脳神経内科学

脳神経内科学 · G2-26

一過性脳虚血発作

G2-26: TIA

前提:病態
脳血管障害(低酸素・虚血・梗塞)
前提:正常
中枢神経・神経解剖:血液供給
疾患
一過性脳虚血発作頭蓋内動脈硬化性病変
症状
一過性黒内障光視症閃輝暗点
スコア
ABCD2スコアABCD3-Iスコア

🧠 全体像:は、脳・脊髄・網膜のによる神経機能障害で、を伴わない。症状が消えても直後のリスクが高いため、「治った発作」ではなく緊急の脳卒中として扱う。

定義と病態

現在は症状ではなく、組織障害の有無に基づく1。短時間で完全に回復してもでがあればであり、とはしない。一方、が直ちに利用できない状況でも臨床的に疑えば評価とを遅らせない。

主な機序 代表的背景
頸動脈・頭蓋内動脈の
心房細動、、弁膜症
高血圧、糖尿病、
高度、低血圧

典型症状

突然発症し、単一に対応するが典型である。

  • 片側の顔・上肢・下肢の脱力または
  • 、
  • 片眼の一過性視力消失()
  • 、、失調などの症状

徐々に広がる陽性視覚症状やは、反復する律動性運動は発作、失神前の・発汗はを示唆する。ただし病歴だけで断定しない。

鑑別診断

鑑別の手掛かり
が数分かけて進展し、様式が変化する
焦点てんかん発作・ 陽性運動・、意識変容、舌咬傷、混乱
低血糖 発汗、振戦、行動変化。血糖測定で確認
失神 姿勢・誘因、、短いと速い回復
単独の回転性めまいが中心。ただし虚血を安易に除外しない
機能性神経症状 解剖学的に一貫しない所見がありうるが、脳卒中除外後に診断する

緊急評価

flowchart TD
    A["一過性の局在神経症状"] --> B["発症時刻・症状・血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication history'>薬歴</span>を確認"]
    B --> C["脳卒中専門評価を24時間以内に実施"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffusion-weighted imaging'>DWI</span>を優先し必要時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>"]
    C --> E["頸動脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracranial vessels'>頭蓋内血管</span>を評価"]
    C --> F["心電図・心房細動検索・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic'>心原性</span>評価"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute infarct'>急性梗塞</span>ありなら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic stroke'>虚血性脳卒中</span>"]
    D --> H["梗塞なしでも原因検索と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary prevention'>二次予防</span>"]

ABCD2は年齢、血圧、、、糖尿病からなる短期リスク指標だが、やを十分に捉えず、の診断にもならない。

⚠️ 現行のガイドラインは、スコアで紹介のを決めることを推奨していない。 欧州脳卒中機構(ESO)はで予測ツールを単独で用いて高リスク例の同定・・治療判断を行わないことを提案し(介入に反対する弱い推奨、エビデンスの質は非常に低い)2、英国は「ABCD2などのスコアリングシステムを、その後のの評価や紹介のの判断に用いない」と明記している(推奨1.1.6)3。代わりには、禁忌がなければアスピリン300mg日量を直ちに開始し、発症から24時間以内に専門医の評価と検査を受けられるよう直ちに紹介することを求めており(推奨1.1.4・1.1.5)3、ESOも専門医評価を24時間以内に行うことを強く推奨している2。⭐ それでもが残っているのは、2剤併用の適応を指すラベルとしてである——用途を混ぜない。

⚠️ の識別能には限界がある。 16,070例を含む33件の研究のでは、7日以内脳卒中に対するは0.70にとどまり、が低い状況や非専門医が用いる場合はスコアによる確率修正の意義がさらに乏しいと報告されている4。カナダの8で2056例を前向きに検証した研究でも、高リスクとされるスコア5超の7日以内脳卒中に対する感度はわずか31.6%にとどまり、判定者によるは0.56〜0.65と低かった——低スコアに分類されても脳卒中を来す例が相当数含まれていたことになる5。低スコアを根拠に帰宅や評価延期を決めず、すべてのを迅速に専門評価する。

💡 スコアより評価の速さが再発率を左右する。 英国の地域住民ベース研究では、・軽症脳卒中の紹介から専門外来評価までの遅延を中央値3日から1日未満に短縮し、初回受診時に治療をただちに開始するへ変えたところ、90日以内の脳卒中再発リスクが約80%減少した6。近年の脳卒中対応の整備は、後の実際の脳卒中発症率を下げてきた可能性がある。

二次予防

治療は画像で出血を除外し、病因と禁忌を確認して選択する。

  • 非ではを用いる。発症24時間以内の高リスク(4以上)または軽症非(NIHSS 3以下)に対する21日間のアスピリン+併用は強い推奨(エビデンスの質は高)であり、「検討する」にとどまる位置づけではない7。長期併用は出血を増やすので21日で単剤へ切り替える。
  • 同じESOの文書は、非の軽症〜中等症( 5以下)または高リスク(6以上、もしくは頭蓋内動脈硬化性病変か症状を説明しうる50%以上の狭窄)に対するアスピリン+の30日間併用を弱く推奨している(質は中)7。閾値が4点ではなく6点である点に注意する。
  • ⚠️ 低リスク、またはの診断そのものが不確実な例には2剤併用を行わない。これらの患者は該当するのいずれにも組み入れられておらず、11名全員が2剤併用に反対票を投じている7。
  • 心房細動などでは、原則として適切な時期に経口抗凝固薬を用い、で代用しない。
  • 症候性は狭窄度、年齢、性別、併存症、を評価し、またはを検討する。
  • 血圧、脂質、糖尿病、喫煙、運動、体重を包括的に管理する。

まとめ

  • は時間ではなく、を伴わないとして定義する。
  • 症状が消失していても24時間以内の脳卒中専門評価が必要である。
  • ABCD2でを決めない。ESO・はいずれも予測ツールをに用いないとしており、スコアが残っているのは2剤併用の適応を指すラベルとしてである。
  • 、抗凝固、頸動脈治療は原因別に選び、一律に併用しない。高リスク(4以上)への21日間の2剤併用は強い推奨だが、低リスク例・診断が不確実な例には行わない。

出典

  1. 1.Definition and Evaluation of Transient Ischemic Attack: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association(American Heart Association / American Stroke Association・2009)症状持続時間(24時間以内)による旧来の時間依存性の定義を廃し、急性梗塞を伴わない一過性の局所脳・脊髄・網膜虚血という組織診断に基づく新定義を提唱したこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.European Stroke Organisation (ESO) guidelines on management of transient ischaemic attack(European Stroke Organisation・2021)TIA疑い例では予測ツールを単独で用いて高リスク例の同定・トリアージ・治療判断を行わないことを提案し(介入に反対する弱い推奨、エビデンスの質は非常に低い)、その理由として感度が限られるため3点以下にも早期の評価と治療を要する高リスク例が相当数含まれうること、予測ツールの使用が内膜剥離術や抗凝固の対象となる患者の評価を不必要に遅らせる懸念を挙げていること、一方で非心原性の高リスクTIA(ABCD2スコア4以上)にはアスピリン+クロピドグレルの短期併用を強く推奨(質は高)していること、TIA例の専門医評価を発症24時間以内に行うことを強く推奨(質は低)していることを全文(PMC8370080)で確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Stroke and transient ischaemic attack in over 16s: diagnosis and initial management(National Institute for Health and Care Excellence (NICE), guideline NG128・2022)推奨1.1.6が、TIAが疑われるか確定した人について、その後の脳卒中リスクの評価や紹介の緊急度の判断にABCD2などのスコアリングシステムを用いないこと(原文は「Do not use scoring systems, such as ABCD2, to assess risk of subsequent stroke or to inform urgency of referral for people who have had a suspected or confirmed TIA.」)と定めていること、代わりに推奨1.1.4が禁忌がなければアスピリン300mg日量を直ちに開始すること、推奨1.1.5が発症から24時間以内に専門医の評価と検査を受けられるよう直ちに紹介することを定めていることを本文で確認した。ガイドラインは2019年5月1日公開・2022年4月13日最終更新である。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Performance of the ABCD2 score for stroke risk post TIA: meta-analysis and probability modeling(Neurology・2012)TIA後のABCD2スコアと脳卒中転帰を報告した33件の研究(16,070例)のメタ解析・確率モデリングで、7日以内脳卒中に対する曲線下面積は0.70にとどまり、事前確率が低い(低リスク)状況や非専門医が用いる場合はスコアによる確率の修正幅がごくわずかであったこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.Prospective validation of the ABCD2 score for patients in the emergency department with transient ischemic attack(CMAJ (Canadian Medical Association Journal)・2011)カナダの8救急部門でTIA患者2056例を前向きに検証した研究で、高リスクとされるABCD2スコア5超の7日以内脳卒中に対する感度はわずか31.6%、判定者による曲線下面積は0.56〜0.65であり、どの区切り値でもABCD2スコアは切迫する脳卒中の予測因子として不正確だったこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Effect of urgent treatment of transient ischaemic attack and minor stroke on early recurrent stroke (EXPRESS study): a prospective population-based sequential comparison(The Lancet・2007)英国の地域住民ベース研究(OXVASC)に組み込まれた前向き前後比較研究で、TIA・軽症脳卒中の紹介から専門外来評価までの中央値遅延を3日から1日未満に短縮し即日治療を開始する体制へ変更したところ、90日以内の脳卒中再発リスクが約80%減少したこと閲覧 2026-08-27
  7. 7.European Stroke Organisation expedited recommendation for the use of short-term dual antiplatelet therapy early after minor stroke and high-risk TIA(European Stroke Organisation・2021)推奨1として、発症24時間以内の非心原性の軽症脳梗塞(NIHSS 3以下)または高リスクTIA(ABCD2スコア4以上)にアスピリン+クロピドグレルの21日間投与を強く推奨(エビデンスの質は高)し以降は単剤の抗血小板薬へ切り替えるとしていること、クロピドグレル300mg単回負荷は推奨文ではなく提案として付されていること、推奨2として非心原性の軽症〜中等症脳梗塞(NIHSS 5以下)または高リスクTIA(ABCD2スコア6以上、もしくは頭蓋内動脈硬化性病変か症状を説明しうる内頸動脈50%以上の狭窄)にアスピリン+チカグレロルの30日間併用を弱く推奨(同じく中)していること、低リスクTIAまたはTIAの診断が不確実な例では専門家11名全員が2剤併用に反対票を投じたことを全文(PMC8370083)で確認した。閲覧 2026-08-27