外科学

外科学 · S-34

代謝・肥満外科手術

Metabolic and bariatric surgery

前提:正常
消化管における調節:腸管神経系と消化管ホルモン
疾患
ダンピング症候群肥満症

🧠 全体像:手術は単なる胃容量制限ではなく、腸管ホルモン・胆汁酸・摂食行動を変えてと代謝疾患を長期管理する治療である。手術の成功は生涯の栄養・心理・外科フォローまで含む。

適応

2022年ASMBS/IFSO基準では、1991年の米国NIHが定めた 40または35+併存症という狭い基準から適応が拡大された1。

現行の考え方
35 kg/m²以上 併存症の有無・重症度にかかわらず推奨
30.0~34.9 kg/m² 代謝疾患があれば検討。で十分・持続的な減量や併存症改善が得られない場合も検討
アジア人集団 25 kg/m²以上をと捉え、 27.5 kg/m²以上では手術を提示する。国・地域の適応基準も確認する1

2型糖尿病、、MASH、心血管リスク、、不妊、生活の質を含めて利益を評価する。年齢だけを絶対にせず、高齢者はと臓器、青少年は成長・家族支援を専門チームで評価する。

「保存治療に失敗したこと」を 35 kg/m²以上の全例に必須条件とするのは現行基準ではない。ただし薬物療法を含む包括的治療歴、本人の理解、長期追跡可能性は確認する。

術前評価と延期・禁忌

  • 肥満内科、外科、麻酔、栄養、心理・精神、必要時循環器・呼吸器で評価する。
  • OSA、糖尿病、心血管疾患、歴、肝疾患、GERD、胆石、喫煙、妊娠計画を確認する。
  • 食行動、アルコール・物質使用、うつ・自殺リスク、認知能力、社会支援を評価する。
  • 活動性、治療されていない重篤な精神病、不足、生涯補充・追跡が不可能な状態では安全確保まで延期する。診断名だけで一律に永久禁忌としない。
  • 妊娠中は行わず、術後の急速減量期は妊娠を避ける。

主な術式

術式 機序・ 主な弱点
スリーブ状胃切除 胃の側を切除し化。腸管吻合なし 新規・増悪GERD、、狭窄、不可逆
胃バイパス 小胃嚢と空腸を吻合し十二指腸をバイパス。・逆流改善に強い 内ヘルニア、辺縁潰瘍、、鉄・B12・Ca欠乏
・十二指腸スイッチ スリーブ+長い小腸バイパス。最大級の減量・代謝効果 蛋白・欠乏、下痢。厳密な追跡が必須
胃上部をバンドで狭窄 長期減量不十分、・びらん・のため現在は減少

⭐ スリーブとバイパスの体重減少は同等でも、逆流の転帰は逆方向に動く。 スイス4施設217例のSM-BOSS試験5年成績では、過剰減少率はスリーブ61.1%・バイパス68.3%で有意差がなかったが、の寛解はバイパス60.4%対スリーブ25.0%、逆流の悪化はスリーブ31.8%対バイパス6.3%とスリーブで多かった2。GERDが強い、がある場合は胃バイパスが有利なことが多い。極端な肥満・高度糖尿病では十二指腸スイッチ系が強力だが、栄養リスクも最大である。術式はだけでなく逆流、糖尿病、摂食行動、薬剤吸収、既往手術、妊娠希望、追跡能力で選ぶ。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Obesity'>肥満症</span>と代謝合併症"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body mass index'>BMI</span>・合併症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-operative management, NOM'>非手術治療</span>反応を評価"]
    B --> C["栄養・心理・麻酔・OSA・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous thromboembolism'>VTE</span>・GERD評価"]
    C --> D{"安全に手術と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lifelong follow-up'>生涯追跡</span>が可能"}
    D -->|"いいえ"| E["可逆的リスクを治療し再評価"]
    D -->|"はい"| F["逆流・糖尿病・栄養リスクで術式選択"]
    F --> G["スリーブ・胃バイパス・十二指腸スイッチ等"]
    G --> H["早期合併症監視"]
    H --> I["生涯の補充・検査・心理行動支援"]

期待される効果

術式と観察期間で幅があるが、はおおむね25~35%が目安となる。2型糖尿病の血糖改善・寛解、高血圧、、OSAの改善に加え、適切に選択された患者では生活の質と長期生存の改善が期待できる。体重減少だけで成否を判断せず、代謝疾患、機能、生活の質、を継続評価する。

💡 糖尿病寛解は長期で目減りする。 米国の2型糖尿病・ 27〜43の150例を対象としたSTAMPEDE試験では、5年後に 6.0%以下を達成した割合は内科治療単独5%に対し胃バイパス29%・スリーブ23%と手術群で有意に高かったが、いずれも手術直後より寛解率は下がっており、も「治癒」ではなく長期のを前提に追跡する必要がある3。受容体作動薬(・など)の効果拡大により、両者は競合というより併用・順序の選択肢として現行のガイドラインに併記されている4。

合併症

早期

  • ステープル・漏、出血、、狭窄。
  • ・肺塞栓、、脱水。
  • 頻脈、発熱、腹痛、呼吸困難は漏・出血・肺塞栓を除外するである。

晩期

合併症 手掛かり・対応
内ヘルニア 胃バイパス後の間欠的・急性腹痛。陰性でも疑いが強ければ腹腔鏡評価
辺縁潰瘍 喫煙、、H. pylori。と原因除去
食後の・腹痛・下痢、。食事調整から開始
胆石 急速減量に伴う。症候性なら治療
GERD スリーブ後に増悪し得る。内視鏡評価、薬物、胃バイパスへの変更を検討
鉄、B12、葉酸、、Ca、ビタミンD、、蛋白不足

持続嘔吐に伴うでは、糖質投与前にを補充しを防ぐ。妊娠可能者では鉄・葉酸、を特に監視する。

生涯フォロー

  • 術式別のマルチビタミン、鉄、B12、Caクエン酸、ビタミンDなどを継続する。
  • 血算、鉄、B12、葉酸、電解質、肝腎機能、Ca、、ビタミンDを定期評価し、十二指腸スイッチ系では・蛋白も追う。
  • 体重再増加では解剖学的問題、摂食行動、睡眠、薬剤、精神心理を評価し、、内視鏡・を組み合わせる。
  • 、自殺・リスクを長期に確認する。

まとめ

  • 35 kg/m²以上では併存症を問わず手術を推奨し、 30~34.9 kg/m²でも代謝疾患や不十分なら検討する。
  • スリーブは逆流、胃バイパスは内ヘルニア・潰瘍・欠乏、十二指腸スイッチは高度に注意する。
  • 精神疾患名を一律禁忌とせず、活動性リスクと長期遵守可能性を評価する。
  • 生涯の栄養補充、検査、心理行動支援が手術そのものと同じく重要である。

出典

  1. 1.2022 American Society of Metabolic and Bariatric Surgery (ASMBS) and International Federation for the Surgery of Obesity and Metabolic Disorders (IFSO) Indications for Metabolic and Bariatric Surgery(Obesity Surgery・2023)1991年の米国NIH合意声明(BMI 40以上、またはBMI 35以上かつ重大併存症)を大幅に改定し、BMI 35 kg/m²超では併存疾患の有無・重症度を問わず代謝・肥満外科を推奨すること、BMI 30〜34.9 kg/m²でも代謝疾患があれば手術を検討すべきこと、アジア人集団ではBMIの閾値を調整しBMI 25 kg/m²超を臨床的肥満、BMI 27.5 kg/m²超では手術を提示すべきこと、長期成績が一貫して安全性・有効性を示すこと、適切に選ばれた小児・青少年も手術対象になりうることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Effect of Laparoscopic Sleeve Gastrectomy vs Laparoscopic Roux-en-Y Gastric Bypass on Weight Loss in Patients With Morbid Obesity: The SM-BOSS Randomized Clinical Trial(JAMA・2018)スイス4施設217例(高度肥満)を対象とした無作為化比較試験(SM-BOSS)の5年成績で、過剰BMI減少率はスリーブ状胃切除61.1%対Roux-en-Y胃バイパス68.3%で有意差なし、胃食道逆流の寛解はバイパス群60.4%対スリーブ群25.0%とバイパスで多く、逆流の悪化はスリーブ群31.8%対バイパス群6.3%とスリーブで多かった閲覧 2026-08-26
  3. 3.Bariatric Surgery versus Intensive Medical Therapy for Diabetes - 5-Year Outcomes(The New England Journal of Medicine・2017)2型糖尿病・BMI 27〜43の150例を強化内科治療単独、強化内科治療+胃バイパス、強化内科治療+スリーブ状胃切除に無作為化したSTAMPEDE試験の5年成績で、HbA1c 6.0%以下(薬剤使用の有無を問わず)を達成した割合は内科治療単独5%に対し胃バイパス29%・スリーブ23%と有意に高かったが、手術2群とも試験開始時より寛解率は目減りしていた閲覧 2026-08-26
  4. 4.8. Obesity and Weight Management for the Prevention and Treatment of Diabetes: Standards of Care in Diabetes-2026(American Diabetes Association・2026)2型糖尿病を伴う過体重・肥満では減量効果の大きいセマグルチドまたはチルゼパチドを優先する(推奨8.18、グレードA)一方、2型糖尿病でBMI 30.0 kg/m²以上(アジア系米国人では27.5 kg/m²以上)では代謝外科手術も考慮する(推奨8.22、グレードA)としており、GLP-1受容体作動薬と代謝外科がともに現行推奨に含まれることを確認した閲覧 2026-08-26