症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

同名半盲

Homonymous hemianopia

別名
同名性半盲同名半盲症
臓器系
神経眼科
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-01:視力低下の神経学的原因と視野欠損神経内科 G2-12:側頭葉・後頭葉障害の症候神経学 G2-24:脳循環とその調節
関連疾患
一過性脳虚血発作進行性多巣性白質脳症脳梗塞

🧠 全体像:視交叉より後ろの病変では、両眼の同じ側の視野が同じように欠ける——この一点さえ押さえれば、の形を見ただけでの高さをかなり絞り込める。まず単眼性か両眼性かを分け、両眼性なら(両眼とも同じ側が欠ける)か(両耳側が欠ける)かを分ける。視力そのものの低下やの鑑別はに譲り、ここでは視野の形と局在に絞る。

定義と用語の整理

は、両眼で右または左の同じ側の視野半分が欠ける状態で、視交叉より後方()の病変を意味する。片方の眼だけの(単眼性)は視交叉より前の網膜・視神経病変を示唆し、を伴うことが多いための鑑別に委ねる。

の型 侵される範囲 示唆する病変の高さ
単眼性 片方の眼だけ 網膜・視神経(視交叉より前)。中心を伴いやすい
両眼の耳側(外側)視野 視交叉そのもの(下垂体腫瘍など)
両眼の同じ側の視野半分 視交叉より後ろ——からまで
の一だけ の部分病変(または

💡 視交叉で鼻側網膜からの線維だけが交叉するため、視交叉より後ろのどこか一箇所が障害されると、左右それぞれの眼から来た「同じ側」を映す線維がまとめて巻き込まれる。両眼という形そのものが、病変が視交叉の後ろにあることを教えてくれる。

病態生理

から皮質までのどの高さが障害されたかで、欠損の形と随伴所見が変わる。

flowchart TD
    A["視交叉より後方の病変"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic tract'>視索</span>"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral geniculate nucleus / LGN'>外側膝状体</span>"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic radiation'>視放線</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal lobe'>側頭葉</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meyer&#39;s loop'>Meyer係蹄</span>"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic radiation'>視放線</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal lobe'>頭頂葉</span>線維"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='occipital lobe'>後頭葉</span>皮質"]
    B --> B1["不完全でやや不一致な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous hemianopia'>同名半盲</span><br>対側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative afferent pupillary defect (RAPD)'>相対的瞳孔求心路障害</span>を伴いやすい"]
    C --> C1["比較的一致度が中間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous hemianopia'>同名半盲</span>"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous superior quadrantanopia'>同名上四分盲</span>"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous inferior quadrantanopia'>同名下四分盲</span>"]
    F --> F1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concordance'>一致性</span>の高い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous hemianopia'>同名半盲</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular sparing'>黄斑回避</span>を伴うことがある"]
障害部位 のパターン 局在の手がかり
不完全・不一致(incongruous)な 対側のを伴いやすい
、一致度は中間 単独病変はまれ。領域で・半身感覚障害と組み合わさる
(“pie in the sky”) 病変。てんかん・など症候の併存を確認する
(“pie on the floor”) 病変。を合併しうる
皮質 の高い などの領域に多い

が高いほど、病変は後方(に近い)にある。 のように視交叉に近い病変では左右の眼で欠損の形がずれやすく(不一致)、皮質に近づくほど左右の眼で欠損の形がそろう(一致)。この読み方だけで、画像を見る前にの前後をおおまかに推定できる。

(macular sparing)は病変を示す手がかりだが、必発ではない。後頭極がだけでなくからのも受けやすいことが一因とされ、の乏しい例や広範な梗塞ではを伴わない。「がない=病変を否定」とはできない。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 急性発症のは脳卒中として扱う。 明らかなを伴わなくても、突然出現した領域または、まれに視床・による局所神経症候でありうる。だけを理由に画像検査を後回しにせず、発症時刻を確認して急いで評価する。

⚠️ そのものを患者がしないことがある。 「物にぶつかる」「文章の途中で読み落とす」といった生活上の変化から見つかることが多く、視野の半分が見えていないこと自体を訴えない例は珍しくない。これはと紛らわしいが、は視野というそのものの欠損であるのに対し、は視野が保たれていても対側空間への注意配分が崩れるであり、両眼同時刺激で片側だけが消えるの有無や、頭部・眼球を欠損側へ向けさせたときに見え方が変わるかで区別する。詳細はの項に委ねる。

⚠️ 緩徐進行のは脳卒中だけで思考停止しない。 数週〜数か月かけて進行する経過は、などを示唆する。急性発症とのの違いが最初の切り分けになる。

⚠️ 両側病変では、ではなくになる。 や眼底が保たれたまま両眼とも見えなくなり、患者がして見えているかのように振る舞うを伴うことがある。片側性のとは対応が異なるため取り違えない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["視野が欠けている、または生活上の異常に気づかれた"] --> B{"片眼だけか両眼か"}
    B -->|"片眼だけ"| C["視神経・網膜病変として評価"]
    B -->|"両眼"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous'>同名性</span>か両耳側性か"}
    D -->|"両耳側性"| E["視交叉病変を評価"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous'>同名性</span>"| F{"発症は急性か緩徐性か"}
    F -->|"急性・持続"| G["脳卒中として画像検査を急ぐ"]
    F -->|"緩徐進行"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass lesion'>占拠性病変</span>を疑いMRIで評価"]
    F -->|"数分〜1時間で消退する一過性"| I["片頭痛<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aura'>前兆</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='occipital lobe'>後頭葉</span>発作・TIAを鑑別"]

での視野検査(両眼それぞれの視野を大まかに確認)でまず異常のパターンを掴み、疑いが強ければによるで欠損の形とに記録する。両眼同時刺激を行い、片側だけが消えるかどうかでによると単純なを区別する。

一過性の視覚症状では、数分かけて広がるきらめくや陽性視覚現象を伴えば片頭痛を、突然発症し短時間で消退する単純な光・色のを伴えばを、持続して消えなければ脳卒中(を含む)を考える。視野症状に併存するの切り分けはに委ねる。

対応の考え方

そのものを直接治す治療はなく、対応の中心は原因治療と、欠損した視野を補うアプローチの二本立てになる。急性発症であればとしての急性期治療と再発予防を、緩徐進行であればの精査と治療を並行する。

視野そのものへの介入としては、で欠損側の像を残存視野へずらして気づきやすくする方法と、頭部・眼球を欠損側へ意識的に動かすがあり、いずれも視野そのものを回復させるのではなく残存視野の使い方を補う手段である。

💡 欠損側によってへの影響が異なる。・英語のように左から右へ読む言語では、右は次に読む文字が見えないため読み進めが止まりやすく、左は行の先頭に戻る動作が難しくなる。同じ「障害」でも欠損側で困り方が違うため、リハビリの訓練方法も欠損側に合わせて調整する。

生活面では自動車運転の可否が重要な論点になる。日本の適性試験には両眼視野そのものの数値基準は置かれておらず(「他眼の視野が左右150度以上」という条件は、一眼が見えない場合や一眼の視力が基準に満たない場合に課されるものである)、だけを理由に一律に不可とはならない。一方で欠損側から接近する・車両に気づけないという実害は大きく、患者本人が欠損をしていないことも多いため、自己申告に頼らず医療機関での正式な視野検査と、公安委員会・安全運転相談窓口での判断に委ねる。

まとめ

  • 視交叉より後ろの病変では両眼の同じ側の視野が欠ける。まず単眼性か両眼性か、(両耳側性)かを分けると局在が絞れる。
  • が前方()ほど左右の欠損の形がずれ(不一致)、後方()ほどそろう(一致)。の高さが前後の目安になる。
  • の病変での病変でを生じる。
  • 病変を示唆する手がかりだが必発ではなく、病変の対側とあわせて局在の補助にする。
  • 急性発症は脳卒中として画像検査を急ぎ、緩徐進行ならを疑う。一過性なら片頭痛を鑑別する。
  • 患者本人がしないことがあり、との違いはの有無で区別する。
  • 対応は原因治療と、による代償が中心で、運転可否は自己申告でなく正式な視野検査で判断する。