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Microbe Atlas · 細菌

Vibrio cholerae

コレラ菌

分類
湾曲・水系 G− 桿菌 / Curved and aquatic Gram− rodsVibrio
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/15: Vibrio cholerae2/16: Vibrio parahaemolyticus, V. vulnificus. Aeromonas and Plesiomonas genus5/7: Pathogens of enterally (faecal-oral route) spreading bacterial infections (list) and their diagnosis
原因となる疾患
コレラ
作用する薬剤
シプロフロキサシンテトラサイクリンドキシサイクリンミノサイクリン

🧠 全体像は「細胞に入らず、殺さず、ただスイッチを入れっぱなしにする」タイプの病原体として読む。に線毛で付着するだけで細胞内には侵入せず、という1つでを恒常的に活性化し、細胞内cAMPを上げ続ける。その結果、Naポンプが止まりCl⁻分泌が暴走し、水分泌だけが起こる——炎症も細胞死もない「純粋な」である。この「侵襲なし・毒素だけ」という一点が、臨床像(無痛性・大量の)から治療(が効く理由)まですべてを説明する。同じビブリオ科の腸炎ビブリオVibrio vulnificusが海産物由来のにとどまるのに対し、だけが毒素一発型の全身脱水症を起こす点で一線を画す。

微生物学的な特徴

項目 内容
形態 グラム陰性の(湾曲した)桿菌
生息地 主に水系に存在し、開発途上国・東南アジアに多い
運動性 で運動性あり、線毛を持つ
生化学的性状 、酸に弱い(アルカリ性pH 6.5〜9でよく増殖する)、——高塩分濃度でも生存できる、

は腸内細菌科との重要な鑑別点。 E. coliをはじめとする腸内細菌科(いずれも)と異なり、の湾曲したグラム陰性桿菌として区別できる。

病原性の仕組み

感染で伝播する。不十分なによりヒトの糞便が食品・水源を汚染することが感染源となる。菌は線毛で腸管粘膜壁に付着して増殖するが、細胞内には侵入しない。そこで)を放出する。

flowchart TD
    A["V. choleraeが線毛で腸管粘膜に付着<br>(細胞内侵入なし)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholera toxin'>コレラ毒素</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AB-type exotoxin'>AB型外毒素</span>)放出"]
    B --> C["Bサブユニットが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor binding'>受容体結合</span><br>→Aサブユニットが細胞内へ"]
    C --> D["Aサブユニットが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenylyl cyclase, AC'>アデニル酸シクラーゼ</span>(Gs)を持続活性化"]
    D --> E["cAMP上昇"]
    E --> F["Naポンプ阻害+Cl⁻分泌過剰"]
    F --> G["水分泌亢進<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rice-water diarrhea'>米のとぎ汁様下痢</span>"]

💡 なぜ「侵襲なし」で大量の水が出るのか。 cAMP上昇はCFTR型のCl⁻チャネルを開放し続け、腸管内腔へCl⁻が分泌される一方、通常のNa⁺再吸収経路は阻害される。上皮細胞自体は生きたまま・炎症もないのに、浸透圧差だけで大量の水が腸管内腔に漏れ出す。だからの便には血液・膿・白血球が混じらず、「米のとぎ汁様」という透明で無臭に近い外観になる——血液・膿・発熱を伴うShigella dysenteriaeCampylobacter jejuniの侵襲性下痢と対照的。

感染経路と疫学

  • 汚染された水・食品を介する感染で伝播し、不十分なが流行の背景となる
  • 開発途上国・東南アジアに多いで、災害・難民キャンプなど衛生インフラが崩れた状況で流行しやすい

起こす疾患

  • 水様性下痢(「米のとぎ汁様」)——1日10〜20Lにも達し、から死に至ることもある
  • 合併症:脱水、アシドーシス、ショック

診断

検査 所見
(チオ硫酸塩・クエン酸塩・胆汁酸塩・ショ糖寒天) アルカリ性pH約9、37℃・18時間培養。平滑・円形・黄色のコロニーを形成
グラム染色/便検体の
血清学的検査 O1・O139に対する抗O抗体血清を用いる。O1血清型はさらにInaba・Ogawa・Hikojimaの3亜型に分かれる

治療と予防

  • 第一選択:——水と電解質の補給(重症例は)。ORTだけで死亡率を1%未満に下げられる

💡 ORTが効く理由。 はNa⁺の通常の吸収経路(Cl⁻分泌と連動する経路)を阻害するが、小腸のNa⁺-グルコースは障害されない。そのため、経口的にグルコースを含む電解質液を投与すると、グルコースとNa⁺の能動共輸送を介して水分・塩分を効率よく吸収できる——毒素に妨げられない「抜け道」を利用した治療法である。

  • 抗菌薬は全例には投与しない。対象は重症脱水入院例・高頻度・輸液不応例、または妊娠・重症急性・HIV感染・60歳超などの危険因子がある例に限られる1。現地株が感受性であればドキシサイクリン単回投与(成人・妊婦を含め300mg、12歳未満の小児は2〜4mg/kg)が年齢・妊娠の有無を問わず第一選択で、耐性が判明・疑われる場合の代替はアジスロマイシン単回投与(成人1g、小児20mg/kg・上限1g)または単回投与である1
  • 生後6か月〜5歳の小児は下痢の重症度・原因を問わず20mg/日を10日間)を併用する1
  • 予防:国際的に流通するは主に不活化(死菌)ワクチンで、IgAの産生を誘導する。2回接種の防御効果は12か月時点で55〜69%、48か月時点で44〜47%までし、5歳未満の小児は5歳以上より効果が明らかに低い(2回接種31% vs 62%)ため、ワクチンだけに頼らず良好なを併用する2

まとめ

  • は細胞内に侵入せず、腸管粘膜に付着して)を放出するだけで発症させる「侵襲なし・毒素だけ」の病原体である。
  • Aサブユニットがを持続活性化しcAMPを上昇させ、Naポンプ阻害+Cl⁻分泌過剰により大量の水様性下痢(米のとぎ汁様)を起こす。
  • 炎症・細胞死を伴わないため、の便には血液・膿は混じらない——侵襲性の下痢病原体と対照的。
  • 治療の第一選択はで、これはが阻害しないNa⁺-グルコースを利用した治療法である。
  • 診断はでの黄色とO1/O139に対する血清学的検査が中心。
  • 抗菌薬は重症脱水・高頻度・輸液不応・妊娠などの危険因子がある例に限るで、ドキシサイクリン単回投与が年齢・妊娠を問わず第一選択、耐性が判明・疑われる場合はアジスロマイシンまたはを用いる。

出典

  1. 1.Interim Technical Note: Use of Antibiotics for the Treatment and Control of Cholera (Revised October 2022)(Global Task Force on Cholera Control (GTFCC)・2022)抗菌薬投与の対象は重症脱水入院例、高頻度水様便、初期4時間の輸液に反応しない例、または脱水の程度によらず妊娠・重症急性栄養障害・HIV感染などの併存疾患や60歳超の危険因子がある例に限られること、現地株が感受性であればドキシサイクリン単回投与(成人・妊婦を含め300 mg、12歳未満は2〜4 mg/kg)が年齢・妊娠の有無を問わず第一選択で、耐性が判明・疑われる場合の代替はアジスロマイシンまたはシプロフロキサシンであること、生後6か月〜5歳の小児は下痢の重症度・原因を問わず亜鉛(硫酸亜鉛20 mg/日を10日間)を併用することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Protection from killed whole-cell cholera vaccines: a systematic review and meta-analysis(The Lancet Global Health / GTFCC OCV Working Group・2025)2回接種の経口コレラワクチンの防御効果は12か月時点で効力55%・実地有効性69%、48か月時点で効力44%・有効性47%まで漸減すること、5歳未満の小児の2回接種効力(31%)は5歳以上(62%)より明らかに低いことを確認した閲覧 2026-08-03