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Disease Atlas · 肝胆膵 · 先天性疾患

先天性胆汁酸合成異常症

Congenital bile acid synthesis disorder

別名
先天性胆汁酸合成障害一次胆汁酸合成先天異常inborn errors of bile acid synthesis3β-HSD欠損症HSD3B7欠損症
臓器系
肝胆膵小児内分泌・代謝
科目
Medical BiochemistryPediatrics
トピック
生化学 5/9:胆汁酸の生合成と代謝;脂質消化における重要性;細胞のコレステロール取り込みと放出小児科 3-45:胆汁うっ滞・抱合型高ビリルビン血症
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
脳腱黄色腫症(CTX)
治療薬
コール酸ケノデオキシコール酸
症状
遷延性黄疸下痢肝腫大脾腫

🧠 全体像:⭐ 「同じの合成障害でも、(CTX)とは止まる場所が違う」——これがこのを学ぶ軸である。CTXは合成経路の終盤(CYP27A1)が止まって側鎖酸化ができず、が腱・脳・に蓄積し数十年かけて神経症状が積み上がる病気だった。ここで扱う先天性異常症は、経路の序盤(ステロイド骨格の還元段階)が止まる病型群で、からの胆汁うっ滞・という形で発症する。最多の病型は3β-ヒドロキシ-Δ5-C27-ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症(HSD3B7遺伝子)である1。⭐ 診断の最大のは、胆汁うっ滞があるのに濃度とγ-GTPが「正常〜低値」であることだ——ふつうの胆汁うっ滞なら両方とも上がる1。このに気づけるかどうかが、治療可能なこのを見逃さないかどうかを分ける。

病態生理——「作れない」と「毒性中間体が溜まる」の二重苦

flowchart TD
    A["コレステロール"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary bile acids'>一次胆汁酸</span>合成経路(複数の酵素段階)"]
    B --> C["3β-HSD(HSD3B7):<br>ステロイド骨格のΔ5-3β-ヒドロキシ基を酸化"]
    C --> D["Δ4-3-オキソステロイド5β-還元酵素(AKR1D1):<br>Δ4-3-オキソ中間体を還元"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholic acid'>コール酸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chenodeoxycholic acid'>ケノデオキシコール酸</span><br>(正常な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary bile acids'>一次胆汁酸</span>)"]
    C -- "欠損" --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary bile acids'>一次胆汁酸</span>が著減・欠如"]
    D -- "欠損" --> F
    C -- "欠損" --> G["肝毒性のある異常胆汁酸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate metabolite'>中間代謝産物</span>が蓄積"]
    D -- "欠損" --> G
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bile canaliculus'>毛細胆管</span>輸送体でうまく輸送されず<br>直接的な肝障害・炎症性因子の動員"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bile flow'>胆汁流</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat malabsorption'>脂肪吸収不良</span>"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal period'>新生児期</span>からの胆汁うっ滞・進行性肝障害"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪性下痢</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin absorption'>脂溶性ビタミン吸収</span>不良"]

💡 「足りない」だけでなく「が溜まる」の二重の問題である。 正常な(・)が作れないぶんと脂質・が落ちる一方、経路の途中で止まった異常な胆汁酸は輸送体でうまく運べず、蓄積して直接的な肝障害と炎症を引き起こす1。この「足す」と「止める」の二重構造は、治療がの外部補充で成立する理由(下記)とも表裏一体である。

⭐ 最多の病型はである。 HSD3B7遺伝子(16p11.2)の変異による疾患で、はおよそ1,000万人に1人、新生児・小児期の原因不明の胆汁うっ滞の1〜2%を占める1。もう一つの主要な病型がΔ4-3-オキソステロイド5β-還元酵素(AKR1D1)欠損症で、で承認されている製剤Orphacolは、この2つの酵素欠損症を適応として名指ししている2。

臨床像

87例を対象としたの系統的レビューによれば1、

項目 頻度・値
症状発症年齢(中央値) 生後1か月(範囲2日〜16.8年)。1か月以内の発症が60.3%、1年以内が87.3%
診断年齢(中央値) 8.35か月(範囲1か月〜17.2年)。5歳以下での診断が85.5%
胆汁うっ滞() 92.0〜100%
51.8%
脾腫 23.2〜38.5%

そのほか欠乏、脂肪性便()、進行すれば肋骨軟化症を伴う1。⭐ 掻痒の有無は症例によって異なり、一定しない。 一般のでは強い掻痒が目立つことが多いのに対し、この不一致自体が診断のヒントになりうる1。

診断——「胆汁うっ滞なのに検査値が上がらない」を拾う

⭐ 通常の胆汁うっ滞のパターンに当てはまらないことが診断の入り口である。 ・は他のと共通するが、濃度とγ-GTPは正常〜低値にとどまる1。⚠️ 「胆汁うっ滞があるのに胆汁酸値もγ-GTPも上がらない」という組み合わせに出会ったら、このを疑う。 ・進行性家族性(PFIC)など、γ-GTPが上昇する他の遺伝性との重要な分かれ目である。

flowchart TD
    A["新生児〜乳児期の胆汁うっ滞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪性下痢</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum bile acids'>血清胆汁酸</span>濃度・γ-GTPを測定"]
    B -->|"正常〜低値(通常の胆汁うっ滞と逆)"| C["尿中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum bile acid'>血中胆汁酸</span>プロファイルの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass spectrometry'>質量分析</span>(MS)"]
    B -->|"高値"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biliary atresia'>胆道閉鎖症</span>・PFIC等、他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholestatic liver disease'>胆汁うっ滞性疾患</span>を検討"]
    C -->|"異常胆汁酸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate metabolite'>中間代謝産物</span>を検出"| E["HSD3B7・AKR1D1等の遺伝学的検査で確定"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholic acid'>コール酸</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chenodeoxycholic acid'>ケノデオキシコール酸</span>の補充療法を直ちに開始"]

確定診断は、尿中・プロファイルを(MS)で解析し異常な胆汁酸を検出したうえで、HSD3B7()やAKR1D1(Δ4-3-オキソステロイド5β-還元酵素欠損症)などの遺伝学的検査で確定する1。では65種類の病的変異が同定されており、そのうち70%超がエクソン1・4・5・6に位置する1。

治療と予後——「補充が効く」代謝疾患

⭐ そのものを外から補充する治療が、多くの患者で有効である。 CTXの治療が(CDCA)の生涯補充だったのに対し3、このではCDCAと(CA)の両方が使われる。系統的レビューでは、CDCAが57.7%、単独が21.8%、CDCAと(UDCA)などの併用療法が19.2%の患者に用いられた1。

⭐ が予後を左右する。 確定診断の前に暫定的にUDCAを投与されていた11例は全例が生存した1。全体では自己肝生存が81.6%(71/87例)に達する一方、または死亡に至った例が18.4%(16/87例)あり、⚠️ 症状発症が生後1か月以内と早い患者ほど転帰が不良な傾向がある(1か月以内発症例のうち/死亡群では90.0%を占めたのに対し、生存群では54.7%にとどまった)1。⭐ 一方、遺伝子型(変異がホモ接合かか)は臨床転帰と有意な関連を示さなかった(P=.42)——「どの変異か」より「いつ介入できたか」が予後を分ける1。

CTXとの違い——同じ「一次胆汁酸合成異常」でも別の病気

先天性異常症(など) (CTX)
障害される段階 経路の序盤(ステロイド骨格の還元) 経路の終盤(側鎖酸化、CYP27A1)
責任遺伝子 HSD3B7(最多)・AKR1D1など CYP27A1
発症時期 〜乳児期から胆汁うっ滞 乳児期の下痢・小児期のを経て成人期に神経症状
蓄積するもの 輸送体で運べない異常胆汁酸 (腱・脳・)
・γ-GTP 正常〜低値 記載なし(血漿コレステロールが正常〜低値)
主病像 進行性肝障害・ ・・進行性神経障害
治療 またはCDCAの補充 CDCAの生涯補充

⚠️ 「CTXの続きの話」ではない。 CTXは経路の出口が詰まって毒性()が腱・脳・という末梢のへ長期間かけて蓄積する病気であるのに対し、ここで扱うは経路の入口付近が詰まって肝そのものがから直接傷害される病気である。臨床像も発症年齢も治療の緊急性もまったく異なる。

まとめ

  • 先天性異常症は、(・)の合成経路序盤が遺伝的に障害されるで、(HSD3B7遺伝子)が最多。はおよそ1,000万人に1人、原因不明のの1〜2%を占める。
  • 病態は二重——正常なが作れないうえに、肝毒性のある異常胆汁酸が蓄積して直接的な肝障害を招く。
  • 臨床像はからの胆汁うっ滞・・脾腫・で、症状発症の中央値は生後1か月。
  • ⭐ 診断の鍵は「胆汁うっ滞があるのに濃度とγ-GTPが正常〜低値」という。尿中・のマススペクトロメトリー分析と遺伝学的検査で確定する。
  • ⭐ またはCDCAの補充療法が有効で、ほど予後がよい(確定診断前のUDCA投与例は全例生存)。生後1か月以内の早い発症は転帰不良と関連するが、(ホモ/)は転帰と関連しない。
  • ⚠️ CTXとは経路の障害部位・発症時期・蓄積物質・主病像のすべてが異なる別の疾患である。 CTXの「延長」として学ばない。

出典

  1. 1.Prognosis and clinical characteristics of patients with 3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase deficiency diagnosed in childhood: A systematic review of the literature(Medicine (Baltimore)・2022)Europe PMC経由でPMC9282059の全文を取得して確認した。3β-ヒドロキシ-Δ5-C27-ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症が一次胆汁酸合成異常症のうち最も頻度の高い型でHSD3B7遺伝子(16p11.2、6コーディングエクソン、369アミノ酸)の変異により生じる常染色体劣性遺伝疾患であり、有病率はおよそ1,000万人に1人と推定され新生児・小児期の原因不明の胆汁うっ滞の1〜2%を占めること、3β-HSDがコレステロールからの一次胆汁酸(コール酸・ケノデオキシコール酸)合成の初期段階の鍵反応を触媒し欠損によりこの2つの一次胆汁酸が著減または完全に欠如する一方で肝毒性を持つ異常胆汁酸中間代謝産物が蓄積すること、この異常胆汁酸は毛細胆管輸送体でうまく輸送されず直接的な肝障害や炎症性因子の動員を招くこと、87例の解析で症状発症年齢の中央値が1か月(生後2日〜16.8年の範囲)で1か月以内の発症が60.3%(38/63例)・1年以内が87.3%(55/63例)を占め診断年齢の中央値は8.35か月(1か月〜17.2年)で5歳以下での診断が85.5%(53/62例)であったこと、主要な臨床像が胆汁うっ滞(92.0〜100%)・肝腫大(51.8%)・脾腫(23.2〜38.5%)で脂溶性ビタミン欠乏・脂肪性便・肋骨軟化症を伴い掻痒の有無は症例により異なること、特徴的な検査所見がトランスアミナーゼ上昇・高ビリルビン血症に加えて⭐ 血清胆汁酸濃度およびγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)が正常〜低値であることで通常の胆汁うっ滞性疾患のパターンと異なること、診断に質量分析法(MS)による尿中・血中胆汁酸プロファイル分析を用いること、65種類の病的変異が同定されエクソン1・4・5・6に70%超が位置しホモ接合体48.4%(30/62例)・ヘテロ接合体51.6%(32/62例)であったこと、治療薬としてケノデオキシコール酸(CDCA、用量例7〜18 mg/kg/日)が57.7%(45例)、コール酸(CA)が21.8%(17例)、CDCA+UDCAなどの併用療法が19.2%(15例)に用いられたこと、診断前にウルソデオキシコール酸(UDCA)を投与されていた11例は全例生存であったこと、自己肝生存が81.6%(71/87例)・肝移植または死亡が18.4%(16/87例)であったこと、症状発症年齢が予後規定因子となる可能性があり1か月以内発症の患者では肝移植/死亡群での割合(90.0%)が生存群(54.7%)より高かったこと、遺伝子型(ホモ/ヘテロ接合性)と臨床転帰の間には有意差が無かったこと(P=.42)を確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Orphacol (cholic acid) — European public assessment report(European Medicines Agency・2013)既存idを再利用。EUで承認されているコール酸製剤Orphacolの適応が「3β-ヒドロキシ-Δ5-C27-ステロイドオキシドレダクターゼ欠損症またはΔ4-3-オキソステロイド-5β-レダクターゼ欠損症による一次胆汁酸合成の先天異常の治療」でありペルオキシソーム病を含まないこと、対象年齢が生後1か月から成人までであること、承認が2013年9月12日付であること、用量が体重1 kgあたり1日5〜15 mgで患者ごとに胆汁酸の状態に応じて調整し1日最小50 mg・最大500 mgとされていることを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Cerebrotendinous Xanthomatosis(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2024)既存idを再利用。Europe PMC経由でNBK1409の全文XMLを取得して確認した(2024年11月14日最終改訂)。脳腱黄色腫症(CTX)がCYP27A1(ステロール27-水酸化酵素)の両アレル性病的変異によりミトコンドリアでのステロール側鎖酸化を介する一次胆汁酸合成経路が障害される疾患であり、乳児期からの慢性下痢・新生児胆汁うっ滞が最も早い臨床症状となりうること、確定診断がCYP27A1の遺伝学的解析であり他疾患と区別する生化学的異常が血漿・組織のコレスタノール高値、血漿コレステロールの正常〜低値、ケノデオキシコール酸(CDCA)の減少、胆汁アルコールとそのグリコ抱合体の増加、髄液中コレスタノールとアポリポタンパクBの増加であること、CDCAによる長期治療が血漿・髄液のコレスタノール濃度を正常化し神経生理学的所見を改善することを確認した。閲覧 2026-09-07