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Symptoms · Published

半側空間無視

Hemispatial neglect

別名
半側無視半側空間失認USN
臓器系
神経
科目
NeurologyRehabilitation
トピック
神経内科 G2-14:頭頂葉障害の症候神経内科 G2-15:大脳半球優位性と機能的左右差の臨床的意義リハビリテーション 05:脳卒中のリハビリテーション:神経・高次脳機能後遺症・目的・チーム医療
関連疾患
脳梗塞脳内出血(非外傷性)

🧠 全体像は「見えない」のでも「動かせない」のでもなく、「対側の空間に注意を向けられない」という注意そのものの障害である。感覚も視野も運動も保たれているのに、対側の刺激に気づかず、目を向けず、反応しない。この非対称性は(多くは右)の病変で強く出るため、右半球の脳卒中では見た目の麻痺以上にADLとリハビリテーションを損なう主因になりやすい。

定義と用語の整理

(hemispatial neglect、、unilateral spatial neglect: USN)は、病変と反対側の空間に呈示された刺激に気づき、注意を向け、反応することが障害された状態である。一次感覚障害・のいずれによっても説明できない点が定義の核心であり、これらが併存していても、それだけではの重症度を説明しない。

鑑別 障害される機能 手がかり
対側空間への気づき・注意配分(注意そのもの) 一次感覚・視野は保たれるのに対側を見落とす。指摘されても自分では気づかず、に頭部・眼球を動かさない
視覚経路そのもの( 「見えない」ことをし、頭部を振って代償しようとする。視野検査で境界の明瞭な欠損が出る。視野の詳細はそちらのノートに委ねる
触覚・などの体性感覚経路 単純な感覚検査で対側の低下が出る。注意を向けさせれば気づけることがあるとは異なり、感覚そのものが入らない
そのもの 麻痺がなくてもは起こりうるし、麻痺があってもを伴わないことも多い。併存はするが同義ではない
学習済み行為の組み立て は「気づかない」、は「気づいていても組み立てられない」。としてのの枠組みはそちらのノートに委ねる

💡 患者本人はをほとんど訴えない。「皿の片側だけ食べ残す」「を対側の壁にぶつける」「髭を片側だけ剃り忘れる」といった行動を家族や医療者が指摘して初めて気づかれることが多く、この非性そのものが、後述すると地続きの所見である。

病態生理

(多くの右利きでは右半球)の、特にの病変で強く出て、対側(左)空間がされる。これは、右半球が左右両方の空間への注意を担うのに対し、左半球は主に右空間しか担当しないという、注意ネットワークの非対称性による。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nondominant hemisphere'>非優位半球</span>(多くは右)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal lobe'>頭頂葉</span>病変"] --> B["右半球が担っていた<br>両側空間への注意ネットワークが失われる"]
    B --> C["左半球はもともと右空間しか担当していない"]
    C --> D["左空間への注意配分が失われる<br>=強く目立つ左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemispatial neglect'>半側空間無視</span>"]
    E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant hemisphere'>優位半球</span>(多くは左)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal lobe'>頭頂葉</span>病変"] --> F["右半球の両側空間注意ネットワークは保たれる"]
    F --> G["右半球が右空間の注意を代償する"]
    G --> H["右空間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neglect'>無視</span>は軽度・一過性になりやすい"]

の観点では、病変でが前景に立つのに対し、病変ではの障害が前景に立つという相補的な対比になる。

型は、どの空間・どの感覚・どの機能が障害されるかで整理できる。

分類軸 特徴
空間性 手の届かない周囲空間・部屋全体の対側をする
空間性 手の届く範囲(食器・動作など)の対側をする
空間性 身体部位に対する(personal neglect) 自分の左半身の存在そのものを意識しない。整容・更衣が片側だけになる
感覚 視覚性・触覚性・聴覚性 ごとに程度が異なりうるため、視覚だけでなく触覚・聴覚でも個別に評価する
運動性 対側への到達・探索運動そのものの開始・動員が障害される。感覚的な気づきは比較的保たれることがある
表象性 記憶の中の情景を思い浮かべても対側の要素が抜け落ちる(例:見慣れた広場を回想して片側の建物だけ挙げられない)

は、片側だけの刺激には気づけるが、両側に同時刺激を与えると対側の刺激だけを認識できなくなる現象で、の残存所見として位置づけられる。片側刺激だけの検査では検出できないため、両側同時刺激を必ず行う。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 急性発症は右の脳卒中として扱う。 突然出現した左は、明らかな左を伴わなくても、非優位(多くは右)半球による局所神経症候でありうる。の時間枠に乗るかどうかを最優先で判断し、という一見「命に関わらなそうな」所見の解釈に時間をかけて画像検査を遅らせない。

⚠️ がなくてもADLとリハビリテーションを著しく阻害する。 食事を皿の片側だけ残す、を対側の壁や人にぶつける、対側からの接近や危険物に気づかないなど、は麻痺以上に生活の安全を脅かしうる。急性期の脳卒中診療では明らかなのほうへ注意が向きやすく、は見落とされやすい。

⚠️ (麻痺の存在を認めない)の併存を確認する。 を来す病変では、対側の麻痺そのものをするを伴うことがある。患者は「動く」と言い張って介助なしに立ち上がろうとし、転倒のリスクが高まる。・医療者への安全指導が欠かせない。

⚠️ だけの軽症例を、片側刺激だけの検査で見逃さない。 明らかなが消えたように見えても、両側同時刺激でだけ対側刺激が消えるが残っていることがある。片側刺激の検査だけで「なし」と判断しない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["対側への見落とし・気づきの悪さを疑う"] --> B{"視野検査で境界明瞭な欠損があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous hemianopia'>同名半盲</span>を考慮する"]
    B -->|"なし"| D{"一次感覚障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor paralysis'>運動麻痺</span>だけで説明できるか"}
    D -->|"できる"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatosensory impairment'>体性感覚障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemiplegia'>片麻痺</span>の症候として評価する"]
    D -->|"できない"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='line bisection test'>線分二等分試験</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cancellation test'>抹消試験</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copying (figure)'>模写</span>を実施する"]
    F --> G{"片側刺激でも見落とすか"}
    G -->|"片側でも見落とす"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemispatial neglect'>半側空間無視</span>と判定する"]
    G -->|"両側同時刺激でだけ見落とす"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extinction phenomenon'>消去現象</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mild form'>軽症型</span>)と判定する"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anosognosia'>病態失認</span>の有無を確認する"]
検査 方法 見るポイント
水平線の中点を指し示させる 対側へ寄れず、方向へ偏った点を選ぶ
線分 用紙に散らばる線・星印をすべて消させる 対側の見落としが多い。星印抹消のほうが感度が高いとされる
(時計・花などの図形) 見本をさせる 対側の要素の脱落、要素がへ密集する
両側同時刺激 視覚・触覚刺激を左右同時に呈示する 片側刺激では検出できないを検出する

単一の検査だけでは重症度も型も分からないため、複数の検査を組み合わせて評価する。急性期にはの項目が簡便なスクリーニングになるが、それだけでADLへの影響までは分からず、詳細なの代わりにはならない。

対応の考え方

そのものへの根本治療は確立されていないが、リハビリテーションのいくつかの介入が有効性を示している。は、視野を右方向へずらすをかけてポインティング課題を繰り返す方法で、・抹消課題の成績を改善させる。ただし効果が短期にとどまることも多く、単独で十分とは言えない。は、対側へ意識的に眼球運動・視線を向ける練習を繰り返すトップダウンの方法で、と組み合わせて用いられることが多い。これらに加え、環境調整(物品を最初は寄りに置き、対側へ徐々に慣らす)とへの指導(声かけや接近をからだけに偏らせず、対側への注意を促す)がADLの安全確保に直結する。の有無は脳卒中後の機能予後・在院期間を左右する因子であり、と並んで、能動的に確認すべき脳機能評価の対象である。

まとめ

  • は対側空間への気づき・注意配分の障害であり、一次感覚障害・そのものではない。
  • (多くは右)の病変で強く出て、右半球が両側空間の注意を担うため、左が典型的で重くなりやすい。
  • とは異なり、患者は見落としに気づかずに頭部を動かさない。
  • 型は個人外空間性・身体近傍空間性・身体部位性()、視覚性・触覚性・聴覚性、運動性、表象性に整理できる。
  • (両側同時刺激でだけ対側刺激が消える)はで、片側刺激だけの検査では見逃す。
  • 麻痺そのものをするを伴うと、介助なしに立ち上がろうとして転倒のリスクが上がる。
  • 急性発症はとして画像検査を急ぎ、がなくてもADL・リハビリテーションを強く阻害する。
  • 診察は・両側同時刺激で行い、対応は・環境調整と指導が中心となる。