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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

脂肪萎縮症

Lipodystrophy

別名
リポジストロフィー家族性部分性脂肪萎縮症FPLD後天性部分性脂肪萎縮症APLBarraquer-Simons症候群
臓器系
内分泌・代謝皮膚
科目
Translational Medicine and Pathophysiology
トピック
病態生理学 1-7:肥満の全身性影響
鑑別疾患
クッシング症候群注射部位の脂肪肥厚・脂肪萎縮
合併症
2型糖尿病非アルコール性脂肪肝疾患急性膵炎膜性増殖性糸球体腎炎
治療薬
メトレレプチン
検査値
脂質パネルHbA1cインスリン
下位分類
全身性脂肪萎縮症
適応薬
メトレレプチン

🧠 全体像:を理解する一点は⭐ 「脂肪組織は“代謝の受け皿”であり、それを失うと余った脂肪の行き場がなくなる」ことである。健康な人では食後の余剰エネルギーを組織がトリグリセリドとして貯め込む。脂肪組織そのものが先天的・後天的に欠けているでは、この受け皿が無いために脂肪が肝臓・筋肉・膵臓など本来脂肪を貯める場所ではない臓器()へあふれ出し、著明なインスリン抵抗性・・を来す1。⚠️ 「痩せている=代謝が健康」ではない典型例である。 見た目は痩せていても、脂肪組織を失った代償として代謝面では肥満以上に重症のインスリン抵抗性を抱えることが多い。分類の軸は2つ——先天性か後天性か、全身性か部分性か——で、この2×4のマトリクスを押さえれば個々のは位置づけやすい。

分類——先天性/後天性 × 全身性/部分性

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipodystrophy'>脂肪萎縮症</span>"] --> B{"先天性か後天性か"}
    B -->|"先天性(遺伝子変異)"| C{"全身性か部分性か"}
    B -->|"後天性(原因不明・自己免疫が仮説)"| D{"全身性か部分性か"}
    C -->|"全身性"| E["先天性全身性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipodystrophy'>脂肪萎縮症</span><br>CGL(Berardinelli-Seip症候群)"]
    C -->|"部分性"| F["家族性部分性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipodystrophy'>脂肪萎縮症</span><br>FPLD(Dunnigan型など)"]
    D -->|"全身性"| G["後天性全身性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipodystrophy'>脂肪萎縮症</span><br>AGL(Lawrence症候群)"]
    D -->|"部分性"| H["後天性部分性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipodystrophy'>脂肪萎縮症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute promyelocytic leukemia'>APL</span>(Barraquer-Simons症候群)"]
型 略称 脂肪欠如の分布 原因
先天性全身性 CGL ほぼ全身 AGPAT2・BSCL2・CAV1・PTRF/CAVIN1()
家族性部分性 FPLD 四肢(下肢に多い)、顔面・頸部・腹部へ代償性に脂肪蓄積 LMNA(Dunnigan型)・PPARG・PLIN1・CIDEC・LIPE等
後天性全身性 AGL(Lawrence症候群) 後天的に全身性 不明。汎型・自己免疫型・特発型に分かれる2
後天性部分性 (Barraquer-Simons症候群) 頭尾方向(頭部→上肢→体幹)に進展し、・下肢は保たれる 不明。多くは陽性でを合併しやすい2

⭐ CGLはさらにでが分かれ、脂肪組織欠如の“徹底度”と随伴症状が変わる。

CGL 遺伝子 特徴
CGL1 AGPAT2() 眼窩・手掌・足底などの機械的脂肪組織は保たれる
CGL2 BSCL2(seipin、蛋白) 機械的脂肪組織を含め全脂肪組織を欠く。知的障害・心筋症の頻度が高い
CGL3 CAV1(caveolin-1) 骨髄脂肪は保たれる。ビタミンD抵抗性・・を伴う
CGL4 PTRF/CAVIN1(caveolae調節) 筋障害・を伴い、運動誘発性心室不整脈による突然死のリスクが高い

1

⚠️ 各型ともきわめてまれである。 先天性全身性のはおよそ20万人に1人〜1200万人に1人と幅があり、後天性部分性は世界でおよそ250例が報告されているにすぎない2。

病態生理——「代謝の受け皿」を失うということ

flowchart TD
    A["脂肪組織の量的・機能的欠如<br>(先天性の分化障害/後天性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>破壊)"] --> B["脂肪を貯蔵する場所そのものが無い"]
    B --> C["食後の余剰エネルギーを<br>脂肪組織へ蓄えられない"]
    C --> D["肝臓・筋肉・膵臓への<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic fat'>異所性脂肪沈着</span>"]
    D --> E["著明なインスリン抵抗性"]
    C --> F["循環トリグリセリドの著明な上昇<br>(食後脂肪処理不全)"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>由来ホルモン<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leptin'>レプチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adiponectin'>アディポネクチン</span>)の分泌著減"]
    G --> H["摂食<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory signal'>抑制シグナル</span>の喪失<br>→ 著明な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperphagia'>過食</span>"]
    G --> E
    E --> I["早期発症の糖尿病"]
    D --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty liver'>脂肪肝</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatohepatitis'>脂肪肝炎</span>"]
    F --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pancreatitis'>急性膵炎</span>のリスク"]

⭐ は「」である。 原発的な欠陥は機能的の喪失そのものにあり、過剰なエネルギーを脂肪組織に貯蔵できないことがインスリン抵抗性の主因になる1。💡 肥満のインスリン抵抗性と、のインスリン抵抗性は、機序の向きが逆で結果が同じになる好例である。 肥満では脂肪組織が過剰に拡大しきれずがあふれ、では脂肪組織という受け皿自体が最初から(あるいは破壊されて)無いためにがあふれる——どちらも「脂肪を正しい場所に貯められない」という一点に帰着する。

レプチン欠乏という第二の軸

⭐ 脂肪組織はエネルギーを貯めるだけでなく、を分泌して脳へ「足りている」と伝える内分泌臓器でもある。 脂肪組織を失うと・の分泌が著減し、が本来持つ摂食抑制・のからの保護・骨格筋での改善・抑制という作用が失われる1。この結果、患者はしばしばvoracious appetiteと表現されるほどの著明なを示し、これがさらにインスリン抵抗性を助長する悪循環を作る。この軸がもっとも極端に現れるのが、をほぼ全身で失う全身性(CGL・AGL)であり、部分性の型よりインスリン抵抗性・が高度になりやすい。

診断

臨床診断の柱は身体所見との組み合わせである。

  • 身体所見:四肢を中心としたの喪失。の菲薄化(スキンフォールド厚が目安になる)
  • :早期発症のインスリン抵抗性糖尿病、治療抵抗性の著明な(500 mg/dL以上)、肝脂肪症
  • 画像診断:・・で脂肪組織量とその分布を評価
  • 遺伝学的検査:全/でCGL・FPLDのを確認する1

治療——メトレレプチン補充

⭐ 失われているのが「脂肪という受け皿」だけでなく「というシグナル」でもある以上、をそのまま補充するという治療が理にかなう。 は2014年に米国で先天性全身性(CGL)・後天性全身性(AGL)に承認され、欧州・英国・カナダ・ブラジルでは12歳以上で標準治療に反応しない部分性にも承認されている1。

1年間の治療効果は次のとおり報告されている1。

指標 CGL(全身性) 部分性
平均-2.2%(ベースライン7%以上の群で-2.8%) 平均-0.6%(高値群で-0.9%)
トリグリセリド -32.1%(500 mg/dL以上の群で-72%) -20.8%(高値群で-37.4%)
治療反応率 約75〜80% 約61%(ベースラインの低値群ほど反応しやすい)

は33.8%減少し、の改善・インスリン投与量の50%以上の減量・蛋白尿の減少・の改善が報告されている1。

⚠️ の急な中止はの誘因になりうるため、自己判断での中断をさせない指導が要る1。

合併症

⭐ 合併症のほとんどは「」という一つの機序から説明できる。

⚠️ 後天性部分性(Barraquer-Simons症候群)には固有の合併症がある。 大多数の患者が陽性を示し、を最大22%に合併する2。これはインスリン抵抗性の経路とは別に、補体制御異常という独立した機序で生じる合併症であり、他の型と一律に語れない。

鑑別

疾患 見分け方
顔面・体幹への脂肪蓄積は似るが、四肢の脂肪も通常保たれ、・・などステロイド過剰の所見を伴う
注射部位の・ 局所(注射部位)に限局した現象で、全身の代謝合併症を来さない。は全身性または広範な部分性の脂肪喪失と著明な代謝異常を伴う点で異なる

まとめ

  • ⭐ は脂肪組織という「代謝の受け皿」の喪失で、余った脂肪が肝臓・筋肉など異所性に沈着してインスリン抵抗性・・を来す。
  • 分類は先天性/後天性 × 全身性/部分性の2軸。CGL(Berardinelli-Seip症候群)・FPLD(Dunnigan型など)・AGL(Lawrence症候群)・(Barraquer-Simons症候群)の4型に大別される。
  • CGLはAGPAT2・BSCL2・CAV1・PTRF/CAVIN1のでが分かれ、脂肪欠如の徹底度と随伴症状(知的障害・心筋症、ビタミンD抵抗性、不整脈によるなど)が異なる。
  • ⭐ 脂肪組織の喪失は欠乏も意味し、著明なとインスリン抵抗性の悪循環を作る。
  • 治療の柱はによる補充療法で、全身性で反応率約75〜80%、部分性で約61%。急な中止はの誘因になりうる。
  • ⚠️ 後天性部分性は補体制御異常を介してを最大22%に合併する、他の型と機序が異なる固有の合併症を持つ。

出典

  1. 1.Lipodystrophy Syndromes: Presentation and Treatment(Endotext (MDText.com, Inc.)・2024)脂肪萎縮症を先天性全身性脂肪萎縮症(CGL、原因遺伝子AGPAT2・BSCL2・CAV1・PTRF/CAVIN1、常染色体劣性)・家族性部分性脂肪萎縮症(FPLD、原因遺伝子LMNA・PPARG・PLIN1・CIDEC・LIPE等)・後天性全身性脂肪萎縮症(AGL、原因不明で自己免疫が仮説)・後天性部分性脂肪萎縮症(APL)の4型に分類すること、CGLがサブタイプごとに脂肪組織欠如の分布や随伴症状が異なりCGL1(AGPAT2)は機械的脂肪組織(眼窩・手掌・足底)が保たれCGL2(BSCL2/seipin)は機械的脂肪も含め全脂肪組織を欠き知的障害・心筋症の頻度が高くCGL3(CAV1)は骨髄脂肪が保たれビタミンD抵抗性・低カルシウム血症・低マグネシウム血症を伴いCGL4(PTRF/CAVIN1)は筋障害・幽門狭窄・運動誘発性心室不整脈による突然死リスクが高いこと、脂肪萎縮症が脂肪分配障害(lipid-partitioning disorder)であり原発的な欠陥が機能的脂肪細胞の喪失にあること、過剰なエネルギーを脂肪組織に貯蔵できないことがインスリン抵抗性の主因であり異所性脂肪沈着(肝臓など)・循環トリグリセリドの著明な上昇・食後脂肪処理不全を来すこと、脂肪細胞からのレプチン・アディポネクチン分泌が著減しレプチンが摂食調節・膵β細胞の脂肪毒性からの保護・骨格筋でのインスリン感受性改善・肝糖新生抑制という役割を持つためレプチン欠乏が著明な過食(voracious appetite)とインスリン抵抗性を助長すること、診断が四肢の皮下脂肪喪失などの身体所見・早期発症のインスリン抵抗性糖尿病・治療抵抗性の著明な高トリグリセリド血症(500 mg/dL以上)・肝脂肪症といった臨床所見に基づき遺伝学的検査で確定されること、メトレレプチンが2014年に米国FDAで先天性および後天性全身性脂肪萎縮症に承認され欧州・英国・カナダ・ブラジルでは12歳以上の標準治療抵抗性の部分性脂肪萎縮症にも承認されていること、1年間の治療でCGLはHbA1c平均-2.2%・トリグリセリド-32.1%、部分性脂肪萎縮症はHbA1c平均-0.6%・トリグリセリド-20.8%の改善が得られ肝容積が33.8%減少したこと、CGLでは約75〜80%・部分性脂肪萎縮症では約61%が治療反応を示したこと、メトレレプチンの急な中止が急性膵炎の誘因になりうることを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.Lipodystrophies(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)後天性部分性脂肪萎縮症(Barraquer-Simons症候群)が小児期に上半身・体幹部から脂肪萎縮が始まり頭尾方向(頭部→上肢→体幹)に進展し代償性に殿部・下肢への脂肪蓄積を来すこと、大多数の患者が循環中にC3腎炎因子を有し膜性増殖性糸球体腎炎の合併率が最大22%に達すること、後天性全身性脂肪萎縮症(Lawrence症候群)が汎脂肪織炎型・自己免疫型・特発型の3病型にさらに分類されること、家族性部分性脂肪萎縮症(Dunnigan型)がラミンA/Cをコードする遺伝子(LMNA)の異常に関連し四肢(上肢より下肢に多い)の脂肪喪失と顔面・頸部・腹部への脂肪蓄積という対照的な分布を呈すること、各型がきわめてまれで先天性全身性脂肪萎縮症の有病率がおよそ20万人に1人〜1200万人に1人、後天性部分性脂肪萎縮症は世界で約250例の報告にとどまることを確認した閲覧 2026-09-07