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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

急性妊娠脂肪肝

Acute fatty liver of pregnancy

別名
妊娠急性脂肪肝AFLP
臓器系
生殖・産婦人科肝胆膵
科目
Obstetrics and Gynecology (Obstetrics)Internal Medicine
トピック
産科学 10:妊娠と消化器疾患内科学 G-06:急性肝不全患者の管理
鑑別疾患
妊娠高血圧腎症・子癇・HELLP症候群
合併症
急性腎障害播種性血管内凝固
続発疾患
急性肝不全
関連疾患
先天代謝異常症
症状
悪心嘔吐腹痛黄疸意識障害
検査値
血糖アンモニアビリルビンプロトロンビン時間フィブリノゲンアンチトロンビン尿酸
画像所見
超音波エコー輝度
原因となる疾患
CPT1A欠損症先天性脂肪酸酸化異常症

🧠 全体像:(AFLP)は、に肝細胞へ微小胞性脂肪が蓄積し、の像を呈するに至る妊娠特異的疾患である。核心は胎児-母体の代謝相互作用——胎児が(LCHAD)欠損などのを持つと、胎児・胎盤で処理しきれないがへ流入し、母体肝のミトコンドリア機能を障害する——にある。臨床像は症候群と大きく重なるが、低血糖と著明な()がAFLPでより際立つという非対称性が鑑別の軸になる。そして治療の本質は肝臓そのものへの介入ではなく、病因を体外へ出すこと=速やかな分娩である。

病態

flowchart TD
    A["胎児が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty acid oxidation disorder'>脂肪酸酸化異常</span>(LCHADなど)を有する"] --> B["胎児・胎盤で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-chain fatty acid'>長鎖脂肪酸</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolite'>代謝産物</span>を処理しきれない"]
    B --> C["異常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolite'>代謝産物</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maternal circulation'>母体循環</span>へ流入"]
    C --> D["母体肝細胞のミトコンドリア<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty acid beta-oxidation'>脂肪酸β酸化</span>が障害される"]
    D --> E["肝細胞に微小胞性脂肪滴が蓄積"]
    E --> F["肝細胞機能の急速な破綻"]
    F --> G["合成能低下:凝固因子・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antithrombin'>アンチトロンビン</span>産生低下"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowed metabolism'>代謝低下</span>:糖新生障害"]
    F --> I["解毒能低下:アンモニア蓄積"]
    G --> J["著明な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>"]
    H --> K["低血糖"]
    I --> L["肝性脳症"]
    J --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute liver failure, ALF'>急性肝不全</span>の像"]
    K --> M
    L --> M

妊娠は生理的にもへの要求が高まる時期で、母体のミトコンドリア機能はもともと余力が乏しい。ここへの酵素異常が重なると、母体肝に処理しきれないの負荷がかかり、肝細胞質にトリグリセリドを主体としたが生じる。の主要な病因の一つとして妊娠関連の項目に分類されるのはこのためで、他の病因(ウイルス性・薬物性など)と異なり、病因が母体自身ではなく胎児に由来するという点が最大の特徴である1。

⭐ AFLP症例のおよそ20%は胎児のLCHAD欠損と関連するとされる1。⚠️ 分母によって数字が動く——の検査を受けたAFLP 77例を集めたでは、27例(35.1%)に胎児のが確認され、そのうち22例(81.5%)がLCHAD欠損だった。すべての例でLCHAD欠損が証明されるわけではないが、この胎児-母体相互作用の枠組みがAFLPの病態理解の中心である。

臨床像

後半、まれに早期に発症する。

  • 悪心・嘔吐、倦怠感、上腹部痛、黄疸が主体で、初期はや胃腸炎と区別しにくい。
  • 口渇・・多尿を伴うことがあり、進行すると意識変容(肝性脳症)に至る。
  • 高血圧・蛋白尿を合併し、・症候群の像と重なることが多い1。

⚠️ 「の悪心・嘔吐=」と決めつけない。 発症時期が遅く、黄疸や低血糖、を伴う場合はAFLPを積極的に疑う。

診断

Swansea基準

は、悪心・嘔吐、腹痛、・多尿、脳症、、低血糖、、/上昇、アンモニア上昇、尿酸上昇、腎障害、、腹水または超音波での、そしてでのを含む14項目からなり、既知の他の肝疾患を除外したうえで6項目以上を満たせばAFLPと診断する12。

⚠️ は補助的な位置づけであり、それ単独で確定・除外してはならない。 脳症や腹水・といった項目は病状がある程度進行して初めて陽性になるため、これを待つと治療開始が遅れる3。実際に基準を満たさない症例も、他に説明のつかない肝不全としてAFLPと臨床診断された報告があり、基準はあくまで診断を支持する目安として扱われている2。

HELLP症候群との鑑別

AFLPと症候群は高血圧・蛋白尿・という表現型が重なり、しばしば同時に基準を満たす。鑑別の軸は低血糖の有無との質に置く。

項目 AFLP 症候群
肝細胞のによる ・・血小板減少
低血糖 特徴的(この研究では12.2%に出現、対照群は2.3%)3 目立たない
著明(()延長に加え低下・フィブリノゲン低下を伴うDICに至りやすい) 軽度〜中等度、血小板減少が主体
ビリルビン・ より高度に上昇しやすい 上昇するがAFLPほど高度でないことが多い
溶血 目立たない を伴うが中核
特異的な代謝背景 胎児のLCHAD欠損などとの関連 明確な単一の代謝的関連は確立していない

⭐ 低血糖と著明な()は、やよりAFLPでより一貫して認められる所見である1。ビリルビン・の上昇もAFLPでより高度になりやすい。ただし両者は合併しうるため、「どちらか一方」と割り切らず、両方を想定して管理する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='third trimester'>妊娠第3三半期</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal liver function'>肝機能異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nausea and vomiting'>悪心嘔吐</span>・黄疸"] --> B["血圧・蛋白尿・血算・肝腎機能・血糖・凝固能を評価"]
    B --> C["低血糖・著明な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperbilirubinemia'>高ビリルビン血症</span>が目立つか"]
    C -->|"目立つ"| D["AFLPを積極的に疑い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Swansea criteria'>Swansea基準</span>で支持"]
    C -->|"溶血・血小板減少が主体"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='haemolysis, elevated liver enzymes, low platelets'>HELLP</span>症候群を疑う"]
    D --> F["他の肝疾患を除外"]
    E --> F
    F --> G["母体を集中管理しながら速やかな分娩を計画"]

治療

⭐ AFLPの治療の中心は、肝臓そのものへの薬物治療ではなく速やかな分娩である。 病因がのにある以上、母体肝を安静にさせるだけでは病態は止まらず、胎盤・胎児を体外に出すことで初めて原因への曝露が絶たれる。()のガイドラインは、診断がついたAFLPに対するに強く反対し、速やかな分娩を推奨している1。

  1. 母体の集中管理:低血糖の是正(ブドウ糖の)、への対応(出血がある場合やの前に・フィブリノゲン製剤を考慮)、腎障害・脳症のモニタリングを行う。
  2. 速やかな分娩:母体が安定化次第、分娩様式は産科的な状況に応じて判断する。分娩を待つことで病態が進行しうるため、基準を完全に満たすまで待たない。
  3. 産後管理:⚠️ 分娩後も肝機能は一時的に悪化しうる。 多くの症例では分娩後1〜10日以内に肝機能が正常化するが、この経過をたどらず進行する例では施設への相談を検討する1。
  4. 児の評価:出生児にはLCHAD欠損などのについての遺伝学的検査と、低血糖・などの症状出現に対する経過観察が推奨される1。次回妊娠に向けたも行う。

合併症

AFLPの・代謝破綻は複数の臓器に波及しうる。

まとめ

  • AFLPはに生じる肝細胞のによるで、胎児のLCHAD欠損などのと母体肝の代謝破綻という胎児-母体相互作用が病態の幹である。
  • 診断は(14項目中6項目以上)を支持的に用いるが、基準は病状が進行してから満たされる項目を含むため、それ単独で確定・除外しない。
  • 症候群と表現型が重なるが、低血糖と著明な()がAFLPでより一貫して認められる点が鑑別の軸になる。
  • 治療の本質は肝臓への薬物治療ではなく速やかな分娩であり、産後も一時的な悪化がありうるため経過を追う。
  • 出生児にはLCHAD欠損などののスクリーニングと経過観察を行う。

出典

  1. 1.Fatty Liver in Pregnancy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Swansea基準14項目のうち6項目以上を満たせばAFLPと診断される運用であること、AFLP症例の約20%が胎児LCHAD欠損と関連すること、支持療法と速やかな分娩がAFLP治療の中心でありACGガイドラインが待機的管理に強く反対していること、凝固障害・DIC・低血糖はHELLPや子癇前症よりAFLPでより一貫して認められトランスアミナーゼ上昇・高ビリルビン血症もより高度であること、分娩後は多くの症例で1〜10日以内に肝機能が正常化すること、児にはLCHAD欠損の遺伝学的検査と症状の経過観察が推奨されること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Swansea criteria score in acute fatty liver of pregnancy(Chinese Medical Journal・2022)Swansea基準は14項目中6項目以上の充足でAFLPと診断する運用が実際に行われていること、基準を満たさなかった7例も他に説明がつかない肝不全としてAFLPと臨床診断されており、基準だけで確定・除外せず臨床判断を優先する運用があること閲覧 2026-08-11
  3. 3.Early diagnostic test for acute fatty liver of pregnancy: a retrospective case control study(BMC Pregnancy and Childbirth・2020)Swansea基準の一部項目(脳症、腹水・輝度肝など)は病状がある程度進行してから初めて満たされるため、治療開始の判断材料としては遅すぎることがあり早期診断ツールとして限界があること、この研究のAFLP症例では12.2%に低血糖を認めたのに対しHELLP症候群・子癇前症合併ICPを含む対照群では2.3%にとどまったこと閲覧 2026-08-11