

モリブデン補因子欠損症

Molybdenum Cofactor Deficiency

別名
MoCDモリブドプテリン合成障害
臓器系
内分泌・代謝神経小児
科目
Internal MedicinePediatrics
トピック
内科学 E-09:プリン・鉄・銅代謝および希少代謝疾患小児科 3-64:先天代謝異常症
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
キサンチン尿症
続発疾患
小頭症
治療薬
フォスデノプテリン
症状
痙攣筋緊張低下
検査値
尿酸
適応薬
フォスデノプテリン

🧠 全体像:(MoCD)は、から(Moco)を組み立てる合成経路そのものが壊れる病気である。Mocoは複数の酵素の“部品”なので、経路のどこが壊れても・酸化酵素・の3つが一斉に機能を失う1。この中で臨床像を決めるのはの欠損であり、(だけ、または+AOが止まる病気)とは重症度も守備範囲もまるで違う。からの難治性痙攣・脳症を見たら、だけでなく尿中の亜硫酸まで確認する必要がある。

病態生理:合成経路の破綻がなぜ3酵素を道連れにするか

Moco合成はGTPを出発点とする4段階の逐次反応で、MOCS1・MOCS2・GPHN・MOCS3の4遺伝子がそれぞれの段階を担う。の内訳はMOCS1が約49%、MOCS2が約45%、GPHNが約4%、MOCS3が約2%で、MOCS1とMOCS2でほぼ全例を占める1。

flowchart TD
    A["GTP"] --> B["cPMP<br>(MOCS1が触媒)"]
    B --> C["MPT(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molybdopterin'>モリブドプテリン</span>)<br>(MOCS2が触媒)"]
    C --> D["Mo-MPT<br>(GPHNが触媒)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Moco'>モリブデン補因子</span>完成"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfite oxidase'>亜硫酸酸化酵素</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='xanthine'>キサンチン</span>酸化酵素"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aldehyde oxidase'>アルデヒド酸化酵素</span>"]
    E --> I["ミトコンドリアアミドキシム<br>還元成分"]
    A -.->|"どの段階が止まっても<br>Mocoが完成しない"| E

💡 との違いは「どこが壊れるか」で説明できる。 I型は遺伝子そのものの欠陥(Mocoは正常に作られる)、II型はの欠陥でとAOのに硫黄が付かなくなる(Mocoの土台は完成している)のに対し、MoCDはMocoという土台そのものが組み上がらない。だから欠損の範囲がより広く、まで道連れになる2。

⚠️ 神経障害の主因はの欠損であって、尿酸代謝の異常ではない。 蓄積する亜硫酸とSサルフォシステイン(亜硫酸とシステインの反応産物)が神経毒性の本体である。亜硫酸は細胞内ATPを枯渇させミトコンドリア呼吸を障害し、Sサルフォシステインはグルタミン酸に構造的に類似してNMDA受容体を活性化し障害を起こす1。

臨床像:新生児からの難治性脳症

早期発症型(重症)

生後1〜50日に発症する重症型が多い。93%に難治性痙攣を含む重篤な脳症がみられ、・・・無呼吸を伴う。数か月以内に重度の精神運動障害・へ進行する1。

所見 頻度/時期
難治性痙攣を伴う重篤な脳症 93%(生後1〜50日)
粗野な・両側の狭小化 61%
45%
16%(発症よりやや遅れて出現)
大きな音・接触・動きへの過剰な 頻度不明

⭐ 「新生児の難治性痙攣+」の組合せに出会ったらする。 頭部MRIでは灰白質・白質分化の消失、の腫脹、の障害、でのびまん性高信号、脳幹を比較的温存した前脳・中脳全体のがみられ、その後・嚢胞性白質軟化・へ進行する1。

遅発型(軽症)

生後4か月〜23歳と幅広い年齢で発症するもある。感染を契機とする急性の増悪で気づかれ、(33%)・(25%)・失調(17%)を呈する。画像は正常のことも、病変・菲薄化にとどまることもあり、は早期発症型より良好である1。

診断:単独の亜硫酸酸化酵素欠損症(ISOD)との鑑別が核心

⭐ 見分け方は「尿酸系が正常かどうか」だけ。 単独の欠損症(ISOD)ではも尿中・値も正常である。これに対しMoCDではだけでなく酸化酵素も同時に失われるため、血漿尿酸低値・尿中および上昇という尿酸代謝の異常が必ず伴う1。はISODとMoCDでほぼ区別できないため、この生化学的な差だけが手がかりになる。

検査 所見
上昇、低下
血漿尿酸 低値
尿ピリミジン分析 ・上昇
尿中Sサルフォシステイン・チオ硫酸(標的測定) 上昇
flowchart TD
    A["新生児の難治性痙攣・脳症"] --> B["尿中亜硫酸・血漿尿酸を測定"]
    B --> C{"血漿尿酸・尿中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='xanthine'>キサンチン</span>は"}
    C -->|"正常"| D["単独の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfite oxidase'>亜硫酸酸化酵素</span>欠損症を疑う"]
    C -->|"低値/上昇"| E["MoCDを疑う"]
    E --> F["GPHN・MOCS1・MOCS2・MOCS3の<br>遺伝学的検査で確定"]

確定診断はGPHN・MOCS1・MOCS2・MOCS3いずれかのの同定による。培養線維芽細胞での活性測定も行えるが、発現量が低く完全欠損との判別が難しいため、感度の高い遺伝学的検査が優先される1。

治療

⭐ MOCS1型(A型)にのみ、経路を補う薬がある。 フォスデノプテリンは合成cPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)そのものを補充する基質補充療法で、MOCS1変異によるMoCD A型に適応がある。在胎37週未満の早産児は1日0.4 mg/kgから、在胎37週以上の新生児は1日0.55 mg/kgから開始し、いずれも生後3か月までに0.9 mg/kgへ漸増する。1歳以上では体重あたり0.9 mg/kgを1日1回する3。

⚠️ 発症からごく短い時間枠での開始が前提になる。 遺伝子型が一致した無治療の(18例)と比較した治療群(13例)では、1年92%対67%、3年84%対55%(0.18)と有意に良好であった3。この差は・早期投与が前提になっており、遅れれば得られる利益は小さくなる。

💡 MOCS2型・GPHN型には対応する補充療法がない。 全病型に共通する対症療法として、由来の亜硫酸産生を減らす低蛋白・システイン制限食が用いられる。の選択にも注意が要り、亜硫酸中毒はin vitroでミトコンドリア機能を障害するため、同じくを持つバルプロ酸は避ける1。

鑑別:キサンチン尿症との対比

とMoCDは、どちらものを来す点で紛らわしいが、障害される酵素の範囲と重症度が違う。

単独欠損
(I型)
+AO欠損
(II型)
+AO+欠損
(MoCD)
原因 遺伝子の欠陥 の欠陥 Moco合成経路(MOCS1/MOCS2/GPHN/MOCS3)の欠陥
Mocoそのもの 正常に作られる 正常に作られる(だけ付かない) 完成しない
神経障害 なし なし 重篤(からの難治性痙攣・脳症)
典型的な発見契機 偶発的な・ 偶発的な・ 新生児の難治性痙攣、

2

⚠️ 「+尿中増加」という所見だけでは3者を区別できない。 神経症状の有無と重症度で先に枝分かれし、そのうえでの関与(尿中亜硫酸・Sサルフォシステイン)を確認する。

まとめ

  • MoCDはMoco合成経路(MOCS1・MOCS2・GPHN・MOCS3)の欠陥により、・酸化酵素・の3酵素が同時に機能を失う疾患で、原因の94%をMOCS1とMOCS2が占める。
  • 神経障害の主因は欠損による亜硫酸・Sサルフォシステインの蓄積で、(または+AOの欠損にとどまりは保たれる)とは重症度も守備範囲も異なる。
  • 重症の早期発症型はからの難治性痙攣・脳症を来し、・・を伴う。軽症のは感染を契機とする神経症状ので気づかれる。
  • 単独の欠損症(ISOD)とは臨床像だけでは区別できず、血漿尿酸・尿中が正常(ISOD)か異常(MoCD)かで分ける。確定診断はの遺伝学的検査による。
  • MOCS1型(A型)にはフォスデノプテリン(cPMP補充療法)があり早期投与でが改善するが、他の型に対応する補充療法はまだない。全型で低蛋白・システイン制限食とバルプロ酸回避が基本になる。

出典

  1. 1.Molybdenum Cofactor Deficiency(GeneReviews®(University of Washington, Seattle)/Misko A, Mahtani K, Abbott J, Schwarz G, Atwal P・2023)MoCDの原因遺伝子がMOCS1(約49%)・MOCS2(約45%)・GPHN(約4%)・MOCS3(約2%)の4つでいずれもモリブデン補因子(Moco)のGTPからの合成経路を担うこと、この欠損によりMoco依存性酵素である亜硫酸酸化酵素・キサンチン酸化酵素・アルデヒド酸化酵素・ミトコンドリアアミドキシム還元成分の4つが同時に機能を失うこと、神経障害の主因は亜硫酸酸化酵素の欠損であり毒性代謝物である亜硫酸とSサルフォシステイン(亜硫酸とシステインの反応産物)が蓄積すること、亜硫酸が細胞内ATPを枯渇させミトコンドリア呼吸を障害する一方でSサルフォシステインがグルタミン酸に構造的に類似しNMDA受容体を活性化して興奮毒性障害を来すこと、重症の早期発症型(生後1〜50日に発症)では新生児の93%に難治性痙攣を含む重篤な脳症がみられ後弓反張・筋緊張低下・哺乳障害・無呼吸を伴い数か月以内に重度精神運動障害・痙性四肢麻痺に進行すること、粗野な顔貌や両側側頭部の狭小化などの顔貌異常が61%に、水晶体脱臼が16%に(発症後にやや遅れて)、後天性小頭症が45%にみられること、大きな音や接触・動きに対する過剰な驚愕反応(hyperekplexia様所見)を呈すること、頭部MRIで灰白質・白質分化の消失、脳回の腫脹、脳溝の障害、T2強調像でのびまん性高信号、脳幹を比較的温存した前脳・中脳全体のびまん性拡散制限がみられその後皮質萎縮・嚢胞性白質軟化・小脳変性に進行すること、生後4か月〜23歳で発症する軽症の遅発型では感染を契機とする急性神経学的増悪、ジストニア(33%)・舞踏アテトーゼ(25%)・失調(17%)を呈し画像は正常か淡蒼球病変・脳梁菲薄化にとどまり神経発達予後は早期発症型より良好であること、単独の亜硫酸酸化酵素欠損症(ISOD)では血清尿酸値・尿中キサンチンおよびヒポキサンチン値が正常であるのに対しMoCDでは3酵素すべての異常(血漿尿酸低値・血漿アミノ酸分析でのタウリン上昇とシスチン低下・尿中キサンチンおよびヒポキサンチン上昇・尿中Sサルフォシステインおよびチオ硫酸上昇)を示す点でISODと区別されること、確定診断はGPHN・MOCS1・MOCS2・MOCS3いずれかの両アレル性病的バリアントの同定によりなされ酵素活性測定より高感度な遺伝学的検査が優先されること、無治療の早期発症型ではおよそ75%が乳児期に肺炎などの続発症で死亡すること、常染色体劣性遺伝で両親がヘテロ接合体保因者の場合きょうだいは受胎時に25%の確率で罹患し50%が無症候性保因者、25%が非保因者となることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Mutations Associated with Functional Disorder of Xanthine Oxidoreductase and Hereditary Xanthinuria in Humans(International Journal of Molecular Sciences(Ichida K, Amaya Y, Okamoto K, Nishino T)・2012)モリブデン補因子欠損症がキサンチン尿症とは別格の第3の型として位置づけられ、モリブドプテリン合成の欠陥によりキサンチン酸化還元酵素(XOR)・アルデヒド酸化酵素(AO)・亜硫酸酸化酵素の三重欠損を来し、重篤な神経障害・水晶体脱臼・形態異常を示し転帰が不良であること、キサンチン尿症II型がモリブデン補因子スルフラーゼの遺伝的欠陥によるXOR・AOの二重欠損にとどまり亜硫酸酸化酵素は保たれる点でモリブデン補因子欠損症と異なることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.NULIBRY (fosdenopterin) for injection, powder, lyophilized, for solution(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/Sentynl Therapeutics・2026)フォスデノプテリンがMOCS1遺伝子変異によるモリブデン補因子欠損症A型(MoCD type A)患者の死亡リスク低減を適応として承認されており環状ピラノプテリン一リン酸(cPMP)の欠乏を補う基質補充療法であること、在胎37週未満の早産児では1日0.4 mg/kgから開始し生後3か月までに0.9 mg/kgへ漸増し在胎37週以上の新生児では1日0.55 mg/kgから開始し同様に0.9 mg/kgへ漸増すること、1歳以上では体重あたり0.9 mg/kgを1日1回静脈内投与すること、遺伝子型を一致させた無治療の自然歴コホート(18例)と比較した治療群(13例)で1年生存率92%対67%・3年生存率84%対55%(ハザード比0.18、95%信頼区間0.04〜0.72)と有意に良好であったこと、本ラベルの改訂日が2026年5月26日であることを確認した。閲覧 2026-09-06