薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B25 Other / その他

エデト酸カルシウム二ナトリウム

edetate calcium disodium

分類
Other / その他
商品名(日本)
ブライアン
科目
Internal MedicineForensic Medicine
トピック
S-62: Intoxications Caused by Toxic Substances: Ethylene Glycol, Methanol, Heavy Metal, and Mushroom Poisoning31: Carbon-monoxide poisoning. Arsenic, cyanide, lead and methanol poisoning
承認適応
鉛中毒
副作用
悪心嘔吐発熱悪寒頭痛皮疹
監視検査値
クレアチニンカルシウムアミノトランスフェラーゼ尿沈渣
影響検査値
カルシウムアミノトランスフェラーゼ亜鉛

🧠 全体像(CaNa2EDTA、商品名 Calcium Disodium Versenate)は、あらかじめカルシウムを結合させたを迎え入れ、水溶性のとして尿中へ排泄させる薬である。⚠️ この「あらかじめCaが載っている」設計こそ、名称の似たエデト酸二ナトリウム(Na2EDTA、カルシウムを含まない)との取り違えが致死的になる理由であり、最初に押さえるべき事実である。

薬効群の中での位置づけ

項目 CaNa2EDTA (BAL) (DMSA)
静注・筋注 に溶解し筋注 経口 経口
血液脳関門 通過しない 通過する 通過しない 乏しい
BALの4時間後に追加 最初に投与 ⚠️ 用いない 用いない
重症例(目安70 µg/dL超) BAL併用が基本 通常は単独で用いない 用いない 用いない
主な 単独先行で脳内、腎毒性 筋注の疼痛、落花生アレルギー 消化器症状・好中球減少 以外は無効

「あらかじめCaを積んだ」という設計が使い分けの起点になる。 は血液脳関門を通過できる代わりに筋注というを負い、できる代わりに脳症例には無力である。CaNa2EDTAは血液脳関門を通過しないため単独では脳症を悪化させうるが、を確実に排泄させる中心的役割を担う。

機序

flowchart TD
    A["静注・筋注"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chelate ring'>キレート環</span>に既にCa²⁺が結合"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lead'>鉛</span>はCaよりEDTAへの親和性が高い"}
    C --> D["Ca²⁺と置き換わり<br>水溶性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lead'>鉛</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chelation'>キレート</span>を形成"]
    D --> E["尿中へ排泄"]
    D --> F["分布は主に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular fluid, ECF'>細胞外液</span><br>脳脊髄液中は血漿の約5%"]

💡 カルシウムを持たないエデト酸二ナトリウム(Na2EDTA)を血管内に投与すると、血中Ca²⁺そのものが奪われ致死的を起こす。 CaNa2EDTAは最初からCaを積んでいるため、その心配なくだけを交換できる1にとどまり細胞内へほとんど入らない性質が、単独投与では脳内のを引き出せない理由でもある2

薬物動態

項目 値・特徴
分布 が主体。脳脊髄液中濃度は血漿の約5%で、細胞内・中枢へはほとんど入らない2
半減期・排泄 半減期20〜60分。ほぼで、投与後1時間で約50%、24時間で95%超が尿中に出る2

適応

領域 使いどころ
(脳症のない重症例) が高い例(目安70 µg/dL超)や症状のある例でと併用2
を4時間以上先行させたうえで追加
軽症〜中等症例 通常は用いず経口が第一選択

用法・用量

米国添付文書では、無症候例は1,000 mg/m²/日を静注または筋注で5日間投与し、2〜4日したのち反復する(通常2クール)。・重症例ではを4時間以上先行させ、CaNa2EDTAは別部位に併用する。腎機能低下例は減量する2

⚠️ 米国添付文書はを避ける。腸管内の吸収をかえって増やしも5%未満で無効とされるためである。一方、日本では物として、注射剤(ブライアン1g)に加えコーティング経口錠(ブライアン錠500mg)もに承認され、の可否は国・製剤で異なる3

禁忌・注意

⚠️ 名称が酷似するエデト酸二ナトリウム(Na2EDTA、カルシウムを含まない)と取り違えない。 誤投与すると血中カルシウムそのものが奪われ致死的を来す。取り違えによる死亡例を受け、米国ではNa2EDTA製剤(ENDRATE)の承認が取り下げられている1

  • 禁忌の期間中、活動性の腎疾患、肝炎2
  • ⚠️ ではCaNa2EDTAを単独で先行させない。 の4時間以上先行なしに併用すると、引き抜かれたが脳内へし症状を悪化させうる
  • ⚠️ 急速・大量投与はによる腎毒性で死亡に至りうる。 投与前に十分な尿量を確保し、投与中は尿量・クレアチニン・尿沈渣を監視する2

副作用

頻度 内容
高頻度 悪心嘔吐発熱悪寒頭痛
腎・電解質 、蛋白尿・などの喪失、
その他 一過性の上昇、皮疹、注射部位の疼痛2

まとめ

  • CaNa2EDTAはに最初からCaを積んでおり、とだけ交換して尿中へ排泄させ、血中カルシウムは奪わない。
  • ⚠️ カルシウムを含まないエデト酸二ナトリウム(Na2EDTA)との取り違えは致死的を招く重大な医療過誤で、米国ではNa2EDTA製剤の承認が取り下げられている。
  • にとどまり中枢神経へはほとんど入らないため、ではを4時間以上先行させたうえで併用する。単独先行はの脳内で症状を悪化させうる。
  • 脳症のない軽症〜中等症例は経口が第一選択で、CaNa2EDTAは重症例(目安70 µg/dL超)・脳症例に用いる。最重要の副作用はによる腎毒性で、尿量・腎機能モニタリングが必須。

出典

  1. 1.Calcium Disodium Versenate (Edetate Calcium Disodium Injection, USP) — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2025)適応は鉛中毒(急性・慢性)と鉛脳症。無症候例は1,000 mg/m²/日を静注または筋注で5日間投与後休薬し反復する。血中鉛濃度が70 µg/dLを超える例・症状のある例ではジメルカプロールを併用する。分布は細胞外液が主体で脳脊髄液中濃度は血漿の約5%にとどまる。半減期20〜60分、24時間で95%超が尿中排泄。禁忌は無尿の期間・活動性腎疾患・肝炎。副作用に近位尿細管壊死・蛋白尿・発熱・悪心嘔吐・亜鉛欠乏・高カルシウム血症を挙げる。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Hospira, Inc., et al.; Withdrawal of Approval of One New Drug Application and Two Abbreviated New Drug Applications (edetate disodium)(U.S. Food and Drug Administration (Federal Register)・2008)名称が酷似するエデト酸二ナトリウム(Na2EDTA、カルシウムを含まない)とエデト酸カルシウム二ナトリウムの取り違えによる致死的投薬過誤が報告され、FDAはエデト酸二ナトリウム製剤(ENDRATE)の承認を取り下げた。エデト酸カルシウム二ナトリウムはこの措置の対象外で、鉛中毒治療薬として現在も承認が続く。閲覧 2026-08-02
  3. 3.ブライアン点滴静注1g/ブライアン錠500mg(エデト酸カルシウムナトリウム水和物)添付文書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2023)日本では「エデト酸カルシウムナトリウム水和物」として注射剤(ブライアン点滴静注1g)と腸溶性コーティング経口錠(ブライアン錠500mg)の両方が鉛中毒に承認されている。注射剤は成人1回1gを約1時間かけて点滴静注し、急速・大量投与は腎毒性による死亡等の重篤な結果を招くと注意喚起している。閲覧 2026-08-02