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Drug Atlas · B19 Antidiabetics / 糖尿病薬 · 必修

ビルダグリプチン

vildagliptin

分類
Antidiabetics / 糖尿病薬
商品名(日本)
エクア
商品名(EU)
Galvus
科目
Pharmacology
トピック
B19: Oral antidiabetics
承認適応
2型糖尿病
禁忌疾患
肝硬変
副作用
血管性浮腫
監視検査値
アミノトランスフェラーゼ(ALT/AST)
原因となる疾患
急性膵炎自己免疫性水疱症(天疱瘡・水疱性類天疱瘡)

🧠 全体像:は阻害薬(・と同じ系統)の一員で、にを後押しし低血糖を起こしにくいというクラス共通の性質を持つ。この薬を分ける一点は肝毒性の懸念——他の阻害薬にはないでの使用制限がある。⚠️ ただし「で禁忌」と一語でまとめない。禁忌欄に置いているのは日本の電子添文だけで、そこでも対象は重度のである。のSmPCは禁忌(4.3)ではなく用法・用量(4.2)と(4.4)の側に「のある患者には使用しないこと」を置き、逆にこちらは重症度で切っていない(→禁忌・注意)。「日本ではエクア、欧州ではGalvus」と国によってブランド名が異なることも実務上見落としやすい点である。

薬効群の中での位置づけ

系統 代表薬 排泄経路 投与回数 固有の注意点
阻害 主に腎 1日1回 腎機能に応じた減量が必要
阻害 腎(加水分解代謝物として) 1日2回 での使用制限(日本は重度のみ禁忌、は程度を問わず「使用しない」)
阻害 主に胆汁・糞便 1日1回 腎機能を問わず同一用量

⭐ 同じ阻害薬でも「腎機能・肝機能をどう扱うか」が薬ごとに違う。 はに応じた減量が要り、は腎機能を問わず同一用量で使え、だけがでの使用制限をもつ——この3剤を並べて覚えると、阻害薬という均質に見えるクラスの中にあるが浮き彫りになる。⚠️ ただしこれを「禁忌」と呼び替えない。 腎機能はいずれも用量の話であり、本剤のについても、禁忌欄に置いているのは日本の電子添文(2.3「重度ののある患者」)1で、のSmPCは4.3の禁忌ではなく4.2・4.4の使用制限として書いている2。

機序

flowchart TD
    A["食事摂取"] --> B["小腸から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>・GIP分泌"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dipeptidyl peptidase-4'>DPP-4</span>酵素による急速な分解"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vildagliptin'>ビルダグリプチン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dipeptidyl peptidase-4'>DPP-4</span>を<br>共有結合的かつ可逆的に阻害"] -.-> C
    C -.->|"分解が抑えられると"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>・GIP濃度が持続的に上昇"]
    E --> F["血糖依存性に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin secretion'>インスリン分泌</span>↑・グルカゴン分泌↓"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postprandial blood glucose'>食後血糖</span>の上昇を抑える"]

💡 はに対する結合様式がやや特殊(共有結合を経由するが可逆的)で、これが半減期の短さと1日2回投与という用法につながっている。 他の阻害薬(・とも1日1回)との実務上の違いはここにある。

薬物動態

項目 値・特徴
約85%
代謝 主に加水分解(の寄与は小さい)
排泄 代謝物としてが主体
半減期 約2〜3時間と短い。1日2回投与が基本

適応

領域 使いどころ
糖尿病 2型糖尿病で、不耐・効果不十分の追加治療

用法・用量

成人では通常1回50 mgを1日2回(朝・夕)する。のSmPCは4.2の「」の項で、のある患者(投与前のまたはが基準値上限の3倍を超える例を含む)には使用しないこととしている2。軽度(50 mL/min以上)では調整不要だが、中等度以上の・(ESRD)では50 mg 1日1回へ減量する(1日2回から1日1回への変更)2。実際の用量は腎機能・年齢・体重で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • ⚠️ 「禁忌は何か」がと日本で違う薬である。 のSmPCで正式な禁忌(4.3節)に区分されるのは本剤の・添加剤への過敏症のみ2。一方日本の電子添文の禁忌は4項目で、①本剤成分への過敏症の既往、②・糖尿病性昏睡・1型糖尿病、③重度の、④・手術前後・重篤な外傷である1。が「用法・用量の但し書き」なのか「禁忌」なのかは、どちらの文書を見ているかで変わる。 なお比較できる文書はこの2つで、米国には本剤の添付文書が無い——Drugs@にはを含む承認申請が1件も無く(同じ検索で対照のは50件)、NDCディレクトリに載る6件はいずれもの登録で製剤ではない3
  • 肝硬変などの(投与前/が基準値上限の3倍を超える例を含む): のSmPCでは用法・用量(4.2)と(4.4)の項で「投与しないこと」と明記される強い使用制限であり、重症度による限定が付いていない(逐語は Galvus should not be used in patients with hepatic impairment, including patients with pre-treatment ALT or AST > 3x ULN)2。一方、日本の電子添文で禁忌欄そのものに入るのは2.3の重度のだけで、重度でないは9.3.2「のある患者(重度ののある患者を除く)」として「が悪化するおそれがある」という注意の側に置かれている1。⭐ 区分の重さ(禁忌か注意か)はのほうが軽く、掛かる範囲(どの重症度まで)はのほうが広い——片方だけを読むと必ず外す。他の阻害薬にはない、固有の注意点であり、投与前に肝機能検査を行い、投与中は初年度3か月毎・以降は定期的にモニタリングする。・が基準値上限の3倍以上に持続的に上昇すれば中止を推奨2
  • 1型糖尿病・の治療にはインスリンの代替にならず使用しない(のSmPCでは正式な禁忌区分ではなく明記された使用制限2、日本の電子添文では禁忌1)
  • ⚠️⭐ はこの薬では「阻害薬との併用」とセットで書かれている。 日本の電子添文は11.1.2の「重大な副作用」として(頻度不明)を独立に立て、阻害薬併用例で発現頻度が高かったとの報告を添え、10.2の併用注意にも阻害薬を同じ理由で挙げる(機序は不明とされている)1。のSmPCは4.5で阻害薬併用時にリスクが高まりうると述べ、4.8では副作用一覧の表に行を置かず、表の後の記述で「報告はまれで対照群と同程度だが、阻害薬併用時により高い割合で報告され、大半は軽症で投与を続けたまま回復した」としている(患者向け説明書では rare=1,000人に1人まで)2
  • 💡 なぜ阻害薬との併用でだけ問題になるのか。 は(カルボキシ末端側)と(アミノ末端側)という別々の端から分解されるため、片方を止めても残る経路が代償する。のをプールし盲検下で判定した解析では、全体ではとの関連は認められなかったが、阻害薬併用例に限ると2,754例中14例 対 対照群1,819例中1例、4.57(95%CI 1.57-13.28)だった4。原著はは小さいと述べており、阻害薬とを併用中の患者に顔面・口唇・舌の腫脹が出たら、この薬物相互作用を鑑別に入れるというのがである
  • ⚠️ の患者では、発作の誘因となるため避ける。 国際/カナダ版HAEガイドラインは、阻害薬・エストロゲン含有製剤・とともに阻害薬を「既知の薬剤誘因」に挙げ、HAE患者では中止・回避するよう求めている5。上の過敏症・副作用としてのとは別の話で、こちらはの発作を誘発するという文脈である
  • ⚠️ は阻害薬クラス共通の。 原因不明の持続する腹痛があれば中止し評価する。が確定したら再投与しない2
  • ⚠️ 水疱性・剥脱性の皮膚病変(を含む)が市販後に報告されている。 水疱・びらんが出たら報告するよう患者に伝え、疑ったら中止し紹介を検討する(詳細は)2
  • 心不全: class I〜III・ 0.40未満の心不全患者254例を対象としたVIVIDD試験では、の変化の群間差は0.62%(95%CI -2.21〜3.44)で-3.5%を満たした一方、は17.1 mL多く増加した(95%CI 4.6〜29.5、p=0.007)。も9.4 mL多かったが有意差には達していない(95%CI -0.49〜19.4、p=0.062)。原因と臨床的意義は不明というのが原著のである6。これは・で観察された心不全入院の増加とは別の所見である。 class IVでは使用経験がなく推奨されない2
  • ⚠️ SU薬・インスリンとの併用では低血糖リスクが上がる(クラス共通)
  • 💡 受容体作動薬(など)との併用は推奨されない。 阻害薬と受容体作動薬(デュアルGIP/受容体作動薬を含む)はどちらも系を介するため、併用しても受容体作動薬単独を上回る血糖降下効果は期待できない7
  • ⭐ ADA診療ガイドラインでの位置づけ: 阻害薬は低血糖・体重増加が中立という扱いやすさを持つ一方、心血管疾患・を合併する患者では心腎保護作用を持つ受容体作動薬・阻害薬が優先される7

副作用

頻度 内容
高頻度 比較的少ない(頭痛・めまい程度)
注意 、ALT/ASTの上昇(頻度不明。持続すれば中止)
重篤・まれ (他の阻害薬より注意度が高い)、(日本では重大な副作用。阻害薬併用例で多い)、、水疱性・剥脱性皮膚病変、SU薬・インスリン併用時の低血糖

まとめ

  • 阻害薬。にを後押しし、単剤では低血糖を起こしにくい(クラス共通の性質)。
  • 禁忌の中身が文書で違う。のSmPC 4.3は本剤への過敏症のみで、・1型糖尿病は用法・用量側の強い使用制限にとどまるが、日本の電子添文は重度のと1型糖尿病を禁忌欄そのものに置いて4項目である。⭐ については区分の重さと掛かる範囲が逆向き——は禁忌にしないぶん重症度で切らず、日本は禁忌にするぶん「重度」に限る。なお米国には本剤の添付文書が無い(承認されていない)ので、3極でなく2文書の比較になる。
  • は日本では「重大な副作用」で、阻害薬併用例での増加が添えられている。のSmPCも4.5で阻害薬併用時のリスクに触れる。試験では阻害薬併用例の4.57(95%CI 1.57-13.28)だった。
  • 他の阻害薬にはない固有の注意点として、投与前・投与中の肝機能モニタリングが必須(初年度3か月毎、以降定期的)。
  • 半減期が短く1日2回投与(・は1日1回)。中等度以上のでは1日1回へ減量。
  • 加水分解代謝が主体での寄与は小さい。
  • ・水疱性皮膚病変は阻害薬クラス共通の注意点。心不全はVIVIDD試験ではだったがが17.1 mL多く増加し、原因と意義は不明とされている(・の心不全入院増加とは別の所見)。 class IVでは推奨されない。
  • 受容体作動薬との併用は効果に乏しく推奨されない。
  • 日本ではエクア、欧州ではGalvusとブランド名が異なる。

出典

  1. 1.エクア錠50mg 電子添文(ノバルティスファーマ(日本の電子添文、2026年1月改訂 第6版)・2026)日本の禁忌が4項目で、2.1が本剤成分への過敏症の既往、2.2が糖尿病性ケトアシドーシス・糖尿病性昏睡・1型糖尿病、2.3が重度の肝機能障害のある患者、2.4が重症感染症・手術前後・重篤な外傷であること(EUのSmPC 4.3が過敏症のみなのに対し、日本では重度肝機能障害と1型糖尿病が正式な禁忌欄に入る)、2026-09-17に再取得して、禁忌2.3が「重度の」に限られる一方で**重度でない肝機能障害は9.3.2「肝機能障害のある患者(重度の肝機能障害のある患者を除く)」として「肝機能障害が悪化するおそれがある」という注意の側に置かれている**こと(9.3.1は重度で「投与しないこと」)、8.2が投与開始前と投与開始後1年間は少なくとも3ヵ月毎・その後も定期的な肝機能検査を求めること、9.1.1が心不全(NYHA分類III〜IV)を特定の背景として挙げることを確認した。あわせて11.1.2の重大な副作用に血管性浮腫(頻度不明)が独立した項目として挙がり、ACE阻害薬を併用している患者では併用していない患者に比べて発現頻度が高かったとの報告が添えられていること、10.2の併用注意にACE阻害薬が同じ理由で挙がり機序は不明とされていること、11.1.1が肝炎・肝機能障害であることを確認した。閲覧 2026-09-14
  2. 2.Galvus 50 mg tablets — Summary of Product Characteristics(Novartis(EU SmPC、EMA承認)・2025)正式な禁忌区分(4.3節)は本剤の有効成分または添加剤への過敏症のみであること、肝機能障害(投与前ALT/AST>3×ULNを含む)は4.2の用法・用量と4.4の警告の両方に置かれた「投与しないこと」という強い制限であって禁忌区分ではないこと、しかもその逐語が `Galvus should not be used in patients with hepatic impairment, including patients with pre-treatment alanine aminotransferase (ALT) or aspartate aminotransferase (AST) > 3x the upper limit of normal (ULN)` で**重症度による限定(severe など)が付いていない**こと(日本の電子添文の禁忌2.3が「重度の」に限られるのと範囲が違う。2026-09-17に再取得して確認)、投与前・投与中の肝機能検査の頻度(初年度3か月毎、以降定期的)、腎機能に応じた用量調整(中等度以上で50 mg 1日1回へ減量)、NYHA class IVでは使用経験がなく推奨されないことを確認。2026-09-14に引き直し、4.5にACE阻害薬を併用している患者では血管性浮腫のリスクが高まりうるとの記載があること、4.8の副作用一覧の表には血管性浮腫の行が無く表の後の「特定の副作用の記述」で報告はまれで対照群と同程度だがACE阻害薬併用時により高い割合で報告され大半は軽症で投与継続のまま回復したと述べていること、添付の患者向け説明書が血管性浮腫を rare(1,000人に1人まで)として直ちに受診すべき症状に挙げていることを追加で確認した。10項の改訂年月欄は空欄のため、年はEPARの製品情報(英語版)のLast updated(2025-01-29)で判定した(旧 id の year 2023 はこの判定と食い違っていたため修正した)。閲覧 2026-09-14
  3. 3.openFDA Drugs@FDA API — products with active ingredient VILDAGLIPTIN(U.S. Food and Drug Administration (openFDA)・2026)2026-09-17に取得。有効成分VILDAGLIPTINを含む承認申請は NOT_FOUND(0件)で、同じ検索形式の陽性対照 SITAGLIPTIN は50件を返す(meta.last_updated 2026-09-15)。あわせて drug/label.json の openfda.generic_name 検索と DailyMed の spls.json?drug_name=vildagliptin もいずれも0件、drug/ndc.json の generic_name 検索が返す6件は HIKAL・Biocon・Jubilant Biosys・MSN Pharmachem・Honour Lab・Exemed の marketing_category が BULK INGREDIENT すなわち原薬の登録で、製剤(finished drug product)は含まれない。したがってビルダグリプチンには米国の添付文書が存在せず、禁忌の3極比較はEUのSmPCと日本の電子添文の2文書で行うほかない。閲覧 2026-09-17
  4. 4.Dipeptidyl Peptidase-IV Inhibitor Use Associated With Increased Risk of ACE Inhibitor-Associated Angioedema(Hypertension(Brown NJ, et al.)・2009)Europe PMC(PMC2758288)の抄録で確認した。ビルダグリプチンの第III相無作為化比較試験をプールし盲検下で判定した解析で、全体ではビルダグリプチンと血管性浮腫の関連は認められなかったが、ACE阻害薬を併用している患者ではビルダグリプチン群2,754例中14例・対照群1,819例中1例、Peto法のメタ解析でオッズ比4.57(95%CI 1.57-13.28)であったこと、著者が絶対リスクは小さいと述べていることを逐語で確認した。本文は未取得で、確認したのは抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-14
  5. 5.The International/Canadian hereditary angioedema guideline(Canadian Hereditary Angioedema Network (CHAEN/RCAOH)・2026)Europe PMC(PMC13123228)で全文を取得して確認した。C1インヒビター欠損型でも正常C1インヒビター型でも、エストロゲン含有の経口避妊薬・補充療法/ACE阻害薬/DPP-4阻害薬/ネプリライシン阻害薬という既知の薬剤誘因は中止・回避すべきであること、これらの薬剤による血管性浮腫はHAEの診断を否定せずむしろ潜在例を顕在化させうることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-14
  6. 6.Effects of Vildagliptin on Ventricular Function in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus and Heart Failure: A Randomized Placebo-Controlled Trial(JACC: Heart Failure(McMurray JJV, et al. VIVIDD Trial Committees and Investigators)・2018)Europe PMCの抄録で確認した。18〜85歳の2型糖尿病かつ心不全(NYHA I〜III、LVEF<0.40)254例をビルダグリプチン128例・プラセボ126例へ無作為化した52週間の試験で、主要評価項目のLVEF変化の群間差は0.62%(95%CI -2.21〜3.44、p=0.667)で非劣性マージン-3.5%を満たしたこと、左室拡張末期容積が17.1 mL(95%CI 4.6〜29.5、p=0.007)多く増加した一方、左室収縮末期容積は9.4 mL(95%CI -0.49〜19.4、p=0.062)で有意差に達していないこと、著者が容積増加の原因と臨床的意義は不明としていることを確認した。なお本ノートが従来 url に用いていた 10.1016/j.jchf.2018.01.017 は同誌の Levelt らの letter(6巻443-444頁)であって試験報告そのものではなかったため、試験報告(6巻1号8-17頁)のDOIへ差し替えた。閲覧 2026-09-14
  7. 7.9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬を含む)の併用は推奨されないこと、心血管・腎保護が必要な患者ではGLP-1RA・SGLT2阻害薬が優先される治療アルゴリズム上の位置づけを確認閲覧 2026-08-03