疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ウイルス性胃腸炎

Viral gastroenteritis (rotavirus, norovirus)

別名
ロタウイルス胃腸炎ノロウイルス胃腸炎
臓器系
感染症消化器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3/25:ロタ・カリシ・アストロウイルス
鑑別疾患
細菌性急性胃腸炎腸重積症
合併症
脱水
治療薬
オンダンセトロン
原因微生物
Rotavirus A–JNorovirusMamastrovirus 1(Astrovirus)Human adenovirus
症状
悪心下痢嘔吐
検査値
カリウム代謝性アシドーシスクレアチニン
スコア
小児臨床的脱水スケール

🧠 全体像の主要3科(、ノロウイルスを含む)は、いずれも感染で水様性下痢を起こすエンベロープを持たないウイルスという共通点を持ちながら、好発年齢・季節性・重症度で鑑別する。Rotavirus乳幼児冬季に重症化しやすい世界的な小児重症下痢症の第1位原因、Norovirus全年齢通年で襲い、ごく少数のウイルス粒子(約10個)で成立するためクルーズ船・施設の主役となる。エンベロープを持たないウイルスゆえに環境中で安定しアルコール抵抗性が高く、手洗い(流水と石鹸)こそが最強のになる。

病原体と発症機序

いずれものエンベロープを持たないウイルスで、感染(ノロウイルスは食品・水汚染やでも)により小腸に感染する。

項目 ノロウイルス
ゲノム 二本鎖RNA(dsRNA、本表3ウイルスの中で唯一——ヒトに感染するdsRNAウイルス自体が稀で、他にはウイルスなど例外的な存在にとどまる) ssRNA ssRNA
好発年齢 乳幼児 全年齢層 乳幼児・高齢者など免疫力の低い層
季節性 冬季に多い 通年
特徴的機序 NSP4蛋白()が腸管Cl⁻透過性を亢進させを誘導 A・B・O式に結合しで複製・ に感染
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>感染(エンベロープなし)"] --> B["Rotavirus:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸細胞</span>感染・融解<br>NSP4↑Cl⁻透過性"]
  A --> C["Norovirus:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood group antigen'>血液型抗原</span>に結合<br>小腸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸細胞</span>融解"]
  A --> D["Astrovirus:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸管上皮</span>感染"]
  B --> E["水様性下痢・重度脱水<br>(乳幼児に好発・冬季)"]
  C --> F["爆発的水様性下痢+嘔吐<br>(全年齢・通年)"]
  D --> G["水様性下痢2〜3日<br>(乳幼児・高齢者)"]

💡 NSP4は「毒素で下痢を起こす」珍しい (ETECのLT/STなど)と同様に腸管イオン輸送を直接撹乱する能動的なの機序を持つ点が、単なるにとどまらない病原性の核心である。

臨床像

胃腸炎は小児における重症胃腸炎の世界的第1位の原因で、水様性下痢と嘔吐により脱水が重篤化しやすく、死因ともなりうる。ノロウイルス胃腸炎は非細菌性胃腸炎の最多原因で、潜伏期約2日を経て爆発的な水様性・(膿・血液を伴わない)と悪心・嘔吐が急激に出現し、通常3日程度で自然軽快する。は免疫力の低い乳幼児・高齢者、特に発展途上国で目立ち、水様性下痢が2〜3日持続する。

⚠️ いずれも非炎症性の水様性下痢で、膿・血液を伴う場合は、Campylobacter、EHECなど)を鑑別する。

診断

臨床経過(潜伏期、季節性、集団発生の有無、嘔吐・下痢の性状)から強く示唆されることが多いが、確定にはウイルス学的検査を行う。

ウイルス 検査
便検体のELISA(感染後2〜5日で量が最大)、
ノロウイルス RT-PCRが最も高感度でgold standard。時の補助的検査として使われるが感度は低い。・血清学()は歴史的な手法で現在は用いられない1
ELISA、RT-PCR

治療

いずれも対症療法が中心である。

  • または必要に応じ輸液で脱水・電解質バランスを是正する。小児ではなどで脱水の程度を評価してから輸液経路を決める。持続する下痢・嘔吐では、下痢による喪失でカリウムが低下し、の喪失により代謝性アシドーシスをきたしうる。脱水が進むとクレアチニンが上昇するため、重症例ではこれらを評価する。
  • は年齢・重症度に応じ検討する。生後6か月以上で嘔吐と軽度〜中等度脱水(またはの不成功)がある小児には、単回経口(0.15 mg/kg、最大8 mg)が入院・輸液の必要性を減らすエビデンスがあり選択肢となる——ただし下痢が主症状の患児へのルーチン投与は推奨されない2など)は乳幼児では安全性データが限られるため一般に推奨されない。抗菌薬・抗ウイルス薬はそのものには無効であり投与しない。
  • 症状は通常数日以内に自然軽快するが、乳幼児・高齢者・免疫不全者では脱水の進行に注意し、経口摂取不良や意識状態の変化があれば入院加療を検討する。

予防

  • :エンベロープを持たないウイルスは環境中で安定でアルコール消毒に抵抗性を示すため、流水と石鹸による機械的なウイルス除去が最も有効。
  • (弱毒生・経口):RotaTeq(RV5、3回接種:生後2・4・6か月)とRotarix(RV1、2回接種:生後2・4か月)の2種類がある。

⚠️ 初回接種は生後15週0日(14週6日まで)を過ぎると開始できず、全接種は生後8か月0日までに完了する必要がある。 月齢の高い乳児への接種開始はのリスクに関する安全性データが不十分なため推奨されない3

まとめ

  • の主要3科(、ノロウイルスを含む)はいずれも感染するエンベロープを持たないウイルスで、水様性下痢を起こすが好発年齢・季節性が異なる。
  • は乳幼児の冬季重症胃腸炎の世界的第1位原因(NSP4による)、ノロウイルスは全年齢・通年で爆発的な下痢・嘔吐を起こし集団の主役となる。
  • 治療は経口補水を含む対症療法が中心で、抗菌薬・抗ウイルス薬は無効。生後6か月以上の嘔吐例では単回経口が選択肢となるが、は乳幼児では推奨されない。
  • 予防の要は流水・石鹸による手洗い(エンベロープを持たないウイルスはアルコール抵抗性)と、の年齢制限厳守(初回接種は生後15週0日未満、全接種は生後8か月0日まで)。

出典

  1. 1.Emergency department use of oral ondansetron for acute gastroenteritis-related vomiting in infants and children(Canadian Paediatric Society・2018)生後6か月以上で急性胃腸炎による嘔吐と軽度〜中等度脱水(または経口補水療法不成功)がある小児には、単回経口オンダンセトロン(0.15 mg/kg、最大8 mg)の投与を検討してよい。下痢が主症状の患児にはルーチン投与を推奨しない閲覧 2026-08-03
  2. 2.Norovirus(StatPearls / NCBI Bookshelf・2025)ノロウイルスの現行の診断はRT-PCR(gold standard)とEIA抗原検出が中心で、放射免疫測定法や血清学は記載されていない(過去の手法)閲覧 2026-08-03
  3. 3.Ask the Experts: Rotavirus Vaccine Recommendations(Immunization Action Coalition(ACIP勧告の要約)・2026)ロタウイルスワクチンの初回接種の年齢上限は生後14週6日(15週0日以降は開始不可)、全接種の年齢上限は生後8か月0日で、現行のACIP勧告と一致する閲覧 2026-08-03