組織病理学

組織病理学 · H2-051B

B型肝炎

Hepatitis – HBV

描出疾患
ウイルス性肝炎

🧠 全体像:B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:)は通常、肝細胞を直接破壊するのではなく、ウイルス抗原を認識する応答によってを生じる。から、肝硬変、まで多様な経過をとる。

病原性の要点

は肝細胞核内の共有結合閉環(covalently closed circular :cccDNA)を鋳型として複製する。 の宿主ゲノムへの組み込みは複製に必須ではないが、HBs抗原産生の持続やを介して発癌に関与しうる。組み込まれた はウイルスにとってはむしろ複製の行き止まり(replicative dead-end)であり、そこから複製非依存的に抗原が発現し続ける点が発癌との関連で注目されている1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>が肝細胞へ感染"] --> B["cccDNAからウイルス抗原を産生"]
    B --> C["細胞表面にウイルス抗原を提示"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>による免疫応答"]
    D --> E["感染肝細胞のアポトーシス・炎症"]
    E --> F["回復または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>"]
    F --> G["線維化・肝硬変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma, HCC'>肝細胞癌</span>リスク"]

臨床病型

病型 要点
無症候から黄疸を伴う肝炎まで多様
広範・塊状による。短期間に「巨大な肝硬変」を作る病態ではない
慢性状態 HBs抗原が持続するが炎症活動性が低いことがある
慢性活動性肝炎 炎症と線維化が進行し、肝硬変へ至りうる
肝硬変を介する経路に加え、では非肝硬変肝にも生じうる

組織形態

所見 解釈
の乏しい炎症 活動性が低い症例でみられるが、病期は血液検査と統合
すりガラス状肝細胞 小胞体内のHBs抗原蓄積により淡い質を示す
活動性でみられうる
好酸性小体 アポトーシスを反映
小葉構築を確認する目印で、特異的所見ではない
性色素であり、に特異的ではない

すりガラス状細胞質を「が細胞質を満たす像」と単純化しない。HBs抗原の免疫染色は感染を支持するが、診断と活動性評価は血清学・ と統合する。

💡 すりガラスの正体は小胞体に溜まったである。 レーザーマイクロダイセクションですりガラス状肝細胞を分取した解析では、様に染まるI型はpre-S1領域の欠失変異、複製後期にして現れるII型はpre-S2領域(エピトープを含む)の欠失変異を持っていた。これらのを細胞へ導入すると中型・小型S蛋白の合成が減って大型が小胞体に蓄積し、が活性化した2。すりガラスは「で満杯」ではなく「抗原で詰まった小胞体」である。

感染経路と予防

血液、注射針共有・針刺し、性行為、などで伝播する。糞口感染を主経路とするとは異なり、はしばしば60〜90日程度と長い。組換えワクチンが有効で、出生時接種を含む予防が重要である。HBs抗原陽性妊婦では 量を評価し、ならのを検討する。HBe抗原陽性かつ 200,000 IU/mL超の妊婦200人を対象とした無作為化試験では、妊娠30〜32週から産後4週までを投与すると、全児がを受けたうえで産後28週の母子感染率が5%対18%へ低下した(per-protocol解析では0%対7%)3。新生児には速やかにワクチンを投与し、適応に応じHBIGを併用する。

診断マーカー

マーカー 主な意味
HBs抗原 現在の感染
HBs抗体 免疫獲得
HBc抗体IgM 急性感染または再活性化を示唆
HBc抗体total 既感染または現在感染。ワクチン単独では陽性にならない
HBe抗原・HBe抗体 複製状態の補助指標
量と治療判断に重要

治療

急性B型肝炎は原則として支持療法を行い、重症・遷延例やでは専門管理とを検討する。慢性B型肝炎では、 、、線維化・肝硬変、年齢、家族歴、免疫抑制予定などからを判断し、またはなど耐性障壁の高いを用いる。

肝硬変および所定の高リスク慢性患者では、治療中も原則6か月ごとの腹部超音波を基本に、地域・ガイドラインに応じてを併用し、を継続する4。ウイルス学の詳細は B・C・D型肝炎ウイルス で確認する。

まとめ

  • 肝傷害は主にである。
  • 組み込みは複製に必須ではないが、発癌に関与しうる。
  • すりガラス状肝細胞はHBs抗原蓄積を反映する。
  • ワクチンで予防し、は ・・線維化からを判断する。

出典

  1. 1.HBV DNA Integration: Molecular Mechanisms and Clinical Implications(Viruses・2017)宿主ゲノムへ組み込まれたHBV DNAはウイルスにとって複製の行き止まり(replicative dead-end)であり、複製に必須ではない。それでも組み込みは高頻度に観察され、複製非依存的な抗原発現を介して持続感染や肝細胞癌発生に関与しうる閲覧 2026-08-24
  2. 2.Different types of ground glass hepatocytes in chronic hepatitis B virus infection contain specific pre-S mutants that may induce endoplasmic reticulum stress(The American Journal of Pathology・2003)すりガラス状肝細胞はB型慢性肝炎の組織学的指標であり、小胞体内にHBs抗原を含む。レーザーマイクロダイセクションによる解析で、封入体様のI型はpre-S1領域欠失変異、複製後期に集簇して現れるII型はpre-S2領域(細胞傷害性T細胞エピトープ)欠失変異を持ち、変異型の導入により大型表面抗原が小胞体に蓄積して小胞体ストレス応答が活性化した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Tenofovir to Prevent Hepatitis B Transmission in Mothers with High Viral Load(The New England Journal of Medicine・2016)HBe抗原陽性かつHBV DNA 200,000 IU/mL超の妊婦200人を対象に、妊娠30〜32週から産後4週までテノホビルジソプロキシルフマル酸塩300 mg/日を投与した無作為化試験で、全児が免疫予防を受けたうえで産後28週の母子感染率はテノホビル群5%(97例中5例)対対照群18%(100例中18例)(P=0.007)、per-protocol解析では0%対7%(P=0.01)であった。先天異常率は2%対1%で差はなかった閲覧 2026-08-24
  4. 4.AASLD Practice Guidance on prevention, diagnosis, and treatment of hepatocellular carcinoma(American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD)・2023)肝硬変などのハイリスク集団に対する肝細胞癌サーベイランスは6か月ごとの腹部超音波を基本とし、AFPを併用する閲覧 2026-08-24